第3話:~異世界初めての街 ー 交易城塞都市ルフェルン・ミサ~
新年、明けましておめでとうございます。
すんごくお待たせいたしました。
話のネタが全然頭の中でまとまらなくなってしまって…。
そんなこんなで年が明けてしまいました。
では、異世界ライフを始めよう編の第3話、どうぞ。
第3話:~異世界初めての街 ー 交易城塞都市ルフェルン・ミサ~
交易城塞都市ルフェルン・ミサ /Trade fortification city :Luphern Misa
ちなみに街の名前のスペルは俺が適当につけただけ。
街全域を覆う巨大な城壁と、古来から交易の中心地として栄えてきたために、
「交易城塞都市」というような呼び名が付けられたんだそうだ。
元々はこんな城壁などない、人や物が行き交う大きな街だったらしいが、
数百年ほど前、この街の東に「アルト防衛要塞」とかいう要塞が出来て以降、
当時の人類が持ちうる技術の粋を集めて、この城壁を建造したらしい。
昔の人たちは本当にご苦労なことだ。
じゃあそもそもの話、この城壁が建造されることになったきっかけはというと、
理由は単純で”2つの軍事的防衛線を作る”ことが目的だったらしい。
図で説明してみよう。
この街は「アインスフィア帝国連合」という国の領土にあるが、
ここを東に行くと「アルト防衛要塞」があり、さらに東に進むと、もう
首都である「帝都アルト・ナスフィア」についてしまうんだそう。
つまり、防衛要塞だけでは不安であるという事なのだろう、
後ろの要塞の前に城塞を配置することにより、帝都をより強力に守ることが
この街の周りに巨大な城壁を建造した理由らしい。
おかげで街の中で何か犯罪者でも暴れた時には、簡単に包囲ができる。
ちなみにこの街を囲む城壁には、計4つの門が存在する。
街の西から伸びる「ルフェルン街道」へ繋がる”西門”、俺たちが眠りこけていた
あの街道に通ずる門である。
その少し北側、方位磁針で示せば北西の方角に位置する、まんま”北西門”
こちらは「リサルト街道」と呼ばれる街道に通じている。
西門の少し南側、方角で表せば南西の方向に位置するこちらも、まんま”南西門”
この門は「サルファン街道」という街道に通じている。
そして西門と正反対の方角に位置する”東門”、さっき図で説明した通り、
この門を抜けると「フェルト間道」と呼ばれる街道を通って、帝都へと
向かうのに必ず通らなければならない「アルト防衛要塞」へと通じるのだ。
なんていう知識を、エリンから教えられた。
なんだか彼女には本当に世話になりっぱなしである。
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ルフェルン街道から通ずる西門を無事に通過し、ルフェルン・ミサの内部、
もとい結構な高さのある城壁の内側に入ることが出来たわけだが、
街内部の構造も、特徴的と言えるものである。
建物の形や塗装まで、全てが統一されているという、不思議な光景なのだ。
民家から酒場のような店まで、建物という建物が全て同じ形をしている。
そして建物と建物の間を縫うように、街道が縦横無尽に張り巡らされている。
その街道の両脇にある建物もまた、ある一定のラインよりも街道側へは
決して、はみ出していない。
一定の幅よりも街道が狭くなることが決してないのだ。
エリンによると、街全体がこういった構造をしているらしい。
なぜこのような面倒くさい構造になっているかというと、
街に侵入した犯罪者や、侵攻してきた他国の軍の方向感覚を狂わせるのが
目的だという事らしいのだが、ウム。
初めてこの街に来た人間にとっても、優しくない構造であることは間違いない。
現在俺とユミは、大通りを荷台から降りて馬車の横でてくてくと歩いている。
普通は街の入口に厩がある場合が多いらしいが、ルフェルン・ミサのように
非常に大きな街で交易の中心地でもある場合、馬車が通れるように整備された
大通りに限り、馬車で通っても問題がないそうだ。
街の宿屋なんかも、この街の場合は馬車を連れた行商人が多く、大通り沿いに
厩も完備していることが殆どとのこと。
ちなみにこの大通り、結構な広さがある。
