六、女占い師、再び現れる
六、女占い師、再び現れる
トムは、真っ先に、屋外へ出た。そして、すぐに、振り返り、「ミュール、レイミー、ここで、待っててくれ」と、言い残し、返事を待たずに、繁みまで移動した。間も無く、前に立つと、刀を抜くなり、足下の雑草や細い枝等を切り払いながら、進路を切り拓き始めた。しばらくの間、切り崩しながら、漸進した。やがて、街道が見えるなり、速やかに、抜け出した。その刹那、左右を確認した。少しして、誰も居ない事を視認するなり、刀を収めた。その直後、「二人共、来て良いぞ」と、通路越しに、声を掛けた。安全が、確保されたからだ。
その途端、二人も、すぐに出て来た。
その直後、トムは、街の反対側から近付く者に、気が付いた。そして、徐に、その方を向いた。次の瞬間、はっと息を呑んだ。街で、言い寄って来た女占い師だからだ。
少しして、女占い師が、左斜め二歩手前で、立ち止まった。そして、「あなたの運命が、変わったのではありませんか?」と、目を細めながら、開口一番に、問い掛けて来た。
トムは、すんなりと頷いた。そして、「確かに、あんたの言う通り、俺の運命は、変わったのかも知れないな。ミュールやレイミーに、ウルフ族の者とも知り合えたのだからな。今までだったら、異種族の者達と係わる事なんて、無かっただろう」と、素直に、心境を語った。こういう運命も、悪くないと思ったからだ。
「そうですか。でも、あなたも、後ろのお二人の運命を変えられた事も、自覚しておいて下さいね。それと、お二人も、また、自分達の運命を変えるきっかけを作られたのですからね。この時代にとって、これは、大きな事です。人間と係わるという事は、運命を、大きく左右するんですから。それに、善人と悪人とでも、生き方が、大きく変わってしまいます。あなたは、お二人にとっては、良い影響を与える人のようですね」と、女占い師が、意味深長に語った。
「うん。トムは、良い人よ。あたしを助けに来てくれたんだもの…」と、ミュールが、即答した。
少し後れて、「私も、トムさんなら、信じるに値する人ですわ」と、レイミーも、口添えした。
「おいおい。俺は、偶々、成り行きで、そうしただけだぜ」と、トムは、はにかみながら、謙遜した。褒められて、悪い気はしないが、係わってしまった以上、放って置く訳にもいかなかったからだ。
「でも、トムは、見捨てる事だって出来た筈よ。けど、わざわざ、あたしの為に、危険を冒してまで、ここまで来てくれたんだから…」と、ミュールが、感極まって、涙ぐんで、言葉を詰まらせた。
「ミュールさんの仰られる通りですわ。私も、牢屋から出して頂いて、バニ族の私に、優しく接してくれた人間の方は、あなたが、初めてですわ」と、レイミーも、感謝の言葉を被せた。
「うふふ。やはり、あなたは、ただで占って上げた甲斐の有る人物ですね。お二人が、人間のあなたを、これ程、慕っておられるのですからね」と、女占い師が、自身の選択が間違いでないと言うように、満面の笑みを浮かべた。
「それこそ、どうして、俺でないといけないんだ?」と、トムは、眉をひそめて、問い掛けた。他にも色んな奴が居ただろうに、何故、自分を選んだのかが、疑問だからだ。
「一応、色んな方々に呼び掛けたのですが、私の呼び掛けに応じて下さった方が、唯一、あなただったのですから…」と、女占い師が、理由を述べた。
「なるほど。そう言う理由か…」と、トムは、単純な答えに、拍子抜けするなり、些か、呆けた。よく有る神様のお告げの類じゃなかったからだ。
「ごめんなさいね。変な期待を持たせちゃって」と、女占い師が、詫びた。
「ははは。俺が、勝手に、そう思っただけさ。気にする事は無いさ」と、トムは、頭を振った。
「では、私には、まだ、やらなければならない事が有りますので、これで失礼させて頂きます。それと、この先を進むと、夕暮れ前には、村に着けます。街に戻られるよりも、近いですよ」と、女占い師が、意味深長な言葉を吐きながら、左手で、自身が来た道を差した。そして、そそくさと、街の方へ歩き始めた。やがて、姿が見えなくなった。
少しして、トムは、振り返り、「俺達も、行くとしよう」と、ミュールとレイミーを交互に見やった。ここに、いつまでも、突っ立って居ても、仕方が無いからだ。
その直後、「うん!」と、ミュールが、力強く返事をするなり、右腕に組み付いて来た。
少し後れて、「はい」と、レイミーも、上目遣いに、返事をするなり、左手を握って来た。
間も無く、トム達は、女占い師の助言した方向へ向かって、歩き始めるのだった。