一〇、内通者
一〇、内通者
トム達は、洞穴から出るなり、その足で、寄り道もせずに、レイミーの家へ戻った。そして、広間へ、帰り着いた。すると、ロバートではなく、でっぷりとした体型で、縦に無数の細い線が入った服と吊り紐の付いた黄茶色のズボンを穿いたバニ族の男が、そわそわと落ち着き無く、背中を向けながら、立って居た。
「伯父様」と、レイミーが、声を掛けた。
その直後、「ひっ!」と、レイミーの伯父が、小さな悲鳴を上げた。そして、肩を竦めながら、恐る恐る振り返った。次の瞬間、目を見張るなり、「レレレ、レイミー! どどど、どうして、ここに!」と、レイミーの存在が、都合の悪いと言う感じで、驚きの声を発した。
「伯父様、何処か具合でも悪いのですか? 顔色が、御悪いですよ」と、レイミーが、表情を曇らせながら、体調を気遣った。
「ははは。レ、レイミー、だ、大丈夫だよ。ゆ、昨夜は、少々、飲み過ぎたのかも、し、知れないね。か、顔色が悪いのは、ゆ、昨夜の酒が、の、残っているからだろうね」と、レイミー伯父が、引きつった表情で、額に汗を滲ませながら、苦々しく答えた。
その瞬間、レイミーが、表情を緩めるなり、「御病気じゃなくて、良かったですわ」と、安堵の声を発した。そして、「チーユを唱えましょうか?」と、回復魔法の施術を申し出た。
その間に、「フォッグ、ちょっと…」と、トムは、右隣に居るフォッグへ、右手で、小さく手招きしながら、小声で呼び掛けた。レイミーの伯父の言動が、腑に落ちないからだ。
フォッグが、何事かと言うように、顔を近づけて来るなり、「どうした?」と、きょとんとした表情で、問うた。
「俺の思い過ごしかも知れないが、レイミーの伯父の動揺振りって、何か、怪しくないか? 上手く言えないけど、何か、レイミーが居ると、都合が悪いと言うか、何と言うか…」と、トムは、今の心境を、耳打ちした。レイミーの伯父が、レイミーの帰りを、心底、喜んでいるようには見えないからだ。
「確かに、俺も、レイミーの伯父さんの言動は、妙に、引っ掛かるな」と、フォッグも、賛同した。そして、「俺が、一丁、締め上げて、白状させようか?」と、提言した。
トムは、小さく頭を振り、「今の段階で、実力行使は、不味いだろう。俺達の思い込みだと、出入り禁止にされる可能性も有るからな」と、却下した。レイミーの手前、乱暴な事をしたくないからだ。そして、「俺が、わざと、突っ込んだ質問をしてみよう。駆け引きは、苦手だからな」と、ツッコミ役を買って出た。レイミーの伯父の反応次第で、自分の態度も、決められるからだ。
「分かった。ここは、お前さんの考えに従うとしよう」と、フォッグも、同意した。間も無く、顔を遠ざけた。
その間に、トムは、レイミーの伯父へ、視線を戻した。そして、「レイミーの伯父さん。二つ、三つ、聞きたい事が有るんだけど。良いかい?」と、柔和な笑みを浮かべながら、やんわりした口調で、声を掛けた。
レイミーの伯父が、一瞬、驚きの表情を見せるものの、すぐに、表情を戻すなり、「あ、ああ。わ、私に答えられる事なら、か、構わないよ」と、吃りながら、返答した。そして、「し、質問は、み、三つまでだよ!」と、慌てて、限定した。
「はい」と、トムは、にこやかに返事をした。上手く食い付いてくれたからだ。そして、「最初の質問ですが、どうして、酒が残っていると嘘をつくんですか?」と、挑発的な質問をした。昨夜の酒が残っているような顔色ではないからだ。
その途端、レイミーの伯父が、面食らった表情をするなり、「ななな、何を、いいい、言っているのかね? ききき、君は!」と、顔を赤く染めながら、語気を荒げた。そして、「そそそ、そんなくだらない質問だったら、わわ、私は、し、失礼させて貰うよ!」と、激昂して、くじくった。
「トムさん、今のは、言い過ぎですわよ。伯父様に、謝って下さい」と、レイミーが、厳しい表情で、謝罪を求めて来た。
