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エピローグ 「この道をずっと行けば、夢に続いてる気がする」

「私を雇ってください!」

 そういきなり申し出てきたのは、先日、万引きで捕まえた高校生の中で唯一の女の子だった。

 私はその発言の意図がまるで読めず面食らっていたが、少女の隣にいた男性……というかおっちゃんが、少女の頭をがしっと掴んで、ドザっと下に押し下げながら、補足してくれた。なんでもこのおっちゃん、女の子のお父さんらしい。で、私が連絡した時は不在だったのだけど、後から娘と妻から話しを聞いて、慌てて詫びに来たというわけである。

「なんでもします! 給料もいりません! 罪滅ぼしをさせてください!」

 いくら昼前でお客が少ないとはいえ、真昼間の店内でそんなバカみたいに騒がれても困る。とにかく落ちついて、と語りかけながら、バックルームに誘導して更に詳しい話しを聞く。というか、勝手に喋られる。

「お父さんと話したんです。何か御詫びしないといけないって。でもお金でっていうのは汚いし、商品を買うのも違うし、なら迷惑掛けた分、働いて返そうって」

「あの、でも、でもすね?」

「お気持ちはわかります! 万引きした人間を雇うなんてできない! だけど1度だけ。1度だけこいつにチャンスをやってください! この通りです!」

 土下座する父。

「お願いします!」

 それに倣って土下座する娘。

 そして何か何かと視線を集中させるパートのおばちゃんたち。

 まるで私が悪い人みたいじゃない!

「いえ、あの、でも、だからですね?」

 何を言おうと頭を上げない父娘。

 何か発言しようとすれば、お願いします! って封印される。

 RPGで、村人のお願いに「うん」って答えないと先に進めない無限ループに陥った気分よ。

「だから、こちらはもう気にしていないので」

「なんと心の広い! ですが、そんな店長さんの元でしでかしたとあっては、尚更です!」

 どうしろっていうのよ!?

 なんで土下座している人間の方が話のイニシアチブもってんのよ!?

 と、私がだんだんイライラし始めた時、パートの町田さんがやってきた。やった。私を支えてくれている町田さんのことだ。きっとこの無限ループに陥った私に助け舟を出すべく、やってきてくれたに違いない。そう、さすが町田さん。お客が来てるとか、仕事が終らないのですがとかいってくれれば、このおっちゃんたちも自分たちが迷惑をかけていることに気づくに違いない!

「あの、店長」

「はい、なんでしょう?」

「雇ってあげたらどうですか?」

 この一言が、決定打だった。

 裏切られた気分いっぱいの私の気持ちなんて無視して、父娘は町田さんの手をとって号泣。

 それを見ていたパートのおばちゃんたち……っていうか、客で来ていた近所のおばちゃんおっちゃん、おばあちゃんたちは、まるで大岡裁きを下した大奉行みたいな感じで私のことを褒め始めた。しかも拝むし。これじゃぁ、奉行どころか菩薩まで昇華しているかもしれない。

「がんばるんだよ、お嬢ちゃん!」

「あたしゃ、応援するからね!」

「はい、ありがとうございます! 優しくてかっこいい店長さんに報いるためにも、一生懸命働きます!」

 あー、日本人って相変わらずこういう話に弱かったのね、とかもうほとんど投げやりになった私の目の前で、次々と話は進んでしまった。

 履歴書はすでにもってきてるし、町田さんが従業員の登録用紙は出しちゃうし、もう今からダメっていっても、誰も聞きはしないでしょうね。

「よろしくお願いします、か……香織さん!」

「あー、はい、よろしくねぇ」

 こうして、なぜか私を見て顔を赤くする少女はうちの店で働くことになった。さすがに給料ナシってのは法律的にもいろいろあるので、とりあえずは研修期間ってことで、自給を若干下げてスタート。そして学校を休んでやってきたというその日から働いてもらって、ちょうど今日で一週間になるんだけど……

「で、それがどうしたんだ?」

 琢也がチキンライスをタマゴで包みながら、続きを促す。

「それが彼女、優秀なのよ」

 正直驚きだった。とにかく、仕事を覚えるのが早い。入って一週間で、だいたいの仕事はこなせるようになった。小林君と同じ学校なんだから元々できがいいのだろうけど、それにしたって早いし、しかも丁寧だ。父親が大工。母親が建築士っていう血を余すことなく受け継いでいるとしか思えない。

 しかも彼女、根は明るい子らしく、お客さんとも普通に話せるタイプだった。この手のタイプは貴重だ。フレンドリーな店員がいると、親しみを覚えたお客が増えるだけでなく、それが予約客に変化する可能性がある。例えば季節の商品予約……クリスマスケーキとかの予約に繋がったりもするってこと。結果、当然のことながら売上があがる。

「で、その子に触発されたのか、別の男の子も1人入ってきてね」

 その子も万引きしていたうちの1人だ。確か、女の子を支えるように抱いていた子だったと思う。なんとなくだが、この2人は付き合っているのではないかと思って小林君にさぐりをいれたら、案の定そうだった。

 それを聞いた時、しまったー、と思った。いやね、この年頃のカップルが二人してコンビニでバイトなんかすると、仕事中だっていうのに、いちゃいちゃしたりするのよ。だから警戒してたんだけど、それは無かった。どうやら気弱だけど、真面目なタイプの子らしく、万引きも脅されてやっている節が見えた。

 ちなみに、顔も悪くなかった。無骨な感じだけど、どことなくストイックな、職人系のオーラを感じる渋さがある。きっと将来は、いいおっさんになる。そういう潜在的な何かを持っていた。

「なんかこうして考えると、万引きされてたぶんのお金は返ってきたし、優秀な店員が2人も増えて、結果として得したのかしら、って」

「ま、苦しい思いもしたんだから、どっこいどっこいじゃないか?」

「雨降って地固まるってやつ?」

「それより、人生万事塞翁が馬、だろ」

 言いながら琢也は、三つのオムライスをテーブルに並べた。

「ンジャ、アリスを起こしてきますか」

「ご飯できた!?」

「タイミングいいわね」

 琢也が起こすまでもなく、自ら起きてきたアリスはイスに座って、スプーンを握った。

 私と琢哉はそれを見て笑いながら、自分のスプーンを握って、3人でオムライスを食べ始める。

「むぅ。今日の出来は、いまいちだな」

 自称この家のメイドさんにして、エロマンガ家の琢哉。

「そんなことないよ、おいしいよぉ!」

 無職にして、この家のマスコットであるアリス。

「ま、70点ってところじゃない?」

 稼ぎ頭にして、この家の主、私。


 それぞれ、見ているものは違う。

 向かおうとしている場所も違う。

 境遇も、生き方も、考え方も違う。

 いろんなことが違う私たちは、いろんなことが違うのに、何故かこうして同じ家で暮らしている。


 でもまぁ、きっとそれでいいのよ。


 いろんなことが違う私たちだけど、一つ、確実に同じことがあるのだから。

 それは私たちが、世間から見れば『ジャンク』であるということ。

 つまり私たちは、



 ジャンク(壊れた)な、



 ジャンクション(関係)の、



 ジャンキー(中毒者)なのよ。




 だから、このお話の名前は『ジャンク・ジャンクション・ジャンキー』ってわけ。



「「「ごちそうさまでした!!!」」」



 さってと……疲れたから今日はおしまい。

 ま、気が向いたら、また別の話でもしてあげるわ。



END

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