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酔わせる薬

「HA・KA・SE!」

「どうした断末魔みたいな声出して」

「できたんですよ、例の薬が……」

 妖しい含み笑いを見せるユーリは懐から紫色の発光する液体の入った試験管を掲げだす。それをフランは期待しない顔で見た。

「何の薬だ?」

「例の薬ですよ」

「例のってお前いつもそう言っているじゃないか」

「私は沢山、いろんなのを作りたいんですよ。で、何の薬だと思います?」

 イヒヒと笑うユーリに、フランは期待しないように答える。

「性転換の薬か?」

「ぶっぶ~! イヒヒ! 車が止まりましたね、どこかな? あーっ! 博士の口元ですね、ほら邪魔だってぶっぶ~って言ってますよ! イヒヒヒヒ!!」

「分かってるよ。お前、その笑い方どうにかできないの?」

 それにユーリは愕然とした顔で驚いた。

「まさか、こと笑い方で博士に指摘を受けるなんて。あんたも大概でしょう?」

「俺はあんまり笑わないからいいの。で、何の薬?」

「まぁもったいぶるのも趣味が悪いですしね、実践してみせます。ではこれを飲んでください」

「今割と大切な作業中だ。何の薬かせめて言え」

 ユーリはつまらねえなぁと口の端をゆがめつつ、意気揚々と言った。

「これは! 『飲んだ人を絶対に酔わせる薬』!! これで愛しのお姉様だろうと可憐な妹だろうと、グフッ、グフフフフ……」

 心底楽しそうに何かを企むユーリを、フランは退屈な眼差しで睨む。

「それでどうするんだ?」

「酔った人間はね! 無防備なんですよ! 無謀に無防備なんですよぉ! イヒヒヒヒ!」

「お前酔ってない?」

「私はいつもこうです! 酔わせりゃ多少強引なことをしても罷り通るんですよ! よってれば合意です! 合意エッチです!」

「ああ……おう……そういう倫理観のなさが天才たる所以なんだろうな」

 適当なことを言ってフランは誤魔化し、その薬をひったくった。

「酒に強い俺が飲めば証明されるってわけだな?」

「ええ、そうです。じゃ、乾杯ということで」

 ユーリは平然と同じ色の液体が入った試験管を取り出す。

「……おいお前それ」

「いいですか、こういう言葉があります。記憶喪失、皆で酔えば、怖くない」

「それお前、赤信号……」

「かんぱーい!」

 勢いに任せて飲むユーリに負けじと、フランも一気にそれを煽った。

 ここで注釈させてもらう。

 酔うと言えばアルコールによる酩酊状態のことを一般的に言うため、この薬にもアルコールのようなものがあると思われるかもしれない。

 が、これはコメディーで化学薬品ではなく魔法科学薬品なのでそういうのは一切ない。酔うと言えば酔う! 根拠はない! それが魔法科学!

 そんなことを言っているうちに、二人はすっかりへべれけだった。

「おお……確かに……くらくらしてきたぞ……」

 滅多に酔わないフランは一瞬視界が歪むのを感じたが、それは束の間。ただ冷静な彼には珍しく、異様なほど明るく楽しい気分になってきている。

 普段からうるさく楽しいユーリに至っては、彼の比ではない。

「イヒヒ……イヒヒ? イヒヒ! イヒヒ! イヒヒ!」

「おいおい、何の儀式だ? 何を呼び出そうとしている?」

「これが笑わずにいられるってんですかァ!? 私酒とか滅多に飲まないからこれも久々なんですよ! イヒヒ! イヒヒ!」

「気持ち悪っ! ガハガハガハ!」

「で、出たー! フランさんのガハ笑い! イヒヒヒヒ!」

「ガハガハガハ!」

 特に意味もなく二人は変な笑いをイヒガハと続ける。

 やがて二人は笑い過ぎて涙を流し、そしてユーリが言う。

「実はですね、イヒヒ! 私酒に酔ったらしたいことがありまして!」

「おうなんだなんだ? 言ってみろ!」

「運転です! 飲酒してない運転ですよ! イヒヒヒヒ!」

 当然、飲酒して運転してもいいが、飲酒して少しでも酔ったら運転してはいけないので、二人が運転してはいけない。

 だがアルコールも出ない! 酒も飲んでない! 法的には運転が許される!

