酒蔵のウィンキー
水路はと言うと燃えやすすぎる《ウィンキーレル》が流れてはいたけれども、人が4,5人入ったとしても問題ないくらい広くて普通に歩けたもので、私達は悠々とその中を歩く事が出来た。
一番前をティンロガーさんが歩いていて、その後ろを私(にしがみ付いているライオネルさん)、そして一番後ろをスケアクロウさんが警戒する為に歩いていた。
「ガタガタ、ブルブルッ……」
「ちょ、ちょっとライオネルさん。掴みすぎないでくだ、さい!」
震えながら私の服の裾をしっかりと掴んでくるライオネルさんに対して、私は止めて欲しいと言うんですけれども、ライオネルさんは涙目で口からよだれを垂らしながらぶるぶると震えていました。
私、この毛皮のコートの下はビキニしかないんですから、燃えてしまうと私、コートだけしか着てない事に成るんですけれども……。
(そ、それに、もしそのビキニがないと、私、魔法を使う時は真っ裸にならないといけないじゃないですか!)
ただでさえ、ビキニ姿と言うのも恥ずかしいのに、これ以上恥ずかしくなっちゃたら私、生きていけない! だからあの燃える水には注意したいんですけれどもライオネルさんが抱きついているから、かなり動き辛いんですけれども!?
「……しっ! 皆、ちょっと静かにしてねぇ♡」
「「は、はい!」」
こちらを見ながら「うふん♡」と嬉しそうに笑い掛けるティンロガーさんに対して、私達は何も言えなかった。
と言うか、黙ってなかったら私達はティンロガーさんに何かされていたと本能がそう感じたので。
「ほら、あそこを見てぇ~」
ティンロガーさんに言われて、私とスケアクロウさんはティンロガーさんの言う窓から中を覗いて見る。ちなみにライオネルさんは怖いからと見ないみたいだけれども。
私達はティンロガーさんが言うように中を覗いてみるも、そこから見えるのは綺麗な観葉植物や升みたいな灯りがあるだけで、特に可笑しな所はないんですが……。
「ほら、そこじゃなくて……あっち~! あっちぃ~♡」
……どうでも良いんですけれども、そのティンロガーさんの台詞は色々とアウトっぽいかなと思うんで直した方が良いんでしょうか?
「あっ、あれですよ。ドロテアさん」
「えっ? どこどこ?」
「ほら、あれ」
と、スケアクロウさんに指差した先には全身氷のデブッと太った身体のおっさんが椅子に座って、まるで浴びるかのように酒を飲むおっさんが居た。
常に毛皮のコートを着ている飲んだくれのおっさん、その手には満杯だろう酒が入っている大きな大きなとっくりを持っていて、ゴクゴクと酒を口へと流し込んでいた。
『カッー! 良いねぇ、すっごく良いねぇ。この燃えるような酒はやっぱり浴びるほど飲むのが一番だ。やっぱり酒って言うのは燃えるくらい、熱くなるくらいじゃねえと、ダメだねぇ。酒と言うのはやっぱり量じゃなくて質だなぁ、そう燃えるくらい、熱い、熱い酒じゃねぇとな』
そう言いながらそのおっさんはガハガハと笑いながら、ゴクリゴクリと酒を浴びるくらい飲んでおり、その隣では氷の身体の人間達が大きなとっくりを持って立っていた。
「あれが酒蔵のウィンキー……」
「そうでしょうね……」
確かにこの世界は異世界で色々な人は居ますけれども、全身が氷で出来た人間なんて今まで一度たりとも見た事がないですし。
その氷の身体を見て、酒蔵のウィンキーさんはやっぱり普通の人じゃないんだろうなと思っていました。
「あのぶ厚い氷の身体には、私の弓矢とかは効かないでしょうね」
「となるとライオネルさんに行ってぇ、貰いましょうかねぇ♡」
スケアクロウさんが自分の攻撃が効かないだろうなと言って、ティンロガーさんはライオネルさんと戦う事を提案する。
(けれどもライオネルさんは……)
私はライオネルさんへと視線を移すと、
「……おぇぇぇぇぇぇ~」
あっちの方で、ライオネルさんはゲロを吐いているんですけれども大丈夫なんでしょうか?
「「氷の身体……」」
「えっ? ちょっ!?」
なんかスケアクロウさんとライオネルさんの2人が、私の方を見ながらじりじりと近寄って来るんですが……。それに手をわしわしと動かしながら近寄って来るのが、とっても怖いし。
「えっ!? ちょっと!? スケアクロウさん、その手でコートを脱がさないでもらえませんか!?
ティンロガーさん、「女は度胸よぉ~!」とか言われてもあなたは女じゃないですよね?!」
「けれども脱がせないとねぇ♡ そうじゃないとぉ、あなたの使命は果たせないしぃ♡」
「……ドロテアさん、何事も経験です」
(う、うぅ……)
私が人生最大かと言う決断を決めようかと言うその頃、後ろではライオネルさんはまだ吐いてしまっていた。
「おぇぇぇぇぇぇ……」
「大丈夫ですか、ライオネルさん?」
と、スケアクロウさんはライオネルさんが背中を擦っていた。
けれども私から言わせると、そんな事よりも
「ど、どうしてここで私が、ビキニ姿にならきゃいけないんですか!?」
その事の方が重要だった。




