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きっとそれが、あなたの幸せなのでしょう。  作者: 篠宮 楓
動き出す

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過去が動き出す 3

「伝令、なんだったんですか?」

 


 作戦会議室は、そのまま戦闘へと向かうことも考えて寮の入り口横の部屋があてられている。

 その代わり重要な事案の作戦相談は、寮の最上階にある隊長執務室に繋がる部屋で行うことが多く資料などもそちらに保管されている。

 執務室、そして作戦相談室と二重に鍵が取り付けてあり、マスターキー以外ないためセキュリティは保たれている。隊長がカギを無くさない限りは。


 アウルと別れた後に作戦会議室へと入ればすでに面接用に机や椅子がセッティングされ、上席にレイノールが座りサイドにリアト・イルク・凪が座っていた。

 隊長はレイノールに向かって肩を竦めると、そのままリアト達の方へと歩き出す。

「黒軍師からのお呼び出しですよ。この後の選考の話もでしょうが、ほら……防衛戦の責任者がここにいますからねぇ」

 その言葉に他人事とのほほんとしていたリアトが、げっ……と小さく呟いて顔を顰める。

「陛下の次は、腹黒軍師殿ですか。あぁもう、勘弁してほしい」

 両手で頭を抱えて机に突っ伏してしまうリアトを、気の毒そうにイルクが眺めている。その隣で、凪が複雑そうな表情で笑っていた。実はもっと頭を抱える案件がこの後出てくるよ~と、そんなことを言い出しそうな顔で。


 リアトの横の椅子に腰を下ろして、レイノールから受け取った選考書類を机に並べる。

 ここ最近は大きな戦がないから、そうそう隊員の入れ替えがあるわけじゃない。けれど家庭の事情や体調面から退団していく者は一定数存在するわけで、基本、年に数名は新規隊員を募集している。

 

 レイノールは私は隊長ではありませんのにとぶつぶつ言いながらも、選考に残った入隊希望者を一人ずつ呼び出し面接をこなしていく。

 今回の募集は2~3人の予定。九軍とできれば十軍にも補充をと黒軍師から言われている。

 もともと十軍のトップは王弟で選考も担っていたけれど、ソクラートへ行かれてからは九軍がその任を任されていた。

 現在のトップは黒軍師だけれど、ジェラスははっきり言ってこういう才はない。

 怒られそうだけどない。

 ゆえに仕方がないからこちらで担当するわけです。



「さてと、あと二人で終わりですね」

 十人以上の面接を淡々と終えたレイノールが、残った書類をぺらりとめくった。

「おや、凪と名前が似ているのかな? 珍しい書き方をしますね」

 なんと読むのでしょうか……、そう首を傾げるレイノールに隊長が答える。

「こちらが「くもい」、こちらが「すみぞめ」。東の大陸の言葉ですから、知るものも少ないでしょうねぇ」

「隊長殿は、博識ですね。東大陸の言語にも通じておられるとは」

 感心したようにイルクが言うと、隊長は何でもないように笑った。


「私と同じ国の出身のようですから」


 ……え?


 しん……と、部屋の中が静まり返る。

 隊長が東の大陸から来たのではないかという推測は、レイノールの中ではされていた。容姿がそちら寄りという事もあったし、凪を見て商船の詳細が分かる前に出身国を言い当てていたから。

 けれどその口からはっきりと聞いたことがなく、そうなんだろうなというふんわりとした認識しか持っていなかった。


 あっけにとられたレイノールから視線を外して隊長は立ち上がると、待機室へと繋がるドアを開けた。


「待機室にいる二人。一緒でいいので、こちらの部屋に来てください」

 すでに希望者として待機室に残っているのは、二人だけ。がたりと椅子の音がしたかと思うと、開いたままの扉からおずおずとした声が聞こえた。

 隊長はさっさと席に戻ると、一体何ごとなのかと問いかけるレイノールを奇麗に流して扉へと視線を向けた。



「えーと、僕達二人で入っていいんすかね」



 ひょこりと顔を出したのは黒髪の雲居、そしてその後ろに立つのは飾り紐を額に揺らす墨染。


「いいですよー。はい、さっさとどうぞ」

「言い方適当過ぎない? 隊長さん」


 雑に手のひらを振って二人を呼びこむと、隊長はレイノールを見た。


「防音を」

「え?」


 いきなりの指示に驚いたように目を丸くしたレイノールは、それでも指を鳴らして部屋に防音の結界を張る。それを確認して隊長は、雲居と墨染それぞれに椅子に座る様促した。



「で? 防衛線で真っ白だった髪の毛、どうやって黒くしたの?」


 椅子に腰を下ろそうとしていた雲居が、にかりと笑う。


「術の発動時だけ白いんだ、僕」

「普段は黒い」


「あ、そうなの?」


 よくわからない会話の羅列に、その場にいる者達がぽかんと三人のやり取りを見比べる。そうしてイルクが、何かに気がついたように小さく声を上げた。


「え、白いって。え、あの、もしかして彼らは……」


 イルクがやっと気づいたらしい。隊長はにんまりと口端を上げる。


「凪は気づいていたようですよ、さすが私の凪」

「え? 隊長さんの凪ちゃん? え、隊長さん、姫さんに手出したの? 藍のおっさんに殴られたいの?」


 姫、の単語に全員の目が皿のように見開かれる。


「姫?」

「うん、姫」

「誰が? え?」


「雲居、藍とは……殴られたいという事は……」


 それぞれが違う言葉を口にする中で、異質なものがひとつ。

 座ったばかりの椅子から腰を上げて、隊長がぽかりと口を開けた。



 それに気がついた雲居がにっかり笑った。



「藍のおっさんから伝言。後から行くから、凪と深青をよろしくなーって。ついでに俺達も」


 よろしくね! にんまりと可愛らしく笑う雲居に、隊長は言葉を継ぐこともできず目を見開いた。

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