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第5話:~セシルさんのお宅にお邪魔します~

すんごく時間が掛かってしまいましたが第7話です。

変わらずの駄文で本当、死にたくなるんですが

楽しんでいただけたら幸いです。


あと、本当の本当にお願いですから感想コメント下さい!!

私の作品が少しでも面白くなるように、ご協力をお願いします!!

第5話:~セシルさんのお宅にお邪魔します~


ギルドマスターの部屋を出て、セシルの案内を受けて一階へと再び戻る。

一般のギルド利用者が集まってワイワイガヤガヤしているカウンター前を

見てみると、テーブルの一席にエリンがオレンジジュースっぽい飲み物を

チビチビと飲んでは息をついていた。


ちょこんと椅子に座っているその姿はとても愛らしいものだが、ここに

来る前に歩くこともまともに出来なかった彼女の足の具合は果たして

もう大丈夫だろうか?


「すまないエリン、だいぶ待たせてしまったな。足の具合は大丈夫か?」

「あ、シンさん! はい、ここで休ませて頂いたおかげでだいぶ足の

 具合は楽になりました!セシルさんも、納品手続きを手伝ってくれて

 ありがとうございました! おかげで助かりました!」

「いえ、冒険者の手助けをするのが我々ギルド職員の仕事ですから」


ペコリとセシルにお辞儀をしようとしたエリンだが、セシルはそれを手で

制して、自らの職務を遂行しただけだと言う。

それを聞いてか少し申し訳なさそうな表情をしているが、もともとそれも

ギルド職員としての仕事内容に入っていたのだろうから、あまりエリンが

気にする程の事でもないだろう。


しばらく経って納得したのか、エリンは表情を笑顔に戻した。

ではここで、本題を切り出すとしよう。


「エリン、先ほど俺たちにお礼をしたいという風に言っていたが、俺たちは

 この街に案内してもらっただけでとても助かったんだ。

 ほかにこれ以上何かをしてほしいとは思っていないぞ?」

「いえ、盗賊たちから積み荷と私の命を助けていただいたんです。

 道案内だけではお礼することが出来たなんてとても言えません」

「だが俺たちはあの場所にたまたま居合わせただけなんだ。そこに盗賊から

 馬車で逃げるエリンを見つけたから、助けたというだけなんだ。

 そこに何か”対価”を欲していたわけでは決してないし、言ってしまえば

 俺たちの気まぐれが助けるという選択をとっただけだ。

 だからこれ以上何かお礼を貰おうという気持ちは、俺たちには無いんだ」

「で、でも…」


それだけ言うと俯いてしまう。

亜麻色の前髪に隠れて表情はうかがえないが、何か傷つけてしまっただろうか?

