帝の決意
「……帝君の目には今日の神戸はどう映った?」
沈黙が5分くらい続いた後に静香さんは唐突にそんな質問をしてきた。
どう映った…か。
「とても弱く見えました。精神的にも身体的にも」
「そうよね」
「はい、神戸はあの程度の視線に怯えるような弱い……というか臆病な奴ではなかったですし、あのナンパ野郎程度も軽くあしらうこともできないくらい弱く、弱かったです。………それに最後のあの取り乱し方は…」
あの取り乱し方は異常だった。いくら女になったからってあそこまでになるのはちょっとおかしい。
「そうなのよ。神戸は今日、突然女の子になって外見だけでなく多分、精神のほうも感化されてしまっていたと思うの」
なるほど、確かにそう言える場面は多々あった。行動もそうだが口調も若干柔らかくなったりしてた時もあった。
「それは容姿だけでなく、心まで女になったってことですか?」
「微妙に違うわね。正確には、“女の子の心が生まれた”が1番正解に近いかもしれないわね」
“生まれた”ということはもともと無かったのにそこに突然出てきたということだ。
今まで男の心しかなかったのに突然女の心が出てきた。それはいつも出来ていたことが、平気だったことが突然出来なくなった、ということだ。
「……神戸はそのことに気づいてるんですか?」
「多分買い物に行くまでは気づいてなかったと思うけどね。……最も、私もそれに気がついた時には遅かったみたいだけど……」
遅かった、ということは………
「そんな精神が不安定な状態で"お前は女で力で男に敵うわけがない"なんて追い打ちかけられて……神戸は恐らく心に大きな傷を負ったはずよ…」
「………」
俺はただ黙っていることしかできなかった。
俺がもっと早く気づくべきだった。そう思えてならない。
「だからね、帝君……明日からの学校での生活で、できれば神戸のそばにいて支えてあげて欲しいの……」
「当たり前ですよッ!」
興奮して声を張り上げてしまったが、そんなのは当たり前だ。神戸の心に傷を負わせてしまったのは俺にも責任がある。
「 ありがとう 」
静香さんは少し泣きそうな、それでいて嬉しそうな顔でそう言った。
連続してあと1話投稿します。