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異種族騒動記  作者: しろ組
12/27

一一、宝玉、奪われる

一一、宝玉、(うば)われる


 トム達は、ニジンの村の来た道の奥の門から出発した。しばらく進んだ所で、道祖神(どうそじん)の立つ左右の分かれ道に、差し掛かった。

「こちらですわ」と、レイミーが、迷わずに、先立って、(さび)れた右の脇道(わきみち)へ進入した。

 トム達も、(おく)れて、続いた。

 間も無く、一同は、小高い山の前に、辿り着いた。

 その途端、レイミーが、立ち止まって、振り返るなり、「ここが、宝玉を(まつ)って有ります(ほこら)です」と、左手を後ろ手にしながら、指した。

「レイミー、何処が、祠なんだ?」と、トムは、怪訝(けげん)な顔で、尋ねた。蔓草(つるくさ)()(しげ)った小山(こやま)にしか見えないからだ。

「トムさん、よくご覧下さい」

「ん?」と、トムは、正面の蔓草が目隠(めかく)しのように蔓延(はびこ)り、その上、(こけ)むしている場所を凝視(ぎょうし)した。そうまで言うのだから、それらしき物が見える筈だからだ。すると、次第に、目が慣れる事で、丸みを()びた天辺(てっぺん)部分から中腹部(ちゅうふくぶ)にかけて、薄茶色い煉瓦造りの目地を視認した。少しして、「なるほど」と、笑みを浮かべて、納得した。一見、周囲の風景に溶け込んで、同化していた小山ではなく、建造物だと、判別出来たからだ。

「でしょう」と、レイミーが、にっこりと微笑(ほほえ)み掛けた。

「レイミー、ここは、手入れか何かをしているのか?」と、トムは、祠を見据えたままで、尋ねた。外観を見る限りでは、長い間、ほったらかしにされているような気がしたからだ。

「そうですねぇ。ここを(おとず)れるのは、半年くらい前に、村中(むらじゅう)の人達と周囲の草刈(くさか)りをして以来(いらい)ですね」と、レイミーが、さらりと答えた。

「へぇ~。一応、掃除(そうじ)はしているんだな」と、トムは、意外という表情で、感心した。見ると聞くとでは、大違いだからだ。そして、「まさか、この先に、村の宝が安置されているなんて、余所(よそ)者は、思いも付かないだろうな」と、感想を述べた。鬱蒼(うっそう)(しげ)っている繁みにしか見えないからだ。

「全くだ」と、フォッグも、トムの心境を理解するかのように、背後から同調した。

「トム、早く中へ入って、用事を済ませましょうよ。虫に()されて、仕方が無いわ」と、右斜め後ろに居るミュールが、不機嫌な声で、羽虫を両手で追っ払いながら、急かして来た。

 トムは、ミュールを見やり、「ああ、そうしよう」と、すぐさま賛同した。目的は違うが、やる事は、一緒だからだ。

 少しして、トム達は、蔓草を()き分けながら、石畳(いしだたみ)を頼りに、前進した。間も無く、階段に突き当たった。そして、十数段上り、中腹部に到達した。すると、(つた)に覆われた奥に、大人二人が並んで通れる(はば)の四角い進入口を視認した。

 トムは、勢いそのままに、先頭で、蔦を掻き分けるなり、通路へ踏み込んだ。そして、しばらく直進する内に、外光(がいこう)が届かなくなった。次第に、暗くなり、「かなり奥まっているな」と、呟いた。視界が()かなくなったからだ。しかし、暗い中を十歩と進まない内に、奥から月光のようなほんのりした明かりが、差している事に気が付くなり、「おや? 奥の方が、薄明かるいぞ?」と、その明かりを頼りに、歩を進めた。やがて、奥行きの有る開けた一室に、行き当たった。そこで、通路を(ふさ)ぐように、立ち止まった。明かりの正体に、魅了(みりょう)されたからだ。その途端、数歩先に、大人一人が、両足を揃えて、やっと乗れるくらいの面積の正方形の剣と弓と盾の図形を()った床板(プレート)が、数列()()められており、その奥には、子供の背丈くらいの円柱(えんちゅう)台座(だいざ)があり、天辺に、光源(こうげん)の宝玉が、安置(あんち)されてあるのを視認した。

