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きっとそれが、あなたの幸せなのでしょう。  作者: 篠宮 楓
時は進む。

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イルクという男。 3 暗雲

今月は、ちょっと頑張り月間開催という事で。

なるべく更新します。んが、できなかったらごめんなさい←<(_ _)>

「白軍師殿。お忙しい中、お時間を作っていただきありがとうございます」


 王宮、白軍師の居室。

 黒軍師には王宮の端に屋敷という名の隔離屋敷を与えられているが、貴族出身の白軍師は王族の住まう宮の中にフロアごと五部屋与えられていた。

 白軍師直属の部隊が待機している詰所、食事や掃除などを担当する宮女の作業・待機所、応接室、そして白軍師の執務室と仮眠部屋という名の豪華な寝台やテーブルセットのある私室の計五部屋。

 宮の左翼、王族の私室がある上階を護る様、一階部分がそのまま与えられている。

 王宮が……この国の成り立ちが傭兵の集団だったというのもあり、「簒奪者」を恐れての配置。それは逆に言えば、王位とは簒奪できるものという考えが無意識にも意識化にも存在する国だからに相違ない。

 建国から時の流れた今でも、もしクーデターが起こり民衆の意を得られればそれは国として受け入れられるものになるだろう。

 代々の軍師達は、それを念頭に置いていた。ちゃんと理解していた。何か事が起これば、命を投げ出して上階の王族を護るために動いていただろう。


 けれどここ数代……いや、先々代の白軍師から「軍師」という名前を価値あるただの称号にしてしまった。それをするだけの権力を、手に入れてしまったが故に。

 王族と婚姻を繰り返し外戚という縁を手に入れ、そして政へ足を踏み入れた。それが3代に渡って続いてきたことで、確固たる立場を手に入れてしまったのだ。


「いやいや第一近衛隊隊長サハラン殿ともあろうお方が、私にそのような礼など。どうぞお掛けになってください」

 最近益々出てきた余分な肉を揺らしながら、白軍師は傍らの宮女に茶の用意を言いつけてソファへと身体を沈めた。それは言葉の通りに。ソファ自体が沈んだのかと錯覚するくらいに。

 一々肩書をつけて呼ぶこの男が、サハランは心底好かない。相手を立てているようで、実は肩書を呼ぶ事で優越感に浸っているだけの愚か者。

 それでも礼を取らなければならないのは、宮廷での立ち位置がこの男の方が上だからに相違ない。そして今の国王派の中心人物だからだ。

 

 サハランは内心苦虫を噛み潰したような不快感を味わいながら、表面上は穏やかな笑みを張り付けてソファへと腰を下ろした。 


「先日はお手をお借りしまして、礼を申します」

 白軍師は運ばれてきたソーサーからカップを持ち上げると、優雅な仕草でその香りを楽しんだ。

「いいえ、あんな些末な事に礼などこちらこそ申し訳ない。しかし首尾はあまり良くなかったようですな」

「……えぇ、お恥ずかしい限り」

 サハランは思わず出掛かった反論を口の中に押し込み、顔を伏せることでその表情を隠した。白軍師は芝居がかった口調で、サハランに少しの落ち度もないと繰り返す。

「九軍の人形があれほど自我を出すとは珍しい事だと、国王と話しておったのですよ」

 

 九軍の人形。それは九軍副隊長のレイノールの事に相違ない。数年前の妹御の事件の際、レイノールは一族の行く末を守る為に犯人捜しを諦めた。納得してはいなかったが、国王が「終」といった案件に、口を挟める者はいない。それはそのまま、不敬罪となる。

 それでも探索を続けようとしたレイノールを、一族の総意が押し留めた。自分達を見殺しにするのかと。道連れにするのかと。

 血反吐を吐く思いで諦めたレイノールは、細やかなる反抗として第一近衛を辞め庶民が半数を占める九軍へ下ったのだ。

 黒軍師が伴いその推薦で九軍隊長となった、異国人のもとへと。

 妹御の最期の言葉を聞き、その遺骸を連れ戻してくれた恩人のもとに。


 サハランにとっても、苦い思い出だ。それは正に、レイノールとは真逆の理由だが。国の為に使われた命、それを名誉とするならばともかく逆恨みし自身の元を離れていくとは。貴族だというのに、その意義を分からないとは。

 近衛隊長としてレイノールの直属上司だったサハランにとっては、まったくもって受け入れがたい事だった。目を掛けていたからこそ、余計に。目を掛けていたからこそ、その名誉を与えてやったのに。


「九軍の小猿、使えそうですな」


 黒歴史ともいえる過去を思い出していたサハランは、白軍師のその言葉に伏せていた顔を上げた。

「えぇ。そのご相談に参ったのですよ、軍師殿」

 あの忌々しい、私に口答えをした子猿。あの後も直属の暗部の者に隙を見計らせていたが、常に守られ隠されているあの子猿。

 弱点を、見つけた。

 それは王子殿下の、レイノールの、忌々しい異国人の……そして黒軍師にとっても。


 にやりと笑う白軍師の醜いそれに笑みを返し、サハランは口を開いた。


「隣国の小競り合いに、九軍は最適ですな」



 これから起きるであろう、確実に起こす小競り合いには。









 その頃の、イルクと凪といえば。


「なんで俺に持ってきた昼飯、お前が食ってんだよ! ふざけんな、責任もって二倍持ってこい!!!」

「起きないのが悪いんだろうが。もっと気配に敏感になれ! これはその仕置きだ!」


 様子を見に来たレイノールが苦笑しつつも安堵する光景を生み出していた。

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