二五、レイミーの置き手紙
二五、レイミーの置き手紙
翌朝、トムとミュールが、広間に入った。すると、ロバートが、右手に、一枚の紙切れを持ちながら、動揺しているのを視認した。
その瞬間、「ロバートさん、どうかなされたのですか?」と、トムは、緊張した面持ちで、問い掛けた。何らかの事件が、起きたかも知れないからだ。
その直後、ロバートが、顔を向けるなり、「レ、レイミーが…」と、声を絞り出した。
「レイミーが、どうしたんです?」と、トムは、真顔で、尋ねた。一大事だと、直感した。
ロバートが、紙切れを差し出すなり、「こ、これを、置いて、出て行ったんだよ!」と、取り乱した。
次の瞬間、トムは、受け取り、すぐさま、目を通した。
『親愛なる御父様へ
この度、私は、トムさんに、付いて行く事に決めました。本来ならば、御父様と、面と向かい合って、この事を申し上げて、許可を頂くのが、筋なのですが、御父様の顔を見ると、決心が鈍りますので、このような形で旅立つ事を、御許し下さい。御父様も、どうか、御身体に気を付けて、御元気で…。
レイミーより
追伸
御父様、御手数ですが、トムさんに、初めて御会いした場所で待っている事を、御伝え下さい。』
間も無く、「なるほど」と、ロバートへ、視線を戻した。レイミーの考えが、分かったからだ。
「レイミーが、これほどまでに、君を慕っているとは、思わなかったよ。どうだろう? レイミーの気持ちを尊重して、同行させては貰えないだろうか?」と、ロバートが、申し出た。
その瞬間、「僕は、構いませんよ!」と、トムは、快諾した。異論は、無いからだ。
その刹那、「ええ~」と、ミュールが、小さな不満の声を発した。
そこへ、「おいおい、どうしたんだ?」と、フォッグが、背後から、声を掛けて来た。
少し後れて、「レイミーの姿が、見えてないけど、別れるのが寂しくて、部屋に篭っているのかしら?」と、ニルフも、問うた。
トムは、振り返り、「レイミーは、先に出発していて、俺達を待っているってさ」と、にこやかに、否定した。
その途端、ニルフが、含み笑いを浮かべるなり、「ふふ。じゃあ、これからも、面白いものが、見られるって事ね」と、意味深長な言葉を吐いた。そして、ミュールを流し目で、見やった。
その刹那、「な、何よ!」と、ミュールが、剥きになって、睨み返した。
その直後、「別に~」と、ニルフが、かわすように、顔を背けた。
突然、「トム君、少し待って居てくれないかね? 君に、渡したい物が有る」と、ロバートが、提言した。そして、返事を待たずに、すたすたと階段を上って行った。
少しして、「ロバートさんから、何も、貰う気なんて、無いんだけどな」と、トムは、眉間に、皺を寄せた。金品を貰えるような働きなどしていないからだ。
「トム、貰える物は、貰っておいた方が、良いと思うぜ。この先、何が待ち受けているか、分からないからな」と、フォッグが、助言した。
「フォッグさんの言う通りよ。人の良い事を考えていても、得する事なんて、ほとんど転がっていないんだからね」と、ニルフも、口添えした。
「そうだけど…」と、トムは、困惑した。二人の言う事にも一理有るが、ロバートにも、色々と世話になったからだ。
「ま、トムの好きにするが良いさ。貰おうが、貰うまいが、俺は、文句は、言わないよ」と、フォッグが、一任した。
「あたしも、フォッグさんと同じ考えよ。あなたが、決断した事を責める気は無いわ」と、ニルフも、同調した。
「はは…」と、トムは、苦笑した。決断を任されたからだ。
そこへ、ロバートが、戻って来るなり、「いやぁ、待たせたね」と、声を掛けて来た。そして、傍で立ち止まり、「これを受け取って欲しい」と、告げた。
トムは、ロバートを見やった。その直後、差し出された両手の上に乗せられた白い布の小袋と宝玉が視界に入った。次の瞬間、「ええ!」と、面食らった表情で、驚きの声を発した。お金は、ある程度、想像していたが、宝玉までは、考えてなかったからだ。少しして、「しかし…」と、躊躇した。
「ははは、遠慮しなくても良いんだよ。こっちは、礼と言うほどの事をしていないのだからね」と、ロバートが、勧めた。
「でも、宝玉までは…」と、トムは、表情を曇らせながら、拒んだ。村の宝を受け取る訳にもいかないからだ。
「これは、君が持っていた方が、何かと役に立つかも知れないと思うからだよ。祠へ戻して、見知らぬ盗賊に持って行かれるくらいなら、君に持たせた方が、スッキリするからね」と、ロバートが、にこやかに、理由を語った。
「トム、受け取ってあげなよ。ロバートさんの気持ちなんだからさ」と、フォッグが、後押しするように、促して来た。
その瞬間、「じゃあ、ありがたく頂戴します」と、トムは、二つの品を恭しく受け取った。ロバートの気持ちを踏みにじるような真似は、出来ないからだ。
少しして、「トム君、ついでと言っては、申し訳ないんだが、レイミーに、伝えてくれないか? 私も、君の健康と旅の無事を祈っているってね」と、ロバートが、照れ臭そうに、伝言して来た。
その刹那、「はい、必ず伝えておきます」と、トムは、承諾した。お安い御用だからだ。
少しして、トム達は、玄関へ移動した。そして、ロバートに、見送られながら、出発するのだった。




