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投網

 ケンプファーじゃ、今日は珍しく朝から相談が立て込んでおる。


「コレクターズさん、こっちもお願いしまーす。」


 受付のクレリア譲ちゃんもひっきりなしだが殆どの連中は同じ相談をしに来やがる。

曰く「相手を殺さずに出来る限りキズも付けずに捕まえられる方法は無いか?」


 一体何事だ?

今までこんなに相談が集中する事も同じ相談が何度も続く事も無かったが・・・

ここは一つ、受付のお譲ちゃんから情報収集とするか。


「おぅクレリア譲ちゃん、いったい何事だ?」

「な、なんの事でしょうか?」

「ほほぅ、判らんと・・・」

「内容を言って頂かないと、わ、わわ、判りませんよ?」

「ふむ、今日に限って同じ内容の相談が連続している理由はなんだ?」

「それはですねぇ、困った依頼が入っているからなんです。」

「依頼の内容はなんだ?」

「それは依頼掲示板を見てもらった方が早いと思います。」


 ふむ、仕方ないが掲示板のチェックをするか。

どーれどれ・・・コレか・・・

アホだ、アホな貴族が居やがる。


内容を要約するとこうなる。

――――――――――

・ペットとして飼いたいので野生動物の子供を無傷で捕まえてきてほしい。 

・候補は以下のいずれでも良い

1 オオカミ

2 サーベルキャット

3 大型のウサギ種

・雌雄がセットなら追加報酬を出す


依頼人、リオンティーナ・タンタル・フレイムポール

――――――――――


 あ~、この依頼人って確か、ここの北西に領地を持ってるフレイムポール伯爵の、動物好きで変わり者の御令嬢だったか・・・

リオンティーナ嬢って私財を投じて牧場を作る程の動物好きだったよな。

流石は貴族と行った処か、報酬が普通の討伐依頼の2倍近いわ。


「良しわかった、クレリア譲ちゃん。ワシは出掛けるから相談依頼は全員待たせておけ。」

「待たせておけ。って何処行くんですか? 」

「相談内容が同じなら全員纏めて説明してやるから。必要な道具を商工ギルドに発注しに行く。」

「判りました、おおよそで良いのでお帰りの時間を教えてください。」

「2時間の予定じゃ。」

「了解しました、行ってらっしゃいませ。 」


 こうして商工ギルドに来てみれば既にソコは戦場の様相を呈している。

とりあえず受付の者に声を掛けてみるか。


「おぅ、コレクターズのギルド当番だ。商業、工房、それぞれの担当者と話がしたい。」

「あぁああああ、待ってました。」

「だいたい想像は出来て居る。つまりそういう事か?」

「はい、冒険者ギルドに入った依頼の件で朝から大騒ぎです。」

「二人は何処に居る?」

「大会議室で打ち合わせ中ですからそのまま入って行って下さい。」

「判った。」


 そして入った大会議室は受付ロビーを超える阿鼻叫喚に成っておったわ。


「邪魔するぞ~。部門長が2人揃ってどうしたよ?」

「判ってて聞いてるな・・・」

「呼びに行こうかと思ってました、すぐに打ち合わせに入りましょう。」

「例の野生動物の捕獲依頼だろ?」

「「ソレだ!」」

「ワシなりの考えを纏めてきたから聞いてくれ。」


 その後の打ち合わせの結果、

商業部門は大量の細引ほそびき(*1)、小さな分銅とその材料を集め、工房部門は目の大きさが違う各種の網と投網とあみ(*2)を作る事になった。


 打ち合わせを終えてギルドに戻るとPTのリーダーらしき10人前後の冒険者が待っていたので説明を始めた。


「さて、確認するが全員が動物の捕獲依頼の相談で間違いないか?」

「「はい。」」

「よし、内容としては簡単だ。良く聞いて実践の際はPTで連携を考えて実行しろ。」

「「はい。」」

「使う道具はエサ、網、投網、麻酔付きの吹き矢だ。高確率で親が出てくるから戦闘準備も怠るな。」

「それで、具体的な方法ってどんな感じですか?」

「長くなるから良く聞いておけ。

1、まずは対象となる動物を発見

2、子供が居れば良し、居なければ別の群れを探す

3-1、エサを使っておびき寄せ、親を始末

4-1、PTで囲う様に追って投網で捕獲

3-2、網を張っておいてそこに追い込む

4-2、親だけ殺して子供を捕獲

最後に、野生動物は敏感だから子の目の前で親を殺すをショックでおかしくなる可能性が有る。」

「話を聞いていると割と無理っぽいんですが。」

「難しい事を言っているのは判っている、可能ならキズを付けずに無力化出来る魔法を使えると楽になるだろう。」

「っていうと、拘束系とか麻痺系ですかね。」

「そんな感じだな。おっと忘れておった、網も投網も在庫が無いから買いに行くのは明後日以降にしろ。」

「っえ?投網の在庫って無いんですか?」

「おぅ、さっき商工ギルドでその件の打ち合わせしてきたから確かだぞ。」

「「判りました、ありがとうございます。」」


 その後も昼に1回、夕方に1回の投網説明会(笑)を開いて、空が暗く成った頃にようやく当番が終わった。

 1週間経っても誰も無傷の動物を持ち帰って来なかったが、どうなったのか気になるな、ひょっとしてワシのアドバイスが問題だったのか・・・?

などと自問自答しつつ過ごす事さらに2週間、ついに雌雄セットでオオカミを捕まえた冒険者が現れた。


「ようヒーロー、凄いじゃねぇか。」

「ケンプファーの親父さん、やりましたよ!」

「PT全員に夕飯を奢ってやるから詳しく教えてくれ。」

「マジっすか。んじゃとりあえず、この子達オオカミをギルドに預けて、宿で荷物整理と休憩してきますんで夕方にウチの宿、『紅蓮の鷹亭』で良いっすか?」

「おぅ構わんぞ、8人分の席は確保しておいてやるから行って来い。」


 苦労話と共に聞いた話を纏めるとこういう事らしい。

そもそもこの時期にウサギとサーベルキャットは子育てをして居ない。

子育て中のオオカミは普段よりも警戒心が強くで見つける事が一番の難関

見つけた群れを観察する事5日

行動範囲を把握して網を張り巡らせ

群れの斥候を倒しながら網に追い込む

投網を投げて捕獲しスリープ魔法とパラライズ魔法と麻痺吹き矢で無力化

子供だけ連れ帰り残りは網から解放して放置。


 と言う事らしい、安心したわい、ワシのアドバイスが的外れじゃ無かったんだな。


――――――――――


続くよ

(*1)細引き、ほそびき、糸と呼ぶには太くロープと呼ぶには細い紐状のモノ

(*2)投網、とあみ、人力で投げて使う網の事、網の周囲に重りが付いていて投げた際に広がりやすく作られている

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