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性転換の薬Ver2

前回書き損じましたが、言うまでもなくメラヘンが死んでも世界線的なのが別なのでまた生きています。

 まるで樽を転がすような音が上の階段から鳴り響く。

 普段知的で冷静なフランでさえ、そのあまりの喧しさと聞き苦しさに文句を言おうと階段に向かった時、まるでモンキーコングのように樽に乗ったユーリが奇声を発しながらやってきた。

「ハガァァアアアア!! ハガァァァアアアアアアア!!」

「なんじゃお前ー!?」

 空樽が木片と鉄片に分解されその辺りに散らばる。

 ユーリはボロボロになりながら、その手に持った紫色の液体が入った試験管だけは死守していた。

「はが……博士、これを、これを飲んでみてください」

 同じくボロボロのフランは何とかそれを受け取ると、ユーリを睨んで、飲みながら文句を垂れた。

「全くお前、どんな薬だ?」

「へ、へへっ、やったぜおっかぁ……がくっ」

 あからさまな気絶したフリをフランは面倒に思いながら、その体を揺り起す。

「おいしっかりしろ、ふざけていると殺すぞ……?」

 言いながら、フランは、元々高めな自分の声がますます高く、妖艶で、色気ある大人の女性の声に変わっている錯覚を覚えた。

 いや錯覚だけではない、ラフに着こなすタイトなスーツのズボンも、裸体にボタンもつけていない白衣だけの服装も、何やら感覚が変わっている。

 紫色の肌はそのままに、アンデッドのツギハギもそのままに、ごつごつした男らしい肉体はしなやかで滑らかな女性特有の丸みを帯び、更に伸びた睫毛、涼しげな目元、膨らんだ柔らかそうな唇、そして露出し膨らんだ胸。

 フランは自分の大きな胸を掴んだ後、なくなった股間のそれを確認して叫ぶ。

「ある! ない! 馬鹿なお前! これはそんな! オゲェッ! トシャ! トシャ!」

 強い拒絶反応にフランは体を折って吐き続ける。

 それをユーリは見て、頬を赤らめた。

「どうですか、この薬……あれ?」

 憂いを帯びた涼しげな瞳、流れるような黒い髪、普段の無骨な博士と違い、その艶美な博士にユーリの心は奪われた。

「あれ……あれ博士あれ……? あるぇ?」

「なんだユーリ! お前それその反応! くっ、なんだこの体……いっそ殺せ」

「……美しい」

「あ?」

「博士、なんというか、美女です。非常に美しいです。あなたになら罵られていいです」

「何言ってんのお前」

 フランは気持ち悪さが限度を超えて、もう吐くことすら忘れた。

 が、ユーリはまだ瞳を熱っぽく潤わせたまま、ぼーっとフランを見つめていた。

「あの、その、胸が大きいのが見えているとか、そんな俗物的なのじゃなく、いやそれもあるんですけど、凄いです。美しいです。その、いひひっ、ちょっと、恥ずかしいくらい……」

「……マジで?」

 フランが驚き疑うと、ユーリは全力で肯定した。

「私が見た美少女ランキング堂々の一位です! あなたならミスアンデッドでもミス生物でも取れます! というか結婚してください!」

 花束があれば手渡していただろう。先ほどまで性転換の薬ができ、ついに野望を叶えられると博士に自慢してやろうと考えていたのを忘れるほど、ユーリの出会いは衝撃的だった。

 それを聞いて、フランも一つの考えが浮かんだ。

「……だったら、そうだな……ユーリ、俺の意見を聞いてくれるか?」

「な、なんですか!?」

「この体でリザードマンを誘惑する」

「なっ!?」

 ユーリは思う、そういう問題じゃないだろう、と。

 フランもユーリも同性を愛している。だが、だからと言って自分の性別を変えるのは解決法ではないのだ。

 自分の今の体のままで、その特定の相手を愛する、故にイレギュラーと言われ山奥の研究所に籠って研究を続けてきた。

 今のフランの言葉は、すなわち今までの研究の全てを否定するものといっても差し支えない。

「そんな……正気ですか?」

「……ああ。お前がそこまで言うのなら、俺は、この体で男のリザードマンを組み伏したい」

「……」

 ユーリは黙って目を閉じて、そして自分が作ったその薬を、自ら煽った。

「お、お前!?」

 ユーリの大きな胸はみるみるうちになくなり、白い赤ん坊のような太腿も、その色を持ったままどこか男を思わせる堅さを感じさせる。

 そしてその声も、少し高めだが男のものと判別できた。

「博士だけに邪道を行かせませんよ、イヒヒ」

 その邪道に付き合うユーリを、少しだけフランは感動して見つめた。

「……すまんな、ユーリ」

「構いません構いません! この美少年のユーリがお姉様をあへあへ言わせてあげますよ! フィーヒヒヒ! フィーヒヒヒ!」

「よっしゃ行くか! キャハキャハキャハ!」


 その後、二人が受けた凌辱の連鎖を書き記す者はいなかった……。


 疲労困憊の様子で研究所に戻ってきた二人は、言葉を交わさず、しかしお互いに何があったかを一瞬で察し、言葉もなく背中を合わせて地面に座り込んだ。

 かくかくと、ユーリの震えた声と体がフランに伝わる。

「おお、女、コワイ、女、コワイ」

 うわごとのように呟くユーリにつられ、フランも口からその言葉が出た。

「男のリザードマン、コワイな……」

 互いに性転換の薬を再び煽り、元の体に戻る。

 だが二人に何が残されていようか。

 今までの全ての野心をぶつけた性転換の薬を使った派手な行動は、失敗どころかトラウマを残す結果になってしまった。

 ふと、二人は手を繋ぎ顔を合わせた。

 同性への興味を失った二人には、もはや性への興味がない。

 互いに友情や親近感といったものでしか、人への好意を表すことができない。

「ユーリ……」

「……博士」

 手を結び、次に腕を組み、そして互いに熱く抱擁しあった。



 そしてフランとユーリの研究所は、特に目的を失い、メラヘンからの依頼通りの薬を作る政府公認の研究所になった。

 ただ違うのは、二人とも同じ研究を、同じ部屋で、肩を並べて行うようになったということだ。



この薬は二回や三回では終わりませんよ!ザ・ジェンダー!

しかし別の話練るので、これはしばらく止めます。1クール的な感じで。

ま思いつき次第やりますが

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