第4話:~自分たちに宿るチートパワーの正体~
またまたお待たせしてしまいました。第4話です。
変わらずの駄文ではございますが、お楽しみください…
第4話:~自分たちに宿るチートパワーの正体~
カウンターを挟んで向かい合って座っているセシルが、俺の手を
かざされる事によって、水晶に起こった反応を見た瞬間突然立ち上がり、
俺と隣に座るユミの手を取っていきなりカウンターの奥へ連れて行ってしまう。
いきなり連れてかれたために、俺もユミも”目が点”状態である。
連れてかれたところは、先ほどユミが目を凝らして観察していた辺りの部屋。
ただしカウンター側からは見えない、死角となる位置に俺・ユミ・セシルはいる。
「いきなりこんな所に連れてきてすみません。
ですが、シンさんの能力はとても強力なので、
それをお伝えする為にここまで来て頂きました」
「はあ、それは良いんですが、俺の持つ力って一体どんなモノなんです?」
「良く聞いてください。シンさんの魔力性質は
『聖と闇』の二大元素、総量はとてつもない程の大きさです」
「二大元素が魔力性質だと何か問題が?」
「今までのギルドの記録において魔力性質が二大元素の人物は存在しないのです。
ギルドに登録していた全ての人物は、六属性のいずれかのマナ、
それも多くても3つまでしかその力を持っていないのです」
「ええと、その時点で俺はかなり珍しい存在ってことですよね?」
「珍しいを通り越して、”滅多にいない”才能の持ち主ですよ。
なにしろ、『二大元素』という属性の魔力を体内に宿している人物というのは
聞いたことがありませんから」
「はぁ」
二大元素を体に宿している、これがこの世界において果たしてどういった影響が
あるのであろうか?
この世界に転生したばかりであるために、イマイチ事の重要性が掴みにくい。
「それで、二大元素を体に宿しているとどのような影響があるんです?」
「それについては、何故魔力の属性が『二大元素』と『六元素』という風に
わざわざ区分けされているのかという事をご理解して頂かなければならないの
ですが、お二人はこの理由はご存じでいらっしゃいますか?」
「いえ…」
「さぁ…」
「では魔力属性が区分けされている理由からお話しいたしますね。
まあといっても、理由は簡単なので結論から先に述べてしまいますと、
『六元素』は”『二大元素』から作られている”という事なんです」
「「は?」」
「つまりですね、『六元素』と呼ばれる魔力は『二大元素』である聖と闇の魔力が
どれだけの比率で構成されているかによって、属性が変化しているんです。
例えば炎属性の場合、聖属性と闇属性の比率が大体「5:5」であると
されています。しかし地属性の場合は、二つの属性が「4.3:5.7」
であるとされています。
このように、二つの属性の比率によって『六元素』と呼ばれる魔力は成り立っています」
「ってことは、もしかしてシンは…」
「はい。『二大元素』の属性の比率を上手く調整することが出来るようになれば、
理論上『二大元素』と『六元素』の8属性全ての魔力を扱えるという事です」
「・・・・・・・・・・・・」
開いた口が塞がらないという諺(ことわざ)は、まさにこういう場面に用いられるべきでは?
自称神様を名乗るあの爺さんは、魔法を扱うための素質が豪く強くしたとか
言っていたが、正直これはチートレベルをも超えているんじゃないかと思う。
セシルが言うに普通の人間は『六元素』のいずれかの属性を体内に宿し、
複数の属性を宿していたとしても、その数は多くて3属性。
それに対して俺の方はどうだろうか?
