価値観が違うかもしれない
《結晶の国》グリオキャットへと無事に辿り着いた私がまず初めに驚いたのは、その国の景観である。
「なに、ここ……♪」
私の声は少し上擦りの声になっていたでしょう。
だって、それだけその景色が素晴らしいんだから、しょうがないじゃない。
床はエメラルドで出来た大理石、壁は赤く輝くルビー。
街の真ん中にある噴水の中にはびっしりとサファイアが敷き詰められていて、街灯の灯りにはダイヤモンドが使われている。
街の至る所で宝石、宝石、宝石! まさしく結晶の……いや、宝石の国と言った方が正しいかもしれない。
「なんか幻想的って言うか……宝石がいっぱいで素敵な国ですね」
「そうよね~。本当に良い国よね~」
ティンロガーさんも同感みたいであり、私もこの国は気に入っている。
眼が痛いと言う点を除けば、本当に良い国だと思う。
「はい、グリオキャット印の眼鏡。無料でもらえたから、ドロテアさんもどうぞ」
「うん、ありがとう。スケアクロウさん」
と、ここまでの道中で少なくとも普通に話せるようになったスケアクロウさんから眼鏡を貰う。
ティンロガーさんとは(精神的に)同性だから話しやすくなったから、後はライオネルさんと仲良くなりたい所なんだけど、相変わらずライオネルさんはいつもビクビクと怯えていて、あまり話し辛い。
「うわー、とっても見やすい」
確かに見やすくはなったけれども、スケアクロウさんがくれたこれ、ただのサングラスでしょ?
いや、フレームにもなにか良く分からない黒い宝石が埋め込まれているのを見ると、かなりの値段が付くに違いない代物である。
こんなのを無料で配っている国ってどうなの?
「ほーい、ルシャミトンでは宝石入り豚の丸焼きを売ってますよー。安いよ、安いよー!」
「宝石野菜、各種取り揃えてるわよー!」
「宝石芋ー、お芋だよー」
「宝石付きの家財道具をお探しならば、ジャラミンまでお越しくださいませー!」
「……なに、この国」
宝石が、綺麗で高価で美しい宝石達が、まるでおまけみたいな扱いをされている。
「なにって? いや、こう女性が美しくなるために宝石が揃えられてるって良いって思わない、ドロテアちゃん?」
「いや、良いとは思うけど……」
こうして見ると、やっぱり異世界なんだなと感じる。
最初の国もお酒だらけで異世界なんだなと感じたけれども、私自身がそこまでお酒に興味があった訳じゃないからそこまで感じなかったけれども、宝石が多くある世界ってこう言う感じなのだろうかと思う。
確か前にニュースで、空き家が多すぎるせいで不動産屋さんが価値化が暴落して迷惑していると言うニュースを見たけれども、それと同じで前のイエロドックもそうなんだけれども、この魔女の部下が治めている国はそう言う傾向が強いと思う。
「どうしたの、一緒に買いにいかない?」
「……う、うん。私、行かないで置く」
一緒にお買いものしないと言うような軽い返事で、多分元の世界で同じようにティンロガーさんに誘われていたら、多分私はその誘いに乗っていたと思う。
けれども、この世界がただ物に溢れているだけで、住人達は魔女の部下の力によって可笑しくさせられているだけなんだろうなと考えると、なんか気持ちが冷めてそう言う雰囲気じゃなくなっていた。
「そう? じゃあ、私は見て来るわね。欲しい宝石とか売っているかしらー♪」
きっとこの国の人達は魔女の部下の魔術とかで操られていてこんなに宝石だけをいっぱいかき集めているだけで、この前の国の人達だって酒を魔術でいっぱい作らされているのかもしれない。
けれどもお酒を飲んで楽しんでいたスケアクロウさんも、宝石を買おうとしているティンロガーさんも、どちらもこの国の人達ではないから魔術にかかっているとか関係ないのかもしれない。
そう考えると、魔女の支配を異常と思えない事こそ、一番心配すべき所かもしれないと私は思う。
「じゃあ、後で合流しましょう。ドロテアちゃん、スケアクロウちゃん、ライオネルちゃん」
そう言ってニコリと笑いながらこちらを見るティンロガーさん。
――――――私がティンロガーさんの姿を最後に見たのは、それが最期だった。




