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脱ハーレム勇者パーティ ~サラの王都滞在編  作者: kay
第二章 S級冒険者とモンターニュ伯爵一家
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2-7

 モンターニュ伯爵家との面会が終わってから一週間が経った。

 実をいうとモンターニュ将軍は毎日ロア公爵家に顔を出している。毎日のように(・・・)ではなく、毎日(・・)だ。

 可愛がってくれるのは分かるのだが、さすがに公爵家という自分よりも爵位が高い人のお宅に突撃はかまさないだろうと思っていた私が甘かった……。

 昔から先触れも出さずに訪問をしてくる常習犯だと、若いころからの腐れ縁あるロア公爵様も愚痴っていたのを今更思い出した。

 訓練場帰りのミケ姉さんたちについて来るのが多く、お茶を一杯飲んだら帰るため慣れてしまえば特に苦ではないのだが、一度だけモンターニュ将軍が暴走した時は困ってしまった。



『サラ!! パパと一緒にお風呂には――――、ゴフゥ!!』


『すまない、うちの馬鹿親父が失礼なことを言った』


『あ、いえ……』


『後日、またお詫びに伺うがよろしいか?』


『え、ええ。先触れを頂ければ……』


『分かった。いや、本当にすまなかった。今日のことは忘れてくれると助かる』


『はぁ……』



 玄関ホールで会って早々、瞬間に連れ帰り要員だったヴィクトル兄様がみぞおちに会心の一撃を食らわせられた。大変申し訳ないと呆然としていた私とコレットさんに詫びて将軍を引き摺って持ち帰った。

 あの筋肉ダルマのようなモンターニュ将軍を一撃で悶絶させるとは……。


 後日モンターニュ将軍の反省を促すために母から訪問禁止令が発動され、ヴィクトル兄様が菓子折りを持って態々お詫びをしに来てくれた。実の父親が破天荒だからか、相当な苦労人なんだろうなと思った。

 その際、なんであんなことになったのかと聞いたら、モンターニュ将軍が部下たちと自分の娘がいかに可愛いかと自慢話をしたらしく、赤ちゃん時代にお風呂に一緒に入ったとか、初めてのお使いを見守ったとか、本当に乳幼児時代の思い出話を語られたらしく 聞いているうちに羨ましくなったのだろうとのことだった。



『初めてのお使いはもうとっくの昔に済ませていますし、流石にこの年齢になったら母と一緒にお風呂すら入らないのでは?』


『それが当たり前だな』



 ヴィクトル兄様は、ため息を付きながら出されたお茶に口を付けた。



『……買い物だったら、色々が落ち着いたらおつきあいできますよ。買い物が好きなんです』


『そうか、なら親父殿にそう伝えておく』



 眉間の皺が消えないあたり、モンターニュ将軍関連の気苦労が絶えないのだろう。今回の気苦労の原因が私なので、おそらく娘との思い出作りさえしてしまえば少しは落ち着くのではと思い一つ提案をしてみることにした。

 買い物なら付き合えると言うと、無表情ながらもモンターニュ将軍に伝えておくと言われた。

 ただ、何となくだが自分も行きたいなぁというオーラが出ている気がする。



『あとで、ヴィクトル兄様も一緒にお出かけしませんか?』


『っ!? いいのか?』


『はい、是非』


『……楽しみにしておく』



 一緒に行きたいのかなぁと思って誘ってみると、誘われるとは思っていなかったのだろう。めちゃくちゃ驚かれてしまった。誘ったのはこちらだし買い物は好きだから問題ないので、にっこり微笑んで頷くとヴィクトル兄様の眉間の皺が少しだけ緩んだ気がした。


 そんなことがあってから、毎回モンターニュ将軍がやらかさないかと不安になったヴィクトル兄様がモンターニュ将軍を連れ帰るようになった。以外と過保護なのだろうかと、夕飯の際にセヴラン様に聞くと、単純に小さい子供やら小動物には警戒されるから誘われて嬉しかったのだろうと言われた。



『無表情に見えて、あいつは結構わかりやすいんだ』


『あぁ、何となくわかります。表情は変わらないのですが、何となく雰囲気が柔らかくなると言うか』


『それだそれ、私は感情が色で視えるからな。サラと一緒の時の奴を見ると、面白すぎる』


『ちなみにどんな色ですか?』


『好意は大体、暖色系なんだがな。強面のあいつの周りに桃色やら黄色やらが飛び交っているのを想像してみろ、似合わないことこの上ないだろう?』



 以前のような険悪な雰囲気を消してしまえば案外気さくなセヴラン様は、ヴィクトル兄様と仲がいいらしく色々と話をしてくれた。

 ヴィクトル兄様の周りに桃色やら黄色がふよふよと浮いているのを想像したら噴出しそうになり、無表情で分かりにくいが私に好感を持ってくれているのが分かって少しだけ安心したのだった。



