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酒と女と、それから酒

 なんとかしてスケアクロウさんと仲良くなろう!

 私がそう思って早2日。

 ……特に進展もなく、私達は無事に最初の目的地である《淡雪の国》イエロドックに辿り着いていた。


 イエロドックは、最初に私が辿り着いたブルーチキンとは違って地面は流石にそこまで温かくはないんだけれども、壁が高くて風もそんなには寒くはないし、薄く紅色がかったように見える淡雪はとても麗らかで、そして艶っぽくの見える。

 良い所だとは思うんだけれども、けれども私にはそれよりも、この臭いの方が気になっていた。


「……どこか酒臭いです」


 と、私が鼻をつまんでいると、「うふふ♡ そうねー♡」と笑みを浮かべつつ、街の奥にある真っ黄色の酒樽のような変わった建物を指差すティンロガーさん。

 その建物は周りにお堀が掘られていて、なんか所々の窓からは大砲やらが出ていて……良くは分からないけれども、なんだか凄そうだと言う事は感じていた。


「あの樽のような建物が見えるかしら? あそこはリキュールグレイノリーと呼ばれる建物よ。

 あそこには私達の目的の魔女ウエストの部下の1人、酒蔵のウイスキーなる大男がいらっしゃるみたいなの♡」

「……ウイスキー? それって敵さんのお名前だったりします? 何か人の名前と言うよりかは、お酒の名前っぽいんですけれども……」

「そりゃあそうよ、だってお酒なんですからね♪」

「……?」


 大男がお酒?

 どう言う意味?

 もしかして、その大男がお酒みたいに、いつも酒臭い臭いを漂わせるような奴と言う意味なのだろうかな?


「……あのリキュールグレイノリーは、かなり堅牢。ウイスキーを倒すためには、調査が必要」


 まぁ、そりゃあ真正面から行って、「はい、倒しに来ましたよー!」「どうぞー!」と入れてくれる方もないですし、侵入するためには情報収集も必要か……。

 ……うん。

 悪い魔女の手下で、その手下の所に行くだけだから、侵入したって悪い事ではない……はずである。

 うん、言うなれば勇者が敵のお城に潜入するとか、そう言うのに近い事に違いない。

 うん、そう。私は別に悪い事をしている訳じゃあないんだから、大丈夫。そう、大丈夫。


「……あれ? スケアクロウさんは……?」

「あらら♡ まぁまぁまぁ♡ まぁ、スケアクロウちゃんにとってこの国は天国だからね♡」

「て、天国……?」


 スケアクロウさんには、ライオネルさんとの仲を取り持って貰おうとお願いしたかったんだけれども……。

 この国は別に悪いと言う訳ではないんですけれども、それでも天国と呼ぶには程遠いと思うんだけれども……。

 人々が吐く息、人々の身体から発せられる体臭、それから空気中に漂う臭いなども、全部酒臭くて、私としては流石にそこまで理想郷とは思いもしないんだけれども。


「どうして、スケアクロウさんは……ここが理想郷なんですか?」

「だってね……スケアクロウちゃんの趣味は酒、だからよ♡」


「あっ、居た!」


 ふらり、と好きだと言う酒の所に行ってしまわれたスケアクロウさんを探していると、近くの酒場でチビチビと酒をすすっていたスケアクロウさんを発見した。


「……ドロテアさん、ですか。私を探して来た……と言う所でしょうか。マスター、そちらのお嬢さんにフロッグを」


 こちらの顔を見ると、すぐさま酒場の店主にそう注文を出して、私の前に彼が注文した飲み物が置かれる。


「これは?」

「大酒呑みと酒豪(ウワバミ)が好まれる酒の国、《淡雪の国》イエロドック。この国では例え年端が行かぬ子供であろうとも酒を飲ませるような教育をしているが、その国で唯一下戸が飲むための、アルコール度数0%以下のお酒さ」

「……あ、ありがとうございます」


 そう言いながら、ほんのちょっとだけフロッグと言う飲み物をちょびちょびと飲んで行く。

 ちなみにスケアクロウさんが飲んでいるのは、この国で一、ニを争う程のアルコール度数が高い酒で、スネークと言う名前のお酒らしい。

 ……全然、全く酔っているような感じがしないんですけれども。

 スケアクロウさんって、お酒に強いのかな?


