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脱ハーレム勇者パーティ ~サラの王都滞在編  作者: kay
第二章 S級冒険者とモンターニュ伯爵一家
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2-5

 アサギさんと話しをしてから数日が経った。あの後、奴隷だったころのことを思い出してしまい、少しだけ気分が沈んだ。

 なんとなく落ち込み気味だったのを敏感に察したギルが、何をするわけでもなく傍に居てくれて、どうにか何時もの自分に戻った気がする。


 ミケ姉さんとロビン兄さんや他の合流した冒険者たちは、騎士団で訓練をしているそうだ。ミケ姉さんが言うには、S級冒険者の中でも強さが分かれており、勇者のパーティはその中でも弱い方で、能力差を知ったモンターニュ将軍が叩き直しているようだ。




 それからモンターニュ将軍と言えば、私との対面の日取りが決まった。

 ディアーヌ様が依頼してくださった衣装が仮縫いまで終わり、微調整をする予定を立てていたところにモンターニュ伯爵家から先触れがあったらしい。近いうちにロア公爵家で顔合わせをしたいとのことだった。

 私がモンターニュ伯爵家に行くのではないかと思ったら、現在伯爵家には勇者が逃亡しないよう将軍が直々に監視をしているそうで、勇者の権力が及ばないロア公爵家で顔合わせになったのだと、執事のクレマンさんが教えてくれた。



++++++++++++++++++++++++++


マダム・セリーヌのドレス

品質:Sランク

素材:エルフ国産フェリシアシルク・アルケニーの糸・金・ドワーフ国産サファイアSランク・南洋真珠Sランク


++++++++++++++++++++++++++



 マリエル様が選んでくれた衣装は間違いなく似合っていたが、眼から入ってくる情報の恐ろしいこと恐ろしいこと……。

 マダム・セリーヌという有名なデザイナーのお手製ドレスだそうで、素材だけでも高額なのにブランド価値が追加された結果、金貨50枚より上になるのではなかろうか。

 正直に言うと、居候にこんな凄い服を買ってくれなくてもいいのに! と思った。



「こ こ、コレットさん! なんか恐ろしい素材が見えるんですけど!」


「あらー、流石マダム・セリーヌ謹製のドレスですわ。縫製といい素材といい、デザインも素晴らしい」


「これ、絶対に私のじゃないですよ! 何かの間違いです!!」


「ふふふ、そんなことございませんわ、サラさん。このお屋敷の何処にこのサイズのドレスをお召しになる方がいらっしゃると言うのですか」


「……」


「ギル君も着ているみたいですね。さぁ、サラさん! さっさとお召しになってくださいな。私も貴女の御髪をどのように結い上げるか、もう考えてあるのです!」



 思わずコレットさんに、何かの間違いではなかろうかと聞いてしまったほどだ。

 こんな怖い衣装は着れないと言おうとしたが、最終的にコレットさんと一緒に居た別の侍女さんにまるっと服を剝かれた。

 どんな早業だ!と思ったけれど、抵抗も出来ずにドレスに着替えさせられて、後は髪を結い上げるためにブラシとリボンを持って手をワキワキさせていたコレットさんにバトンタッチして身支度が完了した。

 仕上がりが満足そうなコレットさんたちを後目に、本当にあっという間の出来事だった……。(遠い目)



 部屋を出ると、仕立ての良い服に身を包んだギルが待っていた。

 私と一緒に同じデザイナーさんに作ってもらった服は、麦わら色のギルの髪に会うような深い緑色でまとめてあり、服飾は専門外な私でも分かるほど良く似合っていた。



「うわぁ、サラ凄く良く似合ってる」


「ありがとう。でも、こんな怖い服じゃなきゃよかったのに……」


「怖い服? 何が?」



 お世辞じゃなくギルが似合っていると褒めてくれるので、嬉しいけれども恐ろしいと感じながらもお礼を言った。

 私のドレスと同様にギルの服も恐ろしい高級素材が使われていて、そのまま魔法を付与して装備に出来そうなほどの仕上がりだった。

 ギルは仮縫いの時に肌触りの良さにびっくりしていたけれど、おそらく素材の価値が分かっていない。



「ギルが分かるように言うとね、ドミニクさんがダンジョン産のミスリルとアダマンタイトを使った合金で作ったフルプレートメイルと大剣って考えればいいと思う」


「どれだけ服に金を使ってんだ!」



 見るのは楽しい品で自分では使うこともない高価すぎて手が出ないものを、ギルが分かるように鍛冶関連に例えて話してあげると、私が感じていた怖さが分かったようで、あり得ないものを見るように自分の着ている服を凝視していた。

