妖精の国 3
いつもそう。
腹立たしい程に動じない彼が羨ましくて、妬ましかった。
私の事もこの国の事もわかりきっているような態度がいっそ憎らしい。
私は何もわからない。わかろうと、したのだろうか?伯母は私の代わりに危険なあの城から出ない。私も少し前までは城に行き来をしていたが、現状を知ろうと努力したのだろうか?
今になって初めて気づいた自分の愚かさに自嘲の笑みが漏れた。
「…やっと落ち着いたみたいだね」
クリスに言われてはっと我に返った。
「ごめんなさい。貴方に嫉妬していたみたい。私はやっぱりお飾りの王だわ」
私は悔しさを滲ませてクリスを見上げた。いつも恥ずかしいところばかり見せてしまう。
「お飾りの王ではないよ。本当にそうなら、人はついてこない」
クリスが小さな子供にするように頭を撫でた。
私は言われていることがわからず、小首を傾げた。
「俺やリルもそうだし、村の人達もここの村長も叔母上も君だから王として扱う。肩書きだけではないものが君にはあるんだよ」
その言葉にはまだ私は頷けず、クリスを見上げるしかなかった。
「君を陥れようとしている宰相は聞く限り、王の器ではないよ。国を混乱させる者にその資格はない。妖精の国に行けば嫌でもわかると思うよ」
クリスの言葉は優しくて、逆に辛かった。本当にどこまでも優しくて、強い。
「私はクリスのようにはなれない。優しくないし、心も強くない。きっと妖精の国は私を拒むわ」
あとからあとから涙が溢れてきた。
「急に突きつけられたら、誰でも戸惑うし、心細い。それはわかるよね?」
クリスは諭すようにゆっくりと話始めた。私はその言葉に頷くしかなかった。
「ティアはそれでも国を治める事を選んだはずだ。だから俺達も力を貸そうと思った。普通の庶民はそこで逃げようと考える。やらなくて良ければそちらの方が良いと知っているから。でも、君は困難な方を選んだ。誰でもできることではないよ。王として正しい振る舞い方を君はしているんだ。そして君はこれからもそう振る舞うだろうね。王とはそういうものだと理解しているからね」
と笑顔で言った。
なんて清々しい笑顔なのだろう。
「…確かに私は王という立場を少しは理解しているからそう振る舞うのだと思う。でも、私はいつも逃げたい。幻滅したでしょう?」
私はあふれでる涙を拭う事もせず、クリスを見上げ、笑った。
「…ティア、自分を責めすぎることはしなくて良いよ。誰も幻滅なんてしない。気持ちで逃げようとしても、君は逃げない。今までだってそうだったろ?」
クリスは私の涙を人差し指で抜いながら言った。
私はそうだったかな?と、自問してみた。逃げようと考えていても逃げられなかっただけかもしれない。答えはまだ本当の意味では見つからない。だけど先に進む気にはなれたかな。
「わからない、けど、行ってみなくちゃわからないよね」
この旅を始めた日の事を思い出した。
私は私のやるべき事をやろうと心に決めた。
「少し落ち着きましたか?」
リルは私の髪を整えながら言った。
「リルはわかっていたのね」
「なんとなくですが」
私の言葉にリルは苦笑しているようだった。
「私は王の器ではない、そう思うでしょ?」
なんとなく口にしてしまった。
「…私にはなんとも言えません。では、聞きますが、器とはどのようなものなのでしょう?統治するだけが王でしょうか?それでは誰もが王という事にもなりますし、同じように王という事にはなりません。本当の意味は本人にしかわかりません。そういうものではないのでしょうか」
リルは私を否定する事も、肯定する事もせずに言った。
「ごめんなさい。さっき先に進むことを決めたのに、何を言っているのかしら。リルは私の言葉に誠実に答えてくれているのにね」
私は謝りながら王という立場を考えていた。いまはまだ答えの見えないそれを考えずにはいられなかった。
やっと続きできました。