エリンのお礼というのがどういう内容なのか、俺は分からない。

ただエリンの立場から俺たちを見てみれば、もしかしたらもう駄目かも…という

所で自分を助けてくれた、いわば命の恩人という存在だ。

そこから見れば、確かに街まで馬車に乗せていっただけでお礼したというには

少なくとも俺は思えない。


だが、エリンはまだ13~15歳くらいの少女なのだ。

そんな少女にこれ以上お世話になるのも、エリンにとっては負担になるだろう。

気持ちは分かるが、彼女の為だ。

俺たちの気持ちも彼女に伝えなばなるまい。


「いいか、俺たちはお前に利益を求めるために盗賊たちと戦ったんじゃない。

 ”俺たち自身がやりたいと思ってやった”ことなんだ。

 お前が俺たちにどういう礼をしようとしていたのかは分からないが、もう

 お礼は十分に受け取ったよ。でも、そうだな。

 もしどうしてもって言うんなら、楽しい時には笑顔でいてくれ。

 お前の笑顔を見てると、俺たちも助けた甲斐があったって思える」

「そうそう、シンの言う通りよ。

 エリンちゃんの笑顔が、私たちを励ましてくれるんだから」

「シンさんにユミさん・・・」


それっきりまた俯いてしまうが、すぐに顔を上げて、

「お二人とも、本当に、ありがとうございました!」という言葉と共に、

少女らしい幼さが残りながらも、凛々しくて可愛らしい笑顔を俺たちに向けてくれた。


「ああ。やっぱりエリンには笑顔が合うな」

「そうそう、その笑顔がエリンちゃんに一番似合ってるよ!」

「お、お二人とも…。そんな正面切って言われると恥ずかしいです」

即座に顔を赤くして縮こまりながらモジモジし始める。

その様子を見てユミの中の何かが触発されたのか、

「うう~もう可愛くてたまらんなぁ…。えーい、こんな時には頬ずりしちゃえっ!」

「うぇぇっっ!?」

言い終わるや否やユミがエリンに抱き付いて頬ずりをし始める。

エリンは突然の出来事に抵抗することもできず、「うにゃぁぁ~~~」と喘ぎながら

ただユミのなすがままになっている。

それを傍から見守る俺と、その隣に来たセシル。


「フフフ、なんだかお二人とも可愛らしいですね」

「ええ、ユミも性格は明るい方だと思いますし、あの頬ずりも彼女なりの交流なのだと

 俺は思いますよ。実際にエリンも最初は驚いていたようですが、今は満更でも

 なさそうな、むしろ嬉しそうな表情を浮かべていますし」

「そうみたいですね。ところでユミコさんの能力についてのお話なのですが、

お二人をお連れする前にギルドマスターに報告した際、明日改めてユミコさんが

どの様な霊魔術の使い手なのかを朝一で検査するとの事です」

「朝一で、ですか?」

「はい、朝一です」

「だそうだが、ユミ。聞こえてるか?」


さっきから変わらずエリンに頬ずりをし続けているユミだが、俺とセシルとの会話は

ちゃんと意識を向けていたようで「うん、了解~」と頬ずりしながら返事をした。


さて、とりあえず今分かっている明日の予定についてまとめる。

まず最初に、朝一でユミの魔力性質の検査をする。

その後にギルドのカウンターでクエストを受注し、依頼を支部長ギルドマスター

爺さんが指名するクランの管理の下、訓練を行うのだろう。

それが終わった後は(一日で訓練が終わるなんてことは無いだろう、何日掛かるか

正確な所は分からない)いよいよ新米冒険者として生きていくことになるだろう。


だが新米冒険者としてデビューするには、そもそも文字が読み書きできなきゃ

依頼が書かれた紙も読めやしないし、冒険者として話にならんしな…

あとでセシルにラプタス語を教えてもらえるように頼むとするか。


ふむ。やらなきゃならないことが山積みだが、何事も最初が肝心だ。

とりあえず始めはラプタス語の習得と霊魔術の訓練を並行してやっていくか。



「ところで、シンさんとユミコさん。もうすぐ私の勤務時間が終了するんですが、

 帰りに買うものが幾つかありますので、買い物のお手伝いをお願いできますか?」

「買い物ですか。構いませんが何を買うんです?」

「もちろん食材ですよ?」

「ああ、分かりました。ご一緒します」

「フフ、ありがとうございます」


ところで食材、所謂いわゆるこの世界の食べ物はどのようなものなのだろうか?

何かの虫をそのまま丸焼きにして売っていたりするのだろうか?

・・・。

もしそうだったら俺は食えるだろうか・・・?

いやいやいや!

実物を見てもいないのに勝手に変な想像を膨らませてはいけない!