 普段のフランなら止めるだろうが、今のフランは口元をだらしなく開いていた。

「おういいぞいいぞ! 俺を助手席に乗せろーい!」

「イヒヒヒヒ! 行きませう行きませう!」

 二人は既に白衣を着ているのに、もう一枚ずつ白衣を重ねて、外に出た。


 当然のことだが、フランとユーリは車なんて持っていない。

 だが二人の研究所はドグラマグラ暗黒教団(国名)のソネミタ村の外れにある。そしてソネミタ村には車があった。

「イヒヒヒヒ ! この車を盗みますよ!」

「ガハガハ! いいぞいいぞやれやれ!」

「う、うわー! やめてくれ!」

「まだローンが……」

 とある善良な村人の家から車を奪い取ったユーリとフランは、それに乗り込む。

「ひゅう! ヨトタのミニですよ! このブルーのメタリックが強く壮麗で美しい私にピッタリンコ! イヒヒ!」

「よーしやれやれ! 飲酒してない運転だ!」

 ぶるんぶるんとエンジンが響き、村人が車の扉やらフロントガラスやらにくっつくも、気にせずユーリはアクセルを切った。

「あ、今、人……」

「イヒヒヒヒ! 止まりませんよ! 私は! 今の私はモダンでストレンジなカウボーイです! イッヒヒヒヒヒ!」

 フロントガラスに赤い何かがつくが、二人の目にはもう何も映っていない。

「さあさあ乗りあかしますよ! 今夜はオールナイトドライビン!」

「おう、俺はもう気にしない! 酔う奴もう一つくれ!」

 フランも少しは事態の悪化を危惧したが、その結果何も考えないことにした。

 二人の狂人科学者の暴走はまだ止まらない。


 ソネミタ村壊滅の報せが教団本部に届くのと別に、ドライブしてそのまま二人は教団(国名)首都であるヒサクに辿り着く。

「いえーいいえーい! ……あれ?」

「車、止まってんじゃねーか! ガハガハガハ!」

 べこべこに潰れ、人のいろんな体のパーツがこびりついた車はそこで乗り捨て、二人は少しの人が見守る中、公道のど真ん中に突っ立った。

 石畳が敷かれた公道の周りにはバザールのように両際に多くの人々が店を開いている。

 そんな店主とお客の注目を集めながら、フランとユーリはまっすぐ宮殿に向かって歩く。

「イヒヒ! これからどうします!? 私も今は無計画ですの!」

「俺さ、したいことがあるんだ」

 フランが珍しく、酔っているにも関わらず真面目なトーンで語る。その瞳は普段よりも物憂げでどこか儚い。

「な、なんですかなんですか!? やめてくださいよガチムードは!」

「そこに、奴隷商があるだろ?」

「え、ええ、えーびーしー」

「リザードマンの男、買いたいな」

 今のフランの(ほほ)が赤いのは酔っているからだけではない! それはまさしく恋する乙男(おとこ)(アクセントはとのところにある)!

 フランはアンデッド族の男にして、リザードマンの男しか恋できない異常性愛者! 故に性転換する薬を作ってリザードマンの女を失くし、子を繁栄させる薬を作る約束をしてリザードマンと肉体関係を持とうという野望があった!

 だから今まで清い体を保っていた! それを、その禁忌を今彼は犯そうとしている!!