前生の世界にあったもので例えると、片側3車線の大通り位の広さだ。
多くの人々が行き交う通りである。
さて、ともかく向かうは冒険者ギルドである。
エリンの話によると、この街が交易の中心地というだけあり、
ギルドの建物もなかなか大きく、大通り沿いにあるらしいのだが…
「え~と…見つかりませんね~、アハハハハ…」
エリンの乾いた笑いが、3人を包んでいく。
「…もう街の人に『ギルドってどこですか?』って聞いた方がいいんじゃない?」
そういうユミは腕と頭を前にダラ~ンと垂らして、廃人のようなおぼつかなくて
危なっかしい歩き方をしている。
ついでに言うと、サラサラの腰まである長い黒髪が前に垂れ下がっているせいで
あの有名な某お化けの女性のようにも見える。
正直、不気味である。
まあ実際の所、ユミは歩き疲れているだけなのだが。
では彼女が歩き疲れるそもそもの理由はというと、
「迷ったな。完全に」
というわけだ。
ルフェルン・ミサの内部に入ってから実に2時間以上、冒険者ギルドを探して
大通りを歩き続けてきたのだが、ここにきてユミの足が限界に達した。
というか、荷台に乗って休めばいいじゃないかと思うかもしれないが、
この大通りは石畳で作られており、車輪を通して荷台に届く振動の大きさは
ルフェルン街道の時と比ではないのだ。
馬車から降りて歩けば足が痛くなり、馬車に乗れば今度はケツが痛くなる。
どのみち痛みから逃れる道は無い。
ならば足を痛める方がまだマシだとユミは考えたのだろう。
けれども、か弱い女子の足は、2時間ぶっ続けのウォーキングには残念ながら
耐えられなかったご様子。
「うう~~、足痛いよ~」
変わらずのお化けさんフォームで、危なっかしい歩き方をしている。
これは早くギルドを見つけて休ませるか、荷台の上に乗せるかしないと
足が筋肉痛になってしまうかもしれない。
「エリン。すまないがユミがこんな状態だから、街の人に
ギルドの場所を聞こう」
隣をガタガタと揺れながら進む馬車を曳く、御者席に座る亜麻色の髪の
少女…エリンに提案する。
「そうですね…。ユミさんがあんな状態ですし、街の方に尋ねてみます。
すみませんが馬車を私が聞いてくる間、見ててくれませんか?」
「ああ、わざわざすまない」
エリンが御者席から降り、地に足をつく。
刹那、彼女の膝がカクンと曲がり、彼女はそのまま地面にへたり込んでしまった。
もしかして、2名とも全滅?
「おいおい、大丈夫か?」
「え~と、アハハハハ…。なんだか気付かないうちに足にキテたみたいです…」
申し訳ないという表情に苦笑を浮かべるエリン。
「2時間ずっとあんなガタガタ揺れる馬車の上に乗ってたら、普通そうなる」
「ですよね~…」
今度は頭をカクンと落とす仕草を見せる。
「自力で立てるか?」
「それが出来ればよかったんですけど、足に力が全く入らないです…」
エリンの状況はユミよりも悪いものであった。
「そうか、ほら」
自力で立つことが出来ないというエリンに、手を差し伸べてやる。
「あ、ありがとうございます…」
彼女が手を握ると同時に、上へ体を引き上げてやる。
さすが13か14歳ごろの少女というだけあって、その体重は驚くほど軽い。
「2人とも全滅だな」
「うう~…」
「面目ないです…」
俺の目の前には、足にガタがきて歩く事すら困難な女子が二人いる。
自力で歩けないほどまでに足に疲労がたまってしまっているエリンを
ユミが座っている馬車の荷台に乗せる。
「とりあえず、二人とも馬車の上で休んでるんだな」
「「は~~~い…」」
結局、俺がギルドの場所を訪ね歩くことになってしまった。
まあこのクソ広い大通りには、行商人や街の人間やらが沢山行き交っている。
何人かに声を掛けて回れば、すぐに場所を知っている人間に出会えるだろう。
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道行く人々に声をかけて回った結果、冒険者ギルドの場所を無事に
見つけ出すことが出来た。
だがその場所を見つけたとき、俺はただ呆然とするしかなかった。
何故なら…
人の流れの邪魔にならないよう、大通りの外側にある建物の近くに
馬車を寄せていたのだが、なんとその建物こそが冒険者ギルドだったのだ。
