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大陸物語~オクトリス国編~  作者: 時槻 翡翠
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妖精の国

鬱蒼と生い茂る木々の隙間から光が指して来ているので、かろうじて昼間だとわかるような薄暗い森の中を迷う事なく私達は進んでいった。

迷わないのは単に私がいるから。

この国の森すべてが私の味方。

「ティアがいるから木々が避けて行くみたいだ」

クリスが感心したように言った。

そう、私達の前には道ができる。この国の王族の血のなせる技。

「妖精に愛された王族だからね」

私は自嘲気味に答えた。

女王とは名ばかりの私にとって、その二つ名も重荷だった。

「ティア、自分ばかり責めない方がいい。いまはまだ、力が足りないだけなんだからさ。その足りないものを手に入れるためにこうしているのだから」

クリスが後ろから手綱を握る手にそっと手を重ねて耳打ちした。

クリスはいつも優しい。だけど、厳しさもある。甘えは許してくれない。

それが私には嬉しかった。村でもどこでも私はやはり特別な存在として扱われていたからどこかよそよそしかった。

今はその杞憂はなかった。クリスも他の二人も私を特別扱いしないから、本音で話すことができた。

「辛くない?」

クリスが少し離れている二人に聞こえないように聞いてきた。

「実は少しお尻が痛い」

苦笑して答えた。今までほとんど休憩らしい休憩はとって来なかった。

「今日は此処で休もう。ティアがいるからめったに獣も襲って来ないようだしね」

木々の間にできた小さな広場を私達は今日の野宿場所に決めた。


夜半過ぎた頃、人が動く気配で目が覚めた。

「……少し出てくる」

その声はクリスの声だけど、私の知っている優しい口調はなりを潜めて、とても硬い。

「あまり遅くなるなよ」

ラルクが番をしていたようで、クリスに声をかけていた。

クリスはそれに片手を挙げて応えると、森の中に入って行った。

「……行くな」

ラルクが咎めた。

「しかし」

リルが動きを止めて抗議した。

「あいつには彼奴のやるべき事があるんだ。俺達は見守るしかない」

ラルクはそう言いながら火に小枝を投げ入れた。

私はそう呟くラルクの淋しそうな声に主従を越えた何かを感じつつ、疲れていた事もあり、再びきた眠気に抗えず意識を手放した。


村を出て5日、特に何事もなく森の中を進んでいた。もうしばらくすると、うろ覚えながらもたった一度立ち寄った覚えのある村が見えてくる所に着いた。

妖精国に行くにはその村を通過する必要があった。

「ラルク、リル、気を抜くなよ」

クリスは何かを警戒していた。

私が幼い頃はそんな命の危機を感じる事もなかったはず。

「クリス?」

私はどうしたのかと続けようとしたところで、不意にクリスに抱きすくめられた。

私とクリスがいたあたりに何かが掠めた。

「誰だ!」

「出ていけ、此処は人が訪れる場所ではない」

少年の声が何処からか聞こえてきた。木霊して場所が特定できない。

「ラルク、リル、とりあえず、出直す」

クリスは馬の手綱を引くと踵を返した。

「はっ」

二人は反論もせず、クリスに従った。

しばらくきた道を戻ったところで、私達は馬を降りた。

「……どういう事?」

私はクリスに支えられてなんとか立っていた。

「今の君は王族の格好ではないしね。あんな子供相手に話が通じるとは思えなかった。だから一度引き返したんだ」

クリスは私を近くの岩に座らせて、諭すように言った。

その声に怒りが混じっていたように感じたのは気のせいではないだろう。獲物を狩る者のように鋭く、瞳はい殺せるくらいの怒気を孕んでいた。

怖いです。

こんなクリスは見たこともない。

「どうしますか?」

ラルクがクリスに問いかけた。

「とりあえず、今日は此処で休む。此処ならあの山猿も来ないだろ」

もうすぐ日も落ちる頃合いな事もあり、野宿の準備を始める事になった。

「ティアは気に病むことないよ」

クリスはそう言って優しく私の頭を撫でた。


その日の夜半過ぎ、気配で目が覚めた。最近、気が張っているからだろうか、クリスの傍だろうと、誰の傍に寝ていても夜半過ぎに一度目が覚めた。特にクリスの動く気配で目覚めることが多かった。

「……もう少し寝ていて良いよ」

クリスは私の頭をゆっくりと宥めるように撫でた。

「うん」

私は特に考えることなく、頷いて目を閉じた。


次に目覚めたのはクリスが帰って来たときだった。


ああ、帰って来たのね。


薄く瞼を開けてそれだけ確認すると、何だか安心してまた睡魔に身を委ねた。明日はあの村に行けると良いな。そんなことを考えながらクリスが近くにいることに安心して眠りについたのだった。


翌朝、朝食をとり、火の始末をすると、クリスが村に行こうと言った。

「大丈夫なのですか?」

リルの問いは当たり前のことだった。

「ああ、大丈夫だよ」

クリスは穏やかな声で答えた。

「まあ、行ってみるしかないよな」

ラルクは特に気にもとめてないような口調で言った。

確かにそうとしか言えなかった。行ってみるしかない。

そして不思議な事に今日は大丈夫な気がする。昨日のようなことにはならないとなぜだか思えた。


今日も村まで馬に乗って歩く。昨日の襲撃された場所まで来たが、襲われる気配がない。

どうしたのかと辺りを見回していると、遠くから人が転びそうな勢いで走って来た。

「あっ、あの、お待ちしておりました」

かなり低姿勢のその人は勢い良く頭を下げて私達を村に案内すると言った。

「どういう事?」

私は何故か手綱を握っているクリスを振り向いた。

「付いてこいと言っているのだから、行こうか」

クリスはそう言って私に促した。

何となくそれ以上聞いてはいけない気がして、頷いて答えたのだった。


その村は少人数ながらも、自警までできるように組織された村だった。良く見ると村の外れに訓練場まである。村の奥には他の家より少し大きな館があった。

「あそこが村長の家です」

案内してくれた村人に礼を言い、近づくと玄関前で一人の老人とその後ろに控えるように人に似た格好の女性が立っていた。

「最近、足腰が弱くなり此処での出迎えでご勘弁願います。ああ、姫様、お久しゅうございます。よくぞご無事で……」

感極まって私の手をそっと触りながら涙を流した。

その老人には見覚えがあった。幼い頃にこの村に立ち寄った時に母の側で見た顔だった。

「村長様、お久しぶりです。私の顔を覚えていてくださったのですね」

あのときはまだ少し若かった老人を思い浮かべ、時が経ったことを実感した。

今まで私は何もしてなかった。ただ言われるままに隠れ、時を過ごして来ただけ。

それでもこの人は私を案じてくれた。

「立ち話は良くありませんな。どうぞ中へ」

老人に促され、私達は村長の館に招かれた。

久しぶりに更新しました。

宜しくお願いします。

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