「おおっと! トム、どうしたんだ? 急に立ち止まってさ?」と、フォッグに、問われた。

「フォッグ、あれを見ろよ」と、トムは、右手で、奥を指しながら、(うなが)した。そして、道を譲るように、右へ一歩移動した。一刻でも早く見て貰いたいからだ。

 間も無く、フォッグが、左隣に立つなり、「こりゃあ、十分なお宝だぜ…」と、想像以上の物だと言うように、言葉を詰まらせた。

「ああ…」と、トムも、相槌を打つように、溜め息を()らした。うっとりとなったからだ。

「お月様見たいで、綺麗(きれい)…」と、ミュールが、右肩に、寄り()って来た。

「それにしても、あれに金銭的な価値が無いなんて、レイミーの親父(おやじ)さんも、欲が無いな」と、フォッグが、指摘した。

「そうですか? 確かに見た感じでは、不思議な力は有りそうですね。でも、効力については、存じませんが…。御父様から聞かされた話によると、初代村長の曾祖父(ひいじい)様が、開拓(かいたく)時代に、あの洞穴(ほらあな)から()り出されたそうですわ。御祖父(おじい)様が、洞穴を閉鎖(へいさ)する際に、私財(しざい)を投じて、ここへ、祠を建立(こんりゅう)したそうですわ。そして、様子見がてら、年に一度、外回りの掃除を、村の恒例行事(こうれいぎょうじ)にしているのですよ」と、レイミーが、村の歴史(れきし)(まじ)えながら、説明した。

 トムは、左後ろのレイミーを見やり、「なるほど。それにしても、これだけ無防備なのに、誰も(ぬす)みに来ないなんて…」と、苦笑いした。このような無防備な場所だとは思わなかったからだ。そして、ミュールを見やり、「ミュール、ちょっと離れてくれ」と、一声(ひとこえ)掛けた。

「うん」と、ミュールが、珍しく、すんなりと離れた。

 その瞬間、トムは、宝玉へ視線を戻すなり、「じゃあ、さっさと取りに行くとするかな。いつ、ゲオ達に盗まれるか、分からないからな」と、意気込んだ。直線距離で、十数歩往復(おうふく)すれば済む事だからだ。そして、右足を踏み出した。

 突然、「トム、ちょっと待て」と、フォッグが、呼び止めた。

 トムは、足を止めるなり、「ん?」と、フォッグへ振り向いた。何事かと思ったからだ。

「レイミーの親父さんが、仕掛けが有るって、言ってたよな?」

「あっ、そうだったな…」と、トムは、苦笑した。宝玉に魅了されて、すっかり(わす)れていたからだ。

「これを使いな」と、フォッグが、(ロープ)の先端を差し出した。そして、「用心するに、越した事は無いからな」と、言葉を続けた。

「ああ。そうだな」と、トムも、頷いた。まさに、その通りだからだ。そして、右手で、受け取った。その直後、腰へ、(しっか)りと、三重(さんじゅう)に巻き付けた。安全第一だからだ。

「トム、見てみろよ」と、フォッグが、促した。そして、「床板の図形と何か、関係が有るのかも知れないぞ。間違った図形を踏むと、抜け落ちるとか…」と、忠告がてら、考えを述べた。

 少し後れて、トムも、宝玉の方へ向き直り、「そうかも知れないな」と、同調した。単純(たんじゅん)な構造には、何らかの(わな)が仕掛けられているものだからだ。そして、床板へ視線を落として、観察をした。すると、台座までの間に、縦の列に一〇枚と横の列には、端々(はしばし)まで一二枚並んでいるのを視認した。しばらく(なが)めたが、何の糸口も見られなかった。並び方に、何かしらの法則性が、有るものだからだ。ふと、先刻のミュールの言葉が、思い返された。図形を別の物へ置き()えてみたら、どうだろうかと思ったからだ。次の瞬間、はっとなった。宝玉を満月に例えると、弓の図形が、半月に見えて来たからだ。その直後、フォッグを見やり、「図形の意味が、分かったよ」と、すっきりした表情で、告げた。

「そうみたいだな。でも、お前さんが思っている通り、合っているのか?」と、フォッグが、(いぶか)しがった。

「まあ、見てなって」と、トムは、背を向けるなり、際に立った。間も無く、二歩斜め前の床板へ向いた。そして、「よし…」と、意を決して、右足から踏み出した。やがて、ゆっくりと体重を乗せた。その瞬間、安堵した。予想通り、床が抜けなかったからだ。その途端、正解だと判るなり、弓の図形の板を軽快(けいかい)な身のこなしで、次々に跳び移り、瞬く間に、台座の左隣へ、無事に着く事が出来た。

