薬草とポーション
こんにちは、初めましてですね。
私はギルドで受付業務を行っておりますリットナーと申します。
主に中級冒険者の対応をしておりますが、そこは開拓地ですから、臨機応変に冒険者登録から資料室の案内まで一通りは何でもこなしますよ。
近頃は開拓地の拡大に合わせるように冒険者の方も増えておりまして、討伐任務や護衛任務の他にも人手の足りない開拓作業や各種の工事にも冒険者が動員されていて、それに伴う事務作業の多さに嬉しいギルド職員一同は悲鳴を上げていますよ。
えぇもちろんギルド全体の業績によってはボーナスが出ますからね、文句は言っても手は抜きませんとも。
さてさてそんな開拓地なんですが人が増えればトラブルも増えるし、トラブルが増えれば怪我人だって増えます。
そんな訳で薬草やポーション等の所謂キズ薬は幾ら有っても困りません、しかし薬草としてギルドで引き取っている植物も乱獲のせいか徐々に取引される量が減って来ている模様、なんとかして薬草として使える別の植物を見つけたいモノですね。
勘違いされている方が居るんですが『薬草』と言う名前の植物はギルドでは登録されておりません。
キズ薬やポーションの材料として利用出来る植物の総称として『薬草』と呼称しているだけで今まで『雑草』と思われていた草が実は凄いポーションの材料に成る可能性だって有るんですよ。
ギルドの資料としては植物の新発見をした場合に新しい名称を決めているので、ややこしいが正式名称とギルドの依頼書に書かれている名前が違う場合も有る。
例)
正式名称→けむり花、触ると煙のように花粉を飛ばす。=ヘビの毒消し草←ギルドの依頼書の名称
正式名称→グルグル草、茎の先端がグルグルに渦巻いている=キズ用ポーションの薬草←ギルドの依頼書の名称
このように依頼書に薬草の正式名称が書かれていない限り、通常は同じ効果のが有れば違う種類の植物でも依頼の達成とされる。
そこでギルド職員の会議で以前から提案されていた新しい薬草の発見について、ようやく領主様から正式な依頼としてギルドに持ち込まれた件について説明させて頂きます。
以下は領主様の発布(*1)された依頼書
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告
開拓地グラスラント領主 クレイド・ジェイド・ベルウッド の名に於いて以下の告知をするものである。
・開拓地周辺において新たに薬効成分が認められる植物を発見する事
・開拓地にて知られていない新たなポーションのレシピを発見する事
・開拓地にて知られていない新たな毒性の生物を動植物を問わず発見する事
上記を達成せし者には、その有効性を考慮の上で最低で銀貨10枚、最高で金貨10枚を報償として授ける。
また、同様の報告が重複した場合は申請した日付の早い物を採用し、日付が同じであれば報酬は山分けとする。
不正行為により報酬を求めた物は厳正に処罰るす
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こんな告知をしたものですから、いまでは冒険者に限らず開拓民や商人までがそこらの草や木の実を取って来てはそのまま食べたり茹でたり混ぜたりしながら摂取して、腹痛に苦しんだり頭痛を訴えたりしています。
えぇ判っていますよ?新しい挑戦には失敗が付き物だと。
ここは一つ、出来るギルド職員と認めてもらってボーナスを貰えるように動きますかね。
次の休日、私は商工ギルドに足を運んで工房部門の責任者ーに面会を申し入れていた。
「私が商工ギルドの工房部門の責任者だ、冒険者ギルドの職員が何の用か?」
「本日は貴重なお時間を頂きありがとうございます。本日はギルドの公用としてではなく個人として商工ギルドに例の通称『薬草ポーション令』についての提案をさせて頂こうかと思っております。」
「ほぅ面白い、つまりアイデアは有るが実現には職人が必要な提案だと理解するが?」
「さすがは部門長、その通りでございます。そしてソレには商工ギルドと冒険者ギルド、双方の把握している資料を必要とすると考えています。」
「そこまでは理解した、続きを話せ。」
「我々は別の組織ですからそれぞれ把握している情報も違います、その情報を共有化する事で無駄な試行を減らし、冒険者は採取に専念し、職人は調査と製造に専念する。
申請に関しては件案毎に関係した人物の共同提案とすれば良いと思います。」
私の言葉を聞いた部門長はしばし腕を組んで考えを纏めて居た様で、お茶を一口飲むとまっすぐに私の目を見て切り出した。
「話は判ったしお前さんの提案は十分に考慮に値する、しかし、こちらも職人として確かめておく事が有る。
『正当な仕事には正当な報酬』が職人の常識だ。今回の提案でお前さんに何の得が有る?」
「そう来るとは思いませんでしたが、確かに職人としての大切な考え方ですね。
私にとっての報酬はこの件で成功例が出た場合に提案者として名前を残す事。ソレにより冒険者ギルド内での評価を上げてボーナスを狙う事です。」
「ふはははは。なるほどな、組織が違えば評価の基準も変わるか。良いだろう今回の提案を受け入れて
、成功例が出た場合はお前さんの提案である事を明記して申請しよう。」
「ありがとうございます。これで休日を使ってまで商工ギルドを訪ねた甲斐もありますよ。」
「まぁ、成功例が出たらの話だがな。」
こうして半年程の期間で新たに3種類の薬草やポーションが登録され、その内の1件が私の提案で商工ギルドの職人さんが発見したポーションレシピでした。
これれにより冒険者ギルドから臨時ボーナスを貰った私は羨望の眼差しを向ける同僚を連れて酒場に繰り出しまして久しぶりの贅沢を堪能しましたよ。
尚、領主様の公布に期限が決められて居ないので、今後もボーナスチャンスは残っている。
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つづく
(*1)発布 主に法律や公的な宣言などを一般向けに知らしめる事