ベルトポーチと剣帯と
俺はムラシュエラグ、コレクターズの斥候担当の1人ッス。
今日は相談依頼で外出したレイラ姉さんの代理で昼過ぎから冒険者ギルドの
相談窓口に詰めてるッス。
ここの相談依頼は何が来るか判らないのが玉に疵だけど、基本的に殆どの時間を
待機だけで過ごす事に成るんで大抵は暇つぶしの道具を持ちこんで居るっすよ。
あと、相談係の日だけはギルドの食堂がタダで食べ放題なのも良いッスね。
最近は開拓も進んできて山側へ向かう道も少しは歩きやすく成って来たんで
色々な植物系の素材も自力で採取しなくても採取の依頼書を書けば冒険者ギルドから、
買取りの依頼書を書けば商工ギルドから手に入るように成って来て超便利ッス。
確かに手数料の分だけ値段は高くなるけど商工ギルドならそれなりの数量を
在庫しているので急ぎの時や量が欲しい時は使うしか無いッス。
今日の暇つぶしは煙玉や匂い玉を包むロウ紙の制作ッスね、金持ちの薬剤師や
錬金術師ならガラス瓶に薬品を入れて持ち歩くかもしれないけど
戦闘中に使う道具なんてほぼ使い捨てッス、それほど高くは無いとは言え
毎回使い捨てする程に安くも無いガラス瓶なんて依頼が成功しても利益が殆ど
出ない事も有り得る話しッスね。
そこで俺はロウを染み込ませた紙で包んで持ち運んで居るっすよ。
紙なら安いしロウを塗りつけて温めれば程良く染み込んで匂いも遮断できるし
水に濡れるのも防げるしで便利!
相談依頼が来るまではひたすら紙にロウを塗り塗りッスよ~。
(ちなみに、ロウ紙やロープ、簡単な罠と各種の獣避けの香などの基本的な消耗品の作り方
はギルドの資料室で学べるし、有料の講習会などで材料込みの実演付きで教えて貰う事も出来る。)
「コレクターズさぁ~ん、相談依頼でぇ~す。」
おっと受付のエミーちゃんからコールが入ったッスね。
午後の早い時間に相談依頼とは珍しいね、大抵の冒険者は早朝に出掛けて行って
夕方頃まで帰って来ないッスよ。
「どんな相談でも受け付けるッスよ。もちろん解決できる保証はしないッスけど。」
「は、はぁ、とりあえずこちらの冒険者さん、クライスライさんの話を聞いてあげて下さい。」
「よろしくお願いします、主に日帰りが不可能な距離の依頼の時なんですけど・・・」
「うん、それで?」
「実は先日、野営中にゴブリンの襲撃を受けて着の身着のままで逃げだして
ズタ袋に入れてた荷物を全部無くしたんです。」
「あいたたたた、それはキツいッスね。」
「毛布くらいなら良いですけど、食器類とか小物も殆ど無くなっちゃったんで、
可能な限りの荷物を身に付けておく方法とか教えてください。」
「その程度なら簡単だけど多少の出費は必要になるッス、おおよそ宿屋で10日は
泊まれる程度のお金が掛かる予定だけど大丈夫ッスすか?」
「あ、財布はちゃんと身に付けてたんで金目のモノは殆ど無事でしたから
その程度の出費は問題ありませんよ。」
丁度良い事に俺の装備が手元に有るのでコイツらに見せてやるッス
椅子の下に押し込んでいた籠からベルトポーチのセットを取り出して身に付けてっと。
「んじゃ具体的な話しをするけど、まぁ一目見れば理解できるはずッスよ。
見てわかる通りにベルトポーチ、お前らも今使ってる装備品との兼ね合いを
考えて自分なりにアレンジするっすよ。」
言葉で説明するならこう言う事ッス
1 1本目の腰ベルトは鎧の固定と同時に小物入れのポーチをたくさん取り付ける
2 2本目の腰ベルトは武器を吊り下げる剣帯を取り付ける
2 たすき掛けに3本目のベルトを使い、特に戦闘時に使うような小物や投げナイフ
などを収納し、下の端は剣帯用のベルトと繋いで重量を分散する。
「俺は斥候だから投げナイフと煙玉、匂い玉を大量に持ち歩くからポーチの形や
取り付け位置は参考にしなくて良いッス。
とりあえずは手放したくない小物を紙に書き出して、
何を何処に入れるかを決めてからポーチを買うのが金の無駄を減らすコツっすね。」
「う~ん、取り敢えずベルトだけ買って来て宿屋で色々と考えてきます。」
「焦る必要な無いからそれで良いっす。」
「ありがとうございました~。」
時間が経って夕方の混雑が終わる頃、昼間に相談に来たヤツらがやって来たッス。
やって来たッスけど・・・ありゃなんだ?
「随分と大荷物だけどどうしたッス?」
「取り敢えず1人分だけ荷物を全部身に付けてみたんですけど、ちょっと重たいんで
相談に乗ってもらおうと・・・」
「今、聞き違いじゃ無ければ『荷物を全部』って言ったッス。」
「はい全部です、頑張りました!」
「あ~、一応聞くがその状態での戦闘を想定している?」
「想定したらまともに動けないのが判って困ってます。」
「(おちつけ俺、相手はバカだ、ココで怒っても無意味だぞ)すぅ~・・・
はぁ~・・・ よし、お前ら、ここだと邪魔だから裏の訓練場で荷物を見せてみろ。」
「良いか?身に付けるのは大きく無い、重く無いモノだけだぞ。」
「えっと、コレは?」
「ソレを身に付けて十分に戦えるなら好きにしろ、結果的に死んでもお前の
自己責任だ。だが俺なら命と引き換えにする価値は無いと思ってるッス。」
「この毛布、実家から持ってきた思い出の品なんですが・・・」
「どうしても手放したくないなら一部を切り取って小物に仕立て直して使うッス。」
その後あぁでも無い、こぅでも無いと言い合いながらPTとしての標準的な
荷物の分け方を決めて荷造りを終えた頃にはすっかり夜も更けて居たッス。
――――――――――
続くよ




