story 02 - 族長さま
あばばばこの回さらに短いあばば
▽
その日 、テオはバルベルグ集落の手前の丘で 、前方に続く平野をただ眺めていた 。
「 テオさま 」
声は幼いバルベルグの民のものだった 。
見た所 10 、それより少し上かという所の女子だった 。
その身体には身重であろう銀の剣を重そうに抱えながら 、テオの後方で小さくお辞儀をしていた 。
厚い防寒具を重ね着しても 、幼子には辛い寒さだった 。
テオは自分の着ていた外套を幼子に掛けてやると 、膝を折り目線を合わせながら 「どうした?」と問うた。
幼子は先ず、外套への御礼を述べた。
そして 、寒さに潤んだ瞳を真っ直ぐテオに向け 、言葉を述べた。
「 テオさま。私の 、族長さま 。」
テオは驚いた 。
前日 、バルベルグ次期族長として挙げられたマタイの名は 、例え幼子であろうとも知らぬはずが無かった 。
けれどテオはその言葉を遮りも 、否定もせず 、幼子の言葉を聞いた 。
幼子の言葉は重く 、君主を崇めるような言葉付きと目線だった。
故に 、遮ることが出来なかったのだ 。
「 私は 、幼い頃からテオさまに憧れておりました 。女の身にあられるのにお強く 、凛々しくある貴方様のようになりたいと思っていました 。」
幼子は 、噛み締めるように
ですから 、と続ける 。
「 マタイ様のこと 、私は認めません 。けれど 、反対もしません 。ただ 、私にとっての族長さまは 、貴方様です 。貴方様なのです 、テオさま。」
歳に似合わない堅苦しい言葉は 、その真剣さを引き立てた 。
「 テオさま 。私の父は 、戦で死にました 。二つ前の戦でしょうか 、イエルバ族との小競り合いです 。結果は 、私達バルベルグの圧勝でしたね 。けれど 、父は死にました 。 ... もしも 、生命を落としたのが 、関わりもない人だったならば 、私は今こうして貴方様の前にはいないでしょう 。」
幼子は 、泣かなかった。
声の震えこそあっても 、堂々と凛とした姿はテオを憧れたというだけの事はあった 。
抱えていた銀の剣をテオの足元に置くと 、
幼子は可愛らしい花のような笑顔を浮かべた 。
「 戦の場から降りぬ意思 、お聞きしました 。
... 生きてくださいませ 、テオさま 。
私は必ず力をつけ 、この剣を振るい貴方様を守れる戦士になります。
ですから 、それまで 、死なないでくださいませ 。
貴方様を思う者がいることを 、
忘れないでくださいませ 。」
幼子の言葉は 、そこまでだった 。
テオは足元の剣を手に取ると 、立ち上がり幼子を見下ろした 。
ひとりの戦士として 、見るという意味を込めたものだった 。
幼子もそれを理解したのか 、緩んでいた口元を引き締め、テオに向き直った。
「 戦の場に立てるのは 、バルベルグの戦士のその精鋭のみだ 。お前のような者が今から鍛え上げたところで 、道は狭いぞ 」
テオの冷たい言葉に 、幼子は嬉しそうに 「構いません」と答えた 。
テオはそれを見て 、笑った 。
馬鹿にするようで 、呆れるようで 、幼き頃の己を見るような目で幼子を見つめた 。
「 ... 明日から 、稽古を付けてやる 。お前 、名は?」
幼子は勢いよく額を地につけ 、喜んだ 。
仰ぎ見れば 、愛しい君主がいた 。
その小さな身体に似合わない大きく強い心の中で 、「 必ず 、必ず 御守りします 」と呟きながら 、
己の名前を告げた 。
個人的にエルザとテオコンビ大好きなんです( しらねえよ )