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異種族騒動記  作者: しろ組
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二二、黒ずくめの者の正体

二二、黒ずくめの者の正体


 トム達は、再び、隠し神殿の拝殿(はいでん)へ、足を踏み入れた。そして、眼前には、相も変わらぬクフーダ神の像が、建っていた。しかし、足下が、昨日とは、まるで、違っていた。ミュール達が、祭壇(さいだん)奥の十字に組まれた板柱(いたばしら)に、両手両足と腰を、(なわ)(しば)られたまま、項垂(うなだ)れながら、並んでいた。

 トムは、その様を見るなり、「ミュール! レイミー!」と、叫んだ。次の瞬間、慌てて駆け出した。()(にえ)儀式(ぎしき)が、完了したかどうかよりも、状態を確認する事が、先決だからだ。

 少し後れて、「ニ、ニルフさん!」と、フォッグも、駆け出した。

 間も無く、二人は、ミュール達の下まで、馳せ参じた。

 トムは、息を()みながら、真ん中の板柱のミュールの顔を、恐る恐る見上げた。やがて、眠っているような穏やかな表情が、視界に入った。その瞬間、安堵した。苦悶(くもん)の表情ではなかったからだ。そして、左隣のレイミーと右隣のニルフも、順に、見やった。すると、ミュールと同様に、安らかな顔をしているのを視認した。

「トム、ニルフさん達は、まるで、眠っているみたいだな」と、フォッグが、しんみりと口にした。

「ああ」と、トムも、すんなり頷いた。その通りだからだ。そして、「このままじゃあ、可哀想(かわいそう)だから、縄ぐらいは、ほどいてやろう…」と、提言した。死体とはいえ、このままにしておくというのも、気の毒に思えたからだ。

「そうだな。これでは、まるで、罪人(ざいにん)みたいだからな」と、フォッグも、賛同した。

 突然、「まさか、ここまで来るとはな…」と、背後から、例のくぐもった声がして来た。

 その途端、二人は、すぐさま振り返った。次の瞬間、黒ずくめの者が、いつもの通り、頭上に浮いているのを視認した。そして、素早く身構えた。

 その直後、「待て! 私は、争う気は無い!」と、黒ずくめの者が、告げた。少しして、眼前に、下り立った。

 その瞬間、「あんたの目的は、達成されたのだから、もう、戦う気も無い訳だな! 都合の良い事を言うな!」と、トムは、食って掛かった。悔しいが、黒ずくめの者を倒したところで、ミュール達が、生き返る訳でもないが、何かを言わずには、居られないからだ。

「ニルフさん達の遺体(いたい)を、お持ち帰りしてやるんだから、邪魔(じゃま)をしないでくれよ」と、フォッグも、沈痛(ちんつう)面持(おもも)ちで、文句(もんく)を言った。

「そうよねぇ。あなた方の言う事も、もっともだけど、私の言い分を聞いてからにしても、遅くはないと思うんだけどね」と、黒ずくめの者が、勿体(もったい)()った。

「今更、あんたの言い訳を聞かされたところで、何になるんだ? 時間の無駄だよ」と、トムは、しんみりと言った。聞く気にならないからだ。

「そうだな。俺も、賛成だ。ニルフさん達を、早いとこ解放してあげたいからな」と、フォッグも、支持した。

「じゃあ、これで、どうです?」と、黒ずくめの者が、右手で、頭巾(フード)を取り払った。次の瞬間、銀色の長髪に、茶褐色の狐耳のメギネ族の女性の顔が、(あらわ)となった。

 その途端、「あ、あんたは!」と、トムは、信じられない面持ちで、驚きの声を発した。ムオルの街とゲオの(アジト)の前で会った占い師だからだ。そして、「何故、あんたが、こんな酷い事を…」と、面食らった顔で、言葉を続けた。以前、出会った時には、そのような雰囲気は、感じられなかったからだ。

「あ、あんたが、クフーダの神官とは…」と、フォッグも、まるで、以前からの知り合いと、このような場所で、再会するとは思っていなかったと言うように、愕然(がくぜん)としていた。