よくよく建物を観察してみると、たしかに建物への人の出入りが多い。
「こんなところにあったのか…」
という感じに、気が抜けてしまった。
2人にギルドが馬車の隣にある建物であることを伝えると、
「ここなの…?」
「道理でいくら探しても見つからないわけです…」
という反応を見せた。
「じゃあ、私はギルドに納品する荷物があるので、ギルドの受付の方に
ちょっと出かけてきます…」
「いや、エリン。その必要はなさそうだぞ」
「え?」
あごを使って、前を見てみろとエリンに合図を送る。
その通りに彼女は顔を俺から前へ向ける。
その方向には、足首まである青っぽい色の長いスカートの上に白い前掛けを
付けて、白いバンダナで青い髪を後ろでまとめている女性が馬車に向かって
小走りで近づいてきている様子が見える。
まだ絶対と判断できるわけではないが、この世界の文明レベルを鑑みて、
服装などから恐らく、ギルドの職員なのであろう。
「なるほどね、多分服装的にギルドの職員の人よね?」
「多分な」
「そうみたいです。じゃあ、積み荷の受け渡しついでにお二人がギルドに登録
させてもらえるように頼んでみます」
「何から何まで世話になって、本当にすまないな。ありがとう」
「本当にありがと。エリン」
「いえいえ、これも私の命と積み荷を守ってくれたお礼です」
そう言ってエリンは俺たちに、とても可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「ハァ、ハァ、エリンさん!
ルフェルン街道に盗賊が現れたと聞いたのですが、ご無事で何よりです」
「心配して下さってありがとうございます。ご覧のとおり、積み荷は無事です
ので早く受け渡しをしたいのと、このお二人をギルドに登録したいんです」
「かしこまりました。すぐに担当の職員をこちらに派遣します。
お二人はギルド内で冒険者としての登録手続きを致しますので、私に
付いてきていただけますか?」
「分かりました」
「はい、よろしくお願いします」
「それじゃお二人とも、用が終わったらギルドの中で待ってます」
「ああ、ありがとう」
「ありがと」
エリンは馬車の荷台の上で、担当職員を待つことになるそうだ。
一方の俺たちは、セシルさんに連れられてギルドの中へと足を踏み入れた。
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冒険者ギルドの内部は、石畳の床に木製のテーブルやイスが置かれていて、
いわば酒場のような(というか酒場そのものか?)場所が入って右側に、
左手には複数の、セシルと同じような髪のまとめ方をした女性がカウンター
の向こう側に座っている。
あれがギルドの受付カウンターなのだろう。
「お二方、こちらのカウンターの前でお掛けになってお待ちください」
「あ、はい」
「分かりました」
セシルはギルドの最奥、入り口から最も離れたカウンターの前に椅子を2つ
用意し、丁寧な動作で俺たちを椅子に掛けるように案内する。
俺らが椅子に腰かけたのを確認すると、綺麗な営業スマイルを向け、
はたまた丁寧なお辞儀をするとカウンターの奥へと消えていった。
「セシルさん、だっけ? あの人の動作って結構スキが無いよね」
椅子に座って足を休めることが出来てご機嫌なのか、ふとこんな質問を
ユミは投げかけてきた。
ふむ、とセシルの一つ一つの動作について考えてみる。
一つ一つの丁寧な動作は、一切のブレが感じられないほど洗練されている。
入り口に向かってまっすぐに伸びているカウンターの奥に座っている受付の
女性たちをチラリと見るように観察してみるが、ほかの受付の女性も
セシルと同じくらいブレのない綺麗な動きをしている。
「徹底的に訓練されているんじゃないのか?ほかの受付の人たちも、みんな
似たような洗練された動きを見せているぞ」
「どれどれ・・・」
ユミは目を細めて、綺麗な蒼色の瞳を目蓋で細めた視界の中で
キョロキョロと動かし始める。
まあ受付の女性たちもジロジロやキョロキョロと見られるのは慣れている
ようで、ユミの視線を感じたのか時折チラリと視線をこちらに向けるが、
すぐに何もなかったように視線を戻す。