…とにかく虫が出てこない事を心から願おう。


「じゃあ今日の業務が終わったら、このテーブルで俺たちは待っているので

 こちらに来ていただけますか?」

「はい、分かりました」

ニコッという笑顔を見せて、セシルはギルドカウンターに戻っていく。


しかしこうして見ると、さっき支部長ギルドマスターの部屋でワタワタと慌ててた

姿は全く連想できないな。

あの慌て方はどの男が見ても結構可愛かったんだがな。


なんて下らん考えを止めて、視線をユミとエリンの方に戻す。

2人はまだじゃれ合っていた。


「うにゃぁぁ~~~。ユミしゃ~ん、もうかんべんしてくだしゃ~~~い」

「フフン?もっとしてほしいのかにゃ~? ハァ、ハァ…」

「・・・」

ユミに頬ずりされまくっていたせいか(気持ち良いのか?)、エリンの目がなんだか

トロ~ンとしている気がする。

対する頬ずりする側のユミは何故か鼻息が荒い。

エリンに興奮するなよ…。

しかしこのままだとエリンが可哀想だ。

この辺でユミの魔の手から解放してやるとするか。


「いい加減に止めてやれ、ユミ」

と言いつつ、ユミのコートの首根っこを掴んで持ち上げる。

「うわっ、ちょっとシン?」

「すぐにおろしてやる」

そう言ってエリンから少し離れた所にユミを下ろしてやる


「大丈夫か?エリン」

「はい…、おかげしゃまでにゃんとか~」

「…本当に大丈夫なのか?」

なんだか不安になる受け答えだな…。

「ユミもやり過ぎだ。謝りな?」

「はーい、ごめんねエリンちゃん。かわいすぎてちっとやり過ぎちゃったよ~」

「やれやれ・・・」


さあ、セシルの仕事が終わるまでの時間を、どうやって過ごすかな。



-----


「所で、エリンはこの後どうするつもりなんだ?」

エリンの状態がだいぶ落ち着いたところで、気になっていた事を切り出す。

「あ、ルフェルンには私の父方の叔母がいるので、普段はそこに一晩泊まって

 翌日西門からルフェルン街道を通って「アイルファ村」という村を経由して

 その先にある私の住んでる街の「シーサヴァイ」という街に戻ります」

「となると、馬車で2日掛かるという事になるのか?」

「はい」

「随分と遠いんだな…」

「ええ。まあ、幼い時から商人の仕事をしている両親の馬車に乗せられて、

 ルフェルン街道を何度も行ったり来たりしていますから。

 もう慣れたもんです」

「そうか…」


しかし、馬車で2日かかる距離をこんな幼い子供に一人で行かせる程、

この世界の環境は厳しいものなのか?

子供を送り出すにしても、誰か一人二人くらいの護衛を付けるのが普通だと

俺は思うのだが、この世界の常識はどうなのだろうか?


