鉄の盾(完成)
少々忙しくしておりまして、その他にも仕事の合間に
リアルで鎧を着て木刀で殴りあいする人を見学したり
防具を自分で作っておりました。
それはさておき続きです。
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盾屋のコランダムじゃ、長く続けておった鉄の盾の試作じゃが
ようやく有る程度の目処が付いたぞ。最初の頃は丸い枠に十字の補強を入れておったが
今は丸い枠に*字の補強を入れておる。
北方の出身なら『雪の結晶の様な』と言えばイメージできるかの?
他にもいくつかの改善点が有る。
1 全ての鉄材は鍛造品(*1)とする
2 表面にはリブ加工(*2)した小さな丸い板を並べて張りつける
3 枠と表面の板はリベット留めとして修理を容易にする
こんなところじゃな。
そして完成品がコレじゃが、見た目を一言で表すなら『鉄で出来た亀の甲羅』じゃの。
もちろん、裏は衝撃を逃がす為に厚い革を拳が当たる場所に張りつけたし、
軽量化の為に持ち手は木材、ベルトは革じゃ。
さてさて、今回も冒険者ギルドで性能試験を依頼するかの。
「おぅ、依頼を出したいんで手続きを頼む。」
「毎度どうもです、今日も盾の性能試験で宜しいでしょうか?」
「うむ、いつも通りの内容で頼むぞ。」
「えぇ判りました、コランダムさんは常連さんですからね、
依頼書の書式を記入済みで在庫してる個人の工房の方なんて1人しか居ませんよ。
それでも規則ですからね、念の為に確認をお願いします。」
「判っておる。何事も確認は重要じゃ」
「では読みあげます。
1 Cランク以上の盾持ちの片手剣を扱冒険者限定で同行者の人数と構成は不問とする。
2 最低でもオオカミ、ゴブリン、大型のハチの3種類との戦闘をしてくる事。
3 途中で盾が破損した場合は時点で試験中止して報酬は全額支払う。
以上です。」
「それで良いぞ。また10日程したら来るわい、後は頼んだぞ。」
「ご依頼ありがとうございました、またのお越しを。」
それから8日後、いつも依頼を受けてくれるPTの連中が少しボロくなった
盾を持って直接ウチの工房にやって来た。
「おやっさーん、コランダムのおやっさん、ちょっと良いかー?」
「おぅ、しばらく掛かるから茶でも飲んで待っておれ。」
勝手知ったる何とやらで、いつも暖炉に掛けっぱなしのヤカンから
各自が勝手に煮出したお茶を注いで飲みながら待っておる。
それほど何度も依頼を受けたり修理や売買で馴染みに成った証拠じゃな。
「待たせたな、お前らが来たって事は依頼に出した盾の件か?」
「そうです、今回のは良いですね。」
「ほぅ、どんな感じか見せてみろ。」
「詳しい報告書はギルドに提出したんで後で取りに行ってくださいね。
それで使用した感じなんですが。」
「ちょっと待ってろ、盾の観察が先じゃ。」
「へいへ~い、おやっさんのお茶、ココに置いておきます。」
「すまんの。」
気の効いた事にお茶を氷魔法で冷ましてから渡して来おった、
炉の熱で火照った体にはありがたい事だ。
「ふん、ほぼ予想通りだな。それで使ってみた感想はどうだ?」
「今までの試作品と比べると1番とは言いませんが、かなり軽い仕上がりですね。
移動時でも戦闘時でも余分な音を出さず扱いやすい重量配分だと思います。」
「そうかそうか、それは良かった。で、他には?」
「ただ基本的に鉄の塊なんで、うっかり手足にぶつけると痛いんで、
枠の裏側の外周部分には革でも巻いた方がいいと思います。」
「なるほど、ココにオオカミの歯形が付いておるが、その時の状況はどうだった?」
「木の盾と違って牙が喰い込まないので引きずられてバランスを崩す事が減りましたね。」
等々、その後も色々と意見を聞いて改善を約束して別れた。
数日後、ついに完成した鉄の盾を店頭に並べると通り掛かった客から質問が飛んできた
客と言うか冷やかしと言うか、コレクターズの買い出し部隊の連中じゃねぇか。
なんでも以前から鉄の盾の性能試験依頼には目を付けて居たそうで、
いつか売りに出されたら買おうと思っていたらしい。
「盾くれ。」
「バカ言うな!タダではやらん。」
「いやいやいや、ちゃんと金は払うって。」
「最初からそう言え。」
「コレって表面は張りかえ出来るんだよな?」
「おぅ、もちろんだ。」
「んじゃ予備の板とリベットも売ってくれ。」
その後も大人気とは言えんがより良い品を求める中堅の盾持ちが
買っていく様になり、目標としていた『使い捨てに成らない』『重すぎない』
『十分な防御効果を得られる』を満たし、まずは満足出来る結果を得た。
続くよ
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*1 鍛造 金属を叩いて結晶を平らたくし結晶同士の隙間を減らして強度を上げる方法
*2 リブ加工 主に板を曲げて面を2つ以上を作り、複数の角度からの力に耐える強度を持たせる加工。灯油を入れるポリ容器の側面の×字の模様とか、車のボンネットの段差とかです。




