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脱ハーレム勇者パーティ ~サラの王都滞在編  作者: kay
第二章 S級冒険者とモンターニュ伯爵一家
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2-4

 マリエル様が呼んだ商家の人が帰り、私とギルはやっとゆっくり休むことが出来た。

 てっきり私の採寸だけかと思ったのだけど、丁度いい機会だからギルのも作れとディアーヌ様が言いだして、ふらふらになるまで稽古をした後に、着せ替え人形にされていたギルの方が私よりも大変だったろう。


 そんな中、王宮に行っていたロビン兄さんたちがお客さんを連れて戻ってきた。

 なんでも私とエーファちゃんに会いに来たらしい。

 友人であるミケ姉さんたちの娘であるエーファちゃんなら兎も角、なんで私も?と首を傾げる思いだった。

 いつもの習慣で狼族のアサギさんと兎族のレンカさんを『視た』時に、二人の経歴を知ってしまった。



「……アサギさんが話したいと言う話は、私の過去のことですか?」


「うん」


「だったら、ギルも知っているからこの場に居ても大丈夫だと思うんです」


「ふうん、でもそれが重要な情報だったらどうする?」


「他言しません」



 そうなると、私が考える限りの二人との共通点は一つしかなく、その話題がだしたときにギルが居ると私とギルの関係が気まずくなるのではと考慮してくれたのだと思い至った。排除の仕方は力ずくで強引ではあったけれど。

 だが、ギルは私に関係することに対しては、絶対に引くことをしない。私もギルには話していないことはないから、結局ギルも話に参加することになった。



「ならいいか、単刀直入に言うと勇者のパーティに居た聖女の話を聞きたくてね」


「……聖女って」



 なんでこの人たちと聖女が関わってくるのだろう。勇者が奴隷を買った時の話とか、私を売った奴隷商人がどんな人物だったかとか、そういった話なら分かるのだけど……。



「話したくないこともあるかも知れないけれど、大事なことなの」


「いえ、別に話したくないことはないですよ? 逆に聞いてくれるなら三日三晩話せるくらいの愚痴になると思いますけど」



 レンカさんに話したくないかも知れないけれどと前置きをされたが、逆に勇者は生理的に気持ち悪かったけれど、聖女は物理的な被害を受けていたから愚痴りたいことは山のようにある。

 特に酷かった話だと|奴隷≪私≫を魔物のおとりに使ったり、勇者が私を構うものだからその嫉妬で勇者に気付かれないように一週間食事抜きにされたり、あの時は見かねたエルフのお姉さんがお菓子をくれてそれで飢えを凌いだ。後は、毒とも言えない痛んだ食材を私の食事に混ぜられたりとか、服をズタボロにされたりとか、お小遣いの没収に関しては最初の一回だけで後は自衛したけど、言葉にしただけなら小さい子の嫌がらせのように聞こえるかも知れないけれど、最終的に命に関わるような悪質なものが多かった。

 何より、聖国から派遣された聖女に関わらず奴隷を肯定するような言動が端々で見られたから、おそらく奴隷は家畜と同じくらいの存在にしか考えていなくて、聖女という名ばかりの役職に就いた人なのだと思った。



「―――そんな感じでした。一番酷いのを選んで話しましたけど」


「はぁ、やっぱり宰相さんが言った通りだったか」


「なんで兄様?」


「前の宰相だったロア公爵からの依頼でね。15年前の奴隷解放のやつ。俺たちはその被害者で裏にある輩を根絶やしにしたくてね~」



 15年前と言われても、私たちが生まれる前のことだから分からない。話の内容が分からずに頭に疑問符を浮かべていると、ミケ姉さんも子供だったから詳しい話は分からないけれど前置きをして当時のことを話してくれた。


 私が生まれるよりずっと前、違法な奴隷を扱っている業者が盗賊と手を組んで獣族の村がいくつも奴隷狩りの被害にあったそうだ。アサギさんとレンカさんもその被害者で、子供のころに奴隷狩りに遭い、裏のオークションで貴族に売られたらしい。