それにエリンと一緒にこの街に入ってきた時には見かけなかったものの、

自称神様の爺さんは『魔物も存在している』という風に言っていたはずだ。

馬車に乗っているときに見かけた冒険者らしき人物たちが背中に背負っていた

剣や斧、槍や木を削って造られた杖。

そのどの武器も、たまたま遭遇した盗賊達を倒すやら殺すやらするためだけに

持っているかどうかと言われれば、恐らくそんなことは無いだろう。


ルフェルン街道には恐らくあまり魔物は出現しないのだろうが、決して出現

しないという訳ではないはずだ。


そう考えると、エリンの事が心配だ。


「エリン、旅をする時には護衛を雇ったりはしているのか?」

「もちろん雇っていますよ。ただお二人に会った時には、その護衛の方々が

 盗賊達の突然の出現に驚いたらしくて、一目散に逃げて行っちゃって…」

「「はぁ!?」」


全く呆れたもんだ。

守るべき対象をほっ放って自分を守るために逃げ出すとは…。


「なんて奴だ…、依頼放棄して逃げ出すとは」

「呆れるわね…」

「まあまあ、盗賊なんて出てきたら誰だって驚きますよ。

 もっとも見捨ててくれたことに関しては、いつか絶対に探し出して後悔を

 させてやりますけど、ウフフフフ…」

「おお…。あの可愛かったエリンちゃんが一変、どこかへ消えちゃったよ…」

「エリンに恨まれると怖いな」

「まああの件についてはお二人がたまたまその場所に居合わせていたおかげで、

 私も馬も無事に生き延びて、荷物も奪われることなく無事に届けられましたし」

「結果良ければ全て良し、か」

「聞いたことない言い回しですけど、とりあえずそういう事です」

笑顔を浮かべるエリン。


「それで、エリンはさっき門をくぐる前に冒険者ランクを持っていると言ったが、

 そのランクはどの位なんだ?」

もう一つの気になっていたことを聞いてみる。

「私の冒険者ランクはDランクです」

「じゃあ、ルフェルン街道を通り抜けるのに求められる強さとして、どの位の

 冒険者ランクを持っていればいいんだ?」

「確か、Dランクであれば一人でも問題なく魔物と対処できると言われました」

「そうか…」

俺たちが新米冒険者として最初に与えられるランクはその2段階下のFランク。

ギルドランクの昇級がどのような形で行われるのかは分からないが、少なくとも

エリンは冒険者としてそれなりの経験を積んでいる事が分かる。

で、明日教えを乞うのは彼女よりもずっと実力が上の高レベルクランの面子。

どれ程の化け物じみた能力を彼らは持っているのだろうか?

気になってきたな。


明日出会うことになるであろうクランの実力を想像していると、カウンターの方

から小走りで近づいてくる気配がした。

振り向くと、頭に着けていた白いバンダナをとって髪を下ろしたセシルが

こちらへ向かって来ていた。

「大変お待たせしました、お二人とも。私の本日の業務が終わりましたので、

 これから食材の買い出しに行きましょう」

「分かりました。じゃあエリン、また会える時を楽しみにしているよ」

「元気でね、エリンちゃん」

「は、はい! お二人とも本当にありがとうございました!」

言うと同時に、エリンは俺たちに再度可愛らしい笑顔を向けてくれた。

それを見て、俺たちはセシルと共にギルドを後にする。



-----



若干つやのある藍色の髪を下ろしたセシルを先頭に、俺たちは街の中でも

一際賑わいを見せる商業区画を歩いていた。

隣を歩くユミは、両側に並ぶ露店の数々(今歩いている辺りは食べ物を扱っている)

を見て、目をキラキラと輝かせている。

俺自身も露店に並ぶ品々を見た所、現時点では虫の丸焼き等の食材は見ていない。


ちなみに全然関係のない話だが、今のセシルはギルドの受付嬢としての服装から

どこにでもいる町娘という感じの服装に着替えている。

当然肌の露出は少ない服装なのだが、露出に関係なく男達ヤロウの視線を嫌でも

惹きつけてしまう女性特有・・・・の特徴が彼女にはあった。

分かるだろうか…、歩くたびに揺れるその、大きな双丘。

何が言いたいかというと、ようするにセシルは巨乳美女なのである。

しかも彼女は、何故かは分からないがこの街では有名人らしく、道行く多くの男達ヤロウ

視線が(なんでこんな野郎と一緒にいるんだよ!)という俺に対する恨みと共に俺に

次から次へとグサグサと突き刺さる。

もちろんそんな視線を浴びせてくる奴らには、殺気を込めた睨みを返してやるが。


「セシルさん、今日は何を料理するんです?」

「う~んと、それなんですがいい献立が思い浮かばなくて…」

うん? これは、虫の丸焼きを回避できるチャンスか?

この世界の食材を見て回る絶好のチャンスでもあるしな、ここは俺が腕を振るおう。

「セシルさん、じゃあ今日の料理は俺に任せてもらえませんか?」

「え、ですが…」

「大丈夫ですよ。こう見えても料理の腕にはそれなりの自信があります。

 食材費に関しては今はセシルさん持ちになってしまいますけど、わざわざ泊めて

 頂くのに料理まで作らせてしまっては、申し訳が無いので」

「じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」

「ええ。任せてください」

…よし!

虫の丸焼きは回避できそうだ!!



さて言った手前、何を作るか。

エリンが物資を馬車で運んでいたのだから、あまり新鮮な食材(特に生もの)は

手に入らないと思った方が良いだろう。

そう思ってセシルに確認してみた所、「生ものは普通に手に入りますよ」という

答えが返ってきた。

何でも風属性の霊魔術で、生ものの鮮度を落とさずに保存する術があるらしい。

風属性という事は、保存したい物の周辺の空気を抜いているのかと聞くと、

「よく分かりましたね!その通りですよ!」と称賛された。

というか、これって冷蔵庫とかにある真空チルドってやつだよな?


