レッド 俺らのヒーロー生活マジ危険信号(レッド) ④
職業『正義の味方』
特別職
日本の平和維持及び世界情勢への影響を最小限に抑えるべく特別設置された職業。
基本的な労働は、日本国公認ゆるきゃら異星人集団『オカスンダー』の局地侵攻パレードでの殺陣による演出補助。栃木県岩船山で行われる、鉱山発掘のための怪人型特殊爆弾爆破の補助作業の二点である。
『正義の味方』は特別職に指定されているが、アルバイトが許可されているらしい。
この職業についての一般公募は行われてはおらず、欠員がでた場合は内閣総理大臣からの推薦、日本国天皇の承認を持って決定される。
現在この職に就くのは五名の日本人。この職が設置されてからの転職者はまだ出ていない。
wikipedia引用
「あの戦いからもうそんなに経つんだな」
小山野は太陽に刺された両目を右の親指と人差し指とで押さえた。
「あそこで侵略星人を倒してたら、俺らは世界に平和をもたらした英雄として崇められてたんだろうけどな」
指で数を数えるのを諦め多田は残念そうに言う。しかしすぐ、
「まぁ、あの時の俺の『名言』のお陰で無益な殺し合いにはならず、こうして楽で高収入な仕事に相成ったんだから、万事問題なしだよな」
と鼻高々に笑った。
小山野も笑う。
「確かに、迷言だったな」
その言葉にも嬉しそうに多田は頷いた。続く「迷言だったね」、「迷言迷言」という周りの言葉も多田は腑抜けた笑顔で受け取っていた。
「あのさ」
その言葉はやけに平坦なものだった、
柔和な空間の中に落とされたそれは誰しもの耳にしっかりと入ってきた。
その言葉を発したのは、真顔の服部だった。
「なんだよイエロー。……いいぜ。どうしてもトイレが使いたくなったんだろ?今の俺は機嫌がいい。好きに使え!ただし、ちゃんと綺麗に使えよ」
多田は服部の表情など気にも留めずに汚い冗談を吐く。しかし服部の表情は上がることも下がることもしない。ただ、同じ顔のまま機械のように言葉を続けた。
「僕、正義の味方を辞めたいと思っているんだ」
その言葉に他の四人は冷気を感じた。
唐突に告げられた服部の言葉。多田は引き笑い気味にぽかっと口を空けた。
「……は、はぁ?」
多田の口からはこの言葉が出てくるのでやっとだった。
多田は服部の言葉の意味は理解していた。しかしそれを受け入れるだとか反発するだの反応までに結び付けることが出来ない。
「僕は、陳謝戦隊を脱隊できないかと考えているんだ」
服部ははっきりとした声で繰り返した。多田の目を真っ直ぐに見る。多田は針のようなその視線から目を逸らした。
「いやいやいや、ないって。ないない、うん。ないないない」
首を捻った勢いで漸く、多田から出た反応は「否定」。
しかし、何を否定するわけでもない。ただ否定を口にすることで考える時間を稼ぎたいのか、場の空気を留めたくないのか。多田の額からは油のような汗が溢れ出していた。
「理由は?」
低い声を出したのは小山野だった。小山野もまた服部と目を合わせようとはしないが、落ち着いた呼吸で服部の返事を待つ。
「そそそっ、そうだよ!理由だよ、理由!!普通に考えてみろよ。こんな楽でいい稼ぎになる仕事、他にねぇだろ!!」
すぐに言葉に乗り掛かった多田は服部を指差した。
また服部と目が合う。やはりその鋭い視線に臆し、多田は俯く。
「……多田さん」
そういうと服部は自らの口に手を当てた。なにか少し迷うように目を泳がせ下唇を軽く噛む。しかしまた鋭い視線を多田に向ける。
「多田さんは、僕が辞めたい理由に、当たりはない?」
その言葉を多田は伏せたまま受け取る。
多田は顔を上げない。
何かを言おうとしているのか、息を吸い体を強張らせるがその度に穴が開いた風船のよう萎む。
「多田さん」
「っ!いや、わかんねぇ。……ああ、わかんねぇ!ははは、全く想像もつかねぇな」
服部の柔らかい声にびくついた多田はそう捲くし立てた。
そして笑い出す。「わかんねぇ、全然わかんねぇ」と繰り返す多田を見て服部は残念そうに息を吐く。
「……そっか、わかった。あのね、実は僕」
力ない微笑みに変わった服部の表情を多田は見た。多田の顔からも笑みは消える。
「もう大分前から、相手を傷付けるような発言とかそういう事が、うまく出来なくなってるんだ」
そう言う服部の表情は、本当に優しい顔になっていた。
陳謝戦隊 マジゴメンダワーは異星人と戦う正義の味方である。
彼らはその超人的な力で、人ならざる悪と戦い続けてきた。
その力の源は『非人道的な行い』である。