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晩秋


校庭に植えられている木々が色づき始めている。

そう遠くないうちに黄色に赤に染まり、散っていってしまうだろう。

「もうそんな季節か……」

美術準備室から眺める景色は、日々新しいものへと更新されている。

同じように見えるが少しずつ変化していて、いたずらに過ぎ去ってしまった時間になんとも言えない哀愁を感じさせられてしまう。

窓を小刻みに揺らす風と、外から忍びこむ冷気に冬の到来を感じていると……

「先生……寒いです」

もはや理由はなんでもいいのだろう。少女が吸い寄せられるように抱きついて来る。

「寒いのなら、ヒーターの前に移動しなさい」

少女のおでこに手を当てて、無理やり身体を引き剥がそうとするが、「いーやーでーすぅー」とうめき声を上げる彼女の抵抗にあってしまった。

「先生がいいんですぅー」

腰に回された手はひんやりとしていて、体温が奪われる感覚が少しだけおぞましい。

「少しだけだからな」

そう告げると、少女は声を上げて幸せそうに微笑んだ。

せめて彼女の手が温まるまでは、こうしていても構わないだろう。

大人しく少女のなすがままにされていると、少女の羽織るセーター越しに彼女の身体の柔らかさが伝わってくる。

ゾクリ。

今まで感じないようにしていた感情が鎌首をもたげる。

晩秋のもたらすアンニュイな雰囲気にあてられてしまったせいだろうか。

まどろむように目を閉ざし、幸せそうな表情をしている彼女の顔を眺めていると、えも言えぬ感情が心に溢れてくる。

不意に少女が目を開き、視線が交錯する。

吸い込まれるように綺麗な瞳は何を考えているのだろう。

きょとんとした表情の少女の頭を撫でてやる。

サラサラと流れる髪は触り心地がよく、いつまでも撫でていたくなってしまう。

髪を梳くようにして後頭部から背筋にかけて撫でてやると、少女の口からは小さな吐息が漏れた。

「あぁ、すまない」

「いいんですよ。先生になら……なにをされたって」

彼女の口許に、誘うような妖しい笑みが浮かびあがる。

ドクン、と心臓の高鳴る音が頭の中に響き渡ると、抑えきれない欲望が湧きあがる。

――少女に堕ちてしまいたくなる。

「先生、ここは?」

唇を示す少女の手を優しく引き寄せると、「君にはまだ早い」と囁きかける。

そのまま背中に手を回して包み込むように抱きしめると、目の端にかわいらしい耳が映った。

美味しそうなそれを甘噛みすると、少女の口からは喘ぐような息が漏れる。

熱を帯びたそれは、少女の発する香りと同じでくらくらするほどに甘い。

そのまま髪のラインを伝い、うなじに口づける。

「そっちはいいんだ」

少女が上気した面持ちで、不満げに口を尖らせている。

「もう十分温まっただろう?」

その言葉の意味が理解される前に彼女の肩を掴み、無理やりに回れ右をさせる。

背中をポンと押してやると、彼女は不服そうにイスに腰掛けた。

「しょうがないですね。今日はここまでで勘弁してあげます」

上から目線でそう言う彼女を横目に、コーヒーを淹れる準備をする。

スイッチを入れ、マグカップを用意している間に少女は上機嫌になったらしく、鼻歌を奏でながらイスを前後に揺らして遊んでいる。

……終わらせなければならない。

芽生え始めた感情と感傷を、根っこの部分から取り除いてしまおう。

それはとても人間らしい感情ではあるものの、許されるものではない。

コーヒーの香りと少女の歌声が、晩秋のように胸を締めあげた。



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