とにかく、鮮度があまり落ちていない食材(生もの)が手に入るのであれば、

前世での食材選びのイロハが役に立つ訳だ。

例えば魚だと、目が濁ってるやつより澄んでるやつの方が鮮度が高い、とかな。


そして俺のレパートリーの中で、この世界で作れる料理の数も増える。


最初に戻るが、何を作るか?

「セシルさん、ユミ、どの位の量を食べられます?」

「私は男性と同じくらいの量で大丈夫ですよ」

「私は男性平均の1.5倍くらいかなぁ」

「へぇ、二人とも見かけによらず結構食べるんですね」

料理をどの位作るかという量の目安は分かった。

残りはメニューだ。


「では二人は、どんな料理がお好みで?」

「私は肉を使った料理とか好きだよ~」

「私はどちらかと言えば、野菜を多く使った料理の方が好きです」

うむ、料理の好みが分かれたな。

この両者の好みを反映するためにはどんな料理を作るか…。


「セシルさん、自宅にある調味料はどの様なモノがどのくらいありますか?」

「えーっと、塩と胡椒がこの位の容器に半分ずつ、後は植物から採った油が

 3分の2くらい残っていたと思います」

セシルが言った容器とは、手を鷲掴みする様な形にした時の、親指から中指までの

大きさをしているらしい。

家に置いてある赤いキャップの食塩の容器、あれをもう少し縦に長くした物のようだ。


さて、油があるのならば話は早い。

片方は肉が好き、片方は野菜が好き、だったら両者の好みの食材を料理にぶっ込めば

あまり考えなくてすむし、手間もあまり掛からんし、一石二鳥だ。

うん? 何を作るのかって?


”肉野菜炒め”だよ。


あとは主食をどうするか、だな。

おかずだけというのも前世の感覚がある以上、どうもイマイチに感じる。

この世界の住人であるセシルに聞いてみよう。

「セシルさん、この国では主食ってどういったもの食べてます?」

「主食、ですか…。基本はパンですが、穀物を食べる時もありますね」

「その穀物って、今家にありますか?」

「ええ、ありますよ」

「そうですか、ありがとうございました」


フム、とりあえず穀物があるのならば肉野菜炒めも上手く活きるな。

「今日作るものが決まったので、これから必要なものを買いに行きましょう」

「了解~」

「分かりました」



-----



「ふぅー、大漁大漁」

時と場所は変わり、ここは先ほどの露店街から少し離れた休憩所のような場所である。

俺たちはここで、食材の入った袋をいったん降ろして椅子に座って休んでいる。

「それにしても、シンさんの食材を見抜く眼はすごいですね。なんだかお店の方が

 すごく『やられたッ!』ていう顔をしてましたけど」

「そりゃ誰だって鮮度が落ちたモノより新鮮なモノ食いたいでしょう。新鮮な食材を

 得るためには、数多くの食材からそれ・・を見抜く術がなきゃ」

「まあそれはそうなんですけどね」

セシルが苦笑を浮かべるが、その理由は俺の買い物のやり方にあるのだろうな。



というのも、必要な食材は主に豚肉とレタス(orキャベツ)もどきなのだが、

それらを扱うどちらの店の品物も、明らかに鮮度が落ちていたのだ。

(もっともそれは、素人から見ると全然分からない程度の事なのだが)

