一二、宝玉とゲオの行方について
一二、ゲオと宝玉の行方について
トム達は、重い足取りで、村に帰り着くなり、その足で、レイミーの家の前まで戻った。
そこへ、「やあ、お帰り」と、ロバートが、玄関先に立ちながら、待ち兼ねたと言わんばかりの態度で、にこやかに声を掛けて来た。そして、「どうしたんだい? 皆、暗い顔をして?」と、怪訝な顔で、問い掛けた。
その直後、「ロバートさん、すいません!」と、トムは、真っ先に、頭を下げた。謝罪をせずには居られないからだ。
「おいおい、トム君。いったい、どうしたと言うのかね?」と、ロバートが、驚きの声を発した。そして、「トム君、理由を説明してくれないか?」と、穏やかな口調で、求めた。
トムは、頭を上げるなり、「実は…」と、祠での出来事を説明した。
しばらくして、「なるほど。事情は、分かったよ」と、ロバートが、了承した。
レイミーが、右隣へ進み出るなり、「御父様、トムさん達を責めないで下さい」と、取り成すように、嘆願した。
「レイミー、安心しなさい。責めるも何も、起きてしまった事は、仕方が無い。それに、ミュールさんの命と村の宝のどちらが大事かと言えば、私だって、迷わずミュールさんの命を優先し、ゲオという者へ渡す方を選ぶだろうね。トム君の選択は、間違いじゃないさ。人の命ほど、尊い物は無いからね」と、ロバートが、支持した。
「あ、ありがとうございます」と、トムは、安堵の表情で、軽く一礼をした。何と無く救われた気分だからだ。
「しかし、連中は、何処へ向かったのだろうな?」と、フォッグが、背後から、口にした。
トムは、振り返り、「村を通り抜けて、森の中の塔へ戻っているとか…」と、考えを述べた。この近くで、身を隠せそうな所は、森の中の塔くらいしか思い当たらないからだ。
「へぇ~。そんな場所が在ったんだ」と、フォッグが、初耳だと言うように、目をしばたたかせながら、感心した。
その刹那、左隣のミュールが、振り返るなり、「ええ! フォッグ、知らなかったの?」と、信じられない面持ちで、ツッコミを入れた。
「ま、まあな…」と、フォッグが、苦笑した。
「フォッグだったら、どう考える?」と、トムは、尋ねた。この周辺の地理には詳しくないので、ゲオ達の行方が、想像出来ないからだ。
「すまん。俺も、初めて来た場所だから、分からん…」と、フォッグも、冴えない表情で、ゆっくりと頭を振った。
突然、「トム君、少し良いかな?」と、ロバートが、口を挟んだ。
トムは、向き直り、「はい、何でしょうか?」と、きょとんとした。何用かと思ったからだ。
「もしも、連中が、逃走を企てているのならば、陸路よりも、海路の方が、何かと都合が良いと思うのだがね。手掛かりが無いのなら、この村から半日進んだ所に、ソノイという港町が在るのだがね。そこへ、行ってみれば、どうだろうか? ムオルの街よりも、情報が、集め易いんじゃないかな?」と、ロバートが、助言した。
「確かに、密航船にでも乗り込まれたら、捜しようが無くなりそうだな」と、フォッグも、同調した。
「じゃあ、今からでも、ソノイへ向かおう!」と、トムは、鼻息を荒くしながら、提言した。一刻も早く、取り戻したいからだ。
「トム君、そんなに焦る事は無いよ。連中も、今夜、すぐに、出港するという愚かな事はしないと思うよ」と、ロバートが、穏やかに、言った。
「どうして、落ち着いて居られるのですか? 村の宝なんですよ!」と、トムは、語気を荒らげた。こうしている間にも、ゲオ達が、遠退いて行くような気がして、焦ったからだ。
「トム、そう熱くなるなよ」と、フォッグが、落ち着き払って、宥めた。そして、「ロバートさん、説明してやってくれ」と、落ち着き払って、要請した。
「そうだね。今日の事にはならない理由は、二つ有る」と、ロバートが、右手の人差し指と中指を立てた。そして、「一つ目は、今から向かっても、夜中に着く事だ。下手すると、宿にも泊まれず、路上で、一晩を明かす事になるだろう。夜の町は、ゲオのような不逞な輩が、徘徊していると考えられる。見す見す、危険を冒しに行くようなものだ。そんな事を、レイミーや客人である君達にさせられない。それと、二つ目は、連中が、密航すると仮定しよう。でも、出航の準備や密航船の船乗りの手配などの用意に、色々と時間を費やす事となるだろう。それに、場当たり的に、偽装工作が、短時間で出来る訳がない。だから、今日中の出航は、考えられんよ。まともな船乗りならば、夜の海が、危険だという事は、周知の事実だからね。連中も、それくらい考えている筈だよ。まあ、出航するには、早くとも、明日の昼過ぎだろうね。なので、今日のところは、我が家で休むと良いだろう」と、語った。
「トム、そうしようぜ。明日、早出をすれば、何とかなるだろうからな」と、フォッグも、言葉を被せた。
「分かりました。今から行っても、見知らぬ町を彷徨くなんて、徒労にしかなりませんからね」と、トムは、聞き入れた。忠告には、従っておいた方が良いからだ。
「では、中へ入るとしよう」と、ロバートが、左手で、扉を開けた。
「ええ」と、トムは、頷いた。
少しして、トム達は、中へ入るのだった。