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きっとそれが、あなたの幸せなのでしょう。  作者: 篠宮 楓
時は進む。

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24/45

イルクという男 2

遅くなりました!

すみません!!

出来れば来月中、数話でも進められればいいなという願望!

「凪、起きてるか?」

 九軍隊舎にある医務室に入ると、隊医はちょうど昼休憩で席を外していた。

 凪が寝ていたらと少し考えつつ、気持ち小さめの声で呼びかけながらベッドを仕切るカーテンを開ければ、布団を元気にはねのけて午睡を貪る凪の姿がそこにあった。

 逆の方を向いていて後頭部しか見えないが、穏やかに上下する肩が寝ていることを伝えてくる。


「寝てるのか……」

 苦笑しつつも残念な気持ちを持て余すように、持っていた籠をベッド脇の小机に置いた。それはことりと小さな音をたてたが、凪が目を覚ます様子はない。

 足元の方にあった椅子を音を立てないように引き寄せると、ため息をつきながら腰を下ろした。

 

 王宮内とはいえ端の方にある九軍隊舎。

 その上、誰もいない医務室は静かで開いている窓から外の音が聞こえてくる。イルクは非番だが勤務中の隊員達もいるし、隊舎で働く人達も今頃自身の職務をこなしているのだろう。

 そんな中、何もせず静かな部屋にいるのもなんだか変な感じがする。

 

 そこまで考えて、思わず苦笑した。

普段騒がしい中に身を置いているせいか、非日常のような気がするんだろう。勤務中でも非番の日でも、気づけば毎日凪がいるから……。

 

 凪は、起きる気配もない。


「昼飯持ってきてやったんだぞ、目ぇ覚ませよ」

 小さく小さく、そう口にする。

「隊長が言ってたぞ、お前が好きなサンドウィッチだって」

 起きないように、目を覚ますように。

「凪?」

 最後に名前を読んでみたけれど、昼寝といえど眠気にはかなわないらしい。はねのけた上掛けに抱きつく様に寝返りを打つと、凪の顔がこちらに向いた。

「それでも起きないのか」

 イルクの声など全く気にならないらしく、幸せそうに口を開けて寝息を立てているその姿は年齢よりも子供に見える。言ったら怒られるだろうけれど。

 

 普段なら午前の訓練が終わって、へとへとの状態で食堂に駆け込む時間帯。

 凪の腹時計も、睡眠欲には狂わされるらしい。

 

「……」


 国王と第一近衛隊長との間にひと悶着があったあの日から、凪は医務室に缶詰めになっている。体調的には本当はもう職務に復帰してもいいのだけれど、しばらく……せめて騎士団長の興味が薄れるまで表に出さない方がいいと、後一週間ほど医務室に詰める命令が隊長から出ている。

 動くのが好きな凪が言うことを聞くのかと思ったが、あっさりと頷いてちょっと驚いた。文句言って駄々をこねて、絶対に頷くと思えなかったからだ。

 目を丸くして凪を見ていたら、ちょっと罰悪そうに口を尖らせていた。

 曰く、自分のせいで周りに迷惑かけたことくらい分かってる……と。


「凪」


 さっきより心持ち大き目の声で、名前を呼ぶ。


 目を瞑っていると、どうしても気絶した凪の姿が脳裏に浮かんでしまう。真っ青で、砂にまみれて。赤い頬と、身体の擦り傷。

 そして何もしてやることもできず、ただ突っ立っていた自分。


 もう少し、うまく立ち回れると思っていたのに。実際は何もできず、王族という身分に知らず胡坐をかいていたのをまざまざと思い知らされた。


「凪」


 もう怪我なんかさせなたくない。あんな姿は見たくない、あれ一度きりで十分だ。

「早く起きろよ、飯食っちまうぞ」

「んあ」

 イルクの声に応えるかのように、凪が唸った。少し驚いたイルクだが、覗き込んだ先の凪は眠りについたまま。前のめりになった体を椅子の背もたれに預けると、イルクは小さく笑みを零した。


「死にに来たはずなんだがな、ここには」



 —―まさか守りたいものができるとは思わなかった。


 戦争の、人質。交換される際に、王弟が言葉遊びのような会話で伝えてくれたこの国の情報。

「九軍の隊長と黒軍師は、貴殿の味方です」

 この国の中で、生き残る為の情報。

 初めて会ったというのに、王弟の言葉は信じられると思った。だから、生きる為に……戦争を起こす発端にならない為にも隊長のもとへとつけてくれるよう王に希望を出した。

 近衛隊長が納得がいかないという顔をしていたが、翌日イルクの希望は受け入れられた。後から聞いたら、黒軍師と呼ばれる方の後押しがあったとの事。

やはり王弟殿下は信頼に足る方だと、改めて納得した。


「頑張って、生き抜きます。お互いに、命を大事にしましょう」

最後、小さな声で伝えられた王弟の言葉。



死ににきたこの国で、守りたい者ができた。共にいたい仲間ができた。


その仲間の一人は……守りたい者は、人が食事を持ってきたと言うのに起きもしないけれど。



「凪、そろそろ起きないと昼飯食べてしまうぞ?」

 


 ただただ、凪が笑っていられるように。

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