 絶対に汚したり破いたりしないようにしないといけないねと、私たちは二人で頷きあった。



******************************




 モンターニュ将軍との再会は色々と衝撃的だったとしか言いようがない。

 母が私の行方を探し当てて、会いに来てから何度か手紙のやり取りをしていたけれど、手紙だと分からないことは多い。


 ロア公爵家の大きな客間には、公爵様とディアーヌ様、それから何故かセヴラン様も居た。なんでもミケ姉さんの代わりに居てほしいとのことで駆り出されたらしい。宰相様なのに、こんな小娘の私的な面会に駆り出されてしまって本当に申し訳ない。



「お久しぶりです、モンターニュ将ぐ―ん―――!!?」


「サラ! 我が娘よ! 会いたかったぞ!!」


「むぎゅぅ」



 会うなり抱き着いてきたモンターニュ将軍。

 ごめんなさい筋肉が邪魔で母が見えない。というか、力いっぱい抱きしめられたのは良いのだが、肺が圧迫されて息が吸えない!! おまけになんだか背骨がミシミシいってる。

 周囲が慌てた声を出しているのは分かっているが、次第に声が遠くなる……。

 


「父上、彼女を殺す気ですか」


「お おお、すまぬ」 



 急に視界が明るくなったと思ったら、やっと息が出来るようになって、自分がモンターニュ将軍と同じくらい大きな男の人に助けられたと分かった。

 気まずそうなモンターニュ将軍は大きな男の人に叱られていて、叱っているその人が将軍のことを父上と言っているのを聞いて、私はこの人が義理の兄であると知った。



「サラ、大丈夫?」


「だいじょうぶです……」


「旦那様、あれほど落ち着いてくださいねと申し上げましたのに、せっかくの再会がサラの災難になってしまうではありませんか!」


「ううむ……。すまん!」



 部屋に入った瞬間にモンターニュ将軍にタックルされるようなかたちで抱き着かれてしまったため、母を含めて義理の兄にすら挨拶すらしていなかった。せっかくの再会を楽しみにしていた母は、速攻でやらかしたモンターニュ将軍を叱りつけていた。

 これか! ディアーヌ様がようやく将軍の手綱が取れる女性が見つかったと言っていたのは!

 そんな蛇足的な考えを頭の端は一旦置いておいて、私を抱きかかえている義理の兄を見上げてみた。



「こんな状態で申し訳ありません。始めまして、サラと申します」


「あ、ああ。私はヴィクトル・トワ・モンターニュだ。君の義理の兄になる」



 第一印象は顔が怖い。モンターニュ将軍に似て体が大きく威圧感が半端ないうえに、始終眉間にしわが寄っていて、将軍よりも近寄りがたい。

 感情を表に出し過ぎるモンターニュ将軍とは反対に、表情筋が全く動かない人だと思った。

  


「ふふふ、流石はサラねぇ。ヴィクトルのことはお兄ちゃんって呼んであげて? 妹か弟が欲しかったみたいだから」


「ソフィア殿!!?」

 

「えと、じゃあヴィクトル兄様と呼んでもいいですか?」


「っ!?」



 モンターニュ将軍を締め上げた母が、自己紹介をしていた私たちに向かってお兄ちゃんと呼んであげてと口を出してきた。

 ヴィクトル様は慌てて母に文句を言っているけれど、なんか顔が赤かったからお兄ちゃんと呼んでほしいのは本当のことなのだろうと思った。

 でもな、ロビン兄さんは兎も角として、現役の伯爵様をお兄ちゃんとは呼べないと思ったので、『ヴィクトル兄様』と呼んでみた。



「うはは! こんなに愉快なヴィクトルは初めて見たぞ!」


「うるさい、セヴラン!!」


「ワシのこともパパと呼んでくれ!!」


「え!? それはちょっと……」


「お前の方こそどうかと思うぞ、グラン……」



 ヴィクトル様の後ろの方で様子を見ていたセヴラン様が、何故か大笑いをしている。

 お互いの名前を呼び捨てにしているところを見ると、ロア公爵家とモンターニュ伯爵家は本当に家族ぐるみの付き合いが長いようだ。

 兄様呼びがうらやましかったのか、モンターニュ将軍までパパと呼んでほしいと強請ってきて正直困った。流石に物心つかないうちに呼ぶなら兎も角、この年でパパと呼ぶのは恥ずかしすぎる!!

 

 壁の方に控えていたギルも大騒ぎになっている、将軍一家に呆気にとられているようで、こんな様子で私はモンターニュ伯爵家との面会を果たしたのだった。


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