 問題が明るみに出たのは、エルフ国に身を寄せていた獣族を束ねる組織の重鎮の子供がさらわれたことが発端になり、国家間で大きな問題になったらしい。

 以前から違法奴隷の問題は頭を悩ませることが多かったらしく、当時宰相だったロア公爵様はこの機会に違法奴隷に関する組織や関わり合いのある貴族を一掃することにしたらしい。怪しいと噂がある貴族や商家を片っ端から調べ上げ、いくつかの盗賊団を壊滅させたのだが、かなりの高位の貴族が関わっていたり奴隷狩りを取り締まるはずの騎士が奴隷商人と癒着していたりと、解決にはかなりの時間を要した。結果的には、国内に居た違法奴隷たちは皆解放され、違法な奴隷を所持していた貴族たちは爵位を落としあるいは取り潰しになったと言う話がアサギさんの言う15年前とのことだった。



「15年前の事件は分かりましたけど、私は実父に売られたから違法奴隷じゃないですよ? それに、私を買った奴隷商人にも変な称号はなかったし」


「うん、そこは関係ないんだ。問題は聖女」


「?」


「聖国がその案件に関わっているのじゃないかと思っているんだよ」


「どういう事だ?」



 聖女の生家はこの国の公爵家で、15年前の件で取り潰しになった公爵家だったらしい。一時期は第一王子との婚約の話も出るような家柄でもあり、爵位を落とすだけで済めばよかったのだが、違法奴隷の売買や奴隷狩り等の数々の証拠の中に王権の簒奪を匂わす証拠が見つかったため、公爵家でありながらも取り潰しとなった。

 公爵家夫妻は処刑になったものの、彼らには4歳になる娘が居り幼子も処刑の対象にするかと議論になったが、まだ厚生は可能だろうと判断された結果、娘は聖国の神殿に入れられることになった。体の良い厄介払いだが、これで事件の首謀者が処分されたことで解決という運びになったらしい。



「まだ何にも証拠はないけれど、聖女が聖国に行くと決まったのが聖国から引取たいと話があったみたいで、公爵さんは渡りに船だったから引き渡したんだけど、そこに引っかかったんだって」


「どういう巡り合わせなのか私たちにその依頼があって、一応念のためってことで、調べていたんだけど」


「怪しいのは確かなんだけど、証拠がないんだ」


「だから、勇者のパーティに居たサラちゃんに聖女の人となりを聞いてみたんだけど、性根はあまり変わらないみたいだし。ほら聖国の教義って生き物は平等に神様の加護があるって考えでしょ? 幼子が15年もそんな考えの中で暮らしていたら、貴族時代の真っ黒思考でも限りなく白くなって聖女って言われてもおかしくない人が出来上がるんじゃないかと思ったんだけど」


「考えすぎじゃないの? 私は社交界に出る年齢でもなかったからその当時のことは詳しくは分からないけれど、あの子は相当なわがまま娘だったみたいよ? もしかしたら、自分をこんな境遇にした人たちを憎んでいたとかそういう事かも知れないんじゃない?」


「それもあるかもね、子供でも刷り込まれた考え方や性格っていうのは後を引くし」



 それは考えすぎなのではないかと思った。ミケ姉さんも同じようなことを考えていたみたいで、貴族時代の聖女を知っている分、アサギさんたちの意見には批判的だった。



「アサギさんたちは聖女が奴隷は居て当たり前とか、選民思考な人が周りに居たと考えているんですか?」


「うん。僕らはそう考えている」



 アサギさんは初めて会った時の笑みを消して、真剣な顔つきでそう言った。彼らにとっては奴隷だったことは過去ではないのだと思った。

 二人は何か思い当たることがあれば教えてほしいと私に言って、当初の目的通りエーファちゃんを構い倒して帰って行った。


 何か思い当たることは合っただろうか……。

 しばらくのあいだ勇者のパーティに居た頃の戦いに駆り出された記憶や、聖女からの醜い嫉妬を向けられ続けた記憶が頭の中を過り、私にとっても奴隷だったあの時のことはまだ過去の出来事になっていないのだと思った。




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