 不意に、「きゃっ!」と、ミュールの悲鳴が、聞こえた。

 その刹那、「どうした!」と、トムは、咄嗟に、振り返った。ただならぬ事だと察したからだ。すると、頭頂には、荒野(こうや)()えているような草を想像させる髪型をした鼻から右の(ほお)(えぐ)られたような傷痕(きずあと)の有る筋肉質のブヒヒ族の男が、ミュールの背後から喉元に、右手を回し、持っている短剣(ナイフ)を当てているのを視認した。

 その男の後ろから、ゲオが、悠然(ゆうぜん)と現れた。そして、フォッグの右隣で立ち止まり、「くくく…。若造よ、猫耳族の娘の命が惜しければ、その宝玉を渡して貰おうかな」と、満面の笑みを浮かべながら、要求して来た。

「くっ…!」と、トムは、歯噛みした。そして、間髪容れずに、「わ、分かった…」と、嫌々(いやいや)、承知した。ゲオに(したが)うのは、不本意だか、ミュールの命を優先せざるを()ないからだ。間も無く、宝玉を取り上げた。急遽(きゅうきょ)、来た順に跳び移り、元の場所へ、瞬く間に、戻った。

 その途端、「さあ、バニ族の宝を寄越せ」と、ゲオが、ニヤニヤと笑みをこぼしながら、歩み寄って来るなり、両手を差し出した。

「いいや。先に、ミュールを放せ」と、トムは、仏頂面で見据えながら、要求した。このまま、言いなりになるのは(しゃく)だからだ。

「良かろう。だか、先に、宝玉を貰ってからだ。その後で、そこのブヒヒ族の男に、解放(かいほう)するように、言うとしよう。今回だけは、猫耳族の娘を返してやろう」と、ゲオが、聞き入れた。

「約束は守れよ」と、トムは、念押しして、()えない表情で、手渡した。どうも、信用ならないからだ。

「うむ。約束は、守る」と、ゲオが、力強く頷きながら、受け取った。その直後、小躍(こおど)りするかのように、軽快な足取りで、踵を返した。そして、ブヒヒ族の男の左側に差し掛かかるなり、「おい、放してやれ!」と、上機嫌で、指図(さしず)をした。

「へい!」と、ブヒヒ族の男が、返事をした。その直後、「ほらよ!」と、ミュールを突き飛ばした。

 次の瞬間、「きゃあ!」と、ミュールが、前のめりに、突っ込んで来た。

 間も無く、「おっと!」と、トムは、抱き止めた。だが、思いのほか、勢いが有ったので、踏み(とど)まる事が出来ずに、仰け反りながら、後退した。そして、剣の図形の床板を踏み抜くなり、「あっ!」と、声を発した。

 次の瞬間、弓の図形以外の床が、一斉に崩落(ほうらく)した。

 同時に、「うわあぁぁぁ!」と、トムは、ミュールと共に転落した。少しして、暗闇の中で、反転した。その途端、腰が締め付けれる感触がするなり、落下も止まった。

「トム、大丈夫か?」と、フォッグの声が、降って来た。

「何とかな」と、トムは、すぐさま、苦々しく(こた)えた。フォッグの忠告通りに、縄を巻いていたお陰で、助かったからだ。

「トム、しばらく、ミュールと二人の時間を満喫(まんきつ)してくれ。引き上げるのに、体勢を立て直したいからな」

「フォッグ、そんな時間なんて無いから、急いで上げてくれ! ミュールを(かか)えられるのも、限界(げんかい)だ!」と、早急(そうきゅう)な引き上げを要請した。疲れて来て、力が入らなくなって来たからだ。

「トム、放して…」と、ミュールが、唐突(とうとつ)に、申し出た。

「おい、ミュール! 何を言っているんだ! そんな事が出来る訳無いだろ!」と、トムは、面食らった表情で、語気を荒らげた。それを聞き入れる訳には、いかないからだ。

「良いの…。あたしは、あなたに迷惑ばかり掛けているから…」と、ミュールが、しんみりと口にした。

「だからって、君を(はな)す訳にはいかないな」と、トムは、小さく頭を振った。そして、「君を放して、俺だけが助かっても、後味が悪いものだぜ。それに、君は、俺のかけがえの無い仲間なんだぜ。自己(じこ)犠牲(ぎせい)心掛(こころが)けは立派(りっぱ)だけど、俺だけ生き残る訳にはいかない。落ちるのなら、君と一緒さ」と、気力を振り(しぼ)って、()き締めた。こうなれば、一緒に落ちても構わないと、