しばらく人間観察をしていたユミだが、やがてある程度の視覚で得られる
情報を得られたのか、普段の大きさまで目蓋を開ける。
「シンの言う通り、セシルさんに限らずみんな行動に無駄がないね」
「ああ、そうだな」
それだけ言うと、ユミはカウンターの奥に注意を向ける。
先ほどセシルが消えていった辺りを、その眼は捉えている。
だがやがて興味が無くなったのか、フゥーっと息を口から吹いて目を閉じる。
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さて、俺たちはこれから冒険者ギルドに新米冒険者として登録するわけだが、
セシルは何やら水晶のようなものと数枚の用紙らしき物を持って、ギルドの
カウンターに戻ってきた。
「セシルさん、こちらの水晶は一体?」
「こちらの水晶は、自身の体に宿る魔力の性質とその総量を測る為の
魔道具となります」
「魔力の性質と総量、ですか?」
「はい。この水晶にお手をかざす事で、体に宿っている魔力に対して
水晶に掛けられた術式が反応して、水晶の中の光の色に変化が生じることで、
その者の魔力の性質・総量を測ることが可能となります。そうですね・・・
話すよりも見ていただいた方が早いですので、私の手と水晶にご注目下さい」
セシルはそう言うと、水晶に掛けられた術式とやらを実演して下さるらしく、
水晶に手のひらを向けるように手をかざした。
さてセシルが手のひらを向けるようにして手をかざしている水晶だが、
これ自体は硬式野球ボール位の大きさで、一見すると無色透明のただのガラス玉
にも見えるのだが、よく見ると無色の淡い光を中心から放っている。
セシルが水晶に手をかざしてしばらくすると、水晶の中で輝く光に
変化が起こった。
なんと水晶の中の無色の淡い光が、段々と青く強い光に変わったのだ。
「おおー!」
ユミが驚いて目を丸くしている。
「ご覧のような変化が水晶の光に起こることで、自身が持っている魔力の
性質、つまり属性とその総量を測ることが可能となるのです。
ちなみに体に宿る魔力の属性はマナと同じ計8属性ですが、水晶の光も
この8属性で光る色が決まっており、炎であれば赤・水であれば青、
地属性なら黄土色、風属性は緑、氷は水色、聖属性は金色に、闇なら
紫色に水晶の光はそれぞれ変化します。
総量は光の強さによって判断します」
「へぇ~!」
水晶に手をかざす事によって起こったその反応は、魔法という概念がそもそも
存在しない世界で生まれ育った俺にとって、とても新鮮な感覚がした。
隣でこの反応を見ていたユミ自身も同じような感覚だったのか、水晶を
とても興味深そうに見ている。
「この水晶の方については、お二人ともご理解いただけましたでしょうか?」
「はい。それで、セシルさんが先ほどお持ちになられたその複数の物は…?」
セシルがカウンターの奥に引っ込んだ後、戻ってきた時に持っていた物。
一つは先ほどの水晶、もう一つは複数枚の用紙らしきものである。
ただこの世界で紙は貴重なのだろうか、純粋な紙ではないのかもしれない。
見たところ紙の表面がゴワゴワしているように感じられるのである。
「こちらは冒険者ギルドに登録する際に、お二人にサインしていただく
ギルドとの契約書と、ギルド所属の者として必ず遵守して頂かなければならない
重要事項などを纏めた書類となります」
「書類ですか?」
「はい。冒険者ギルドも人間が管理・運営する組織なので、登録している人間が
何か問題を起こしたりした場合の罰則や、禁止されている事項などは当然、
定められております。それらをきちんと理解して、納得していただいた方に
のみ、この書類の中に御座います契約書に自身の名前をサインして頂き、
そのあとは水晶を利用した簡易的な魔力の検査をしていただいた後、正式に
冒険者ギルドに登録という流れになります。
面倒な手順ではございますが、ギルドで定められている事項ですので、
ご理解いただきますようお願い致します」
「分かりました」
「はい」
しかし、冒険者ギルドで定められている規則とは、どんな内容なのだろう。
おそらく犯罪は当然禁止されているはずだろうから、それとは別になにか
規制されている行為などがあるのだろうか?
