パーティー不安だらけ
ブルーチキンの国を出発して早5日。
極寒の雪風がビュービューと吹きながら白い化粧が施された木々達を躍らせるように揺らし、白銀の白雪がしんしんと地面へと落ちていく今日この頃。
私達はブルーチキン近くの森で野宿をしていた。
「はぁー……」
一息溜め息を吐いて、私はこれまでの事を想い返す。
私達はブルーチキンを出発し、魔女退治へと向かった。
まぁ、私がそうなるのは最初から決められた運命以前に、その前の行動も関連付けられていた。
……実は私が燃やしてしまったあのお婆さん、この世を支配しようと企む、恐ろしい魔法を使う魔女だったみたい。
名前はイースト。
ブルーチキンを単独で支配しようとして、私に燃やされてしまった。
可哀想と言えば可哀想だけれども、その魔女がこの国全体を支配しようと企む者だと知ったから許せないと思った。
……だからまぁ、そこまで落ち込んではない、かな?
断じて、自分の行為を正当化したいから納得している訳ではないからね。
ほ、本当だよ!
今から倒しに行くのは、そのイーストと同じく恐ろしい魔法を使う魔女のウエスト。
その者が私達が倒しに行く魔女であり、そのウエストもまたこの世を支配しようと企む、悪い魔女みたい。
とりあえず、私の旅の目的はそのウエストを倒す事……みたい。
とりあえず、難しい話は今の私には凍えるだけなので、考えない事にしよう。
次に私の魔法について。
私の魔法……とりあえず、どう名付けて良いか分からないので火炎魔法と名付けたそれは、私の自由自在に操作出来る事が分かった。
大きさや温度と言う基本的な所から、姿形、それから色まで。炎に関する事ならば、私に出来ない事はなかった。
魔法に詳しい回復術師のティンロガーさん曰く、私は炎に関しては最高位の魔法使いみたい。
それはヤッホーと凄いと思ったけど。
……この世界の服を着ていると発動出来ないのは、私にとってはそれ以上に残念な事だった。
だって、いくら可愛いもふもふのダッフルコートみたいなのを見つけていたとしても、私は魔法を使う時は脱がないといけないのだから。
ちなみに今の私は、ほのかに赤味の付いたもふもふのシュシュが付いた女性用のコートを羽織っている。
ちゃんと靴も履いているし、最初に比べるととっても良いのだけれども、戦闘の時は脱がないといけないし……。
「はぁー……つらい」
「大丈夫かしら、ドロテアちゃん♡」
と、私がもう一回溜め息を吐くと後ろから抱きつくようにして、ティンロガーさんがウフフと笑いながらこちらを見ていた。
「そうやって悩んでいるのは、お肌の大敵でしかないわよ? もしよろしかったら、お姉さんに話して見なさいよ?」
「(お姉さんと言う感じではなく、オカマさんと言いたいのですが……)」
ティンロガーさんは、この5日間の間で私に色々と抱きついたりしてボディコミュニケーションを取って来た、まぁ……良い人です。
たまにする筋肉自慢(それぞれの筋肉の部位の名称を事細かに言われてもどうしたら良いか分からないんですけれども)をしなければ、本当に良い人なのですけれども。
「まぁ、大丈夫、よ♡ もう後少しで第一の王国、イエロドックに着くわ♡ そうすれば、あなたの使命についてもっと納得出来ると思うわ♡」
「……納得はしてるんですけれども」
「そうよ♡ スケアクロウちゃん、食事の方はどんな感じぃ?」
とティンロガーさんがおねえ口調で尋ねると、「……もうすぐです」とスケアクロウさんはそう答えた。
その横で、ライオネルさんが黙々と薪を割っている。
スケアクロウさんは私を保護した時と同じように、素っ気ない口調で話している。
どうにもこれこそが、彼の自然体みたいである。
そんなスケアクロウさんは、森で捕って来た猪のようなモンスターを調理して鍋に入れて灰汁を取っている。
彼が料理をしている理由は単純で、私達の中で一番家事が得意だったから。
ちなみにティンロガーさんは卵焼きがクルッと丸める程度の腕前で、ライオネルさんは料理をするくらいならば薪を割らせている方が良い程度。
……私?