最初はそれしかないなら仕方がないと思い、店主に品物を見せ、勘定を済ませようと

したのだが、その瞬間店主の口元がほんの僅かにニヤリ・・・としたのである。


それにムカついた俺はどうしたかというと、殺気を割と本気で込めて店主見ながら、

笑顔で(目は笑っていない)「もっと新鮮なモノあるんじゃないんですかー?」と

脅したら、「どうぞ!こちらを持って行ってください!」と一番鮮度の良いモノを

手渡してくれたわけだ。



「しかし店主もあれだけど、殺気を込めて店主を脅迫するシンもシンだよね」

「いや、鮮度の高いものをあえて店頭に並べないあの店主が悪いだろう。それに、

 一応ちゃんと代金は支払ったんだ、何の問題もないだろう」

「まあねー…」


とりあえずあの店主は詐欺まがいのことをする辺り、食材を見極める観察眼は

それなりにあるようだし、これからも贔屓ひいきにしようかね。

俺が直接出れば、間違っても鮮度が落ちた奴を渡したりはしないだろうし。


てな事を考えていると、俺たちのもとに近づいてくる気配がした。

その方向へ視線を向けると、身長170cm~180cm後半くらいの大男3人組が

こっちに向かって歩いてきているのが見えた。

「ユミ、なにやら面倒事が起こりそうだ。俺が相手する」

「うん? あの3人組?」

「ああ」

「分かった、よろしく」


ユミとセシルを俺の後ろに下がらせる。

と間もなく、男3人組が予想通り俺に突っかかってきた。


「おい、テメェ何なんだァ?」

「俺たちのあこがれのセシル嬢に、俺たちへの何の断りもなく手を出しやがって」

「なめんのもいい加減にしろよなぁ、あァ?」

3人組はそんなことを言いながら俺の周りを囲む。

(あーあ、面倒な連中に捕まったなぁ)

そんなことを考えている俺なんぞお構いなしに、3人組は拳をポキポキと鳴らす。


「つっても、俺たちも鬼じゃねぇんでなァ」

「生き残る機会くらいは、与えてやるよォ」

「だから、さっさとここから失せて欲しいんだわ」

「・・・」

(コイツら、ネチネチしていてメンドくせぇ…)

3人組の表情を見ると、全員が俺を見下したような下卑た表情をしている。


「さぁ、さっさと引っ込むか俺たちにボコられるか、どっちか選べよ。ヘヘ」

3人組の中でリーダー格らしき一番背の高い(俺より2.3cm高い)男が、下品な笑みを

浮かべながら俺に回答を迫ってくる。

(引っ込むのも癪だ。ボコられる気なんざ更々ねえし、もうしゃあない。

 少々荒っぽいがこいつらにお暇して頂こう)


「さあ、どうすんだァ?」

もう一度、リーダー格らしき男が声を発する。

それと同時に、俺はこいつらにお暇して頂くべく行動を開始する。

「じゃあ、テメエらにさっさと引っ込んで頂こう」

「あ?テメエ何言って・・・」

言い終わる前に、目の前に立っていたリーダー格らしき男の襟を持ち、足を引っかけ

勢いよく背負い投げを決める。

「グホァッ!?」

「デ、デット!?」

ふむ、今ぶん投げた男の名前はデットと言うのか。

予想していなかった出来事なのか、ほかの二人は驚きのあまり狼狽うろたえている。

あらあら、こういう時は一瞬でも気を抜いちゃいけないんだがなぁ。

まあ気が抜けている方がこっちとしては楽に倒せるから良いんだが。


さて、二人とも硬直しているみたいだし、せっかくだ。

かつてイタリアのマフィア構成員の男たちに効果抜群だったあの技を、こいつらの

実践して頂く事にしよう。


「ちょいと失礼、二人ともこういう時に敵から気を逸らすのは命取りだぜ?」

「「はッ!?」」

言うか早いか、俺は二人の後頭部を掴み互いに向い合せる。

掴まれている2人は、俺がこれから何をするのか全くわかっていない様子だが、

これからやることはその方が精神的ダメージがデカいので何も言わない。

で、2人の野郎の顔を真ん中・・・に押し出す。

「「ッッッッッッッッ!?」」


もう何が起こったのか、お分かりになられたと思う。

野郎同士でふっか~~いチューを体験させてあげたのだ。

ちなみに言っておくが、俺は腐男子では決してない。作者も同じく腐男子ではない。

断じてない。


ちなみに周りからは、「うわぁ…」とか「これはえげつないことするねぇ…」とか言う

街の住民の声から、「ハァ、ハァ、生だ…」と興奮する若い女性の声も聞こえる。

てか最後の、絶対腐女子だろ。


というかやられた2人の野郎は相当なショックを受けたらしく、頭を掴んでいた手を

離してやると、そろって四つん這いになって気持ち悪がり始めた。

「おうえぇぇぇーーーー…」

「うげぇぇぇぇーーーー…」

(あらー、ここまで効果抜群だったとはね…)


後ろの下がってもらっていたユミたちに視線を向けると、視線を何故か二人から

プイっと気まずそうに逸らされた。

(これは少々やり過ぎてしまったか?)

