一八、ゲオからの手紙
一八、ゲオからの手紙
早朝、部屋の扉を叩かれる音で、トムは、扉寄りの寝台で、目を覚ました。そして、応対しようと、上半身を起こした。少しして、寝台から足を下ろすなり、長靴を履こうとした。しかし、気ばかり焦って、上手く履けなかった。
少し後れて、「何だよ、朝っぱらから」と、同じ並びで、通り側の寝台で休んでいたフォッグが、ぼやいた。そして、飛び起きるなり、裸足で、戸口へ歩を進めた。間も無く、到達するなり、右手で、扉を開けた。その直後、「何か用かな?」と、応対した。
その間に、トムは、履くのを止めて、注視した。ここは、フォッグに任せた方が、良いと判断したからだ。
「お休みのところ、申し訳ございません。先程、黒ずくめの魔術師風の方が、至急、届けてくれと言付かりましたので、朝早くから伺わせて頂きました」と、給仕娘が、事情を説明した。そして、「これを」と、何かを差し出した。
「ん? 手紙か?」と、フォッグが、左手で、受け取った。その直後、右手をズボンの右ポケットへ突っ込んだ。間も無く、何かを取り出すなり、「じゃあ、ありがとう。これは、手間賃だ」と、手渡した。
その瞬間、「あ、ありがとうございます!」と、給仕娘が、溌剌とした声で、礼を述べた。そして、間髪容れずに、足音が、遠ざかって行った。
少しして、フォッグも、扉を閉めた。そして、振り返り、左手には、二つ折りにされた茶色い半紙を持っていた。やがて、正面まで来た。
その途端、「フォッグ、読んでくれ」と、トムは、音読を促した。何が書かれているのか、興味をそそられるからだ。
「ああ」と、フォッグが、頷いた。そして、広げるなり、「ん? 何じゃこりゃあ!」と、素っ頓狂な声を発した。
「フォッグ、どうしたんだ!」と、トムも、面食らった表情で、すかさず尋ねた。何事かと思ったからだ。
「これは、ゲオのおっさんからの挑戦状だぜ」と、フォッグが、冴えない表情で、答えた。
その瞬間、トムは、眉間に皺を寄せるなり、「はあ?」と、目をしばたたかせた。そして、冴えない表情で、小首を傾いだ。何を今更と言う感じだからだ。
少しして、フォッグが、気を取り直すなり、「じゃあ、読むぜ。親愛なるトム君へ。君とわしらゲハゲハ団との戦いに、終止符を打ちたいと思い、次の場所まで、御足労を願いたいと思う。ソノイの町の外れに在る岬の廃屋敷だ。嫌なら嫌で結構。君が来なければ、猫耳族の娘達の処遇は、わしの独断で決めさせてもらう。娘達の命運は、君の行動次第だ。無論、一人で来いとは言わん。ウルフ族の男も、助っ人として、連れて来ても構わんよ。わしは、寛大な男だから、それくらい大目に見てやるよ。結果は、もう決まっているからね。追伸、この手紙は、魔術紙で出来ているので、読み終える頃には消滅する。あっ!」と、読み終えると同時に、驚きの声を発した。その途端、ゲオの手紙が、書かれた通り、蒸発するかのように、その手から消失した。
トムは、溜め息を吐くなり、「無駄に、手の込んだ事をするな」と、皮肉った。回りくどいからだ。
「ああ」と、フォッグが、相槌を打った。そして、「まあ、岬の廃屋敷へ行けば、ゲオ達が、居るんだろう? ニルフさん達を助けるには、連中を締め上げるしかないだろうからな!」と、胸の前で、両手の拳を付き合わせながら、いきり立った。
「確かに、少なくとも、その廃屋敷へ居る事に、間違いは無いだろう」と、トムも、頷いた。挑戦状という形で、喧嘩を売って来るような真似をされた以上、出向いてやるしかないからだ。そして、立ち上がり、「結果が分かっていると言うのが、引っ掛かるけど、無駄足覚悟で行くしかないな」と、ぼやいた。手掛かりは、手掛かりだからだ。
「そうだな。さっさと行ってやらないと、待ちくたびれて、居なくなっちゃうかも知れないからな」と、フォッグも、同調した。
「そりゃそうだ」と、トムも、相槌を打った。ゲオが、短気で癇癪持ちなのを認識しているからだ。
間も無く、二人は、身支度に取り掛かるのだった。