その直後、トムは、頭を振り、「レイミー、謝るのは、俺の方じゃなくて、君の伯父さんの方だと思うよ」と、穏やかな口調で、示唆した。酒の所為で、具合が悪いのであれば、頭痛と吐き気で、気が滅入って、怒れる筈が無いからだ。
「それは、どう言う意味ですか?」と、レイミーが、怪訝な顔をした。
「これから、君の伯父さんに、答えて貰うって事さ」と、トムは、微笑みながら、勿体振った。そして、「本当の事を答えて下さいよ。具合が悪いのでしたら、こんなに大声で、怒鳴れない筈だよ。本当は、何かを隠していて、都合が悪いんでしょう? ですよね?」と、回答を催促した。
「ふん! ききき、君みたいな若造に、みょ、妙な言い掛かりを付けられて、わわ、私は、ふ、不愉快だよ!」と、レイミーの伯父が、憎々しげに、言った。
「僕だって、不愉快ですよ! レイミーに、後ろめたい事が有るんじゃないんですか?」
「ななな、何だと? も、もう一回、言って見ろ!」と、レイミーの伯父が、睨み返しながら、詰め寄って来た。そして、「ききき、君は、わわ、私に、け、喧嘩を吹っ掛けて、ききき、来ているのかね!」と、鼻息を荒くしながら、言葉を続けた。
トムは、怯む事無く、見据えた。そして、「喧嘩じゃありませんよ。僕は、あなたに、ただ、真実を答えて頂きたいのですよ」と、悪びれる風も無く、落ち着いた物言いで、促した。更に、「無事に帰って来たレイミーの姿を見ると、喜ぶどころか、驚いたり、具合が悪いとか言って、妙に、そわそわして、何と無く、冷たいんじゃないんですか?」と、不審な点を指摘した。挙動不審が、バレバレだからだ。
「ききき、君は、な、何を言いたいんだね?」と、レイミーの伯父が、尚も、しらばっくれた。
「じゃあ、言わせて貰うけど。つまり、レイミーやミュールの誘拐を手引きしたのは、あんただって事だろう!」と、トムは、はっきりと告げた。これ以上の問答は、無駄だからだ。
「しょ、証拠も無いのに、ふふふ、ふざけた事を言わないでくれ!」と、レイミーの伯父が、必死の形相で、怒鳴った。
「確かに、証拠は、何にも無いですね」と、トムは、淡々と肯定した。レイミーの伯父が、関与した形跡など、無いからだ。
「だだ、だろ?」と、レイミーの伯父が、安堵の笑みを浮かべた。
「でも、根拠は有りますよ。この家に、易々と出入り出来る人物は、限られていますよねぇ?」と、トムは、含み笑いをした。そして、「この屋敷内を自由に動き回れて、他人に怪しまれないのは、レイミーとロバートさんとレイミーの伯父さんだけなんですよ。つまり、ゲオ達のような賊を、簡単に手引きが出来て得をするのは、あなただけなんですよ」と、理由を述べた。利害を考えれば、レイミーの伯父が、二人をゲオに引き渡して、金品を受け取っていたとしても、何ら違和感の無い合点の行く話だからだ。
「そそそ、それだけで、わわ、私を誘拐犯の仲間だとでも言うのか! めめめ、姪を売り飛ばすだなんて、じょ、冗談じゃないよ! ききき、君の妄想には、つつ、付き合ってられん!」と、レイミーの伯父が、激昂した。
「妄想で片付けないで下さいよ。話は、まだ、終わってませんよ」と、トムは、尚も、食い下がった。そして、「外部の者が、この家の部屋を隅々まで把握するのは、少々、容易な事じゃないでしょうね?」と、言葉を続けた。誰にも気付かれずに連れ去る芸当は、家の者以外には出来ないからだ。
「たた、確かに、きき、君の言う通り、ががが、外部の者が、う、うろちょろと、なな、中を歩き回って居たら、お、おかしいし、いい、いきなり来て、レレレ、レイミーや猫耳族の娘さんを、たた、短時間に、つ、連れ出す事は、き、厳しいだろうね」
トムは、レイミーを見やり、「レイミー、ここで暮らしているのは、君とロバートさんと伯父さんの他に、誰か居るのかい?」と、問い掛けた。レイミーの答えで、賊を手引きした者が、はっきりするからだ。
「は、はい…」と、レイミーが、返事をした。その直後、「他には…」と、口を開いた。
次の瞬間、「や、止めろ!」と、レイミーの伯父が、語気を荒げて、遮った。間も無く、項垂れるなり、「わ、私の負けだ…」と、か細い声で、敗北を宣言した。