体内に宿している属性の数こそ二つしかないが、宿している属性の本質が問題である。
今まで確認された事のない『二大元素』を体内に宿している存在であり、さらには
魔法を扱うときにはこの二属性を同時に発動、その際込める比率を変化させれば
理論的には全属性を任意に使用可能となるらしいのだから、
驚きを通り越して呆れしかない。
「もはや呆れるしかないですね。ここまでふざけた能力ですと…」
深くため息をつくが、そんな事をしたところで今の状況が何か変わる訳でもない。
とここでセシルがふと何かを思い浮かんだのか、唐突に顔をユミに向け、
あろうことかズズイッとユミの顔面に急接近する。
それこそ、あともう少しで鼻同士がくっつくくらいまで。
「あ、あの、セシルさん?」
「もしやとは思いますが、まさかユミコさんまでもがシンさんと同じような何か
トンデモな能力を持っていらっしゃるなんて事は、ないですよね?」
「そ、そんな! 私もなんですか!?」
「私が聞いているんです! 答えてくださいユミコさん!」
「そんなこと聞かれても分かりませんよ! 今まではただの用心棒として働きながら
遠くの地を目指して旅して来た訳ですし」
「・・・」
ユミの言い分を聞いて、何か納得のいかない表情をするセシル。
その眼はジト目になっていて、その視線をユミに向けている。
セシルがジト目をユミに向ける理由は何となく想像がつく。
それは、この世界の人間の能力の限界を遥かに上回る人間が二人も一緒にギルドに
登録しに来ることによって、彼女自身の仕事量が増えてしまうのを
恐れていると思われる。
考えても見てほしい。
俺の能力はこの世界の人間にとってもしかすると下手をすりゃ神様と崇められて
しまうんじゃないか?って程の強力な力だと言える。
元いた世界でいうなれば、いつでも核弾頭を積んだミサイルを好きな場所に
発射できる権限を持った米大統領のような立場にある。
「あ、あの~・・・?」
「ハァ…。すみません、少し取り乱しました。ともかく、調べればわかる事なので
私は受付の所に置いてある水晶を取りに行ってきます」
一応言っておきますが、ここでじっとしていてくださいね!と言ってセシルは
カウンターに小走りで向かう。
別に逃げ出したりするつもりは更々ないんだが、態々(わざわざ)じっとしてろと念を入れる
という事は、どうやら本当に一つ自分の魔法の扱い道を間違えれば人的被害が
大きく出てしまう程の能力を俺は持っていると考えられる。
ふとここで、自称神様が夢の中で言っていた言葉を思い返してみる。
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『まずおぬしらに与えた”誰もがビックリする様な力”の詳細じゃがな…』
「ビックリする様な力とは?」
『魔法を扱うための素質を、すっばらしいくらいに高レベルにしておいたのじゃ』
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爺さんは『おぬしらに与えた』と言っていた。
あの夢の中にいたのは、爺さん・俺・ユミの三人。
当然ながら俺は既に結果が出ているので除外する。
となればおぬしらとは複数の人間を纏めて指す時に用いられる単語であり、
残る対象となる人物はユミしかいない。
「セシルさんは、この後ユミの結果見てまた驚くんだろうな。
あるいはさっきの様子から見て、もしかしたら絶望するか」
「何でセシルさんが私の結果を見て絶望するのかな?」
「うん?」
気付けばすぐ隣にいたユミが椅子に座って俺を見上げていた。
口に出していた内容が聞こえていたようだが、特に隠すほどの事もないな。
「この世界に飛ばされてきた時、目が覚める前に見た夢の中であの爺さんが
言ってたこと、覚えてるか?」
「うん覚えてるよ。あのおじいさんが言ってた話のどのあたりのこと?」
「”おぬしらに与えた…”って辺り」
「チート並みのスペックを私たちに説明してくれた辺りのところ?」
「ああ。夢の中には爺さん含めて3人、俺はもう能力が分かってる。
能力が分かっていないのはお前だけ。で”おぬしら”ってのは俺とユミに
対しての、俺ら二人をまとめた呼び方なんだから、ユミもさぞかしセシルさん
が頭を抱えたくなるような結果が出てくるだろうなって意味だ」
「あ、そういうことね」
「そういうことだ」
会話が途切れる。
ユミは椅子に座り、俺はそのすぐ隣に後ろで手を組みながら立っている。
しかし、ギルドの職員と思しき女性たちは皆が自分の仕事に集中していて、
会話と呼べる会話は一切行われていない。
そのために、静か過ぎる空間が必然的に誕生することになる。
私事だが、俺はこういう静かすぎるくらい静かな環境が好きだ。
何の音も出ない、完全な静寂に包まれた空間にいることが好きなのだ。
でも隣に立つ大和撫子美人(ユミ)はというと、そうではないらしい。
上からユミの顔を見てみると、なんだか少し気まずそうにしている。
「ね、ねぇ。 何か話さない?」
「話す?」
「そう、なんだかこういう静かすぎる環境ってちょっと苦手で…」
ふむ、ユミは静寂の環境に長くいると精神的にストレスを感じるタイプなのか。
少しはガヤガヤしている方が気が楽なのかもしれない。
俺はガヤガヤしているのは大嫌いで、静かすぎるくらいの空間にいる方がずっと
気が休まるという感覚なので、ユミの感覚は少々理解しかねるが…
しかし、話すといっても一体何を話すのだろう?
