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刺激臭をつける薬

 一階の客間で研究をしているフランは、上の階から甲高い叫び声と階段からイノシシが転がり落ちるような音を聞いた。

「博士ぇー! 博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士博士……!!」

「どうしたユーリ?」

 本当にイノシシに乗って階段から降りてきたユーリは、そいつを玄関から帰してやり右手の緑色の発光する液体の入った試験管を掲げた。

「見てください凄いんですよこれヤバいんですよこれ一体何か分かりますか!?」

「いや、それよりイノシシが今」

「じゃ、じゃじゃじゃーん! これはなんと! 『かけたものに強烈な刺激臭を発生させる薬』です!」

 まるで世紀の大発見のようにユーリは一人、どんどんパフパフと騒ぎ立てるが、フランはじっとりと睨む。

「お前な、虫のエキスじゃねーんだから、そんなもん作ってどうすんだ?」

「何言ってるんですか、セーキの大発明ですよ」

 フランが怖気づくほどの雰囲気でユーリは顔と顔をくっつけんばかりに凄みを利かせて言う。がフランもそれには負けていない。

「それが何の役に立つんだ? 俺達の目的を思い出せ」

「憶えていますとも。『性別を変える薬』……、世界中の人間を皆女に変えることで、グフッ、グフフフフフフフッ!」

「そう。それでリザードマンを全て男に、そして他の種族を皆女に変えるのが俺達の目的……」

「でもこれも凄いんですよ! 嗅いでください」

 試験管にしてあったコルクの蓋をユーリはあっさりと外す。

 客間には胃液がこみ上げてむせ返るようなにおいが充満した。

「ウッゲーーーー!」

 ユーリが鼻をつまみ、その試験管を放り投げた。

「お前バカァー!」

 その圧倒的な臭気、二人は涙を流しながらその試験管の行く先を見守った。

 いやフランは走り出している。その脅威をこれ以上この研究所にはびこらせるわけにはいかない。

 人生で初めてのヘッドスライディングをフランはかまして、無事薬品の下に辿り着いた。

 そしてそれを被った。

「うおおおおおっ! マジでクサッ! マジでクサァッ!! なんだこれ!? お前これどうしてくれんだよ!?」

「ギャーーーーーッハハハハハハ! イヒ! イヒヒヒヒヒ! くっせ! 博士くっせー! ヤッベ! エンガチョ! 近寄らないで!」

 ユーリは腹を抱えて爆笑しながら上の階へと逃げ帰った。

 大体いつも、こんな感じである。

 二人は一緒に住んでいるが作業は別々、そして薬が完成したら互いに見せに行く。

 ひとまずフランは鼻の穴にティッシュを詰め込んで作業を再開した。それでも涙と吐き気は止まらない。

 こうしてできた薬は暗黒教団に届けられる。そういう契約関係にあるので、何か役に立つ可能性があろうとなかろうと引き渡すのだ。


 数時間後、ユーリが再びフランの元に戻ってきた。今度はかつかつとわざとらしく足音を鳴らしてだ。

「博士ー、新しい薬を作ったんですけど。あれ、なんか腹の中から食い物がこみ上げるような激臭がしてるんすけど?」

 当然ユーリは分かっていて言っている。がそういうユーリのフザケにフランは知っていたので対抗策を既にしていた。

「ああ、あれな、お前のお気に入りのクマのタオルからしてたぞ。あれで体拭いたらそっから臭いしてたから」

 ユーリの表情がさっと青ざめた。

 ダッシュで客間を走り回りタオルを探すと、そこには醜く緑の変色したクマの姿が!

 変わり果てたクマに駆け寄ったユーリは、それに伸ばした手を急に止めた。

 そのまま、わなわなと震えながらフランを睨む。

「あ、ああんた、あんた人間じゃない!」

「アンデッドだ」

「あ、ああ、ここ、こんなこと、こんなこと……ウッ!」

「いいから臭い消す薬作るの手伝えよ……」

「うるせぇっ! ホモの風上にもおけぬ奴! ゴミ野郎! 腐り男!」

「大体あってるからいいよ。それより早く手伝え」

「ちっ、男って奴はいつもこうだ。仕事仕事、私のことなんて……!」

「いや分かってるだろ。お前なんざどうだっていいから」

「はいはい、手伝いますよ。このナスビ野郎」

 ナスビ野郎は色のためである。念のため。

 この後、フランは手を休ませず、ユーリは口を休ませず、フランは嫌な気分で一仕事するのであった。

 そして一時間もしないうちにユーリは言う。

「っていうか、ブァフリーズ買ってきた方が速くないですか?」

「え? ブァフリーズ利くの?」

「さぁ?」

「お前適当なことばっかり言うよな、知ってるけど」

「はっはっは。これ、臭い消す薬できましたよ」

 さりげなくユーリが掲げたのは、先ほどのようなかけると亀が忍者になるようなおぞましい液体ではなく、名山の清流をイメージしたかのような水色の液体だった。

「おお、さすがに仕事が速いな、ユーリ」

「ま、当然ですよ」

 ユーリはごく当然が如く大きな胸を張り、それを全てクマのタオルにかけた。

「あっ、お前……」

 そしてユーリは叫ぶのだ。

「あーっ!! 緑色がおちてない! これじゃ初代クラッシュブラザーズの緑チームのモンキーコングですよ! どうするんですかこのコケが生えたみたいなグロテスクな姿! プレミアの非売品のデリシャスゴージャスですよ!?」

 いい加減フランも切れた。

「テメェの方がどうしようもねえよ! 俺の頭脳はそんなプレミアの非売品以上にデリシャスゴージャスビューティフルなんだよボケが!」

 ブチギレのフランとユーリが睨みあうが、ユーリはいつもこうなると、最後はビビッて顔を反らす。

「じゃ、じゃあドールボ試してみます」

「……俺もブァフリーズ使うか」

 わりと効果はテキメンで、あっさりと問題は解決した。

 そして結論、臭いをつける薬は相手にされなかったが、臭いを消す薬は爆発物や毒薬の特徴的な臭いを、その効果を失わずに消すことができるので重宝されたという。

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