レザーコート
よう久しぶりだな、ロッソだ。
この前クランの仲間から聞いた話なんだが東の山麓に火を吹く鳥が現れたそうなんだ。距離としては片道2日と半分って処らしいんだが、将来的に有る程度の道が整備されると片道1日とちょっとの距離だ。
ギルドと領主が相談した結果、取り敢えずどの程度の脅威が有るのか調べる事に成ったんだがよ、そうなると当然ウチのクランが行く事に成るんだわな。
自分で言うのも照れ臭いモンだがオレもクランの中では上位に入ると思っているし、事実として今度の『火を吹く鳥』の調査隊にも選ばれている。
問題は相手が火を吹く事が判っているのにオレには火を防ぐ手段が少ない事だな。
オレだってAランク冒険者の端くれだからダンジョンくらい潜った事は有るし、ファイアリザードを倒した事だって有る。ファイアリザードは地上を走ってくるから良いのだが今回の相手は空を飛ぶ鳥だ。上空から火を吹かれたら顔から首の辺りまで大火傷は間違いないな。
こんな時こそ我らコレクターズの誇る武器防具保管倉庫、通称『倉庫』で良い装備が無いか物色するべきだな。
この『倉庫』なんだがウチのクランがこんな辺境の開拓地に本拠地を構える決め手になったモノだ。
当時のオレ達は依頼内容に合わせて毎回装備を変更していたんだが、徐々に装備品の置き場が足りなく成って来て居た。
倉庫を増やすにしても小さな家を借りた程度ではすぐに足りなくなるし、新たに倉庫を建てると建築費も税金もバカにならねぇ。
そんな時に東の国境に近い辺境を開拓して新しい町を作るって話が持ち上がってな、何度かの交渉の末にギルドと契約して相談窓口の仕事を請け負う事になってな。
その時の条件の一つがギルドの資金でウチのクラン倉庫を建築する事だった訳さ。
おかげでクランハウスよりもデカい倉庫に大量の武器防具を詰め込んでいるって寸法だ。
さて、防具の管理はオレの担当なんだが帳簿を見ても炎耐性のある装備は鎧と盾が殆どだな・・・仕方ねぇ、無い物は作れば良いのよ。
作ると成ればオレ1人分じゃあ意味がねぇ、今度の遠征に行く面子に聞いて欲しい装備をメモに取って、と。マント、コート、盾、珍しい処では兜の上に被る帽子か。流石にウチの連中は装備のチョイスも普通じゃねぇな。
よし素材はサラマンダーの革(*1)で決まりとして、っと。全員分の注文書を書き終えたら工房巡りだ。
最初に材料が少なくて済む『兜の上に被る帽子』を注文に出すか、
次は盾で単純な構造で加工が簡単だ、
コートとマントは同じ工房で作らせるとして、オレのコートは左右の切れ込みを腰上まで届くようにしてボタンで留められる様に注文を付けておこう。
「よう、親父さんよぅ、特注品を頼むわな。」
「来やがったな、お前さんが来ると碌な注文を寄こさねぇ。」
「そう褒めるなよ、照れるじゃねぇか。がっはっは」
「褒めてねぇ!」
「冗談はさておきサラマンダーの皮は在庫有るか?」
「3匹分の皮が有る、それで足りないなら余所へ行くか入荷待ちだな。」
「それだけ有れば足りるはずだ、マントとコートをそれぞれ1着だ。」
「良いだろう、詳しい仕様を話せ。」
「マントは一般的なフード付きで長さは身長165cmの人物の足首よよ少し上まで、フードは上げ下げのしやすい様に工夫してくれ。
コートはオレが使う。鎧の上から着る想定で取り外しの出来るフードを付けて、腰から下は左右と後ろに切れ込みを入れてボタンで留める事も出来るようにしてくれ。」
「相変わらず細かい注文を出しやがる。」
「っは。出来る腕が有るから無茶を言うんだ。降参するなら余所の工房に頼んでも良いぜ?」
「出来ないとは言わんが安くは無いから覚悟しておけ。」
「あぁ構わねぇからいつも通りの適正価格でやってくれ。」
「それにしてもサラマンダーとは豪気だな、ドラゴンでも狩るつもりか?」
「さすがにドラゴンは手に負えねぇが、火を吹く鳥が出たらしくてな。威力偵察(*2)になるから可能な限りの準備はしておきたい。」
「っは、毎度ながらご苦労なこった。せいぜい死ぬんじゃねぇぞ。」
「もちろんだ、その為の装備だしな。」
数日後、東の山麓
「くっそ、判っちゃ居たが上からのブレスとか痛てぇぞコラ!」
「だぁああああ、『ヒール!』『 ヒール!』『 ヒール! 』 っちょw お前、燃えてるだろ。『レインウォーター! 』」
「マントで炎は防いでも、顔は熱いんじゃああああああ。」
「だから帽子は庇付きにしとけって言っただろ!?」
阿鼻叫喚の戦闘が繰り広げられる東の山麓。
クランマスターの指示でようやく本格的な反撃が始まる。
「よし、おおよそのパターンは判ったから倒していいぞ。」
「うぉおおおおお、落ちろぉおおおお!」
投げ槍、矢、攻撃魔法が爆発したかの様な勢いで空に向かうと同時にヒーラーが防御膜を展開して反撃開始だ。
「お前ら、ブレスは防ぐからさっさと地面に引きずり落とせよ『エリアミスト!』」
「よっしゃぁ、コレで勝つる。」
「地面に落とせばブレスも盾で防げるしな!」
久しぶりの激戦でメンバーのテンションはMAX。
もちろんオレも今までのフラストレーションを発散させてバトルハイ(*2)に成っている。
これ程の激戦も久しぶりだが地対空の戦闘の不利を改めて感じた一戦だった。
こうしてオレ達は東の山麓で数回の戦闘によって火を吹く鳥についてのデータと集めた。それはもう文字通りの命がけで集めた。
その結果判った事は、対象の鳥は『ファイアバード』の亜種で他に同じ性質の鳥が居ない事から新種らしい。
新たに『ファイアブレスバード』と呼称される事に成り、新種の魔物を発見した事によりギルドを通して国から報奨金が支払われ、そのおかげでクランの資金も増えたし今回の遠征の為に作った装備も全てクラン資金から支払われた。
結局その後、当面の使用予定の無くなった装備はいつも通りに倉庫へと仕舞われたのさ。
って言っても防具の整理はオレの仕事だけどな!
こうして新しい問題が発生する度に装備が増えていきオレたちの装備は増える一方だ。
何時からか誰が言い出したかオレたちはこう呼ばれる様になった。
『コレクターズ』と。
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つづくよ
(*1)革 主に鞣し加工された皮を指す、未加工のモノは皮
(*2)威力偵察 相手の戦力を測る為に戦闘を含めた偵察行為。
(*3)バトルハイ 戦闘時に興奮状態となる事。