ユミにチラリと視線を送ってみると、その視線に気づいた彼女は
分からないという風に、首を横に振って見せる。
その様子を見て、セシルは微笑を浮かべる。
「ギルドに所属しているものが必ず遵守しなければならないこととは、
具体的にはどのような内容なのでしょうか?」
「別に冒険者だからといって何か大層なことをなさる必要はありません。
先ほども申し上げた通り、この書類には冒険者が活動するにあたり適用
される色々な規則や、それらに違反した際の罰則などが記されています。
それらを理解して同意頂いた場合にのみ、契約書にサインをして下さい」
そう言ってセシルはカウンターの上にまとめて置いていた書類を、丁寧な
動作で一枚一枚順番に横に並べていく。
枚数は10枚以上はあるが、文字はインクを使って筆で書かれたものらしく、
そのせいか一枚に書かれている文字そのものの数はあまり多くは無い。
その中の一枚を見てみようと手に取ろうとした時、
横から肩をポンポンと叩かれる。
そちらに顔を向けてみると、何やら困ったような表情を浮かべたユミがいた。
「ねえシン、この書類に書かれてる文字、読める?」
「文字?」
ユミに言われたうえで改めて書類の一枚を手に取って文面を見てみると、
今まで見たこともないおかしな形の文字が、筆で紙に書き連ねられていた。
「見たこともない文字だな…。
セシルさん、この国ではこの文字が標準語なのでしょうか?」
「あら、お二人は文字が読めませんでしたか?
この文字は、この大陸内なら基本的にはどこでも通じる共通の文字で、
『ラファル語』と言います」
「「ラファル語?」」
「ええ。しかし理由は何故なのか分かりませんが、いま私たちが会話に
用いているこの言語は、『ラプタス語』と言うのです。
ただ、この二つの言語は”文字で使うか口頭で使うか”で使い分けていると
思っていただいて結構です。
お二人はラプタス語が流暢に話せていますので、このラファル語を覚えるのも
難しくはないと思います」
ラファル語? ラプタス語?
初めて聞く言語の名前である。
というかそもそも、俺たちは日本語で会話をしているつもりだったのだが、
この世界では日本語をラプタス語と言うらしい。
一方のラファル語だが、これは日本語で説明不能。
かつて生きていた世界で用いられていた言語に、類似しているものが無い。
文字の習得には、長い時間がかかりそうだとみて間違いない。
てか、文字が読めない場合は冒険者ギルドの登録はどうなるのだろう?
まさか”文字が読めないんじゃ話にならんから出直してこい”なんていう事
にはならないだろうか?
