丈夫な革紐
はぁい、アタシはレイラ、レイラ・クローフよ、みんな大好きコレクターズの一員で自称ウィザードってところかしら。
聞いた話ではココとは違う世界がいくつも有って、冒険者としてのクラスが決まっている世界も有るらしいわね。
少なくともこの世界ではクラスなんてその人の得意分野を表す程度のモノでしか無いわ。だから『自称ウィザード』。
なんでも他の世界って魔法が存在しないだの、金を払えば必殺技を覚えられるだの、全く狂気の世界よね。レベルとかスキルとか何なの?理解できないわ。
職業によって装備できる種類が決まってるとか有り得ない、私は魔法をメインにしてるけど剣も弓も使うしミスリルのキュイラス(*1)はお気に入り装備の一つよ。
今日はギルド当番で早朝からロビーに居るけど昼を過ぎても誰も来ないわね。誰も困っていないなら良いのだけれど、冒険者なんて問題に気が付いた時には手遅れなんて事も有るから新人の子達が無事に帰ってくれば良いけど・・・。
優雅に午後のお茶を楽しんでいたら受付の子、たしか中級冒険者担当のリットナー君からコールが入ったわ。
「コレクターズさん、相談依頼です。」
「えぇどうぞ、掛けて頂戴。」
返事をしたら暗い顔をした4人の男女がやって来て口を開いた。
「えぇ~っとですね、無くした魔道具を見つける方法とか有りませんかね?」
「・・・え?」
「ですから戦闘中に無くした魔法の道具を・・・」
「それは特別な魔法で加工してあって特定の魔法を使えば見つかるように出来ていて、アタシに探知の魔法を使って欲しいって事かしら?」
「いえ、普通の魔法の発動体としてのタリスマン(*2)です。」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「無理ね。」
途端に4人の目が死んだ魚の様になって表情が抜け落ちた。
無理な物は無理、そんな便利な魔法があれば世の中から落し物も盗難も存在しなくなる。
「そもそも戦闘中に無くしたって判ってるならすぐに拾えたと思うけど、それでも見つからないって事は特殊な状況だったの?」
「西の街道の途中の川に落としてしまって・・・」
「じゃぁどうして落とす状況に成ったの?」
「斥候を出して川を挟んだ対岸にオオカミをおびき寄せてたんです。」
「へぇ良い作戦じゃない。でも、そこにタリスマンを落とす要素は無いわよ。?」
するとさっきまで黙っていた魔法使いっぽい女の子がこう言った
「私って魔法を遠くまで飛ばす事が出来ないので相手にタリスマンを投げつけて、タリスマンから攻撃魔法を撃つんです。」
「うわぁ~、そんな魔法の使い方する子って初めてよ。」
「良く言われます。」
「でも今までは上手く行ってたけど、今回は川に落としてそのまま流されて紛失した。と言う訳ね」
余程我慢していたのか、とうとう泣きながら話し始めた。
「そ、ぞうな゛ん゛でずぅ(そうなんですぅ)」
「う~ん、無くしたモノは見つけられないけど。次回から無くさないようには出来るわね。」
「ぜめて二度と無くざないよ゛ぅに、お願いじまずぅ」
「判ったわ、そういう事なら任せなさい。出掛けるわよ~。ちょっと時間の掛かりそうな案件だからクランから代りの当番を呼んでおいて頂戴。」
ギルドの受付に外出を告げ、アタシは4人を連れてまずは魔道具屋にやって来た。
聞けば紛失したのは3つの属性宝石が嵌った相当な価値のタリスマンだったらしい、今回はギリギリで買えるが次に紛失したら借金をするか引退するかの選択を迫られるとかなんとか
いくら魔法使いの素養が魔力量とイメージが全てとは言え、魔法を飛ばせないのは問題だ。しかし今はとりあえずでも無くさない工夫が必要。
アレコレと店主を含めて相談した結果、3属性のタリスマンより1属性特化のタリスマンを3個買った方が割安となる事が判明したのでソレを3つ、まとめ買いするので割引も効いたのが大きいわね。
次は鍛冶屋に移動。この子達は戸惑っているわね。うふふ、魔道具と鍛冶屋が結びつかないようね。無理も無いけど使える物は何でも使うのが賢い冒険者ってモノよ?
「はぁい、久しぶり。このタリスマンを止める鎖を付けて頂戴。それも振り回してもぶつけても外れない丈夫なヤツね。」
「タリスマンにわざわざ付ける意味も無さそうだが・・・訳有りか。」
「そういう事、詮索は無しにして頂戴。」
「判った、鎖は3つ纏めて留めるのか?」
「いいえ、長さは2mで3本を別々に付けて欲しいの。」
「ふむ、手荒に扱う前提なら鋼だな、強度は保障するが錆には弱いから手入れは怠るなよ。」
「えぇそれで良いわ。」
「あの、2mだと流石に短すぎるんですが・・・」
「大丈夫よ、鎖だけじゃないから。次は道具屋に行くわよ~。」
こうして最後に訪れたのが道具屋、ココで買うのは革紐だ。それも普通の革紐では強度に不安が有るので出来る限り丈夫な物が望ましい。
「はぁい、こんにちは。アタシはコレクターズの者なんだけど、可能な限り薄くて堅い革紐か紐じゃ無くても良いから革は無いかしら?」
「これはこれは、ようこそお越し下さいました。生憎と革紐は有りませんが、革素材そのものなら御座います、裁断無しで一枚を丸ごとお買い上げ頂けるなら少々の値引きなら可能で御座います。如何なさいますか?」
「うふふ、判ってるじゃない。良いわね、ソレ一枚頂くわ。」
こうして買い物を終えたアタシ達はギルドの工作室を借りて作業を行う事にした。
何をするかと言えば手分けして革を細い紐状にする事と、その革紐を編んで丈夫なのロープに仕立てる作業だ、
確かに堅い革は丈夫だが柔軟性に欠ける、それなら細い革紐を編んでロープにすれば強さと柔軟性の両立が図れるし、金属の鎖ほど重量も無い。
だったら鎖など使わずに全部を革にすれば良い。
などと言うのは考えの足りない子ね。
攻撃魔法を使うとどうしてもタリスマンを中心にして大きな被害が出る。そこでタリスマンに近い場所だけを鎖にして残りを革紐で長さを稼ぐのよ。
そのまま夕方まで掛かって長くて丈夫な革紐を編んだら仕上げに練習よね。
翌日、本当なら今日はアタシの当番じゃないけど昨日から引き続きの案件なので責任を持って練習をさせるわ。
つまり、攻撃魔法を物理で飛ばす練習なのよ。
タリスマンを中心に魔法が出るなら。魔法を出した状態でタリスマンを振り回せば魔法攻撃(物理)の完成よ。我ながら良くも考え付いたモノだわ。(笑)
後日、件の魔法使いが冒険者達の間で『魔法使い(物理)』などと呼ばれる事になったけど。そこまで責任は取れないわね。
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続くよ
(*1)キュイラス 金属製の胴鎧、胸部を中心に背面まで覆うモノも有る
(*2)タリスマン 主に首から下げるメダル状のお守り。魔道具としては魔石/宝石などが嵌められ、様々な意味が込められた文字が彫り込まれている。普通は投げたりぶつけたりしません。