荷車
はぁいレイラよ、今日は半月ぶりに冒険者ギルドで相談窓口の当番をしているわ。
長く感じる雨季も終わって暑さが日に日に増してくる時期に成ったわね。
雨季が終わって夏に向かうこの時期、開拓地の周囲の農地も作物がぐんぐんと
背を伸ばして葉も青々と茂ってまさに成長期って感じね。
この時期に冒険者ギルドの定番な依頼と言えば、柔らかく食べ易い農作物の葉や茎を
食い荒らす草食や雑食の獣と昆虫の駆除ね。
内容的に冒険者の仕事としては難易度&危険度の低いこの仕事、
ハッキリ言えば農家の仕事に毛が生えた程度ね。
でも開拓地としては秋に向けて収穫量を左右する大切な仕事、
決して初心者向けと言って軽視出来る物じゃ無いわ。
今日も初心者から中級程度の冒険者が早朝から害獣駆除の依頼を受けては
開拓地周辺の農地へ出掛けて行ったわね。
単純に依頼の報酬だけを狙うなら討伐証明部位を持ち帰ればソレだけで十分なんだけど、
そこはその日暮らしの冒険者、可能で有れば狩った獲物の売れる部位を持ち帰って
少しでも収入の足しにしたい処よね。
基本的に相談が無ければ口を出さないのが相談窓口の仕事では有るのだけど
つい一言二言と聞かれもしないアドバイスをしたくなるのは年のせいかしら。
資金に余裕の無い初心者はともかく、中級の子なら幾らかの準備で
収入を増やせるのだけれど、木工所に聞いた話だと知恵の回るパティーは多く無い様ね。
勿体ぶらずに教えろって? ふふふ、それはね・・・
「すいませ~ん、相談お願いしまーす。」
あら、お仕事の時間ね。
「いらっしゃい、相談窓口へようこそ。取り敢えず座って頂戴。」
「あ、はい。」
「見たところ初心者ではなさそうだけど、何の相談かしら?」
「えっとですね・・・」
Dランクが主体の彼らの話を纏めるとこうなるわ。
『農地の害獣討伐を受けたいが討伐証明部位の他にも換金可能な部位を
出来る範囲で良いから多く持ち帰りたい。』
「そうね、少しだけ初期投資が必要だけど半月も有れば十分に利益が出る方法が有るわ。」
「あんまりお金は掛けたく無いんですが・・・」
「判ってるわよ。一応確認するけど、すぐに開拓地を出ていく訳じゃ無いんでしょ?」
「えぇ、ここは初級から上級まで難易度も内容も幅広い依頼があるので
しばらくはこの開拓地を拠点に活動するつもりです。」
「それなら木工所で荷車を作ってもらうか買うかしなさい。商工ギルドの標準品
なら在庫も有ると思うわ。あ、もちろん馬車用じゃなくて人力で曳く方で4輪のヤツね。」
「荷車って道を外れると途端に動きにくく成ると思うんですが。」
「その通りよ、でも農地の害獣駆除なら最低でもあぜ道や農道が
すぐ近くまで通っているから問題無いわ。」
「なるほど、取り敢えず木工所で確認してきます!」
「えぇ、どうせ夏至の頃まで農地の害獣駆除依頼は有るんだから、
じっくり考えてからでも遅くは無いわ。」
「ありがとうございます。それじゃ、失礼しまーす。」
っとまぁ、相談さえしてくれればそれなりのアドバイスは出来るつもりよ?
さっきも話に出てきたけど、道さえ有れば冒険者が荷車を曳いて動き回るのに
何の問題もないし、特に持ち帰るモノが多い時なんか便利よね。
それにもしもの不幸が有っても怪我人や遺体を運ぶのに使えるわ。
彼らの様な冒険者がそれなりの人数も居ればこの開拓地でも害獣による収穫の
減少を緩和できるし持ち帰る獲物が増えれば毛皮や肉も安く出回る、一石二鳥ね。
昼前ぐらいかしら、さっき相談に来たパーティーがお礼を言いに来たわ。
「さっきは有難うございました。」
「お役に立てたなら嬉しいわ。」
「ズタ袋と背負子にしようかと考えて居たんですけど、アドバイスのおかげで
持ち帰る獲物の量が2倍程度に成りそうです。」
「良かったわね、でも運べる量が増えても獲物を仕留める腕が無ければ役に立たないわ、
そこは大丈夫かしら?」
「大丈夫です、俺達はこう見えても農家や猟師の出身ばっかりですから。」
「そう、それなら安心ね。あなた達のおかげでこの秋の収穫は問題なさそうね、
無理しない程度にがんばってらっしゃい。」
「はいっ、ガッツリ狩ってしっかり稼いできます!」
その夏の暑さの厳しく成る頃に聞いた話では小型の鹿が多数とバッタの仲間が
結構な数の収穫になったらしく、鹿肉の燻製やバッタ足の煮付(*1)けなどが酒場で
格安で出回って人気のメニューとなったとか。
私としては芋虫の串焼き(*1)でもつまみにしてエールを呷るのも捨てがたいわね。
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(*1)昆虫食について 日本でもイナゴの佃煮やヘボ(地蜂)の煮付けなどが古くから
食べられています。
また、他の国でも珍しいだけで食べられないわけでは有りません。
他にも将来の食糧不足に備えて食用の昆虫について真面目に研究している機関も存在します。
続くよ




