護衛の村
暖かな昼下がり、いつものように森の中で木の実や山菜を取っていた。
この国は本当にこういうのには困らない。自給自足がモットーのお国柄で貴族も平民も関係なく山や森で狩りなどをする人々が多い。貴族の中には使用人にやらせている者も多いらしいが私は王女だけどこれが一番楽しい。
私が今いる場所は隣国との国境付近の地図にも載らない小さな村で、王都内で起こっている内乱を避けるために小さな頃からここで育てられた。
政は叔母が代理をしてくれている。表向きは叔母が女王なのだ。
どうしても女王の承認が必要なものがあるので2週間くらいに一度は王都に行き、誰にも知られないようにまた戻って来るといった生活をしていた。
私の名はティア・アルカルド・オクトリス女王。
正統なオクトリス国の女王なんだけど。内乱も抑えられない哀れな女王なのだ。
「ティア」
森の奥からこえがきこえた。
「クリス」
聞き覚えのあるこの声は隣国、ファルクエリクトス国の第三王子、クリス。
「そろそろ来る頃だと思って山菜を採っていたの」
見て、とばかりに篭を差し出す。
「本当だ。今日も期待できるね。俺からは街で売っていたリンゴだよ」
はい、とばかりにリンゴを数個差し出した。
「へぇ、良いリンゴじゃない。ありがと。あ、ラルクとリルもいらっしゃい」
クリスのお付きの近衛師団団長と副団長に挨拶した。
近衛師団団長をしているのに王子のお付きって思ったけど、近衛師団自体がクリスが作った組織だったらしい。前は名前だけのぐうたら師団だったとクリスが言っていたわ。
隣国も内乱続きで大変みたい。
「行こうか」
クリスに篭を持ってもらい、私たちは村に歩き出した。
私やクリスたちが歩く森は通称『迷いの森』本当ならば人は迷って帰ることのできない森なのだが、私はこの森で育ったこともあり、迷う事はない。クリスたちも迷わない呪いをかけているので迷わないのだ。
もちろん、呪いをかけたのは私だけどね。
オクトリス王家は代々直系の子供には不思議な能力が受け継がれる。よく言われる魔法というものだ。
私は特に強いらしく天候も操れたりする。
そうこうしているうちに村にたどり着く。
村は小さく30人程度の辺境の村。
誰も彼もが私の知り合いで家族だ。
「にいちゃんたちまた来たな。ティアの飯は気に入ったみたいだな。いっそこっちに越しちまえよ」
村のおじさんがクリスに声をかけた。
「そのうちね」
と、クリスもにこやかに返している。
そのうちって?えっ?
私の疑問が解けないうちに家に着いてしまった。
「じゃあ、薪を割っておいてね。ご飯作っておくわ」
私はクリスに言うと家に入ってしまった。
後をリルがついてきてくれて、二人でご飯を作り始めた。
外ではクリスたちが薪を割る音が聞こえる。
数ヶ月前には想像もしていなかった。
私は村では大事に育てられた。けれど、いつも一人。誰もいない家で過ごす日々。村の数人が私の護衛でたまに王都に行くくらい。この村は私の護衛のためだけに存在する。わがままなんて言えない。
「出来る限りの恩返しにここに遊びに来るから、そんな寂しい顔しないで」
クリスが優しい笑顔で言ってくれた。
数ヶ月前にクリスを助けたから、今こうしていられる。
思わず笑みがこぼれた。
「嬉しそうですね」
リルが玉ねぎの皮を剥きながら言った。
「うん、皆がまた来てくれたからね」
ありがとうございます\(^o^)/