トムは、レイミーの伯父へ向き直り、「じゃあ、ロバートさんの前で、本当の事を話してくれますね?」と、穏やかな口調で、同意を求めた。ロバートにも、真実を知って貰った方が良いからだ。「ああ…。弟が帰って来たら、真実を話そう…」と、レイミーの伯父が、意外にも、素直に応じた。
突然、「兄さん! 真実とは、何です!」と、ロバートの驚いた声が、背後からして来た。そして、間髪容れずに、つかつかと、左後ろから進み出て来るなり、トム達とレイミーの伯父のほぼ中間で、競技審判のように立った。
「さあ、レイミーの伯父さん。話して下さい」と、やんわりした口調で、促した。
間も無く、レイミーの伯父が、顔を上げるなり、「分かった…」と、厳しい表情で、答えた。そして、少し間を取って、ロバートを見やり、「ロロ、ロバートよ。わわ、私が、て、手引きをして、レレレ、レイミーを、ひ、人買いの連中に、わ、渡していたのだよ…」と、罪状を告白した。
「兄さん、何でまた、そのような事を…」と、ロバートが、信じられない面持ちで、言葉を詰まらせた。
「じじじ、自由に使える金が、欲しかったんだよ」
その刹那、「そんなくだらない事の為に、レイミーを!」と、ロバートが、憤慨した。
「レイミーの伯父さん、それで、今回と前回のお金は、受け取れたのですか?」と、トムは、腹の立つ気持ちを抑えながら、落ち着いた口調で、問い掛けた。正直、殴ってやりたいところだが、暴力は、振るいたくないからだ。
レイミーの伯父が、頭を振り、「二回共、一リマも、受け取って無いよ。レイミーが、売れた値段の半分を支払うとか言ってたがな…」と、神妙な態度で、力無く答えた。
「あなたが、レイミーを引き渡したゲオって奴は、一リマも、払う気なんてありませんよ。あなたは、上手く利用されただけですよ」と、トムは、冷ややかに、告げた。異種族の者を物としか考えていない奴が、まともに取り引きをする訳が無いからだ。そして、「あなたは、自分の愚かな行為で、レイミーとミュールの人生を台無しにしようとしていたんですよ!」と、糾弾した。レイミーの伯父にも、事の重大さを認知して貰いたいからだ。
「たた、確かに、きき、君の言う通りだ。わわ、私が、こ、この村の村長にならなくて、せ、正解だったな…」と、レイミーが、自身の愚行を皮肉るように、自嘲した。
「兄さん、それは、結果論だ」と、ロバートが、否定した。そして、「私は、村人の最低限の暮らしを守るだけで、精一杯なんですよ。兄さんなら、今頃は、もっと、村を町へ発展させていたかも知れませんよ。私の方こそ、村長に、相応しくない。兄さんが、旅で出ていた間に、父さんが、病に倒れ、そのまま、村長の座を譲り受けたのですよ。村人に慕われて、なった訳ではありませんよ」と、自身の力量を否定した。
「ロロ、ロバート。いい、今のままで、良いんだよ。わわ、私は、み、身内ですら、じじじ、自分の欲望で、ふふふ、不幸にする男なんだよ。そそ、それに、そ、村長なんてやったら、と、とんでもない事になっているだろうな。そそ、村長になるどころか、ここ、この村に居る資格すらない…。わわ、私は、む、村を出て行くよ…」
「しかし、そこまで言わなくても…」と、ロバートが、思い詰めなくてもと言うように、顔をしかめた。
「ここ、これは、わわ、私が、お、お前達親子にした謝罪であり、け、けじめだ。レレレ、レイミーを、に、二度も売り飛ばそうとしたんだからな。でで、でも、そ、そこの若者のお陰で、め、目が覚めたよ…」と、レイミーの伯父が、良心の呵責から脱却するかのように、穏やかな顔で、笑みを浮かべた。
「兄さん、私からは、これ以上、責める気は有りません。この村は、あなたが、帰るべき場所なのですから」
「ああ、ありがとう。きき、気が向いたら、帰って来るさ。わわ、私は、こ、これにて、し、失礼するよ…」と、レイミーの伯父が、力無く告げた。そして、背中を丸めながら、玄関へ向かって歩き始めた。