俺は別に、人に話して共感や笑いを誘えるような類の話題は
生憎持ち合わせていない。
生前の話は、この世界で生まれ育った人間が多すぎるこの場所では、絶対に
話さない方が良いに決まっている。
とりあえず、話題となるようなものは俺には思い浮かばない。
ユミに丸投げしよう。
「話すのは別にかまわないが、俺には話題が思い浮かばん。ユミが決めてくれ」
「えっ、私が決めるの?」
「話題が無いのなら話すこともできない。浮かばないのなら会話は打ち切りだ」
「え、えーっと、そう! 趣味は?」
「趣味?」
「シンの趣味、気になるな~」
「趣味…」
果たして俺の日々の生活の中で趣味と呼べるようなものはあったか?
生前の生活の中では、仕事が空いた暇な時に白色プラスチックを四角柱にしたモノ
(中身は空洞ではなく、ちゃんと質量もある)を買って、それを大理石を削って
形を表現する彫刻のようにキリやナイフを駆使してフィギュアを作っていたが、
これって趣味と呼べるものなのだろうか?
作っていたのはアニメのキャラクターの時もあれば、借りていたマンションの
近所の住人(高齢の老夫婦に夫婦の写真をもとに夫婦が互いに寄り添って
立っている姿を彫って渡した時には、涙を流して「ありがとう…」と
喜ばれた)、その他自分が適当に頭に思い浮かんだ船や戦闘機、
銃や各国の軍の兵士なんかも作ったか。
ウン、これはもう完全に趣味と呼べる範囲だな。
ユミにそのことを話そうとしたところで、パタパタとこちらに向かう
足音が聞こえてきた。
「大変お待たせしました。エリンさんが命がけで運んできてくださった物資の
輸送依頼の手続きに時間を要してしまい、こちらでお待たせしてしまいました」
「お気になさらないで下さい。それで、エリンの用件は無事に終わりましたか?」
「ええ。お待たせしてしまいましたが、そのおかげで無事に終わらせることが
出来ました。それと、エリンさんが後でお礼をしたいので登録が終わったら
ギルドのテーブルで待っているとのことです。
登録が終わりましたら急いで行ってあげてください」
「分かりました」
「では改めまして、ユミコさん。水晶にお手をかざしてください」
「はい」
恐る恐るという風な感じにゆっくりと、ユミの手は水晶に近づいていく。
その手はやがて、水晶から手のひらまで指2本分くらいの隙間ができる
くらいまでの位置で止まった。
あとの結果がどう出てくるのかは分からない。
たださっきユミと話した通りのことがユミの体に起こっているのであれば、
間違いなくユミの隣に立って結果を見守っているセシルが頭を抱えたく
なるような結果をこの水晶は示してくれるであろう。
そう考えるとセシルの事が少し不憫に思えてくるが、これは俺に言われても仕方の
無い事なので、ご容赦頂こう。
なんてくだらない事を考えていると、水晶に変化が起こり始めた。
どのような変化が起こったのかというと、中心から放たれる無色の光はそのまま、
その光量が先ほど手をかざした俺と同じくらいのモノになったのだ。
先ほどセシルから聞いた水晶の機能を鑑みると、何かしらの属性を持っている場合
水晶の中心から放たれている光の色合い自体が変化するようだ。
俺が手をかざした時も、金色と紫色に光の色自体が変化したように。
だがユミの場合は…
「セシルさん。ユミも相当の魔力総量があるみたいですけど、色は何も変化が
見られませんね。この場合ってどう判断するんです?」
「そ、それはえーっと…、アァァァァァァ~~~~~……」
案の定、セシルは頭を抱えて絶望モードに入ってしまった。
「あのーセシルさん、水晶の色が変わらないってことは、これって無属性とか
あるいは滅多にいない才能の持ち主って感じなんでしょうか…?」
「アハハハハ…、とりあえずギルドマスターに報告してきます。
ここまでの人間離れした能力を持った人が同時に二人も出てくるなんて、もう
たかが受付嬢の私に収まる範囲の仕事ではなくなりましたから…」
「えーと、ごめんなさい…」
「いえ、ユミコさんが謝る必要なんてないんです。とりあえずどこかに逃げたり
なんてことはしないでくださいね?」
「心配しなくても、逃げたりなんかはしませんから」
「そうですか、では報告してきます…」
カウンターからこちらへ来る時のパタパタとした急ぎ足とはうって変わって、
ギルドマスター(言葉的に多分、このギルドを治めてる人なのか?)への報告に
向かうセシルの足取りは、トボトボとしたおぼつかないものだった。
「なんだか、セシルさんには悪いことしちゃったかなぁ」
こちらから見て直線状にある2階への階段をゆっくりトボトボ上っていくセシルの
様子を見て、ユミが声を出す。
「俺はユミの能力がどんなものなのかは分からないが、少なくともさっきの言い方
から俺クラスか、あるいはそれ以上の化け物レベルのモノであるのは明らかだ。
水晶の光の強さも俺と同じくらいだっただろう?
