二四、レイミーの深夜の来訪
二四、レイミーの深夜の来訪
トムは、晩餐を終えるなり、二階の客室で、独り、就寝していた。突然、胸元で、息苦しさを感じるなり、はっと目覚めた。そして、胸元を見やった。その直後、ミュールが、体を丸めながら、胸へ頭を乗せて、気持ち良さそうに、穏やかな寝息を立てて、眠っているのを視認した。次の瞬間、「俺は、枕か…」と、眉根を寄せながら、ぼやいた。あまりにも、寝心地が良さそうだからだ。少しして、目を瞑った。しばらくして、微睡んだ頃、部屋のとびらが、静かに開くのを感じた。間も無く、何者かが、侵入して来た。その刹那、「誰だ?」と、問い掛けた。
その瞬間、「トムさん、私です…」と、レイミーの声がして来た。
その途端、トムは、安堵するなり、「どうしたんだい? こんな夜中に…?」と、尋ねた。何事かと思ったからだ。
「ちょっと…」と、レイミーが、口ごもった。
「分かった。そっちへ行くよ」と、トムは、告げた。何やら、言いにくそうな感じだからだ。そして、ミュールを起こさないように、両手で、頭を少し持ち上げながら、抜け出した。そして、寝台を下りた。その直後、丁重に、頭を寝台へ置いた。間も無く、足音を忍ばせながら、レイミーの二歩前へ、歩み寄った。
突然、レイミーが、抱き付くなり、「トムさん…」と、頬擦りするように、胸元へ、顔を寄せて来た。
その刹那、「レ、レイミー!」と、トムは、面食らった表情で、驚きの声を発した。まさか、抱き付かれるとは、思いもしなかったからだ。
「トムさん…。今は…、こうさせて、下さい…」と、レイミーが、涙声で頼んだ。
「分かったよ…。今は、君に従うよ…」と、トムは、すんなりと聞き入れた。別れが辛いのだと察したからだ。そして、そっと、肩を抱いた。
不意に、「トムさん…」と、レイミーが、声を発した。
「ん?」と、トムは、応じた。
その直後、「ミュールさんが、羨ましいですわ…。これからも、トムさんと一緒に居られるのですから…」と、レイミーが、吐露した。
「そうだね。でも、夜が明ければ、レイミーとお別れというのも寂しいよ。数日間でも、一緒に過ごした人が、抜けるのだからね…」と、トムも、眉根を寄せた。自分も、レイミーとの別れを考えると、寂しいものだからだ。
レイミーが、鼻を啜り、「あ、ありがとうございます…」と、礼を述べた。
トムは、次の言葉が見つからずに、黙した。気の利いた文言が、思い浮かばなかったからだ。
二人は、無言のままで、佇んだ。
しばらくして、「トムさん、そろそろ行きます…」と、レイミーが、申し出た。
「あ、ああ…」と、トムは、徐に、手を除けた。
その直後、レイミーが、しずしずと離れた。間も無く、部屋を出て行った。
トムは、退室を見届けた。そして、扉が閉じるなり、寝台へ踵を返した。少しして、何事も無かったように、ミュールの右側へ、横たわった。ミュールに対して、後ろめたい事など、何一つ無いからだ。その直後、目を瞑った。次の瞬間、脳裏に刻むように、先刻の事を思い返すのだった。