カップラーメンが上手く出来るくらいと言う言葉で察して欲しい。
兄妹が多い家族で、貴族とは言っても田舎で貧乏だったからこそ皆で助け合って暮らしていたスケアクロウさんがその家事スキルを遺憾なく発揮し、料理を最終段階へと進めていた。
ぐつぐつと煮える鍋からは空きっ腹をくすぐるような香ばしい匂いと共に、美味しそうな色合いのスープが今か今かと私達に食べる最適な瞬間へと近付いて行っている。
「もう少しでランブルボアから、美味しい出汁が出ますのでもう少し温度を強めたいと思います」
「じゃ、じゃあ、私が!」
「……いえ、ドロテア様はお気遣いなく」
私がコートを脱いで火炎魔法で温度調節を行おうとしても、スケアクロウさんはそれを断って割られた薪を火炎へと組んで炎を調節している。
(……そんなの、私に頼めば一発なのに)
確かに、今もなお私は魔法を使うためにビキニ一枚になるのは恥ずかしいと思っている。
そりゃあ、そうだ。それは女としてのプライド。
乙女の魂。
そう簡単にほいほい脱いで溜まるもんですか!
それに、ただでさえ今でも服の隙間や素肌の部分に冷たい雪や凍えるような風が当たって寒い。
その上、このコートを脱いで寒空の下に居れば、まず間違いなく今以上の極寒の寒さと言う物を体感する事でしょう。
一応、神様の気遣いと言う形でビキニ一枚でも死にはしないけれども、それでも寒い物は寒い。
その事実は変わらない。
けれども、温度調節くらいならばすぐに済むし、そこまで嫌がらなくても……。
「じゃ、じゃあ、私、ライオネルさんの薪割りの手伝いを……」
「ヒッ!」
「……えっと、薪を置くくらいならば……」
「(ガタガタガタガタガタ……)」
「……(あぁ、もう!)」
と、私は心の中で地団太を踏む。
ライオネルさんとは……あまり仲良くなっていない。
いや、スケアクロウさんもそれほど仲が良いと言えないかも知れないけれども、ライオネルさんのように話しかける度に震えられているんだから、まともに会話にもなりはしない。
あの猪のような魔物や他にも、出て来た魔物を槍で瞬殺している所を見ると、相当な実力者である事は分かるんだけれども、どうしてそこまで強いのに怯えたり、吐いたりするのかが分からない。
私やティンロガーさんがいくら話しかけても、震えたりしてまともに話にならない。
「ライオネルさん、お皿を」
「(コクッ)」
唯一、話が通じると言うか、会話になるのがスケアクロウさんだけれども……。
「え、えっとスケアクロウさん。ライオネルさんとお話が……」
「したいのならば、ご自分で話しかけたらどうでしょう?」
そう言って、ライオネルさんとの仲を取り持ってくれない。
これが今の私達のパーティー。
はっきり言って、まともな連中の旅とは思っていない。
今、私とちゃんと話をしているのはティンロガーさんくらい。
(せめて仲良くはしたいんだけれども……)
スケアクロウさんは私がこの世界に降り立って初めて出会った人。
それだけに、仲良くなりたいと思っている。
ライオネルさんも、このパーティーの中で……肉体的には同じ女性(精神的も含めるとティンロガーさんも含めるので)なので、仲良くしたいんだけれども。
よ、よーし!
まずはスケアクロウさんと仲良くなろう。
その後で、ライオネルさんと仲を取り計らって貰いつつ、パーティー全体が良い雰囲気になれれば良い!
そう、それでは早速……
「はぁい♡ ドロテアちゃん、スケアクロウちゃんの料理、完成したわよー!」
「わぁい! いただきまーす!」
……まぁ、まずはこの美味しい料理を食べ終わってからでも遅くはないでしょう。うん。
そう思いながら私は、香ばしい香りと温かい湯気が立ち上る、その猪スープを食べ始めるのでした。
「猪ねー♡」
「……猪、ですかね」
「……ボア」
……?
私の食べ方、何か変ですかね?
普通に、スープを残さず飲むために皿を持って口から中へ入れているだけですけれども?
……後で聞いたら、私の皿を持ってスープを飲んでいる時の顔から、猪のような迫力を感じるのだとか。
こんな美少女を捕まえて、猪とか失礼しちゃう!