スケアクロウとライオネル(2)
今回はライオネル視点です。
ライオネル・リドングはブルーチキン国王ノースの命によって、《マヨイビト》の風野ドロテアのパーティーメンバーの1人として旅をしている。
元々、彼女は武門の家系に育った女であり、ドレスや踊りと言った女らしい事は一切させて貰えずに、槍の鍛錬などを中心に習った。
ライオネルが強くなると家族全員が喜んでくれるし、何より彼女自身も強くなる事に喜びを感じつつあった。
東に強大な魔物が居れば、行って成敗し。
西に強い武人の噂を聞けば、行って相対する。
南に将来世界の敵となるだろう魔物の話を聞けば、育ててから戦い。
北に才能溢れる者が居るならば、開花させてから勝負する。
一に戦い、二も戦い、三、四も戦い。
そんな戦いの事しか考えていない、それがかつてのライオネルであった。
そうして強くなった彼は父と兄の勧めにより、王国の騎士団に入隊して、その強さを元手に騎士団でもどんどんと上へとのし上がって行った。
それと同時に、戦いしか頭にない彼女には政治的な取引とかが得意でない彼女はライバルによる妬みや恨みによる誘導に気付けずに、失脚して行ったのでそこまで高い地位には立てなかった。
誰もが知るくらい強かった彼女は、高い地位には立てなかった。
けれども、地位には興味がなかった彼女にはどうでも良かったからである。
そうしてどんどんと強くなっていく彼女に人々は付いて行けずに、段々と離れて行くばかりだった。
彼女は別にそれを悲しいと思わなかったからそれでも良かったようである。
そうして彼女なりに平和に過ごす毎日の中、1つの出来事に出会ってしまった。
魔女イースト、そうドロテアが後に倒す事になる魔女との邂逅である。
イーストと呼ばれたその魔女はライオネルを目障りに思った魔女は、ライオネルに魔法を仕掛けた。
そう、『勇気』を、何かと戦うと言う感情を失くした彼女は、戦いを拒否してしまうようになったのである。
いや、勝負と言う事自体が苦手になってしまった。
両親はその事について痛く悲しみ、そうして彼女を無視する事が多くなっていった。
元々、ライオネルの事をあまり快く思っていなかった騎士達は彼女の事を快く思わずに離れて行くばかりだったのだけれども。
そんな中で唯一彼女の事を理解したのが、スケアクロウである。
誰もがライオネルから離れて行くのにスケアクロウだけが彼女の事を心配し、それとなくではあるけれども彼女の事を心配して色々と世話をしてくれたのである。
「めんどい」、「あぁ、疲れる」、「なんで私ばかり……」と色々と文句を言っていたが、それでもスケアクロウはライオネルから離れるような事はなく、その事に対してライオネルは本当に嬉しく思うのでした。
☆
「あ、あぅ……」
――――――そんなスケアクロウさんが、私の膝の上に乗せてるんですが!?
「え、えっと、ティンロガーさん?! あまりのストレスでは、は、はは、吐いちゃいそうなんですけども!?」
「吐いちゃあ、ダメですよ~。ライオネルちゃん~?」
うふふ、と笑うティンロガーさん(男)。
その顔は本当に女の私から見ても、見惚れてしまいそうなくらい可愛らしいです。
あぁ、本当に私もあれくらいの笑顔が出来ればもっと人付き合いが上手く出来るんですが……。
「……あっ、無理ですね」
ドヨーン、と落ち込む私。
「だ、大丈夫、ライオネルちゃん!?」
「え、えぇ……ダイジョウブデスヨ」
ただ、私には一生かかっても、あんな笑顔は出来ないなと思ったら、
「……笑顔が出来ないくらいなら、死んだ方が良い」
「うちに運び込まれた事のあるどの重症患者より、絶望めいた顔しちゃってるわよ! 女の子がそんな顔はダメ! 私だって女の子なんだから、そんな顔をしてないでしょ!?」
……ライオネルさんは心は乙女ですが、身体はマッチョな男性なんですけれども。
「私には(身体が男性でないので)、そんな笑顔は出来ません!」
「諦めちゃ、ダーメ♪ 何事もチャレンジよ! そうすれば、(性別と言う)一線の壁くらいすぐに超えられるわー♪」
「そ、その一線の壁って……」
いや、いくら戦闘バカと呼ばれてもしょうがないような半生を送っていた私だって、一戦の壁の意味くらい分かる。
あ、あれでしょ? コウノトリが運んで来たり、キャベツ畑だったりするあれでしょ!?
「だ、だだ、大丈夫です、ティンロガーさん! わ、私、そんな(スケアクロウさんとの)一線の壁を越える気とか全然なくて……//////」
「諦めちゃ、ダメよー。ライオネルちゃん♪ 女はいつだって、身も、心も、裸になる準備は出来てる物よー!」
「わ、私、そんな見せられるような身体してません!」
練習をサボっていたから、上腕二頭筋とか、腹筋とか、それから背筋とか……絶対に前よりも落ちてブヨブヨになってるよー!
こ、こんな情けない姿、見せたくない!
け、けど、鍛えようにも、スケアクロウさんを膝の上に乗せているから、動けないですし……。
「せ、せめて、足のふくらはぎのブヨブヨを失くすために、足を高速で振動させると言う鍛錬術、ビンボウユスリを!」
「止めなさい、ライオネルちゃん! それは親から禁じられた、禁断の方法よ!」
確かにティンロガーさんの言う通り、私はビンボウユスリを両親から禁じられている。
ふくらはぎをベストに保つための良い方法だと思ったんですが、何故か家の床を踏み壊してから硬く禁じられています。
「で、でも、私が今出来るふくらはぎを鍛える方法はこれくらいしか……!」
「でも、ダメよ! あなた、兵舎でそれを使って床を踏み壊したって噂になった事があるでしょ! ダメよ、絶対させないから!」
ティンロガーさんはそう言うが、私だって……こんなブヨブヨとしたふくらはぎはスケアクロウさんに見せたくない。
せ、せめて以前のような、鋼鉄を思わせるような脚にしなくては私の気が収まらない!
「だ、だったら、すぐにでも!」
「や、止めなさ……!」
「う、うぅ……」
「「…………!」」
私達の言い合う声がうるさかったのか、スケアクロウさんが起きようとしている!
「あわわ……! ティンロガーさん、どうしたら……って居ない!」
慌ててティンロガーさんに助けを求めるも、そこにティンロガーさんの姿はない。
どうやら、ドロテアさんの所に行ってしまわれたみたい。
「う、うぅ……//////」
ふくらはぎを鍛えられなかったのは残念だけど、今はこの真っ赤になってしまった顔を見られたくなくて、どうにかしようと私は必死に考えていた。
【ビンボウユスリ】
数代前の《マヨイビト》が広めたふくらはぎを鍛える方法。椅子に座って背筋を伸ばし、足をその場で音を鳴らすくらい激しく上下に運動する事によって寒さをこらえながら、ふくらはぎを鍛えるために使われる。
ただし、ライオネルのような本気の武人がその方法を用いると、足の脚力で床を踏み抜くケースが多いため、使用禁止の者が跡を絶たない。