 トムは、フォッグを見やり、「フォッグ、あんたも、知り合いだったのか?」と、問い掛けた。関係が、気になったからだ。

「ムオルの街で、別れた後で、出会ったんだ。そして、後を追って、次の村で、お前さんを見かけたら、力を貸してあげて欲しいって、頼まれたんだけどな。それで、翌日、ニジンの村で見かけたので、後をつけて、その後は、ご存知(ぞんじ)の通りなんだがな」と、フォッグが、経緯(けいい)を語った。

「なるほど。そう言う事か…」と、トムは、納得した。フォッグの登場が、必然だと判明したからだ。そして、女占い師へ、視線を戻すなり、「俺達を裏で(あやつ)って、ミュール達を生け贄にする(ため)に、誘導(ゆうどう)していたって事なのか?」と、見据(みす)えながら、尋ねた。これが、事実ならば、許せないからだ。

「それは、違うわ」と、女占い師が、頭を振って、否定した。そして、「単純に、彼女達は、私の術で、(ねむ)って貰っているだけよ」と、柔和(にゅうわ)な笑みを浮かべながら、回答した。

 その瞬間、「え! そ、それは、本当か!」と、トムは、信じられない面持ちで、目をしばたたかせた。意外な言葉だからだ。

「ええ、本当よ」と、女占い師が、すかさず頷いた。そして、「私は、あなた方が、本気で、彼女達の事を思っているかどうか、(ため)させて貰ったのです」と、本意を告白した。

 その刹那、トムは、涙腺(るいせん)(ゆる)んで、涙ぐむなり、「そうか…。良かった…」と、安堵した。ミュール達が、生きていると、判ったからだ。そして、はっとなり、「で、試しは、どうなんだ?」と、尋ねた。結果が、気になるからだ。

 その直後、「あなた方は、合格よ」と、女占い師が、にこやかに、答えた。そして、「先日、あなたに、森の小道で、話した事を覚えているかしら?」と、問うた。

 少しして、「ああ…。何となく…、だけど…」と、トムは、苦笑した。うろ覚えだからだ。

「猫耳族とバニ族の子が、術を掛ける直前まで、あなたが、ここに来る事を言い張ってましたわ。あの時よりも、更に、(きずな)が深まったなって、思ったわ」と、女占い師が、語った。そして、フォッグへ顔を向けるなり、「それと、ウルフ族の方にも、安心して、(ニルフ)を任せられるわね。あの気位(プライド)の高いニルフが、あなたを一目で、気に入っちゃうんだからね。これは、誤算だったわね」と、目を細めた。

「へ?」と、フォッグが、信じられないと言うように、きょとんとなった。

「まあ、ニルフは、フォッグに、べったりだもんな」と、トムは、力強く頷いた。(わず)かな(あいだ)でも、フォッグとニルフのくっつき方は、尋常(じんじょう)じゃなかったからだ。

「ははは…。あんまり(いじ)めないでくれよ…」と、フォッグが、苦笑した。

「そうね。これ以上、ウルフ族の方を苛めても、可哀想ですから、これくらいに、してあげましょうか…。では、三人の術と縄をほどいてあげますわね」と、女占い師が、告げた。その直後、右手の親指と中指を(こす)って、鳴らした。

 次の瞬間、「トム、やっぱり、来てくれたのね!」と、ミュールの歓喜の声が、背後から降って来た。

 トムも、呼応(こおう)するように、振り返った。その直後、祭壇の上に降り立ったミュールを視認するなり、「ミュール!」と、満面の笑みを浮かべながら、咄嗟に、名を呼んだ。ミュールに、生きて再会出来た事が、喜ばしいからだ。