 うん、普通に美味しい。

 ……美味しいのは美味しいんですけれども、何か仄かにぽかぽかとするような……。


「あの、これってお酒は入ってないんですよね? 全く入ってないんですよね? なんか身体がポカポカと温かくなっていくような気が……」

「温めるためにその手の薬草は入っているそうですが、それ以外には何も入ってない気がするけれどもな。前に一口、飲ませて貰った事があるけれども、確か……遊炎草につまみ虫、イエローワームとかが入ってるかな」


 彼がすらすらと何らかの単語の名前を暗唱して行き、それに対して店主は「すげーな、あんちゃん。完璧だぜ!」と答えていた。


「凄い、ですね。入っている物とかも当てられたし、料理も出来ますしね!」

「……こんなのはただの技能修練と、日々の努力の賜物でしかない。私は剣に魔法、それから料理に地形把握(マッピング)と……まぁ、今の所の仲間達の中では多趣味である事はなんとなく自覚している」

「うんうん。色々と凄いですよね!」


 多分だけれども、スケアクロウさんが居ないと今までの旅は上手く行かなかったと思う。

 何せ、料理からここまでの旅など、スケアクロウさんが居ないと上手く行かなかった事はいっぱいある。

 今だって私は、スケアクロウさんにライオネルさんと会うために話に来たんだから。


「……でもね、ただ(・・)それだけ(・・・・)。ただ多芸なだけで、武芸はライオネルに負けるし、魔法はドロテアさんやティンロガーさん……それに料理やら地形把握に関しても、本場の人間に比べれば微々たる物でしかない。才能、資質、技量やら、能力やら……そう言った事が私には圧倒的に欠けているのですよ」


 「……はぁー」と溜め息を吐いて、グビッといっぱい酒を自分の中に取り入れるように飲むスケアクロウさん。

 そして彼は、こちらを見ていた。


「結局の所は、世の中才能のある奴が得をする世界なのですよ。……才能ない若者は、好奇心旺盛な猫をも殺すような退屈を常に纏いながらも、その退屈を紛らわすために色々とするしかないんだよ。酒と女と、それから酒。この世はそれでなんとかするしかないんだよ」


 はぁー、と酒を飲み干してしまったスケアクロウさんは、さらに強いお酒を注文していた。


 ……あそこまで飲んで、全然酔っ払いもしないって所が、スケアクロウさんの才能だと思いますよと言いそうになったけれども、それを言ったらどうなるかは目に見えているので言わない事にした。


「……はぁー」


 あの後、スケアクロウさんにライオネルさんとの仲をそれとなく取り計らって貰うようにお願い出来た。

 ……とは言ってもあの酒場で知ったのはライオネルさんとの事よりも、スケアクロウさんの事の方が印象的だったけれども。

 まさかスケアクロウさんがそんな事を考えているだなんて、全然知らなかったし。


「まぁ……パーティー的にはスケアクロウよりも、リキュールグレイノリーへの方が重要だったりするのでしょうけれども」


 魔女ウエストの部下であるウイスキーを倒すには、リキュールグレイノリーへと侵入しないといけないみたいだけれども、あそこに入るのはなかなか難しいみたいである。

 スケアクロウさんやティンロガーさん、それにライオネルさんが色々と情報を集めているみたいだけれども、どうすれば良いんだろう?


「ちゃんと旅をしておかないと帰れないのに……。あそこにはどうやって入れば……」


 と、そうやって私がう~ん、う~んと唸りながら考え込んでいると、


「どうした、そこのご令嬢! あの大きな酒蔵の樽に侵入するのならば、この私が力を貸して差し上げましょう!」

「だ、誰……!?」


 そう言って後ろを振り返ると、そこには海賊のようなイケメンさんが居ました。

 漆黒の海賊が被っているような三角帽子にすすれたような長袖のコート。腰にはピストルと刀、それに左耳には美しい翡翠の水晶の耳飾りを付けている、とっても良い感じのイケメンさんだった。


「あそこに入りたいのならば、目的は同じと言う事だな! よし、ここは俺に任せて貰おうじゃないか!」

「……そもそもあなたはどちら様でしょうか?」


 そう聞くと、彼は近くにあった箱に足をかけて、こちらを見て来る。


「俺の名前はジャック・オータン! 魔女ウエストの秩序と言う名の檻をぶち破る、自由を求める海賊だ!」


 彼はそう高らかに宣言していた。

 ……あ、熱い。どの世界にも居るんですね、松○修造みたいな熱い人。

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