鉄の盾(試作)
ワシは開拓地で盾屋をやっとるコランダムじゃ。
ここより西の街の防具屋で働いておったが、この開拓地の入植開始に併せて独立して今では盾を専門に扱う工房をやっとる。
ここじゃぁ木の盾は殆ど消耗品扱いじゃ、割れた盾を持って帰ってくれば上等で、曰く「オオカミが咥えて持っていった。」「壊れたから捨ててきた。」「薪が足りなくて燃やした。」等々で正しく消耗品として扱う冒険者も多い。盾を壊してでも冒険者が生きて帰ってくれば立派に敵の攻撃を防いで務めを果たした盾は仕事の誇りになる。
ソレは仕方の無い事なんじゃが職人としては少々値段が高くなっても何度も修理して長く使える盾を作りたいし、ソレが結局は冒険者にとっても最終的には安く上がる筈じゃ。
ならば壊れない頑丈な鉄の盾を作れば良いんじゃ、実に簡単な話じゃな。
城の騎士が使うならな。
冒険者は武器防具を身に着け、野営装備を背負い、街道から外れて道無き道を歩きまわり、場合によっては山登りまでしなければならん。 そんな連中に重たい鉄の盾を持たせるのは簡単な事では無い。
ワシがこの開拓地に来てから常に頭を悩ましている問題が強度と重量と値段のバランスなのじゃ。
確かにウチにだって鉄の盾は作って在庫として置いてあるが、欲しがるのは所謂盾職の連中ばかりじゃな。それだって頑丈な木材を加工した本体に薄い板金を張った作りだが10kg(*1)を超える。
ワシが作りたいのは剣士が使える軽くて頑丈な鉄製のラウンドシールドなんじゃああああ。
ぜぇはぁ、ぜぇはぁ。
直径50cmとしても約5kgの計算か・・・むぅうう。あとせめて1kgは軽量化せんと片手剣の連中には厳しいのぅ。
いっそ籠手と一体化させて体感重量を減らせば・・・いかんな、戦闘時はともかく移動時には重たすぎる。
何かヒントは無いモノか・・・
そうじゃ、ギルドの相談窓口に変わった連中が居った筈じゃ。
「おぅ、相談したい事が有るんじゃ。」
「ここは武器屋じゃねぇ、帰れ!」
「ふはははは、職人だからと言って冒険者じゃ無いとは限らんぞ。」
「なん、だと・・・」
「これを見るが良い。冒険者Dクラスのカードじゃ、がっはっは。さぁ相談に乗れ、今乗れ、すぐ乗れ、早く乗れ。」
「くそジジィ、商売の相談なんぞされても判んねぇぞ?」
「いやいや、ちゃんと冒険者向けの相談なんじゃ。」
こうしてワシは紳士的な相談と交渉の末にクラン『コレクターズ』の倉庫の見学を確約して帰った。
数日後に防具担当のロッソってヤツの予定を併せてもらって倉庫にやって来た。流石に部外者が勝手に入れる場所じゃ無いんで。
「ほほぉ~、コレは壮観じゃのぉ~。」
「まぁな、コレこそがウチの名前の由来だしな。」
「見惚れておっても進まんので、早速だが盾を見せてくれ。」
「見るのは金属盾だけで良いんだな?」
「いや全部じゃ。既存の金属盾では満足出来んからこその見学じゃからな。」
「金が有ればミスリルの大盾とかアリなんだがなぁ。」
「おいおい、ここらの冒険者にミスリル装備なんて買える訳が無かろう。」
「そりゃそうだな。」
見学からさらに数日後、ついに鉄製ラウンドシールドの試作を完成させたワシは、盾の性能試験を依頼に出す為に意気揚々と冒険者ギルドにやって来た。
どんな盾かって? 鉄の輪枠に十字に補強を入れてチェインメイルの鎖を張ったのじゃ、重量と強度のバランスもそこそこ、少々値が張るのが問題じゃが試作としては十分じゃろう。
「依頼を出したい。」
「ご利用ありがとうございます。どのような依頼でしょうか?」
「冒険者に実戦での盾の性能試験を依頼したい、条件はCランク以上の盾持ちの片手剣を扱うヤツ限定で同行者の人数と構成は不問とする。最低でもオオカミ、ゴブリン、大型のハチの3種類との戦闘をしてくる事。」
「性能試験との事ですが、途中で盾が破損した場合の扱いはどうされますか?」
「盾の破損はその時点で試験中止して報酬は全額支払う。もちろん依頼成功扱いじゃ。」
「畏まりました。では盾と報酬をお預かりします。コチラの書類に記入が必要ですが代筆を希望されますか?」
「読み書きは出来る、問題無い。」
「はい、確かに。ではこの木札をお持ち下さい。依頼完了時には掲示板に張り出しますので依頼を受ける時と同じ要領で掲示書類と木札を窓口までお持ち下さい。」
「うむ、では頼んだ。」
さてさて、どうなるか楽しみじゃな。
3日後にギルドに顔を出すと中堅どころのPTが依頼を受けて遠征に出ているらしい。早ければ2日後には帰ってくるだろうとの話じゃった。
さらに3日待ってギルドに顔を出すと依頼は完了しており、程良くボロくなった盾と実際の使用感の書かれた紙を受け取った。
要約するとこんな感想が添えられておった。
・ジャラジャラうるさい
・鎖が付いているので振り回した際に動作におつりが来る
・細い針やブレス攻撃は通過してしまう
・鎖部分で受けた攻撃は弾けないので絡まって重たくなる。
こりゃダメじゃな、チェインメイルの部品を使うのは失敗じゃったわい。
すぐに改善案も思い浮かばんし、また時間の有る時にじっくり腰を据えてやり直すか。
鉄のラウンドシールド・・・未完成なり。
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続くよ
(*1)重量の計算方法 比重7.85として 面積50x70(cm)厚さ3mmの鉄板+木製部品+金具+ベルト の場合です。