覚悟(かくご)を決めたからだ。

 そこへ、「おいおい、何を、二人して、熱く語り合っているんだい?」と、フォッグの冷やかしの声が、割って入って来た。

「トムさんも、ミュールさんも、勝手に、二人の世界に、(ひた)らないで下さい」と、レイミーの声も、間髪容れずに、(おだ)やかな口調で、割り込んで来た。

 その瞬間、トムは、きょとんとした。いつの間にか、近くまで引き上げられている事に、気が付いたからだ。間も無く、ミュールと共に、完全に、引き上げられた。

 その途端、「やれやれ。二人で落ちられなくて、残念だったな」と、フォッグが、からかって来た。

 次の瞬間、「フォッグさん! そのような言葉は、不適切(ふてきせつ)です!」と、レイミーが、語気を荒らげた。

冗談(じょうだん)だよ、冗談。場を(なご)ませたかっただけだよ」と、フォッグが、慌てて、苦々しく訂正(ていせい)した。

「冗談にしては、言い過ぎですよ」と、レイミーが、たしなめた。

「真っ暗で、何にも見えないから、何かで照らしてくれないか?」と、トムは、明かりを要請した。ゲオに、宝玉を持ち去られて、明かりが無くなったので、聴覚(ちょうかく)触覚(しょっかく)だけでは、不安だからだ。

「ちょっと待っててくれ」と、フォッグが、返答した。その直後、フォッグの手元に、緑色の(しずく)のような光が(とも)った。

 その瞬間、トムは、好奇(こうき)眼差(まなざ)しで、見やり、「フォッグ、何だい? それは?」と、問うた。興味が、そそられたからだ。

蛍石(ほたるいし)と呼ばれる夜光石(やこうせき)の一種さ」と、フォッグが、さらりと答えた。

「蛍石と言えば、初めて聞く名前だし、簡単に手に入る代物(しろもの)じゃないよな?」

「そうみたいだな」と、フォッグが、淡々と返答した。

「おいおい、まるで、他人事(ひとごと)のような物言いだな。ま、それは、さて置いて。早いとこ、ゲオ達を追い掛けるとしようじゃないか。まだ、追い付ける筈だからな」と、トムは、提言した。あまり、時間は()っていない筈だからだ。

「そうだな。まだ、そう遠くへは行ってない筈だ」と、フォッグも、頷いた。

 間も無く、トム達は、早足に、来た道を引き返した。そして、外へ出た。しかし、ゲオ達の姿が、何処にも見当たらなかった。

「あのオヤジ、逃げ足だけは早いんだからな…」と、トムは、その場に立ち尽くした。足取りが、途絶(とだ)えてしまったからだ。

 左隣に立つフォッグも、「全くだ…」と、相槌を打った。

 トムは、レイミーに振り返り、「レイミー、宝玉を奪われて、すまない…」と、神妙な態度で、頭を下げて、()びた。許されるものではないが、(あやま)らずには居られないからだ。

「トムが、悪いんじゃないわ…。私が、人質になったからよ…。ごめんなさい…」と、ミュールも、(かば)うように、涙声で謝罪(しゃざい)した。

「いいえ。あの場合は、宝玉よりも、ミュールさんの命が、大切だったと思いますわ。私でも、迷わず従っていたでしょうね。トムさんやミュールさんを責められませんわ」

「しかし、俺は、村の宝を易々(やすやす)と、あの悪党(あくとう)に渡したんだ…」と、トムは、言葉を詰まらせた。自責の念に駆られて、ロバートへ、どのように謝罪をすれば良いのか、思いつかないからだ。

「トムさん、気にしないで下さい。私が、事情を説明して、御父様に取り成しますから」

「ああ、頼むよ…」と、トムは、力無く返事をした。今回ばかりは、洒落(しゃれ)にならない失態(しったい)だからだ。そして、ロバートの(しか)りを受ける覚悟で、顔を上げた。いつまでも、下を向いて居られないからだ。

 トム達は、んだ気持ちで、階段を下りるのだった。

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