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はじまりはじまり。――隊長は語る

本日2話投稿しています。

1話目は、以前投稿した「共に。」の手直し版となります。

 薙ぐ様にして下から振り上げられた長剣を、上体を反らすことで躱す。その反動を利用しながら片手を地面につけてくるりと後ろ向きに飛び上がると、ついでとばかりにつま先で地面を蹴り上げて砂を空中にまき散らした。

「いっ!」

 相手の短い叫び声にニヤリと口端をあげて笑みを浮かべると、両足を地面につけた瞬間足元に飛んできたナイフを避ける様に軽やかに再び後ろに飛びのく。すぐに危なげなくもう一度足を地面にしっかりつけると、その手に持っていた通常ならばサブで使う事が多い短剣を鞘に戻して腰元のベルトに収納した。


後に残るのは、微かに舞う砂埃とそこに立つ細身の隊員。隊員は一通りの動作が終わった瞬間、キッと眦を釣り上げてこちらを睨みつけた。


「なんで隊長が手ぇ出すんだよ! 反則だろそれ!」

 そして付け加えるならば、とてもとても口が悪い。

「あなたが先に反則技を出したのですよ、(なぎ)

 ゆっくりと丁寧に凪の言葉を否定すれば、ふて腐れたように目を細めて舌打ちをした。

「……勝てばいいんだろ、勝てば」

「はい。修練場十周、走ってらっしゃい」

「はぁ!? 邪魔された挙句にそれかよ!」

「凪」


 にっこりと笑みを浮かべながらも強い声音で名前を呼べば、言葉に詰まったように口を開け閉めしつつ溜息をつく。もう一度ちらりとこちらを見たけれど、私に撤回する意思がまったくないと見るや肩を落として走り出した。

 後で荒れそうだから、今日の食事は営外に出た方がいいかもしれませんね。

 そう心に留めつつ、凪が対峙していた相手へと視線を走らせる。そこには見習いの少年と共に立つ、二十代も中盤に差し掛かった青年の姿。


「いやぁ、来るとわかっていても、あの動きは躱すのが難しいですねぇ」

 目に入った砂を見習いが持ってきた水筒の水で洗い流していた彼が、楓の後ろ姿を見送りながらにへらと笑う。

「随分成長しましたよ、凪は。もうここにきて五年は経つでしょうか」

「そうですね。随分と大きくなり、剣技も磨きがかかってきました。そして小賢しい技も格段と素晴らしい出来になって結構な事です」

「……隊長、十六歳の隊員に厳しい」


 水で張り付いた前髪を後ろにかきあげながら苦笑する仕草は、なんでもないものなのに妙に格好よく見える。

 優男と近衛隊から侮蔑の意味で綽名をつけられているレイノールは、私が率いる隊の副隊長。緩い癖のある金の髪に優しげな薄い青の瞳、この国ではよく見る風貌ではあるが整った顔立ちやそれ以上に穏やかで優しい性格で城に勤める女性達から人気を誇る。


 要するに、いいとこのお坊ちゃんが多い近衛隊よりも人気があるからっていうどう好意的に取ろうとしてもただのやっかみ。そんな事をして馬鹿を晒してるだけだと、なぜ気が付かないのでしょうか。あぁ、気付きませんよね。馬鹿だから。愚問でした。


「隊長、思いっきり考えてる事が口から出てます」

 苦笑気味の表情に、おや失礼、と全く心にもない謝罪をにっこりと返した。





 私が所属しているこの国は、鉱石の国ランディア。王族を中心に、宰相その下に官僚・文官。将軍その下に近衛・武官が配されている。元々が鉱山を中心に栄えただけあって、国として成立した後も中枢システムはとても単純にできている謂わば成り上がりの国。

 これでも近年は歴史ある周辺国を手本に、宰相を中心に国家システムを整備しているという。


 確かに成り上がりで新興国で歴史なんて金盥よりも浅いランディアだけれど、私はこの国が好きだ。こうして平民でありながら、民を守る軍人に志願するほど。

 歴史や慣例が少ないからこそ、物事に柔軟に対処できる。それだけではなく、元が鉱山で働く鉱夫やそのとりまとめである領主、そして領主が集めた民や財を守るための傭兵たちが先祖という事もあり、選民意識が少なく身分階級に対する畏怖も他国よりは薄い。

 ある意味風通しのいいこの国を、私はとても気に入っていた。




――そう、今日までは。

では、一カ月後に……!←

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