俺がこの体にどのくらいの魔力を備えているのかは分からないにしても、それも
カウンターからわざわざこっちまで連れてきた位なんだから、常人じゃ持てない
程度の魔力総量はあると考えられる。
それと同じくらいの魔力総量をもう一人も持っていたなんていったら、多分
普通の人間はああなると思うぞ。
大体、この能力はこの世界に来た時から元々この体に備わっていたものだ。
それをどうこうすることは恐らくできないんだろうから、
ユミが責任を感じる必要はない」
「う、うん…」
程なくして、セシルがさっきよりはしっかりとした足取りで階段を降りてきた。
そして俺たちのもとに近づくと共に、
「ギルドマスターの部屋にご案内いたします。後についてきてください」
と俺たちに告げる。
ギルドマスター、一体どのような人物なのだろうか。
”彼”なのか、あるいは”彼女”なのか。
中年から老年に入っていく位の年齢なのか、年は若くて頭が切れるのか、
あるいは70から80くらいの老齢なのか、それすらも分からない。
「会ってみれば分かるか…」
「何か仰いましたか?」
「ああいえ、これからお会いすることになるギルドマスターとはどのような方かと
少し気になったものですから」
「そうですか。ではいい機会ですのでマスターについて少しお話ししておきます」
階段を上り、そこから時折直角に曲がったりする長い廊下をセシルの後に
続きながらギルドマスターの待つ部屋に向かう途中で、セシルはその
ギルドマスターについて簡潔に分かりやすくまとめて話してくれた。
「このルフェルン・ミサ支部のギルドマスターは、御年83歳になると
言われていらっしゃる方で、冒険者ギルドに所属していた多くの冒険者の
中でも、数少ないSSランク冒険者として活躍していた、とても
高名な人物です。
現在は現役を退いておりますが、『黒鳥』の名は冒険者であれば
知らぬ者はいないと言われています」
「へぇー」
「それほどの方がこのギルドを治めていらっしゃると…」
「はい。今は冒険者たちの管理・育成に力を注いでおられます。
誰に対してもわけ隔てなく接して下さる方なんですよ」
「なるほど…」
ルフェルン・ミサにあるこの冒険者ギルドを取り仕切る、かつて”黒鳥”と
呼ばれ、多くの冒険者たちの目標となる人物。
俺たちを見たときに、彼はどう感じるのであろうか。
この世界の人間にとって、俺たちが体に宿している力は人間離れし過ぎている。
ユミの能力は分からない。
でも俺の力ははっきりしている。
聖属性と闇属性の『二大属性』持ちという前例のない存在。
二つの属性の使い道を上手く活用すれば、理論上8属性全てを操れる。
このことが国に露見すれば、俺たちが火種となる戦争が勃発してしまう可能性も
セシルの反応から見た限り、どうも否定できそうにない。
いわば非常に強力でいつ暴発するか分からない爆弾2つと言える俺たちに、
ギルドマスターはどのような評価を下すだろう?