 その(かん)に、ミュールが、距離を詰めて来た。やがて、数歩手前まで、近付いた。突然、「トムぅ~!」と、甘え声を発しながら、飛び付いて来た。

 次の瞬間、「うわ!」と、トムは、身構える間も無く、受け止め切れずに、尻餅を突いて、仰向(あおむ)けとなった。その一瞬後、天井が、視界に入った。

 少しして、「トム、大丈夫?」と、ミュールが、胸元から、心配な表情で、(のぞ)きん込で来た。

 トムは、首だけを起こすなり、「君は、あの時と同じだな」と、苦笑した。ムオルの街で、初めて出会った時が、再現されるように、脳裏を過ったからだ。

「案外、ミュールも、大胆(だいたん)な所が有るのね~」と、ニルフが、冷やかした。

「大胆と言うよりも、向こう見ずなだけですわ」と、レイミーが、つっけんどんに、言った。

「おいおい、見せ付けるのは、それくらいにしてくれよ。何だか、こっちまで、照れ臭くなるぜ」と、フォッグも、苦言(くげん)(てい)した。

「そうだな。あんまり、他人(ひと)に見せ付けるものじゃないしな」と、トムも、聞き入れた。確かに、皆に言われると、こっちまで、恥ずかしいからだ。そして、「ミュール、退()いてくれないか?」と、要請した。

 ミュールが、些か、不機嫌になり、「分かったわ」と、応じた。そして、すんなりと退(しりぞ)いた。

 少しして、トムも、(おもむろ)に立ち上がった。そして、女占い師へ、向き直った。

 その途端、「さあて、私は、行かせて貰いましょうか。デヘル帝国が、不穏(ふおん)な動きを見せようとしているからね」と、女占い師が、溜め息混じりに、言った。

「フェイリス姉さん、もう行っちゃうの?」と、ニルフが、名残惜(なごりお)しそうに、問い掛けた。

「ええ。私は、世界魔術師組合(ギルド)特別監視員(エージェント)だからね。ドファリーム大陸は、デヘル帝国を中心に、きな臭い方向へ向かいそうなのよ。あなたを危険に巻き込ませない為に、ライランス大陸へ、連れて来たのだけど、このような良い方達に出逢えて、良かったわ。これで、安心して、任務(にんむ)に集中出来るわ」と、フェイリスが、安心させるかのように、柔和な笑みを浮かべた。

「ドファリームは、そんなに、やばい事になっているのか…。それで、デヘル帝国の船が、ソノイの近海をうろついているって、船乗り達が、ぼやいていた訳か…」と、フォッグが、思い詰めるように、(つぶや)いた。

「ええ。だから、戦禍(せんか)を広げない為にも、監視(かんし)を続けなくてはならないのでね。あなた方は、ドファリームへは、渡らないで下さいね」と、フェイリスが、忠告した。

「姉さんも、気を付けてね」と、ニルフも、気遣った。

「分かったわ。では、皆さん、妹を、お願い(いた)します」と、フェイリスが、頭を深々と下げた。

「姉さん、子供じゃないんだから、心配しないで…」と、ニルフが、照れ臭そうに、言い返した。

 フェイリスが、顔をあげて、頭を振り、「いいえ。あなたは、まだまだ、子供よ」と、断言した。

 その瞬間、ニルフが、顔をしかめるなり、「はっきりと、言ってくれるわね…!」と、歯噛みした。

「ええ。あなたの姉だからね」と、フェイリスが、しれっと言った。そして、「私の目が届かないからって、無闇に、人様の前で、爆炎魔法(ルーボク)なんて、使わないでよね~」と、見透かすように、注意した。

 その瞬間、「やっぱりね…」と、ミュールが、呟いた。

 その刹那、「ミュール、何か言ったぁ?」と、ニルフが、殺気を放った。

 その直後、「べ、別に~」と、ミュールが、とぼけた。

 トムも、背筋(せすじ)悪寒(おかん)を感じて、身震いした。昨日の宿酒場での件が、思い返されたからだ。

「ニルフ、その短気な性格を何とかしなさいよ。そうでないと、ウルフ族の方達に、迷惑を掛けちゃうわよ」と、フェイリスが、やんわりと、たしなめた。

「は~い」と、ニルフが、不満げに、生返事(なまへんじ)をした。

 少しして、「では、皆さん。御機嫌(ごきげん)よう」と、フェイリスが、告げた。次の瞬間、瞬時に、姿を消した。

「姉さんったら、いつも、口うるさいんだから…」と、ニルフが、冴えない表情で、溜め息混じりに、ぼやいた。

「それだけ、大事に思われているって事ですよ」と、フォッグが、苦笑しながら、取り成した。そして、「しかし、ニルフさんの御姉さんも、人が悪いな。こんな、回りくどい事をしなくても良かったのにな」と、冴えない表情で、言葉を続けた。

