二六、やれやれ
二六、やれやれ
トム達は、ゲオの塔の前の道へ差し掛かった。すると、十数歩先で、右脇に佇む人影を視認した。
少し後れて、その人影も、存在に気付くなり、呼応するように、近づいて来た。
間も無く、トム達は、レイミーだと判った。
「トムさん、お待ちしてましたわ」と、レイミーが、距離を縮めながら、にこやかに、声を掛けて来た。
トムも、微笑むなり、「レイミー、待たせたね」と、すぐさま、応えた。やがて、数歩程手前の位置で、足を止めた。
レイミーも、二歩手前で、歩を止めた。その直後、真剣な顔つきになり、「トムさん、私を連れて行って下さい!」と、頼んで来た。
トムは、顔を見据えるなり、「俺と旅をするという事は、当分の間、御父さんには会えないって事なんだよ。当然、それくらい解っているんだよねぇ?」と、意地悪く質問した。レイミーの覚悟が、本物かどうか、見極めたいからだ。
「ええ、解っています。だからこそ、御父様に、面と向かって言えなかったのです…」と、レイミーが、視線を逸らす事無く、答えた。
「分かったよ。君の気持ちが、本物だって事がね」と、トムは、真意を聞き入れた。決意が本物であると、認識したからだ。そして、「よし! 一緒に行こう!」と、意気揚々に、誘った。
その瞬間、レイミーが、抱き付くなり、「あ、ありがとうございます!」と、礼を述べた。
その刹那、「ああ! トムは、あたしの物よ!」と、ミュールが、烈火の如く、敵意を露にした。その直後、背後から、抱き付いて来た。
その途端、「ミュールさん! 来ないで下さい!」と、レイミーが、語気を荒らげた。
次の瞬間、「レイミーこそ、離れなさいよ! 図々しいわね!」と、ミュールも、負けじと言い返した。
やがて、小競り合いへ、発展した。
トムは、二人に挟まれて、ただ、立ち尽くすだけだった。どちらの味方をしても、角が立つからだ。
そこへ、ニルフが、左側へ来るなり、「二人共、いい加減にしなさい!」と、両手で、ミュールとレイミーの頭頂部を、同時に、小突いた。
次の瞬間、二人が、動きを止めた。そして、頭頂部を、両手で押さえながら、しゃがみ込んだ。
間髪容れずに、「トム、あなたも、二人に、曖昧な態度なんて取ってないで、しっかりしなさい」と、ニルフが、たしなめた。
「ははは…」と、トムは、苦笑いした。もっともだからだ。
その刹那、「トムは、悪くないわ!」と、ミュールが、食って掛かった。
少し後れて、「そうですわ!」と、レイミーも、同調した。
「何よ? もう一回、小突かれたいのかしら?」と、ニルフが、上から目線で言った。
その途端、「暴力反対!」と、ミュールが、語気を荒らげた。
「これ以上は、嫌です!」と、レイミーも、口添えした。
「レイミー、にげましょう! また、暴力を振るわれるかも知れないから!」と、ミュールが、提案した。
「ええ」と、レイミーも、すぐさま、頷いた。
その直後、二人が、同時に、ムオルの街へ向かって、駆け出した。
少し後れて、「ま、待ちなさーい!」と、ニルフも、両手を突き上げながら、追い駆け出した。
間も無く、三人が、遠ざかった。
少しして、フォッグが、右隣に来るなり、「あれで、これからやって行けるのだろうかな?」と、溜め息混じりに、言った。
「さあな」と、トムは、冴えない表情で、小首を傾げながら、答えた。先の事は、判らないが、騒々しくなりそうなのは、確かだからだ。そして、何気に、フォッグと顔を見合わせた。
その途端、「やれやれ…」と、二人は、同時に、溜め息を吐いた。間も無く、後を追うように、並んで歩き始めるのだった。
おしまい
あらすじ(グラスト創刊記念コンテスト)
人間以外の種族の者が蔑まれる時代を生きる人間の若者トムを軸に、猫耳族のミュール、バニ族のレイミー、ウルフ族のフォッグ、メギネ族のニルフが、出会い・事件・冒険を通じて、互いを認め合いながら、絆を深めて行く物語。