*********************************




 この日は母がロア公爵家にやってきてお互いの近況報告をしたりした。

 母はギルとの話を聞きたがったが、特に何のトラブルもなく、いつも通りの日々を過ごしている。



「お天気もいいのに外に出られないのは、退屈よね」


「うん。仕事がお休みの日はいつも露店の冷やかしに行っていたから、こんなに時間を持て余したこともなかったし」



 居候しているのも心苦しいし、性分的に働かざる者食うべからずを地でいく私は、何かやることはないかと聞いたのだが、貴女たちはお客様なのだから良いのとディアーヌ様に言われてしまい、お言葉に甘えるような形になったのだ。

 ギルはディアーヌ様と時々ロビン兄さんと一緒に剣術の稽古をするのが、ロア公爵家に居候をしてからの日課になっている。ただ私はというと、剣術をするような運動神経もなく、趣味の市長調査も出来ない私は暇を持て余し気味だった。図書室があったから、暇つぶしに本を呼んでいたのだが、この機会に刺繍を覚えて見たら?とマリエル様に提案されたことを切っ掛けに、拙いながらも刺繍を教えてもらうことにしたのだった。



「そろそろ、頃合いだと思うのよね」


「何が?」


「勇者さんよ。始めのうちは懲りずに我が家から逃亡を企てていたのだけどね、使用人たちが付かず離れず監視をしているものだから、ようやく諦めたみたいなのよ」


「そ、そうなんだ? でも、魅了のスキルを持っていたけど、侍女さんとかは大丈夫?」


「あら、私を誰だと思っているの? 魅了の毒牙にかかっている人はすぐに分かるわ」


「でも、魅了を引きはがすのって大変じゃない?」


「ふふふ、旦那様の侍従や執事から、激が飛ぶとみんな目が覚めるのよ」

「はぁ!?」



 恐るべし、モンターニュ伯爵家。

 モンターニュ将軍やヴィクトル兄様なら(見た目的に)喝を入れただけで、魅了が解けたりしそうだと思うのだが、まさか逃亡しまくりの将軍を叱咤する執事やら侍従も魅了を解除が出来るとは思いもしなかった。これも所謂、将軍の行動からでた副産物と言えばいいのだろうか。



「だから、近いうちにサラもお出かけも出来るわよ」


「そうなら嬉しいな」


「まぁ、護衛がつくとは思うけれどね」


「それは仕方ないよ。勇者は監視されているけれど、パーティメンバーはそうじゃないもん」



 勇者は絶対に逃亡が出来ない監視下に置かれているが、パーティメンバーはそうではない。

 ロビン兄さんから聞いた話ではあるが、聖女は王宮ではなく王都の大聖堂にいるようだが、勇者を目当てで連日のように騎士団の訓練場に通い詰めており、けが人を治療してくれるのかと思いきや、そんな様子もなく寧ろ訓練の邪魔になっているそうだ。

 はたまたS級冒険者であるエルフのお姉さんと竜族のお姉さんは、騎士団の宿舎で寝泊りをしているようで、こちらは騎士たちを相手にして真面目にやっているようだった。ちなみに猫獣族の女の子は、パーティのメンバーの中でも冒険者ランクがB+程度だったため、戦力外として王都の宿屋に居ると聞いた。



「……前はこんな貴族の人と関わるなんて思ってもなかったな」


「私もそうよ? しがない娼婦だったのに、いつのまにか元モンターニュ伯爵の奥様だもの」


「あのね、ずっと聞きたいと思ってたんだけど……」


「何かしら?」


「私はモンターニュ将軍の、養女にならなきゃ駄目なのかな」



 ずっと聞きたかったことだった。

 『パパと呼べ』と言うモンターニュ将軍を、『父』と呼んでしまったら、すぐさま養女にされるような気がしたのだ。もし貴族になってしまったら、自分の進みたい道に行けないのではないか、今まで親しくしていた人たちとは二度と話すことも出来ないのではないかと、漠然とした不安が頭からこびり付いて離れなかった。



「……貴女の自由にしなさいと言ってあげたいけれど、そのあたりは旦那様が決めることになると思うわ」


「……そっか」


「でもね、破天荒な人だけれど、人の話はきちんと聞く方なのよ? 娘が欲しかったと言うのも本音である程度のわがままは言うと思うけど、貴女の気持ちを無視するような方ではないわ」



 母は今私が望む言葉をあげられないと言ったが、モンターニュ将軍は私の希望を聞いてくれる人だと諭すように、俯く私の背中を撫でてくれた。

 不安は消えないけれど、心の中の不安を汲み取ってくれる人がいることで心が少しだけ軽くなった気がした。

 その後もゆっくりとした時間を母娘で過ごし、母はまた来ると言って帰って行ったのだった。


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