「着きました。こちらがギルドマスターのお部屋です。
私の後に付いて、部屋に入ってきてください」
「「分かりました」」
さあ、いよいよギルドマスターとの対面だ。
-----
コンコン…
高級感漂う黒光りする木製のドアを、セシルは表情を緊張させてノックする。
「ギルドマスター、セシル・ファルネスです。先ほどお伝えしたギルドへの
登録希望者二名をお連れ致しました」
「…入れ」
「失礼いたします」
セシルが扉を開け、最初に部屋の中に入る。
俺はそのあとに続いて部屋に入室し、ユミが部屋に入ったのを確認してセシルが
部屋の内側に開いていた扉を、丁寧な動作で殆ど音を立てずに閉める。
それからユミの隣に立ち、”気を付け”の姿勢をとる。
部屋の内装は実に殺伐としたものであった。
こちらから見て右側はクローゼット、左側には食器などを収納している戸棚。
それらに挟まれるように、ずっしりとした木製のデスクが鎮座していた。
そしてデスクの後ろにある窓から”休め”の姿勢で外を見ている、黒いコートを纏い
少し長く伸びた白い髪を後頭部で結んだ背の高い男がいた。
男はこちらに振り向くや否や、いきなり鋭い眼光を浴びせてきた。
「ッ!?」
その視線に思わずセシルが声にならない声を上げる。
しかしユミはというと全く動じた気配が無い。
まあ当然か。
生前の世界ではこんな眼光を浴びせてくるヤバい奴なんざ幾らでもいた。
それに比べ、目の前にいる男が放った眼光は動じるまでには至らない。
「フム、私の睨みに動じない人間は初めてだな。むしろギルドの身内である彼女を
怖がらせる結果になってしまったようだな」
「そんな事はどうだっていい。あれがあんたの初対面の人間に対する挨拶なのか?」
やられた仕返しに俺も男を睨み返す…、それも殺気を込めて。
「! 君の睨みはなかなかの気迫があるな。いや、すまない。
目の前の人物の度胸を見るのが目的なのだ。気分を害したのなら謝ろう」
「そういう事なら別にいい。そんな眼力で睨まれりゃ腰抜けならまずあんたに
逆らおうだなんて馬鹿なことは考えなくなる」
「そうか、理解してもらえてありがたい。では本題に移ろうか?」
「ああ」
男は改めてデスクの椅子に腰かけると思いきや、机自体に腰かけた。
「さて、この姿を維持するのは少々骨が折れるようになってきてな」
「「姿?」」
この男は霊魔術で変装でもしているのだろうか?
考え出す前に「まあ見ていると良い」と言った。
と同時に、男の体がみるみる内に小さくなっていく。
「「は?」」
思わず口をついて出てしまったが、男は見る間にどんどん小さくなっていく。
そして変身が終わると、俺の膝くらいまでの身長の老人がいた。
服装も先ほどまでのシックな衣装から、青を基調としたラフな格好になっていた。
「驚いたかね?」
「驚きを通り越して呆れている」
「私も、です」
老人はちょこんとデスクの上に椅子に座るかのように腰かけている。
「では改めて自己紹介をしよう。ワシはこのルフェルン・ミサ支部の支部長を
務めておる、ロッド・ファルネスじゃ。よろしくな」
「シン、先ほどギルドで決めた名前ではアレキサンドライト・シンフォニアス。
これから先いろんな所で迷惑を掛けたり世話になると思うが、よろしく頼む」
「わ、私は飛鳥優美子です!」
「フム、シンにユミコか。これからよろしく頼むな。
さて早速だが、わしはこれからお前らにいくつか質問をする。それにちゃんと
答えてくれ。よいな?」
「ああ」
「はい」
そうしてギルドマスターのロッドから幾つか質問を浴びせられたが、それらに
関しては長くなるのでここでは割愛しよう。
纏めると、
1:お前らはどこからきたのか?
2:霊魔術を今まで使ったことはあるのか?
3:魔力検査で出た己の結果が、世界にどれほどの影響を与えるのか自覚があるか?
4:衣食住の問題は大丈夫なのか? etc...