「確かに、女占い師やクフーダの神官なんかで、現れなくても良かったのにな」と、トムも、同調した。わざわざ身分を隠さずとも、事情が分かれば、それなりに、応対のしようも有っただろうからだ。

「姉さんは、心配性なのよ。それに、身分を不用意に明かしたりしちゃうと、任務が、やりにくくなっちゃう場合が有るからね。二人を試したのも、私を預けられるかどうかを、見極(みきわ)めたかったのでしょうね」と、ニルフが、代弁するかのように、説明した。

 トムは、ニルフへ振り返り、「じゃあ、世界魔術師組合の特別監視員という役職に()く程の実力者なら、ミュールやレイミーを助け出せる事も、出来たんじゃないのか?」と、問い掛けた。自分達を介さなくとも、簡単に、ゲオ達を、役人へ引き渡せただろうからだ。

「それは、姉さんの立場上、出来ないと思うわ」と、ニルフが、さらりと答えた。そして、「特別監視員は、世界の危機となりかねない災厄(さいやく)となる事件や事象にだけ、介入が許されているけど、それ以外の事に関しては、許されていないの。極端(きょくたん)な話、目の前で、家族が誘拐(ゆうかい)されようが、山賊に襲われようと、指をくわえて見ているしかないのよ。下手(へた)に介入しようものなら、規則違反で、投獄(とうごく)されちゃうからね。あと、姉さんの事は、これ以上、触れないでね。この事が知られちゃうと、姉さんが、幽閉(ゆうへい)されちゃうかも知れないからね」と、口止めを申し出た。

「確かに、ニルフの話から察すると、今回の件は、規約違反スレスレの行為って事になるな」と、トムも、険しい顔で、理解を示した。結果は、どうあれ、要所要所で、介入(かいにゅう)していたからだ。

 突如、「俺は、通りすがりの女占い師と黒ずくめのクフーダの神官しか見なかったぜ。ニルフさんの御姉さんって、誰だ?」と、フォッグが、おどけながら、(とぼ)けた。

「そうだな。メギネ族の女占い師と話をして、君達を返して貰った。それだけだな」と、トムも、同調した。わざわざ、フェイリスの名前を出す必要など、無いからだ。

「あたしは、目が覚めたら、トムが居た。それだけよ」と、ミュールが、右の二の腕に、組み付いて来た。

 少し後れて、「私も、ここで有った事は、口外しません。と言うよりも、出来ません。ミュールさんと同じで、目を覚ましたら、トムさんとフォッグさんが、全てを終わらせていたのですから…」と、レイミーも、左へ首を傾けながら、目を細めた。

「皆、ありがとう…」と、ニルフが、安堵の表情で、礼を述べた。その直後、フォッグの右肩へ、鼻を鳴らしながら、寄り掛かった。

「じゃあ、そろそろ、行くとしようか?」と、トムは、提言した。一件落着だからだ。

「ああ、そうだな」と、フォッグが、すぐに頷いた。

 不意に、「ゲオ様、若造達が、居ますぜ!」と、大男の野太い声が、割り込むように、背後から聞こえて来た。

 トムは、すぐさま振り返った。すると、ゲオ一味とブヒヒ族の男達が、悠然と歩み寄って来ているのを視認した。そして、「やれやれ。もう、現れなくても良いのに…」と、うんざり顔で、ぼやいた。もう、(から)みたくない連中だからだ。

