レッド 俺らのヒーロー生活マジ危険信号(レッド) ⑥
「ごめんよ多田さん」
服部は俯いたまま呟いた。
「ごめんったって……いや待てよ。確かに俺達はクズであることの力で戦ってきた。にしたってよ!クズじゃなくなったら変身できない?まずそもそもそのメモリがクズの力のメモリだって決まったわけでもねぇし」
「いや、間違いないと思う」
一人混乱で言葉を垂れ流す多田を、小山野の言葉が止めた。
「間違いないって、何で分かるんだよ」
その揺るぎのない物言いに多田は噛み付いた。
「お前だって今初めて見たんだろ?なのになんで」
「これを見てくれ」
多田の言葉を遮って、小山野はポケットからあるものを取り出した。
謝罪フォンだ。
「メモリが……、減ってるっ……!」
多田は口を大きく開き乾いた声を出す。
小山野が取り出した、自身の謝罪フォン。これもまた、服部のもののように赤色までにはなっていないが、メモリを減らしていた。
「俺も最近気付いたんだ、メモリが減っていることに。そして振り返ってみると、確かに心境の変化をおれ自身も感じた」
「小山野くんも……」
「すまないな服部。一人で悩ませてしまって」
多田とは違う意味で驚いた服部の目は少しだけ光に揺らぐ。
「俺はこのメモリは、クズの力の充電で間違いないと思っている。昔はクズの力が無尽蔵に溢れて常に満タンだったが、歳を重ねることで衰え今、補えなくなっている」
「いや、いやいや待て待て」
多田はよろけ壁に手をついた。
「じゃあほかのやつはどうだ!……ブラック!!ブラックお前の見せてみろ」
多田は寄りかかった壁を押し返し、その反動で部屋の隅にいる阿部との距離をつめる。阿部は丁度自分の謝罪フォンを確認しているところだった。多田は阿部の持つ謝罪フォンを奪い画面を見る。
「……ほらほらほらほらぁ!こいつのもメモリが減ってる!!小山野よりも全然多く減ってるぞ。この根暗は何一つ変わってないってのに!!」
そういって阿部の謝罪フォンを部屋の隅に投げる。
「ブラックは何も変わってない!昔のままのただのコミュ障だ!それなのにメモリは減ってる!つまりこのメモリはクズの力と関係ないってことだよ!!」
嬉しそうに飛び跳ねる多田を他の四人は冷たい目で見る。
「多田さん、阿部が一番変わったかもしれない」
小山野は多田から目を逸らし頭を掻く。
多田は小躍りをやめ、小山野を見入る。そして阿部を指差す。
「……こいつが?変わった?はははははっ冗談よせよブルー!こいつはなんも変わってねえよ。初めて会ったときから一言も話したことがねぇし
、話すところを見たこともねぇ!」
「それは、あんたが」
「いいよ小山野さん」
小山野を制したのはこの日初めてこの部屋で聞く声だ。澄んだ中低音。色気のあるその声は部屋の隅から聞こえた。
「……ブ、ブラックがしゃべってるぅぅぅぅぅ!?」
多田は腰を抜かしその場にへたり込んだ。カクカクと腰が引くついている。
阿部は隅に落ちた謝罪フォンを拾うと真っ直ぐに立った。細身の四肢は綺麗に伸び、とても美しい立ち姿を象っている。
「なんで……、おまえしゃべれんの、黙ってたんだよ」
多田はわなわなと唇を震わせる。
「……だって多田さん少しだあけ面倒だから」
阿部はポケットにしまっていたヘアゴムを取りだしその長い髪を雑に結う。すると透き通った肌の首筋が露わになる。
阿部はそのままちゃぶ台に乗った自分の分の湯飲みを持ち唇につけた。
多田は黙ってそれを見ているだけだった。
「多田さん、これくらいでいいだろ」
固まった多田に小山野が声を掛け手を伸ばす。
「い、いやまだピンクが!ピンクの確認をしてない」
小山野の手を払いのけ多田は女を見る。見て多田はまた固まってしまった。
女は多田のほうに、既に謝罪フォンを向けていたのだ。
そしてそのメモリは、やや、減っていた。
「ごめん、多田くん。私もちょっとは変わっているのかも……」
そういって女は申し訳なさそうに舌を出す。多田は天井を見上げた。
まだ電気をつける必要のない時間の蛍光灯は、どこかもの寂しく見えた。
多田は自分の謝罪フォンのことを思い浮かべる。
画面の右上。そこには確かに、満タンのメモリがあったと記憶していた。