「は、博士……」

 ユーリはうるうると感動し泣きそうな顔をしている。それは酔った状態とはいえ、彼の勇気に感動を示したからである。

「ユーリ、いいか」

「はい! 博士! 応援します!」

 堂々と二人は奴隷商の前に立つ。リザードマン、エルフ、アンデッド、ゴブリン、ドワーフなど有名なものから、モノアイ族(顔面に口と数十の目玉がある人)やアニマロイド(動物と人の混じったゴブリンの亜種)など少数なのもいる。

 フランは堂々と薬を飲んで強くなった体で店主を撲殺し、鎖に繋がれたリザードマンの腹に拳をめり込ませた。

 誰もが言葉を失う中、ただユーリだけはぱちぱちと拍手をした。

「さっすがマッドサイエンティスト! よっこのサイコパス! クレイジーソン! もうマリッジロード行っちゃいなさいや!」

 二人は小さな店の奥に入る。それをユーリは見送った。

 が、人が集まるのですぐユーリもフランの後を追う。

(お、おー、ヤッてるヤッてる)

 リザードマンの呻き声が痛々しい。そして普段聞かないフランの嬌声もまた、酔いに加えてユーリを変な気分にさせる。

(は、吐き気が……倍々のマシマシ! うえっ!)

 男くさい空間はユーリにとって地獄!

「博士ぇ、まだですかぁ?」

「も、もうすぐ終わるっ! ふぅっ!」

「……うげぇ」

 アンデッドの精液は人のものより遥かににおいます。汗もにおいます。体もにおいます。

 ユーリがゲロゲロとゲロを吐きながら、再び酔わせる薬を煽る。これは混じった液体と同じ性質を持つようになるという別の薬を使って数を増やしている。

「人集まってきたから逃げましょ。私は自由でありたい! フリーダームッ!」

「俺さ」

 激しい行為によって事切れたリザードマンの傍らで、フランは黄昏た風に呟く。

「なんすか!?」

「したいことがあるんだよ」

「まだ!?」

 フランは堂々と歩いて、人の集まってきた行動に出た。

「やっぱりさ、リザードマンの国を征服して全員ゲットしちまえばいいんだよ」

「マジすか……? サイコパス兄貴流石っす……」

 引きながらユーリはフランについていく。


 公道をまっすぐ進んだところにあるのがヒサクの宮殿、ここは教団の代表であるメラヘン他重役が数多くいる。

 そんな中にユーリとフランは堂々と入って行く。

 ふらふらながらしっかりとした意志で歩くフランに対して、ユーリはいい加減不安になってきて、さっきから薬をがぶ飲みして酔いまくりだ。

 並み居る魔法兵は『魔法を無効化する薬』(秘蔵作品)によって無効化され、宮殿もほとんど無力化されていた。

「なな、何をしているんででですか。わわ私達にはは歯向かおうといい言うのですか?」

 どもりまくりのメラヘンが先頭に立つ、周りには大きな政治家でありながら強い魔力を持つ生え抜きの魔術師が並んでいる。

「ユーリ、あれを」

「はは、はい! ひえーっ、やるしかないですね!」

 液体を霧状にする薬、それと酔わせる薬を含めた合成薬品はその場にいる全員を一気に酔わせた。

「ななな、なんですかここここれははは……?」

「酔っちまえ! 全員酔っちまえばいんだよ! ガハガハガハ!」

「ひーっ、私はもう知りませんよ!? うーっ、こうなったら自由にやりましょう! イヒヒヒヒ!」

「ほらほらメラヘンさんも色々積もってんでしょ!? こうなったら全部やけくそで生きましょうよ!」

「ななな、なんだか、楽しくなななってきた……」

 この日、ドグラマグラ暗黒教団は国名をヨッパライダー飲酒教団と名を変え、世界中全ての国に宣戦布告をした。

 そして三日で国は亡び全員が惨殺されることになる。

 結論、酒は飲んでも飲まれるな!

こういう世界腺もあるってことで、次回はいつも通りやっていくよ!

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