いやしかし、喧嘩吹っかけてきたのはこいつらだしなぁ。

はて、どうすればいいのだろう?コレ。


「さて、懲りたか? デット君と仲間たち」

とりあえず熱いキスをした二人と、俺がさっきぶん投げたデットとかいう奴に

懲りたかどうかを聞いてみる。

するとデットがのっそりと立ち上がり、ゆっくりとこっちへ歩いてくる。

そして殴ろうと思えばいつでも殴れる距離に来た辺りで、口を開く。

「ああ、参ったよ。ただ殴り合いだけなら何度でも復讐しようって考えてた所だが、

 あんなモンやられたり見せられたりしたら、あんたに逆らおうって気が失せるよ…」

「そうか、それならそこの2人が犠牲になった甲斐があったというもんだな。

 というか、俺のやる仕打ちはこれでもまだ可愛い方なんだが?」

「…勘弁してくれ」

デットの後ろにいる2人を見ると、懇願する様な目で俺を見てきた。

ふむ、相当精神的にトラウマを植え付けたみたいだな。

この分なら、俺の言う事には従ってくれそうだ。


「懲りたんなら、もうセシルさん周りの事で問題は起こさないように気を付けろよ」

「何だと…?」

「そもそもお前ら、セシルさんから何か言われてこんな事やってる訳じゃないんだろ?

 こういうイザコザ何度も起こしてたら、セシルさん自身が迷惑するって事を少しは

 考えなかったのか?」

「「「あ…」」」

3人が揃いも揃って口を大きく開けて失念していたと言わんばかりの表情をする。

セシルに目を向けると、額に手を当てて「はぁーー・・・」と溜め息をしている。

「…お前ら、バカ?」

「バ、バカじゃねぇし! なぁ!」

「そ、そうだよなぁ! アハハハハ」

「そういう反応するって事は、自分がバカだっていう自覚が少しはあるんだな」

「「「・・・」」」

揃って俯いてしまう。


「まあいいや。とにかくお前らが俺にやってきたようなやり方は、セシルさんを

 困らせるんだから止めろ。絡むのも騒ぎになるんだから禁止だ。

 破ったら、俺がお前らにさらに死にたくなるような制裁をするからな?

 分かったか、このバカ共」

「「「お、おう!」」」

「分かったんならそれで良い。さっさとどっか失せろ」

「お、おう!」

言うか早いか、デットがキスを交わした2人を連れて一目散に逃げ出す。



(やれやれ、街に来て半日も経ってないのに騒ぎ起こしちまったよ)

向こう側へと逃げていく連中を見ながら、自分が彼らにやった行為について

思い浮かべてみる。

まず俺は男とは絶対にキスをしたくない。

もししてしまったら、本気で舌噛み切って死にたくなる。

やはりやり過ぎてしまっただろうか?

だがあの位のトラウマを与えてやらんと、あの手の連中は言っても治らないしな。

まあ、連中が問題を起こさないことを祈るとしよう。

もうこのお話はおしまいだ。


さて、異世界への転生早々さっそく騒ぎに巻き込まれたが、料理を作るという

行動を実行するための下準備(食材集め)は終わった。

あとはセシルの家にお邪魔させてもらい、そこで俺の料理の腕を振るえばいい。


そして冒険者としての生活を進めていこう。

初っ端からチンピラに絡まれてしまいましたが、

男だったら基本的には誰もが恐ろしいと感じる禁断の技その1を

2人組に実行しました。


あんなモンやられた日にゃ、本気で死にたくなる…。

でも僕は腐男子じゃないぞぉ!?

シンも違うんだぞぉ!?

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