ものすごく不安になってきたぞ。
だがそこは普段の行動に隙が無いギルドの受付の女性たち。
俺の不安を見事にうち砕き、希望の光で俺を照らしてくれた。
「ところで、文字が読めないのではそもそも同意も何もないので、文字の代読を
致しましょうか?」
「できる事なら代読をお願いしたいのですが、料金などは発生するのですか?」
「いえ、文字を読めないという事はこの大陸では珍しい事ではありません。
私自身、このギルドの受付になる前は殆ど文字なんて書けませんでしたし、
読むのも苦手でしたから、文字が読めない事を気になさることはありません。
もちろん、お代などは頂きません」
「そうなのですか。では、代読をお願いします」
ペコリと、俺は頭を下げる。
ユミもそれに続いて頭を下げる。
「お二人とも、顔を上げてください」
セシルに言われ顔を上げると、そこには人の役に立てて嬉しそうにして、
綺麗な笑顔を向けているセシルの姿があった。
「かしこまりました。では早速、こちらの文書から代読させて頂きます」
セシルは、一番左側に置かれた書類から手に取って、代読を始めた。
その読み方はとても丁寧で、ある程度読んだきりのいいところで一度説明を区切り、
その都度どこか分からない所が無いかどうかを聞いてくれる。
そのおかげで説明がすんなりと頭に入ってきて、内容を容易に理解することができた。
書類にはまず、冒険者ギルドに登録するにあたり必ず守らなければならない事、
つまり”遵守”しなければならないことが書いてあった。
一つ:冒険者ギルドによって定められた規則は絶対に厳守する。
二つ:依頼 (クエスト)は原則としてギルドを通したものを受注すること。
ただし一部の場合、例外も存在する。
三つ:冒険者ギルドに所属する者には必ず、ギルドランク (冒険者としての実力を
示すレベル。F~A、S・SS・SSS・Xの10段階がある。
ただし、BランクからSSSランクまでには『グレード』と呼ばれる細かい基準が
設けられており、1~3まで存在する。
数が小さいほどレベルが高いことを表し、例えばBランクのG3と
同じBランクのG1ならば、BランクG1のほうがAランクに近い)が与えられる。
ギルドランクによって受注できる依頼が異なる為、その制限を無視して依頼を
受注してはならない。違反した場合は罰則の対象となる。
四つ:依頼中にいかなる事態が起きても、原則としてギルドは責任を負わない。
と言ったようなことが、冒険者ギルドに登録する者が必ず遵守しなければならない
規則であるらしい。
他にも細かい事項はいくつもあったが、ここでは長くなるので割愛させていただく。
セシルは一枚一枚丁寧に書類を読み上げていき、日も傾きかけるまで時間が経った頃
ついに最後の書類、すなわち冒険者になる為にサインする必要のある”契約書”
まで読み進めていった。
「こちらが最後の書類、冒険者になる為の契約書になります。
冒険者として遵守して頂かなければならない事は、先ほど代読致しました書類に
書いてありましたので、お二人は既にご理解いただけたと思いますが、
一応この書類の文章も代読させていただきます」
「はい、お願いします」
契約書に書かれている内容は、セシルが今まで代読した全ての書類に書かれていた
全ての内容を理解したうえで同意をした場合にのみ、この書類の一番下の部分に
自身の筆で名前をサインをして下さいというものだった。
「この書類に書かれている内容は、ご理解頂けましたでしょうか?」
「ええ。しかし私たちは、ラファル語を読んだり書いたりすることが出来ません。
これではどうやってサインをしたらいいのでしょうか?」
「その心配は御座いません。慣れない字をお書きになって頂くことにはなりますが、
お二人の名前を私がラファル語で一度書き記し、それを真似てお二人自身で
書類の方にサインして頂くという方法をとっております。
ですので、お二人のフルネームを私にお聞かせ願えますか?」
「なるほど、そういった手段を用いるのですね。
俺の名前は『シン』と言います」
「私は『飛鳥優美子』です」
改めてセシルに自己紹介をする。
だが俺の名前に問題があったらしい。
「失礼ですが、シン様の”本名”をお名乗り頂けませんか?」
「本名と申されましても、俺は孤児なので、