「ニルフさん、離れて居て下さい。どうしても、ぶっ飛ばしてやりたい奴が、居るもんでね」と、フォッグが、含みの有る物言いで、促した。

 トムは、フォッグを見やり、「フォッグ、一人じゃ大変だろうから、手伝うぜ」と、申し出た。今度こそ、ここで、完全決着をつけたいからだ。

 そこへ、「待って。ここは、あたしが、一掃(いっそう)してあげるわ。姉さんの事で、借りが出来ちゃったからね」と、ニルフが、自信満々で、口を挟んだ。

「ニルフさん、あなたが、わざわざ、相手にする奴らじゃありませんよ」と、フォッグが、頭を振った。

「いいえ。この場は、あたしに、任せて欲しいの」と、ニルフが、告げるなり、フォッグから離れた。そして、ゲオ達の方へ、進み出た。

 トムは、ニルフを目で追った。

 間も無く、ニルフが、数歩先で、立ちはだかるように、足を止めた。そして、胸元で、両手を向かい合わせた。

 少しして、トムは、ニルフの背中越しに、橙色の光を視認した。その直後、「皆、伏せろ!」と、咄嗟に、叫んだ。次の瞬間、ミュールの肩を抱き寄せるなり、一緒に伏せた。

 その一瞬後、豪快(ごうかい)な爆音が、響き渡った。その刹那、一陣の風が、頭上を通り抜けた。そして、すぐに、静まり返った。

 しばらくして、トムは、恐る恐る頭を上げた。すると、先刻の場所で、ニルフが、仁王立(におうだ)ちしている後ろ姿を確認した。そして、足首の間の先で、ゲオ達の(すす)けた姿が、視界に入った。その瞬間、驚愕(きょうがく)した。一撃で、あのような姿に変えてしまう程の威力(いりょく)だからだ。

 間も無く、ニルフが、振り返り、「皆、終わったわよ」と、何食わぬ顔で、にこやかに、告げた。

 トムは、その声を聞くなり、立ち上がった。そして、ミュールへ、右手を差し伸べた。

 その間に、「ニルフさん、凄いですねぇ~。正直、驚きましたよ」と、フォッグが、(たた)えた。

 トムは、フォッグを見やった。すると、ニルフへ、歩み寄っていた。

 少しして、ニルフも、寄り添うなり、「フォッグさ~ん、お役に立てたかしら?」と、鼻を鳴らした。

「しかし、あれだけの魔法を使って、無傷なんて、信じられませんねえ」と、フォッグが、訝しがった。

 その直後、「確かに、爆炎魔法は、諸刃(もろは)(つるぎ)ですわね」と、ニルフが、同調した。そして、左手を見せるなり、「あたしには、これが有るからね」と、どや顔で、告げた。

 次の瞬間、「なるほど」と、フォッグが、納得した。

「そういう事か…」と、トムも、左手の意味を理解した。左手の薬指に、魔法から身を護術(アンチ・マジック)(ほどこ)された青の硬玉(サファイア)()まった(シルバー)指輪(リング)を着けているのを視認したからだ。

 そこへ、「指輪(ゆびわ)を自慢したいだけ?」と、ミュールが、小首を傾いだ。

「そうかもな」と、トムは、相槌を打った。この調子では、幾ら説明しても、理解して貰えそうもないからだ。そして、「ニルフ、おっさん達、大丈夫か?」と、問い掛けた。あまりにも、やられ方が、(ひど)いように、見受けられるからだ。

「これでも手加減しているし、直撃はさせていないから、大丈夫よ」と、ニルフが、さらりと答えた。

「そうか…」と、トムは、安堵した。悪党でも、命を奪われるのは、不憫(ふびん)に思えたからだ。そして、「ま、そう簡単に、くたばるような奴らでもないからな」と、あっけらかんと、言った。心配するだけ、くだらないと思ったからだ。

「ニルフが、昨日、言っていたのは、この事だったのね…」と、ミュールが、爆炎魔法の威力を目の当たりにして、表情を強張らせながら、声を震わせた。

 その瞬間、「あははは…」と、トムは、苦笑いした。もしも、爆炎魔法が、行使(こうし)されていたら、宿酒場でのタダ(ばたら)きの姿を想像したからだ。そして、振り払うように、頭を振り、「用事も済んだ事だし、帰るとしよう。おっさん達が、息を吹き返すと、ややこしい事になるからな」と、出発を促した。気絶している今が、頃合いだからだ。

「そうですね」と、レイミーが、すぐさま、返事をした。

「ああ。そうしよう」と、フォッグが、力強く賛同した。

「そうね。早く、フカフカの寝台(ベッド)の上で、休みたいわね」と、ニルフも、願望(がんぼう)を口にした。

「トム、行きましょう」と、ミュールも、提言した。

 その直後、「ああ」と、トムも、頷いた。

 少しして、トム達は、ゲオ達を踏み越えながら、足早に立ち去るのだった。

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