トムは、レイミーの伯父を、目で追った。
レイミーの伯父が、レイミーの左側を、目も合わせないで、通り過ぎた。やがて、広間の戸口に、差し掛かった。
突如、レイミーが、追うように振り向くなり、「伯父さん、待って!」と、呼び止めた。
レイミーの伯父が、すぐさま、その場で、歩を止めるなり、「何だい? レイミー…」と、会わせる顔が無いと言わんばかりに、振り返らないで、返事をした。
「御身体に気を付けて下さいね…」
「ああ。う…うぐ…」と、レイミーの伯父が、涙声で、応答をするなり、これ以上の恥は晒したくないと言うように、すかさず、小走りで、立ち去った。間も無く、扉の開閉音がした。
その直後、「うう…」と、レイミーも、込み上げる思いを吐き出すかのように、両手で顔を覆いながら、啜り泣きを始めた。
トムは、その様を、ただ見守るだけだった。どう声を掛けてやれば良いのか、分からないからだ。
その時、ミュールが、レイミーの右隣へ歩み寄り、「レイミー、この程度で、泣いちゃあ駄目よ」と、優しく声を掛けた。そして、「裏切られるのって辛いけど、起きてしまった事は、仕方が無いわね。でも、騙されたままよりは、本当の事がはっきりして良いと思うわ」と、励ますように、言葉を続けた。
「はい…」と、レイミーが、気持ちを受け止めるように、すんなりと返事をした。そして、両手を顔から離すなり、「ミュールさんの仰られる通り、今回の事は、事実ですから、しっかりと受け止めますわ」と、右手の甲で、涙を拭った。
「そうよ、レイミー」と、ミュールが、満足げに、にんまりとした。
「トム君、また、君に助けられたよ」と、ロバートが、礼を述べて来た。
トムは、ロバートへ振り向くなり、「いえいえ、偶然ですよ。もしも間違えていれば、僕の方が、出て行く事になっていたかも知れませんからね」と、苦々しく答えた。レイミーの伯父が、犯行を認めていなければ、自分が、追放されていたかも知れないからだ。
「兄さんを、あのようにしたのは、私の不徳の致すところだよ…」と、ロバートが、溜め息を吐いた。そして、「トム君、もう一つ質問なのだが、レイミーとミュールさんを、何処で見つけたのだい?」と、尋ねた。
「ここを出た後、広場で、レイミーさんを誘拐したゲハゲハ団の一人を見かけましたので、後を付けて、行き着いた洞穴の奥で、二人を見つけました」
「洞穴と言うと、この屋敷の向かい側へ、広場から真っ直ぐ進んだ突き当たりかね?」
「ええ。板塀の外側です」と、トムは、すんなりと頷いた。その通りの場所だからだ。
「あそこは、祖父の代の時まで、宝玉を祀っていた場所なのだよ。今は、村で、その存在を知る者は、ごく僅かだけどね。まさか、あの場所を隠れ家にされているとは、思いもしなかったよ」と、ロバートが、眉根を寄せながら、語った。
「あの連中は、人目に付かない場所を根城にするのが、得意みたいですね」と、トムは、苦笑いをした。そして、「レイミーの伯父さんも、奴らに出会わなければ、村を出て行かなくても良かったのに…」と、浮かない表情で、一言付け加えた。後味の悪い結末だからだ。
「そうかも知れないね。私にも、落ち度が有るという事だ。この村に、人身売買をする輩を住まわしていたのだからね。早速、警備の方にも力を入れるとしよう。これから先、兄さんやレイミーのような不幸な者を出さない為にも」と、ロバートが、決意を述べた。
「確かに、村長さんの言う通りだ。何か物足りないと思ったら、それだよ!」と、フォッグが、素っ頓狂な声で、指摘した。
「そう言えば、さっきから気になっていたんだが。どうして、ウルフ族の方が、ここに居るのかね?」と、ロバートが、興味津々に、問い掛けた。
「実は、例の洞穴で、彼に助けられたの言う通りですよ」と、トムは、苦笑して、経緯を語った。
「ここからは、俺が、話そう」と、フォッグが、申し出た。
「分かった。お願いするよ」と、トムは、聞き入れた。フォッグの事を紹介出来る程の深い関係ではないからだ。
