二三、報告
二三、報告
トム達は、ソノイで、一晩過ごし、ニジンの村へ帰り着いたのは、翌日の昼下がりだった。そして、玄関先で、ロバートに、出くわした。
その途端、「レイミー、トム君達。よくぞ、無事に帰って来てくれた!」と、ロバートが、満面の笑みを浮かべながら、待ち兼ねたと言うように、歓喜の声を発した。
「御父様、大袈裟ですわ…」と、レイミーが、はにかみながら、たしなめた。
その瞬間、ロバートが、はっとして、我に返り、「ははは…。嬉しくて、つい、年甲斐も無く、はしゃいでしまったよ…」と、照れ笑いを浮かべた。そして、咳払いをするなり、「トム君、例の物は、どうだったかね?」と、問い掛けて来た。
「無事に、取り戻せましたよ」と、トムは、にこやかに、答えた。そして、「フォッグ、宝玉を」と、指示した。自分よりも、フォッグに持って居て貰った方が、安全だからだ。
「おう」と、フォッグが、返事をした。間も無く、右隣へ進み出て来た。そして、両手に、宝玉を乗せながら、ロバートへ差し出した。
「まさしく、我が村の宝玉だ」と、ロバートが、満面の笑みを浮かべた。
「どれどれ? あたしにも、見せて頂戴」と、ニルフが、フォッグの右肩越しから、興味津々に、覗いた。
その直後、ロバートが、怪訝な顔で、見つめるなり、「あなたは?」と、尋ねた。
その刹那、「あたしは、ニルフ・アーマフと申しますわ」と、ニルフが、柔和な笑みを浮かべながら、名乗った。そして、「何か、不審な点でも?」と、きょとんとした顔で、問い返した。
その瞬間、ロバートが、慌てて頭を振り、「い、いえ! 私は、そのようなつもりで…」と、言葉を詰まらせた。そして、「あなたのような綺麗な方が、一緒に居られるとは、思わなかったもので…。何分、初対面の方に対しては、疑り深いもので…。不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありません…」と、苦笑いを浮かべながら、詫びた。
「いいえ、気にしないで下さい。あたしだって、初対面の人が、いきなり顔を出して来たら、同じような態度を取ると思いますわ」と、ニルフも、笑みを絶やさないで、気遣うように、やんわりと答えた。
「ははは…。そう言って頂くと、救われます…」と、ロバートが、安堵の表情を浮かべた。
「あたしも、誤解が解けて、良かったわ」と、ニルフも、微笑んだ。
「ところで、レイミー。今夜は、皆さんの無事な帰りを祝して、細やかな晩餐をしようと思うから、手伝ってくれないか?」と、ロバートが、要請した。
その直後、「はい、御父様!」と、レイミーが、力強く返事をした。
「あたしも、手伝わせて貰うわ」と、ニルフが、申し出た。そして、間髪容れずに、左後ろのミュールを見やり、「ね? ミュールも、手伝うわよね?」と、威圧的に、問い掛けた。
「ええ~」と、ミュールが、気乗りしないと言うように、嫌そうな声を発した。
「良いわよね!」と、ニルフが、強い調子で、念を押した。そして、「あなたも、女の子なんだから、料理の一つくらいは、覚えないとねぇ~」と、嫌味ったらしく、付け足した。
その瞬間、「わ、分かったわよ! 手伝えば良いんでしょう! 手伝えば!」と、ミュールが、癇癪を起こして、ぶっきらぼうに、答えた。
その途端 、「これは、これは。御二方にも、手伝って貰えれば、大助かりですよ。では、早速、準備に、取り掛かりましょう。トム君達は、支度が整うまでは、部屋で、寛いで居てくれたまえ」と、ロバートが、告げた。
「じゃあ、御言葉に甘えて…。なっ」と、トムは、同意を求めるように、フォッグを見やった。自分の出る幕は、無いからだ。
フォッグも、ニルフへ向くなり、「そ、そうだな。ニルフさんには、申し訳ないが、料理で、俺の出番は、無さそうだからな」と、同調した。
「フォッグさん、気にしないで…」と、ニルフが、鼻を鳴らした。
「それでは、私は、買い出しに出掛けるよ」と、ロバートが、通りへ向かって、歩き始めた。
「二人共、買い出しに、付き合うわよ」と、ニルフも、踵を返した。
少し後れて、ミュールとレイミーも、並んで続いた。
トムとフォッグは、四人を見送るのだった。