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きっとそれが、あなたの幸せなのでしょう。  作者: 篠宮 楓
望み

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隊長の望み。1

 師匠に飛ばされたのは、西の大陸の西の端だった。師匠の言う通り、深青の姿は探したけれど見つけられなかった。

 ちゃんと、ランディアかもしくはその傍に送ることができたらしい。それを望む。

 しかし魔力が足りない割にはすっとばすじゃないですかと思ったけど、要するに精度ね。飛ばす場所の指定をすることが難しいらしい。

 ありがたくもラッキーなことに、江国の枷も発動することなく手首から消えてなくなっていた。

 師匠にどれだけの魔力があるか知らないけれど、私たち二人を他大陸にすっ飛ばしてから逃げる……成功していることを祈るしかない。


「願望ばかりですね」

 

 それが落ち着いた後、ため息とともに出た言葉だ。



 深青の居場所は、広義の意味で言えば分かってる。ランディアの何処か。かといって、今、私がいるこの場所との位置関係もまったく分からないし、そもそもランディア自体どのくらい広い国なのかまったくわからない。

 それでも江国にいた時よりも、自由があり自分の意のままに動くことができる。


「素敵な事じゃないですか」


 深青はちゃんと保護されてる、はず。それにあの子が取得している知恵や体術があれば、ある程度は危険を回避できるでしょう。

 私はランディアでもどこでもいいが、生活基盤を作りながらあの子を探そう。いつか必ずくる、凪を迎えるためにも。

 急ぐことはない。たくさんの知識と技術を身に着けて、いざという時には頼りになる號玖でいなければ。







「それがねぇ……」


 思わずため息が出る。

 深青は師匠の言った通り、ランディアで保護されていた。まさかの、王弟殿下に。

 笑っちゃうよね! 王族に利用されようとして逃がされた先が、他国の王弟とかね! 

 元々師匠は王弟殿下が幼い頃の側近で、政変にあってランディアから逃れて? たどり着いた先が江国だったとかなんなの! 

 合流した後、その政変はランディア王が側近と企てた自作自演だったとか、王弟殿下から聞いちゃうとかね!

 しかもその後も王弟殿下と連絡とってたとかさ! 


 まぁ、私達を飛ばした後は連絡が取れていないようだけど。


「なんだよ」


 深青……、この呼び名では目立つという事で「ジェラス・ウィード」という偽名を作り、王弟殿下が市井から見出してきた天才児という触れ込みで王宮に入ることができたらしい。

 だいぶ力づくだろうけれど。

 もう一個付け加えると、「ウィード」。これ、師匠の元の家名。

 政変で蹴落とし没落させた師匠の一族を、温情と恩赦をもって取り立てた……そういう美談に王様と白軍師が惹かれたということもあるらしい。


「なんか、江国を出てから色々あったなぁと思いましてね。深青はまだ凪を思い出せてないんですよねぇ」

 あんなに仲が良かったのに……、そうため息をつけばジェラスは顔を顰めた。

「まったくわからん。師匠やお前の事、江国の事は覚えているが、凪の事はさっぱりだ」

「まぁ、凪も覚えてないしお相子ですかね。無事、私の家族が自由の身になれてよかったですよ」

 あのまま、ただ朽ち果ててなんかいきたくなかった。

「……他の奴らも、自由にしてやりたかったけどな」

 ジェラスの言葉に、いいえ? と首を振る。

「分不相応な望みは、考えなくていいんです。確かに自由になってくれれば嬉しいですが、私達にできることはありませんから。各々の立ち位置で生きていくしかないんですよ」


 ジェラスは持っていた饅頭に視線を落としたまま、まぁな……とため息をこぼす。脳裏に浮かんでいるのは、きっと集落の友達の事であり両親の事だろう。けれどどうにもならない。どうにもならない事は、考えなくていい。

 自分たちが守れる範囲は、些細なものなのだから。


「それでいうなら、私はアリアを助けたかったですよ。本当に今更ですが」

「そうだな」


 最初に、思考が戻る。

 凪を迎え入れた時に感じた、悔恨。同じくらいの年齢のアリアは、助けてやれなかった。


「あれの犯人、まだ捕まってないんだよな」

「そうですね」

 王名で隣国に嫁ぐ予定だったレイノールの妹、アリア。本来なら近衛などを連れて輿入れしていくのだろうに、子爵という低い家格がそれを許さず。

 出発後にそれを知った王弟殿下が秘密裏にジェラス達数人を送り出したけれど、国境を越えるか越えないかの場所で盗賊に殺害された。それが本当に盗賊だったのか、それに扮した何者だったのかいまだに分かっていない。

 両国は悲惨な出来事に哀悼の意を表するという声明を出しただけで、犯人を見つけることに躍起にはならなかった。


 と、いう事は。


「まぁ、両国間で何かしらの取引があって、鎮静化させたんだろうな」

「でしょうね」


 そうでなければ、信頼に関わってくることを放り出す事はしないでしょう。


 その時、丁度隣国から商隊の傭兵としてランディアに入った私は、アリアの後を追ってきたジェラスと再会することになった。

 アリアの遺骸を前に。


 盗賊に襲われている時にアリアが兄へと発した声が、魔力に干渉する力を持つ私の耳に届いたのだ。駆け付けたけれど、……間に合わなかった。

 数人の盗賊は切り伏せたけれど、身元の分かる者はだれもおらず。そのまま闇に葬り去られた。


「それからこの国で暮らしていますが、あの頃と全く変わらない。王弟殿下がいなくなったから、余計に悪くなりましたね」

「そうだな。お前んとこの王子様の事もあるし、もう我慢することはないだろ」

 王弟殿下を助けるためにも、恩返しをするためにも。

 イルクや凪を悲しませないためにも。


「師匠を陥れた王にも中枢にも、なんの哀れみもない。国を潰すか、国を獲るか」


 そう言い切ったジェラスは、本当に迷いも何もない澄んだ青い目で。どこか、江国の深青の姿を思い起こさせた。

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