曲者揃いの仲間達
「紹介しておこう、これが《マヨイビト》であるドロテア様の旅をお助けする3人の仲間である。1人ずつ説明しておきましょう。
左からあなたと一番最初に会って印象も良いであろう衛兵のロウ・スケアーク、国内随一の治癒魔術師のティンロガー・ハート、そしてブルーチキンでも随一の槍の名手である女騎士であるライオネル・リドングです。さぁ、どうぞ」
国王様から紹介をさせて貰いましたが、私はそれよりもスケアクロウさんの本名が知れた事が一番の収穫だと思いました。
「――――――国王様から紹介がありました、スケアクロウです。この度はドロテア様の手助けになれて嬉しいです。はぁー……」
私の前に現れたスケアクロウさんは、そう言いながら小さく溜め息を吐いていました。
「どうかされたんですか」と私が話しかけると、「あなたの使命のせいですよ……」とスケアクロウさんが答えてくれました。
「《マヨイビト》様の使命は、私達の国の命運を左右する物です。
そしてあなた様の使命である『魔女退治』と言うのは、相当危険な旅になる事、請け合いなのですよ……」
「え、えっと……どれくらい危険な旅になりそう、ですか?」
と、私が聞くと、「龍を退治するのとどっちが楽かと言う質問です」と答えられて、私はそれでどう言う話なのかを理解しました。
……神様、私にその使命は酷だと思うんですけれどもと、私は運命とやらを呪いたくなった。
「オーケー、スケアクロウのボーイ♪ 私の事も紹介してい・た・だ・け・る♡」
と、横に居た男性、確かティンロガーさんがそうスケアクロウさんの肩を掴みながら、そう言う。
その馴れ馴れしい態度よりも、私は彼にちょっとビビっていた。
何故かと言うと、ちょっと個性的な人だったからである。
「……紹介します、ドロテア様。この方、このブルーチキン内でも一、二を争う男性の回復術師のティンロガー・ハートさんです」
「紹介にあった、ティンロガー・ハートよ。気安く、フレンドリーにハートちゃん、とでも呼んで貰えると嬉しいわぁ♡」
そう言って、彼は引き締まった筋肉を見せつけるようにして膨らせます。
彼の容姿を簡単に語るとすると、マッチョな筋肉質の男性です。
まぁ、それだけならばそれほど気にする事も無いと思うんですけれども、重要なのは彼が着ている真っ赤なドレスです。
……そう、彼は真っ赤なドレスを上半身が破けるくらいに着込んだ、所謂変態のボディビルダーだったのです。
今も、自慢であろう筋肉を膨れ上げるようにして見せつけて、なおかつうっとりしています。
私の知る知識に照らし合わせて、彼の事を説明しようとすると、女性服を無理矢理着ているボディビルダーです。
何も変わっていないように見えますが、これが私が彼を直視出来た最期でした。
……とりあえず、あまり深く関わらないようにすれば大丈夫でしょう。
うん、気を付けよう。
特に背後辺りに。
「もし、旅の最中に怪我をしたら、私の方で回復してあげるから、じゃんじゃん、こっちに来て頂戴ね~!」
「ティンロガーさんは、国民から『印象に残る、最高の回復術師』と呼ばれており……最も優秀な回復術師ですので、旅に役立つと思われます」
……それはどう言う意味で印象に残ったのか、ちょっと聞いてみたい所である。
「あら~! 良い事言ってくれるじゃない、スケアクロウちゃん! 今度、持病の胃もたれを直してあげましょうか? 仲間なんだし、無料で良いわよ~?」
「……旅で倒れるようになったならば、検討します」
スケアクロウさんも、即座に返答しないと言う事は、相当変だと思われてるんだ。
ドレスを着た、マッチョなボディビルダーが、この国で一番の回復術師なんて……。
どうなっているんでしょう、この国はと私は心配になって来た。
とりあえず、怪我をしたらこの人のお世話になるかと思うと、怪我をしないように気を付ける事になるでしょう。
「オー、イエス! 私の身体はいつ見ても美しい……」
……無視しましょう。
「さて、最後の方はブルーチキンでも有数の槍の名手、女騎士のライオネルさんです」
「……スケアクロウさんから紹介に預かりましたライオネル・リドングです。若輩者ながら《マヨイビト》様のために全力を尽くす所存であります」
そう言って頭を下げてくれたのは、3人の中で唯一同性である女の人だった。
髪は紅くてさらさら、気の強そうなクールな瞳も素敵だし、なおかつ着ている銀色の甲冑とかの姿勢が堂々としていて、本当に頼れそうな人だなと言う印象が私の中にあった。
「よ、よろしく、ライオネルさん」
「……つきましてはこれから魔女退治を行うために、《淡雪の国》イエロドック、《結晶の国》グリオキャット、《雪山の国》レッドアッス、《氷柱の国》シルバーハウスと言う魔女が支配する4つの国を抜けねばなりません」
私が手を差し出しても、ライオネルさんは頭を下げたまま、言葉を続けていた。
「……《砕氷の国》ブラックシーフに着いて、初めて使命である魔女退治が果たされると思われますが、その前に4つの国を通りつつ、そこに居る魔女の配下に」
「えっと、ライオネルさん?」
そう言って、私がライオネルさんの顔を下から覗きこむと、そこには汗をだらだらと流しているライオネルさんの姿があった。
