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ジャベリン

物語の序盤なので説明多めです、ご容赦を。


――――――――――


 よう、ワシはケンプファー。クラン『コレクターズ』の一員で今日のギルド当番じゃ。

一昨日までは東の山の麓まで遠征に行っておったので今日はのんびり冒険者ギルドのロビーで待機任務じゃな。


 ココの仕事は良いもんじゃ、何が良いかって普通の冒険者じゃ持てない専用倉庫が使えるのが一番じゃな。専用と言ってもワシ個人のでは無くてクランの倉庫なんだが、ウチのクランは収集癖のある冒険者が多いので倉庫を冒険者ギルドの資金で建ててくれるって条件に惹かれてココに本拠地を構えたようなもんじゃ。


 そろそろロビーも朝の混雑が収まって来たし、急ぎの相談も入って無いからゆっくり飯でも食らうかな。

なんせギルド当番になると朝一からギルドロビーに詰めなきゃならんでな、悠長にクランハウスで朝飯を食う訳にも行かんのじゃ。

ロビー隣接の食堂に移動して朝食セットを頼むと今日はピザとコーヒーにサラダの様じゃな、ここのコーヒーは田舎にも関わらず良い味をしておる。なんでも『てんせーしゃ』とか言うヤツと一緒に冒険した事のある女が引退後に夫婦でここの食堂を預かっているそうだ。


などと思案しながら食後のコーヒーを楽しんでいるとロビーの方から


「コレクターズさん、相談依頼お願いします!」


と声が上がった。

さてさて、今日の相談はなんぞや。


「おーい、、すまんが食事中じゃ、こっち来てくれ。」

「初めまして、チーム『ブッチャーズソウル』のリーダーでヨシュアンです。」

「おぅ、ワシはコレクターズのケンプファー、大抵の困り事なら相談にのるぞ。」

「ありがとうございます、今日は西の森のオオカミの討伐依頼で相談なのですが、よろしくお願いします。」


冒険者にしては珍しく礼儀正しく要点を押さえた判りやすい話し方だな。


「オオカミなんぞ突っ込んで行ってブッタ斬れば良いじゃろ。」

「いやいやいや、自分らは走るオオカミの群れより早く動くとか無理ですから!」

「まぁ普通はそうじゃな、冗談だから気にするな。それでわざわざ相談に来たって事は何か不安要素が有るんじゃろ、大抵の事なら解決策を教えてやれるから言うてみろ。」

「ふぅ、突っ込む~~は冗談だったんですか。今回は西の街道整備の現場で度々オオカミの目撃情報が上がって居るとかで討伐依頼が有るんですよ。目撃情報では個体数は少ないのですがオオカミなら背後に群れが居る前提で動くべきと思いまして。」

「良く考えているな、オオカミが群れを作るのは常識だが目撃情報以上の事をきちんと考慮出来る冒険者はそれほど多くは無い、お前さんは良いリーダーの様じゃな。」

「いっ、いえ、そんな事は。」

「照れんでも良い、それで『ブッチャーズソウル』の戦力と想定しているオオカミの数、そこから予想される問題点を言ってみろ。お前さんなら有る程度の問題点が予想出来ているからの相談じゃろう?」


ヨシュアンとか言うヤツの話を要約するとこうなる

・PTは魔法使い1、前衛3、斥候1の5人

・オオカミは20頭前後を予想

・遠距離攻撃の手段が少なく囲まれる危険あり

  ↓

・なんとか5人で囲まれる事なく戦いたい


と言った処か

ふむふむ、確かに簡単では無いが不可能でも無いな。


「では聞くが、お前たちは弓さえ有れば走るオオカミに当てられる腕は有るか?」

「無理ですね!」

「良い笑顔で否定しよって・・・。依頼の期限とこの依頼につぎ込める資金は幾らだ?」


などなど、その後色々と話し合って作戦は決まった。

その内容はこうだ


 今回の作戦はロープや草の蔓で簡易的な防御線を張ってオオカミの移動を制限しつつ投げ槍ジャベリンで接近される前に数を減らすと言うもの。

それも魔法使い以外の全員が5本の槍を持っていくという念の入った準備をさせた。


 武器と言えども極論きょくろんすれば耐久消耗品、まして投擲とうてき武器など獲物を外れて紛失する可能性も考えると、必要な性能さえ満たしていれば安ければ安いほど良い、

そして何も完成品を買って持ち歩く必要など無く、ジャベリンなら専用で無くても良いから投げたら刺さる刃物を穂先として用意して柄の部分は現地調達で野営しながら作ればよい。

穂先だけなら安く買い揃えられるし石突いしづき(*1)に布か鳥の羽根で目印でも付けておけば回収時にも見つけやすいし紛失しなければ余計な出費も抑えられて、柄と同じ長さ程度のロープか細く裂いた布でも結べば投げた時の安定性も良くなるので一石二鳥、いや三鳥じゃ。


 結局その日はギルド裏の練習場で半日を掛けて投擲の練習をさせて翌朝からの遠征に送り出した。

とりあえず動かない的には20mでも外さない程度には腕を上げたし、なんとかなるじゃろう。


 数日後に戻ってきた『ブッチャーズソウル』の連中から聞いた話では前衛が腕と足を噛まれたり引っ掻かれたが重症者は無し、ケガはその場で直せる程度だったそうじゃ。


「ケンプファーさん、先日はお世話になりました。おかげで依頼は大成功、オオカミ16頭を仕留めてボーナス付きましたよ!」

「おぅ良かったな、何より全員が無事に帰ってこれて安心じゃ。ワシの指導で死人が出ては後味が悪いしワシ自身の信用にも関わるでな。それで槍の穂先は全部回収してきたか?」

「いえ、今回の遠征で使用した穂先の内で未回収は2本です。1本は紛失、もう1本は戦闘中に派手に壊れたので回収を諦めました。」

「うむ、良い判断じゃ。もし今後の依頼で使うアテが無ければ武器屋か鍛冶屋に下取りにでも出せば多少は金に成るじゃろうから、PTで話し合って決めるが良い。」

「判りました、それでは失礼します。 」


 英雄物語にあこがれて冒険者を目指す連中には伝説の武器だの魔法の鎧だのを欲しがるヤツも多いが、使いこなせない装備などゴミ同然じゃ、逆に言えば安モノの武器でも使い方次第では魔法武器より役に立つってモノじゃな。


――――――――――


続くよ


(*1)石突 槍の穂先とは反対側の先端の金具を指す。歩行時に石畳を突く部分だから石突、今回は金具が付いてなくても石突と表現しました。

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