といった内容の事を聞かれた。
それに対して俺は、ほかの誰にも言わないという事を予め約束してもらい、
嘘・偽りのない真実の答えを返した。
もちろん、最初はセシルもロッドも信じられない様子だったが、たまたまコートの
ポケットの中に入っていたスマートフォンとフィーチャーフォンを二人に見せると
「こんな技術がお前さんらの世界では当たり前のように発展しているのか…」
と納得してくれた。
さて、ロッドからの質問コーナーが終わると、次は俺たちの今後の方針を
話し合う事になった。
その上で現在俺たちが抱えている問題点を一度考えてみよう。
まず、霊魔術の高い素質は持っているが、使ったこと自体がそもそもないため
早急な訓練が必要であるという事。
次に、あまり俺たちの能力が公にならないように生活する術を得る必要がある事。
そして、金だ。
考えてみれば俺たちはこの世界 (orこの国)の通貨を持っていない。
この世界に来てから1日も経っていない内にこんな展開になって、正直考える暇が
無かったのも事実なのだが、とにかく金が無ければ衣食住もクソもない。
以上の事を早速ロッドに相談してみると、衣食住については
「じゃあセシルの家に居候させて貰うと良い」という答えが返ってきた。
「はい?」
当然だが、言われたセシル本人は目が点状態である。
そして何を想像したのか、顔を赤くして反論する。
「わ、私の家にユミコさんは良いですけど、シンさんまで泊めるんですかぁ!?」
「なんじゃ、嫌なのか? せっかくこんな格好良い男がいるのに、このままじゃと
本当に男を取り逃すぞ?」
「大きなお世話ですッ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶセシル。まあ俺が彼女の立場だったとして、あんなこと
言われたら俺もセシルと同じように言い返すだろう。
あそこまで顔を真っ赤にはしないとは思うが。
「だそうじゃ。シン、お前さんはワシの生活している隣の部屋で一緒に
寝泊まりするかの?」
「俺は別にどちらでも構わないが?」
「なんじゃ、お前さんは女二人と一緒に寝泊まりしたくはないのかの?」
「したくないわけではないが、それが互いに恋愛感情を相手に向けあっている間柄
での同棲ならまだしも、見ず知らずの異性を自宅に泊めたくはないだろう。
俺だって自宅に見ず知らずの人間は絶対に泊めたくはない」
「わ、私は決して泊めたくないなんてことは・・・////」
うん? 今度はどうやら違うベクトルでセシルの顔が真っ赤になったようだな。
「と、とりあえず!シンさんもユミコさんも私の家に泊めれば良いんですね!?」
「なんじゃい? やっぱり男を撮り逃したくないのかの?」
「そういう問題じゃないんですっ!『ユミコさんだけ家にご招待で、シンさんは
男子禁制だからどっか適当に別の所で寝泊まりしてください』だなんて
言えないでしょう!」
「い、いや、別に俺のことまで気にしなくてもいいんですよ?」
「シンさんには意見を求めてません! というかもう決定です!二人とも当分は
私の家で寝泊まりやら生活やらしてもらいます! 異論は一切認めません!」
うわぁ、すっげえ強引に決定したぞ今。
俺も床があったり屋根があったり、欲を言えば寝るための下に敷く布団があるのは
本音を言えば非常にありがたいのだが、なんかセシルの様子を見ると
結構勢い任せの感じがする。
でもま、せっかく家に泊めてくれるという神の御恵みにも相応しい提案をして
くれたのだから、その好意に今回は甘えるとしよう。
だから今回は何も言うまい。
ものすっごく顔が真っ赤になっていて、カウンターでの中二病発覚事件の際の
ユミのように、両手をわたわたと振り回す仕草に、
思わずカワイイと見惚れてしまったことは、な。
「おーおー、我が孫娘はとっても大胆に成長したもんじゃの」
「ああ、セシルさんは爺さんの孫娘だったのね」
「そうじゃ。話してなかったか?」
「部屋に入るときにセシルさんが本名を名乗り、爺さんが小さくなってから本名を
名乗って、なにかしら血縁関係か家族としての関係があるとは思ってた」
「そうじゃったか、とりあえずセシルはワシの孫じゃ。アイツは一度人を好きに
なると、心の底から一途に尽くし続ける性格じゃから、おすすめじゃの」