「つ、つきましては、本日もお日柄もよく!」
「ライオネルさん! 緊張し過ぎ! そこまでしなくて結構ですから!」
「い、いえ、《マヨイビト》様に対して粗相を働いてはならないと言うのが、我がリガンド家に生まれし者の宿命なので、お気になさらず! えぇ、是非ともお気になさらずに!」
私が緊張しないで良いと言っても聞いてくれずに、今度は目を回らせるライオネルさん。
(……緊張し過ぎでしょ)
自慢の肉体美を今も確認しているティンロガーさん。
緊張のしすぎか、既に吐いてしまっているライオネルさん。
そして、どうしようもない顔で溜め息を吐いているスケアクロウさん。
「これで、大丈夫なのかなー」
「仲間との挨拶はお済みになられましたかな、ドロテア様」
と、国王がそう尋ねて来る。
それに対してコクリと1回頭で頷いて返事を返すと、国王は近くに居たあのエロバカ……失礼、文官の1人に声をかけると、文官は他の仲間達と共に外に出て行ってしまわれた。
「あの……これから何を?」
「何、国民の前で《マヨイビト》様のお姿を拝見させようと言うだけでございますよ。《マヨイビト》様の旅立ちの姿は、どこをどう見ても良い物ですからね」
「それって……つまりは……」
「はい。《マヨイビト》らしく、我が国のお召し物は取って貰うつもりです」
つまり……今から私は、ビュービューと寒い風が吹く極寒の雪化粧が施された外で、この国の大観衆の前であのビキニ姿をお見せしないといけないって事!?
『うむ、皆のものよ! こちらが《マヨイビト》のドロテア様だ。皆様、拍手喝さいして欲しい!』
『ドロテアです! よろしくお願いします!』
……ダ、ダメだ。
どう考えても、このビキニ姿で皆の前に立つなんて出来ない!
ビキニとは見せるための物ではあるが、断じて極寒の寒空の下で王様に紹介されて出るような格好ではないはずである。
そう、お笑い番組でない限り!
これ、ドキュメンタリーだし!
……う、うっ。
想像しただけでも、寒さと悪寒とプレッシャーが……。
「ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ……」
と、後ろであまりのプレッシャーのためか、さっきよりも盛大にライオネルさんが吐いてしまわれて、私はそれを見て「これだ!」とピンときた。
「国王様! 仲間の1人の様子が悪そうなので、お披露目せずに出発したいと思います!」
「こ、国王様……。それにドロテア様……。私の事はお気になさらずに……うっ! ゲロゲロゲロゲロ……」
「い、いえ、本当に駄目そうなので早速出発したいと思います!」
私がそう強く言うと、国王様もライオネルさんの様子を見て、
「……そうだな。ライオネルさんの身体は大切にすべき物だしな。
よし、では《マヨイビト》の旅立ちの件はこちらで話を付けて置こう! スケアクロウ、お前が皆様を目的地まで案内するのだぞ!」
「はっ! 勿論です、国王様!」
「ティンロガーよ、傷一つなく旅を安心にさせるのだ!」
「はーい♡ 分かってるわよ、国王様ぁ♡」
「……ライオネル、身体には気を付けてな」
「……勿論です」
国王様はそう言って3人の仲間にそう言って、私を見て、「皆を頼みます」と言って出て行かれた。
その後ろ姿からは本当に気品と言うか、王様らしさを感じました。
あの3エロバカの上司なのに。
「さて、スケアクロウさん!
案内頼みます!」
「はい、では裏口から参りましょう」
私の言葉にスケアクロウさんはそう言って、一人前進し、後から私達が付いて行く。
「……あの、ドロテア様」
「ん……?」
と、私が付いて行っている最中に、ようやくゲロから解放されたらしいライオネルさんがこちらに近付きながら頭を下げる。
「……私のせいで貴重な演説の、旅立ちの言葉をさせる事が出来ずに申し訳ございませんでした」
「き、気にしてないから! ライオネルさんもそんなに畏まらないで良いからね!」
「……分かりました。出来る限りそうさせてもらいます」
そう言ってニコリと笑うライオネルさんが、遠くではなく、近くに感じた。
今まではどこか人を避けているような印象だったけれども、これで仲良く出来ればなと思う。
まだプンプンと臭っているゲロ臭さで、近寄りたくはないけれども……。
「それにあなたのおかげで、助かったからね」
「えっ……?」
私がそう言うと、キョトンとするライオネルさん。
まぁ、彼女のゲロのおかげで、私が大観衆でのビキニ視姦プレイから避けられたと思えば安い話である。
こうして私達4人の珍道中と言う、魔女退治の旅は始まりを迎えた。
……本当にこんなメンバーで大丈夫だろうか?
作者のアッキです。
この話で「極寒なのにビキニ一枚」の第一章は終了となります。次回からは第二章で、次の国に入っていきます。
この作品は未だ考え中先生原案の作品ですが、自分でも頑張りつつやりたいと思っているので応援よろしくお願いします。
次回は1章のまとめをしますが、それでは面白くないので、他の人のアイデアの「もし極寒の世界に現れたのがボディビルダーだったら」という形で1章を振り返りたいと思います。
では、また次回にて。
ここまで読んでもらい、ありがとうございました。