表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異種族騒動記  作者: しろ組
13/27

一二、宝玉とゲオの行方について

一二、ゲオと宝玉の行方について


 トム達は、重い足取(あしど)りで、村に帰り()くなり、その足で、レイミーの家の前まで戻った。

 そこへ、「やあ、お帰り」と、ロバートが、玄関先に立ちながら、待ち()ねたと言わんばかりの態度で、にこやかに声を掛けて来た。そして、「どうしたんだい? (みんな)、暗い顔をして?」と、怪訝(けげん)な顔で、問い掛けた。

 その直後、「ロバートさん、すいません!」と、トムは、真っ先に、頭を下げた。謝罪をせずには居られないからだ。

「おいおい、トム君。いったい、どうしたと言うのかね?」と、ロバートが、驚きの声を発した。そして、「トム君、理由を説明してくれないか?」と、(おだ)やかな口調で、(もと)めた。

 トムは、頭を上げるなり、「実は…」と、祠での出来事を説明した。

 しばらくして、「なるほど。事情は、分かったよ」と、ロバートが、了承した。

 レイミーが、右隣へ進み出るなり、「御父様、トムさん達を責めないで下さい」と、取り成すように、嘆願(たんがん)した。

「レイミー、安心しなさい。責めるも何も、起きてしまった事は、仕方(しかた)が無い。それに、ミュールさんの命と村の宝のどちらが大事かと言えば、私だって、迷わずミュールさんの命を優先し、ゲオという者へ(わた)す方を(えら)ぶだろうね。トム君の選択(せんたく)は、間違いじゃないさ。人の命ほど、(とうと)い物は無いからね」と、ロバートが、支持した。

「あ、ありがとうございます」と、トムは、安堵の表情で、軽く一礼をした。何と無く救われた気分だからだ。

「しかし、連中は、何処へ向かったのだろうな?」と、フォッグが、背後から、口にした。

 トムは、振り返り、「村を通り抜けて、森の中の(アジト)へ戻っているとか…」と、考えを述べた。この近くで、身を隠せそうな所は、森の中の塔くらいしか思い当たらないからだ。

「へぇ~。そんな場所が在ったんだ」と、フォッグが、初耳だと言うように、目をしばたたかせながら、感心した。

 その刹那、左隣のミュールが、振り返るなり、「ええ! フォッグ、知らなかったの?」と、信じられない面持(おもも)ちで、ツッコミを入れた。

「ま、まあな…」と、フォッグが、苦笑した。

「フォッグだったら、どう考える?」と、トムは、尋ねた。この周辺の地理には(くわ)しくないので、ゲオ達の行方が、想像出来ないからだ。

「すまん。俺も、初めて来た場所だから、分からん…」と、フォッグも、冴えない表情で、ゆっくりと頭を振った。

 突然、「トム君、少し良いかな?」と、ロバートが、口を(はさ)んだ。

 トムは、向き直り、「はい、何でしょうか?」と、きょとんとした。何用かと思ったからだ。

「もしも、連中が、逃走を(くわだ)てているのならば、陸路(りくろ)よりも、海路(かいろ)の方が、何かと都合が良いと思うのだがね。手掛かりが無いのなら、この村から半日進んだ所に、ソノイという港町(みなとまち)が在るのだがね。そこへ、行ってみれば、どうだろうか? ムオルの街よりも、情報が、集め易いんじゃないかな?」と、ロバートが、助言した。

「確かに、密航船(みっこうせん)にでも乗り込まれたら、(さが)しようが無くなりそうだな」と、フォッグも、同調した。

「じゃあ、今からでも、ソノイへ向かおう!」と、トムは、鼻息を荒くしながら、提言した。一刻も早く、取り戻したいからだ。

「トム君、そんなに(あせ)る事は無いよ。連中も、今夜、すぐに、出港するという(おろ)かな事はしないと思うよ」と、ロバートが、穏やかに、言った。

「どうして、落ち着いて居られるのですか? 村の宝なんですよ!」と、トムは、語気を荒らげた。こうしている間にも、ゲオ達が、遠退(とおの)いて行くような気がして、(あせ)ったからだ。

「トム、そう熱くなるなよ」と、フォッグが、落ち着き払って、(なだ)めた。そして、「ロバートさん、説明してやってくれ」と、落ち着き払って、要請(ようせい)した。

「そうだね。今日の事にはならない理由は、二つ有る」と、ロバートが、右手の人差し指と中指を立てた。そして、「一つ目は、今から向かっても、夜中に着く事だ。下手(へた)すると、宿(やど)にも泊まれず、路上で、一晩を明かす事になるだろう。夜の町は、ゲオのような不逞(ふてい)(やから)が、徘徊(はいかい)していると考えられる。見す見す、危険を(おか)しに行くようなものだ。そんな事を、レイミーや客人である君達にさせられない。それと、二つ目は、連中が、密航すると仮定しよう。でも、出航の準備や密航船の船乗りの手配などの用意に、色々と時間を(つい)やす事となるだろう。それに、場当(ばあ)たり的に、偽装工作(ぎそうこうさく)が、短時間で出来る訳がない。だから、今日中の出航は、考えられんよ。まともな船乗りならば、夜の海が、危険だという事は、周知(しゅうち)の事実だからね。連中も、それくらい考えている筈だよ。まあ、出航するには、早くとも、明日の昼過ぎだろうね。なので、今日のところは、我が家で休むと良いだろう」と、語った。

「トム、そうしようぜ。明日、早出をすれば、何とかなるだろうからな」と、フォッグも、言葉を被せた。

「分かりました。今から行っても、見知らぬ町を彷徨(うろつ)くなんて、徒労(とろう)にしかなりませんからね」と、トムは、聞き入れた。忠告には、従っておいた方が良いからだ。

「では、中へ入るとしよう」と、ロバートが、左手で、扉を開けた。

「ええ」と、トムは、頷いた。

 少しして、トム達は、中へ入るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