「おすすめって…、それは本人が決める事じゃないのか?」
「もちろん最初は男なんか連れてきて欲しくは無かったんじゃがの。段々と時間が
経ってきて、いつまでたっても男を連れてこんから、ちょっと心配なんじゃ」
「だから、それも含めて本人が決める事だろって。そういう事はあんまり横槍を
入れない方が無難だと思うぞ。俺の友人たちの経験上」
「ふむ、お主は”自分の事は自分で決めろ”主義なのか」
「当然。それが個人を尊重する一番分かりやすい形だからな。逆に言えば、
何しても自分の責任になる訳だが、それが社会ってもんだろ」
「そうじゃの」
爺さんと話をしてみれば、初対面の時に放っていた殺気は全く感じられなかった。
というか、霊魔術によってそれが起こったとはいえ、背の高い老人からいきなり
自分の膝くらいの身長まで縮んだら誰だって驚くだろう。
いまデスクに腰かけている小さな爺さんは、先ほどまでのあの背の高い老人と
同一人物 (見た目はかなり異なるが)であるとはとても思えない。
といかんいかん。
また下らんことを考えてしまった。
「さて、アレクサンドライト・シンフォニアスと飛鳥優美子。お前さんらの持つ
魔力総量は、はっきり言って危険すぎるものじゃ。
しかしお前さんらの話を聞く限り、霊魔術は一切使ったことが無い、
そうじゃな?」
「ああ」
「は、はい」
「それはそれで、この世界で身を守るための術がないという重大な問題じゃ。
そこでワシの信頼できるギルドのクラン(ギルドのメンバー同士が集まり、
ユニットを組んだ少数のグループの事)に、依頼に見せかけてお前さんらの
霊魔術訓練をやってもらおうと思っておる」
「それはありがたいが、そのクランの面子は本当に信頼できるのか?」
「当然じゃ。何しろ最低がAランク、最高がSSランクじゃからの」
「…マジ?」
「実力に関してはこのギルドどころか、世界の冒険者の中でも最強クラスじゃ。
下手なCランクとかの連中に任せるよりかはずっと安心じゃろ?」
「ま、まぁ」
「んじゃ、そいつらに霊魔術の根幹から叩き込んでもらえ。あ、その依頼に
ついては明日も朝から出勤する予定のセシルに”ギルドからの直接指名”
という形で出発してもらう。
前準備とかについては、奴らのクランに頼んでおくから心配せんでもええぞ」
「そうか… 何から何まで色々とすまない」
「気にするな。じゃあ、セシル。お前も帰って休むのじゃな。そのついでに家まで
連れて行ってやれ」
「分かっています」
「じゃあこの話は異常じゃ。お前たち、下がっていいぞ」
「はい。セシル・ファルネス、失礼いたします」
-----
「というわけでこれから当分の間、お二人には私の自宅で生活して頂くことに
なります。長い付き合いになると思いますが、よろしくお願いします」
ギルドマスターの部屋を出た所で、セシルは言葉を述べてペコリと
綺麗なお辞儀をする。
「頭を上げてください。お世話になるのは俺たちなんですから、頭を下げなきゃ
ならないのは俺たちの方です」
ユミと共に今度は俺たちがセシルに頭を下げる。
「フフフ、お顔を上げてくださいお二人とも。じゃあエリンさんに挨拶を
済ませてから私の自宅に向かいましょう」
「ええ。これから、お世話になります。セシルさん」
「よろしくお願いしますね、セシルさん!」
さて、まだまだやらなきゃならん事は沢山あるが、とりあえず一回でエリンに
改めてお礼と挨拶をしてやらなきゃな。
まったく、この先この世界での人生がどう転んでいくのか予想がつかん。
少なくとも、平穏に生きられることは多分ないだろう。
まあ、おいおい対策を立てていけばいいだろう。
とりあえず今はエリンとの顔合わせが先だ。
「じゃあセシルさん、一階に行きましょう」
「ええ。お二人とも行きましょう」
さあ、異世界ライフが始まるぜ!
…、俺のガラに会わねえな。
最後の『ガラに合わない』というのは、基本クールな性格であるシンの
普段の口ぶりには合わない、という意味です。
ちなみにフィーチャーフォンというのはなんとなく想像できると
思いますが、世間で言われる『ガラケー』の事です。
”なつみかん”さんから教わったプチ雑学をここでお借りして
文章に取り入れてみました。