その直後、「先ず、俺は、フォッグ・シェルフと申します。御覧の通り、ただの気ままに旅をしている風来坊だ。トムとは、前の街で、偶然知り合っただけだが、今回、縁有って、仲間にさせて貰った訳だ」と、フォッグが、らいらくな物言いで、語った。
「私は、ロバート・フェンダです」と、ロバートも、やんわりと名乗り返した。そして、「縁有ってと言うのは、今回の一件だね?」と、確認するかのように、尋ねた。
「ああ。その通りだ」と、フォッグも、力強く返事をした。
「なるほど。これで、フォッグ君が、ここに居る事に、合点が行くという事だ」と、ロバートが、ようやく、事情を理解した。
「しかし、レイミーの伯父は、何故、ここに居たのでしょうねぇ」と、トムは、眉間に皺を寄せた。ゲオ達との待ち合わせ場所にしては、場違いであり、他に理由が見当たらないからだ。
「そうだな。レイミーが戻って来た事以外にも、あのびっくりした態度は、他人に見られちゃあ都合が悪い他の理由も有りそうな感じだったなぁ」と、フォッグも、思い返すように、同調した。そして、「村長さん、他に、心当たりは無いかい?」と、尋ねた。
「そうだねぇ~。お金になるような高価な物は、屋敷には置いてないし…」と、ロバートが、険しい表情で、考え込んだ。しばらくして、「あ! もしや、宝玉についての何かを探していたのかも…」と、はっとした表情で、答えた。
「でも、宝玉は、無いのでしょう?」と、トムは、問うた。別の場所に有るような気がしたからだ。
「ああ」と、ロバートが、小さく頷いた。そして、「兄さんは、忘れているのかも知れないけど、私の父の代になって、洞穴から村外れの祠へ奉納したからね。しかし、あれには金銭的な価値は無いと思うし、私達が、勝手に、宝としているだけだからね。それに、宝玉の間には、盗難防止用の仕掛けがしてあるからね」と、回答した。
「一応、その祠へ足を運んだ方が良いかも知れませんね。あの連中は、金目の物ならば、何でも手に入れたがる性分みたいですので…」と、トムは、所在の確認の意味を含めて、進言した。ひょっとすると、ゲオ達に、持ち去られている事も、考えられるからだ。
「そうだな…。では、トム君達に、宝玉の確認へ行って貰うとしようかね」
「それは、構いませんが、仕掛けって、どんな物なんですか?」と、トムは、尋ねた。仕掛けの正体を知っておきたいからだ。
「落とし床が、仕掛けられているんだよ。正しい床を踏まないと、抜け落ちるようになっているんだが、どれが正しいのか、忘れてしまったよ。置きっぱなしで、取りに行く物でもなかったからね」と、ロバートが、苦々しく答えた。
「そうですか。まあ、何とかなると思いますよ」と、トムは、あっけらかんと言ってのけた。現地へ行ってみれば、何らかの手掛かりが、得られるだろうからだ。
そこへ、「それでは、御父様。私が、トムさん達を案内しますわ」と、レイミーが、案内役を買って出た。
トムは、レイミーを見やり、「レイミー、君は、残っていても良いんだよ」と、気遣った。些か、精神状態が、心配だからだ。そして、「強がって、無理をしているのなら、お断りだよ」と、素っ気なく付け足した。無理をされるのも、迷惑だからだ。
レイミーが、視線を逸らさずに、「私は、トムさんのお役に立ちたいのです! もう、伯父さんの事は、引き摺ってません!」と、きっぱりと言い返した。
「分かったよ。一緒に行こう」と、トムは、承諾した。レイミーの表情から、迷いが無い事を感じ取ったからだ。
その直後、「はい!」と、レイミーが、嬉々として、力強く返事をした。
「すまないが、出来れば、宝玉を持って帰ってくれたまえ。村内で保管した方が、安心だからね」と、ロバートが、申し訳なさそうに、要請した。
「ええ」と、トムは、小さく頷いた。自分も、賛成だからだ。そして、「では、行って来ます」と、一礼した。
「うむ、頼んだよ」
「では、御父様、行って参ります」と、レイミーも、恭しく頭を下げた。
「ああ。気を付けるんだよ」
間も無く、トム達は、広間を後にした。