自分の名字は分からないんです」
「そうでしたか…辛い事をお聞きしてすみません。しかしギルドに
登録する時に、万が一同じ名前の方がいらっしゃった場合
色々と事務的処理が生じるので、形式だけの名字をギルドの
事情で申し訳ないのですが、付けさせて頂きます。
よろしいですね?」
「それは構いませんが、どんな名字を俺の名前に付けるのですか?」
「なんでも構いません。どんな名字がお好みですか?」
「そう言われましても…」
そんなことを突然言われても困る。
まあ『シン』と言うのは、俺のスナイパーとしての異名で、勿論
本名ではないが、自分自身では結構気に入っている名前だ。
しかしこれはコードネームのようなものであり、名字を付けるなんて
一切想定していないものだ。
さて、一体どうしたものか…
考えていると、隣に座っていたユミが提案をしてくれた。
「『アレキサンドライト・シンフォニアス』っていうのはどう?」
「「はい?」」
俺とセシルが揃って顔をユミに向け、はぁ?という表情をする。
「え…ちょっと、その表情は何?」
彼女自身はかなり自信を持っていた名前だったらしく、俺とセシルの
反応が意外(というか傷付く反応)に感じられたらしい。
「なぜかと言うと、そもそも俺の『シン』の文字がなんで交響曲に
なってるのか意味が分からない」
「いやー、『シン』はニックネームという事にしちゃった方が後々
有名になった時に楽かなーって」
「今から有名になりたいのか?」
「え? ならないの?」
「「…」」
俺もセシルもジト目でユミを睨む。
「ちょっとちょっとー!なんでそんな反応するのよー!?」
腕を上下にわたわたと振って必死に何かを訴えているユミだが、
彼女の考えた名前のセンスには驚かずにはいられなかったと共に、
腹の底から込み上げてくる可笑しさをこらえる必要がある。
分かったこと、ようするにユミは中二病である。
「いや、なんでそんな名前が頭に浮かんでくるのかって…プッ」
「なんでシンは笑うの?」
「いきなりそのような名前が出て来るのか、なかなか面白い発想ですね…プッ」
「セシルさんも何故笑うんです?」
「だって…ククク」
「ええ…ぷッ」
「二人とも酷いよ~!」
再び両腕をわたわた振って抗議するユミだが、
今度は顔をりんごの様に真っ赤にしている。
「いいじゃん!別に中二病でも!」
「あ、自分で分かってたのか」
「意外ですね」
俺とセシル2人が揃って言うと、
「もう嫌~~~~~!」
ユミはカウンターに突っぷす。
「とりあえず、名前の方は先程のユミコさんが仰られた…プッ」
「そこで笑わないでください」
「で、よろしいですか?」
「ええ、まあ…」
「では名前の方はこちらで登録し、引き続き、
魔力の検査をこの水晶を使って行わせて頂きます」
「はい」
「分かりました」
セシルに言われ、改めて水晶を観察してみる。
その様子はセシルが手をかざす前と変わらず、
無色透明の淡い光を中心から放ち続けている。
「先程実演した通り、お二人にはギルドの設けた規則により、
この水晶にお手をかざす事で魔力の性質と
総量の検査をして頂きます。
どちらが先でも構いません、お手を水晶にかざして下さい」
「分かりました。
ユミ、俺から先に測ってもいいか?」
「楽しみだね~、シンの力」
「そんなに期待するもんでもない」
そう言いつつ、俺は水晶に手をかざす。
すると、無色透明だったあの光がみるみるうちに
紫色と金色の二つの強い光に変わっていく。
「!?」
その様子を見て、セシルはまるで鳩が豆鉄砲を
食らったかのような表情に変わっていた。
「こ、これは…!」
「セシルさん、どうかしました?」
「こんな事は初めてだわ…!」
「な、何があったんです?」
「お二人とも! カウンターの奥に来てください!」
「あ、はい」
セシルに手を引かれて、俺とユミは
ギルドのカウンター奥に連れて行かれてしまった。
(俺の魔力検査の結果が、もしかしてこの先大事件になったりするのか…?)
異世界での生活、果たして平穏はあるのであろうか?
続く・・・!!
かんなり無理のあるところでブツ切りになってしまって済みません…
どういう結果が出てきたのは多分すぐに予想がつくと思いますが、
次話にこうご期待! って事で・・・。
では。
P.S.感想を是非とも下さい!
本当にお願いします!!