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脱ハーレム勇者パーティ ~サラの王都滞在編  作者: kay
第二章 S級冒険者とモンターニュ伯爵一家
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2-2

 勇者はアサギたちの威圧と過去の愚痴の混ぜっ返しで、精神的にめためたにやられていた。この後も訓練が入っているかどうかは知らないが、王国最強と名高いモンターニュ将軍が直々に稽古を受けているようだから、勇者の体力が残っているのならば何の問題もないはずだ。むしろ余計なことを考えさせないだけいいかも知れない。


 それにしても、軍議が始まる前に勇者の訓練を見たがあれは酷かった。才能頼みの単純な攻撃やフェイントになっていない可笑しな行動など、勇者の剣術指南役だったミケーレが教えたことがかけらも身に付いていなかった。

 挙句の果てにミケーレがいないと駄目とか抜かしやがる。アサギが自分の番に声をかけたら抹殺すると言っていたが、俺も同じだ。勇者でなければ本気で殺してやろうかと思った。



 軍議に集められた面々は、国王陛下や軍事に関わる王族の方々、宰相であるセヴラン殿と、モンターニュ将軍をはじめとして、第一騎士団から第五騎士団に至る各騎士団長が円卓に座っており、その副官や参謀が自分たちの上官の背後に控えている。

 冒険者側は、冒険者ギルドの幹部と俺たちを含めたSランク冒険者と勇者のパーティメンバーの竜族とエルフの女性のみだった。


 軍議は魔王討伐にあたり、戦力の割り振りをどうするかという話し合いだったが、先ずは魔王に直接対峙できるのが勇者と聖女のみであるため、この場の勇者に関しては居ても別に意味はない。

 俺たちが請け負うのは魔王の周囲に漂う濃い魔素溜まりから生まれる魔物の討伐なのである。過去の例を見ると、津波の如く魔物が発生し他国の戦力も交えてようやく勇者と聖女を魔王の元に送り出せたとの記述もあったほどだった。

 この軍議では魔物の大軍に対して戦力をどのように分散させるかを話し合う場だった。大方のSラング冒険者たちは根っからの戦闘狂であるため、よほど相性が悪いことがない限りは特に問題なく会話は進んだが、相性が悪い人たちがここに居た。



「勇者の近くの持ち場は絶対に嫌だ! ロビンと一緒じゃないと絶対に行かない! そんなことやるなら産休中だしボイコットしてやる!」


「ワシだって、勇者という名ばかりの小僧に力を貸したくはないわ!!」


「ミケーレの言い分はわかった、事情は知っているからな。だが、何故モンターニュ将軍まで!?」



 ミケーレとモンターニュ将軍がゴネた。ミケーレは兎も角、モンターニュ将軍に関しては頭を抱えたくなった。本気で対応に苦労している将軍の副官が頭をかきむしっている。


 ミケーレが嫌だと言ったのも無理もない。勇者が自分の特権で自分の好きな人を近場に配置させようとしていたからだ。モンターニュ将軍は全体の指揮があるため、勇者の意見には左右されず若干後方に位置しているが、俺とミケーレが離されており、アサギとレンカもさらに遠くの方の配置になっていた。

 そんなことをしていたのかと、集まった者たちは勇者に呆れており、ミケーレは勇者の近くは嫌だと言いだして、俺と一緒が良いとゴネたのだ。

 産後のブランクもあるから、俺もそれに賛成した。二人でパーティを組んでいる以上は、離すべきではないと言うと、周りもそれに賛同した。


 しかし、モンターニュ将軍に関しては、何故一緒になってゴネたのかと周囲が首を傾げる結果になった。勇者すら事情が分からず、将軍からものすごく睨まれており、かなり弱腰になっている。



「おお、宰相聞いてくれるか! ワシの娘がな、この小僧の奴隷にされておってな……。私情とはいえ、このような扱いを娘が受けたと思うと、腸が煮えくりかえってくるのだ!」


「そんな、俺が奴隷として引き取ったのは商人の子であるサラだけだ!」


「そのサラの義理の父親がワシだと言うておる! サラの母はワシの後妻だからな! なさぬ仲とはいえ妻の生き別れになった娘だ、ワシも血眼になって探したが、貴様のパーティで奴隷として働かされておったわ!! 娘はまだ10歳にも満たないうえに強制的に戦闘の場に駆り出されたうえに――――むぐう!!!!!」


「将軍! それ以上は、サラが傷つくでしょう!!」



 何を言い出すかと思えばこの脳筋将軍め! サラの名前を勇者の前で堂々と出しているし、更に詳しくしゃべりそうになったから俺は慌ててモンターニュ将軍の口を押えた。

 腕を振り回して数回ほど叩かれたが、一応頭から血が下がったようでモンターニュ将軍は憤慨しながら椅子に座った。

 色々と、モンターニュ将軍がばらしてしまったのだが、この場で勇者の奴隷の扱いが暴露されたため、冒険者を中心に勇者に対する視線がかなり冷たいものになっていた。

 その後の軍議はモンターニュ将軍の暴走でなし崩し的な話し合いになってしまった。

 将軍を抑えるはずの副官たちも面倒になったのか、最終的にはモンターニュ将軍は放置状態で冒険者たちは自分の好きな場所で遊撃手として動けばいいと言われた。

 好きな場所は早い者勝ちのような状態だったが、一応は向き不向きがあるため配置に関しては仲間内で相談をして決めることになった。

 後で強制参加の冒険者たちの割り振りを含めて、全体の話し合いを冒険者ギルドで行うことになるだろう。

 ただ、俺とミケーレに関しては軍を率いていたこともあり、第一騎士団の団長からできれば部下を付けたいと言われた。しかし、貴族籍は既に返還しており、現在は冒険者たちを率いる立場にあるためきっぱりと断った。親しくしていた軍部の文官には残念がられたが、それ以上は何も言われずに軍議は終わった。


***************************




「それで、お前たちはどこまでついてくるつもりだ?」


「だから言ったじゃないか、君の娘さんと妹さんに会いに行くって。ねぇ、レンカ」


「ね~」


「俺じゃなくてミケーレに聞いてくれ。俺たちが泊まっているのは彼女の実家だ」



 軍議も終わってその場で冒険者たちは解散扱いになった。ミケーレが控室に忘れ物をしたため、俺たちは一度戻るつもりで廊下を歩いていたのだが、それに続くようにアサギとレンカもついてきた。俺たちと違って忘れ物があるわけでもないし何故ついてきているのかと問うと、本気でサラとエーファに会いに来るつもりだったようだった。二人とも癖があるものの信用に足る人物であるため、俺自身は別に会いに来るのは構わないのだが、滞在している場所が場所だけにミケーレに聞いてくれと思った。



「うん、ミケちゃんの実家って公爵家でしょ? だから宰相様に会いに行ってもいいかって聞いたら、いいよって言ってくれたからだいじょうぶ~」


「……いつの間に聞いてきたんだ?」


「んー、軍議が終わったあとかなぁ? 将軍さん?が宰相様にごねごねしている時に、私も行きたいって言ってきたの」


「「……」」



 あの人、軍議が終わってもまだゴネていたのかと、思わずミケーレと二人で無言になってしまった。

 公爵様もセヴラン様も、サラ達が落ち着くまではモンターニュ将軍は連れてこないと約束してくれていたから、モンターニュ将軍が乱入しない限り大丈夫だと思いたい。

 しかし、あの人は我慢という単語は知っているのだろうかとため息を付きたくなった。




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