第2話:~異世界の常識を学ぼう~
お待たせしました、第2話です。
変わらずの駄文です…。
第2話:~異世界の常識を学ぼう~
ガタガタと揺れる馬車の荷台の上。
空の色は先ほどと全く変わらず(もっとも、目を覚ました時から時間は全然経ってない)
濃い緑色をしていて、月がとても大きく見える。
雲はあまりなく空に輝いてる星々が良く見えるのだが、これらもまた、
地球で見る夜空の星々とは見た目が全く異なっている。
例えるのなら、濃い緑色の背景に色とりどりの絵の具を細い筆の先につけて、
僅かな力のタッチで星空を表現した絵画のようなものだろうか。
いずれにせよこの空のそんな不思議も、俺たちが乗せてもらっている馬車を曳く
少女「エリン」に聞けばいいことだ。
「さて、とりあえずこの大陸における一般常識を説明しちゃいますね」
「ああ。よろしく頼む」
こうしてエリン先生の講義が始まった。
彼女の説明によると、この世界には魔力が自然のエネルギーとして存在している
という事だそうで、この空の色合いのような不可思議な現象も、自然界に存在する
その魔力によるいたずらなんだそうだ。
で、この不可思議現象を自然界に引き起こしている魔力を『マナ』というらしい。
大雑把にまとめると、以下の通り。
『マナ』・・・自然界に存在している魔力。六元素と呼ばれる六つの属性
炎・水・地・風・氷・雷という6つの属性と、二大元素と呼ばれる
聖・闇の二つの属性を合わせた計八属性のマナが存在している。
しかしエリンが言うには、各属性のマナは強力なエネルギーを
持っている為、他属性のマナと干渉しあう場合もあるらしい。
そのため、八属性のマナが均等に存在する場所や地域は珍しい
という事らしい。
世界にはこの六元素と二大元素の合計で8つの属性のマナがひしめき合う状態
だと思えば、分かりやすいかもしれない。
それぞれの属性のマナが強力なエネルギーを持っているという事もあって、
いわゆる場所取り合戦のようなもの(エリンが言うには、マナ同士の場所の
取り合いは人間にとっては大災厄のような強烈な被害を出すらしい)をマナは
かつて行っていて、その争いに勝ち残った属性のマナがその地域に根付いて
その地域の自然環境に大きな影響を与えているという事だそうだ。
そして各属性のマナがその場所に根付いて自然環境に大きな影響を与えている
地域の事を、この世界の人間は『霊域』と呼んでいるそうだ。
補足すると、本来は全ての属性のマナがその地域に均等にかつ”喧嘩”する事無く
存在していることによって、初めて安定した自然環境が生まれる。
つまり、各属性のマナが”喧嘩”して根付いた場所=『霊域』は言い換えれば、
マナのバランスが偏っている地域という事になるのだ。
まとめると以下のようになる。
『霊域』・・・各属性のマナのバランスが偏っているために、八属性全てのマナが
均等に存在している地域と比べて、何かしら自然環境に大きな影響
が出ている地域の事を言うらしい。
ちなみに濃い緑色の夜空なんていう、俺たちの常識からすれば考えられないような
超常現象も、闇属性のマナが持つエネルギーによって起こされているらしく、
この世界に住む人間はここ周辺地域を『永夜域』と呼ぶそうだ。
8つある属性のマナの中でも、闇属性マナの占める割合がズバ抜けているらしく、
そのためこの周辺…『永夜域』と呼ばれる地域では1年を通し、太陽を見る
ことは決して叶わないらしい。
ようするにこの永夜域の中では、朝という概念がない。
ずっと夜だけが続く。太陽の光が届かない以上、黄昏時という概念もない。
なんていう不思議空間の草原に俺とユミは、ぐっすり眠りについていたわけだ。
「とまぁこんな感じです。どうですか、私の説明なんかで分かりました?」
「おかげさまでな。助かった、エリン」
「うん、ありがとう。エリン」
「いえいえ、お二人のお役に立てたのなら嬉しいです」
エリンの講義はこれにて終了という事なのだろう。
彼女は前に再び向き直って、馬の手綱を強く握りなおしていた。
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ガタガタと揺れる馬車の荷台に乗り、ガタガタと自分の体も揺られる。
馬車自体はゆっくりとした速度で進んでいるが、それでもずっと座っていると
振動が直で伝わってくるからか、だんだんとケツが痛くなってくる。
しかし立つのも、この揺れではバランスをとるのが難しそうだ。
そこで、馬車から降りて歩いてみようと思ったのだが、俺の歩行速度よりも
早い速度で馬車は進んで行っているようで、歩いて足をパンパンにするよりは
多少ケツが痛くてもこのまま揺られた方が賢明であると判断する。
俺と真正面から対面するように馬車の荷台の上に座っているユミの方を
ふと見てみると・・・
「・・・」
ガタガタと揺れ動く馬車の荷台の上で彼女が何を考えていたのか、確固とした
ものは無いが、何かの苦痛に耐えているらしく顔を歪めていた。
「もしかして、ケツ痛めたか?」
女子に対して実にデリカシーに欠ける発言であると俺自身も感じたが、
彼女自身の話しぶりからして、あまりそういったことは気にしなさそうだと
俺個人で判断し、彼女が耐えている苦痛の現時点で考えられる症状を
とりあえず口にしてみた。
「・・・痛くないの? お尻」
顔を少々苦痛に歪めながら、ユミが聞いてくる。
やはり振動が車輪から直で伝わってきているせいでケツを痛めてたか。
「痛いさ。振動がケツに直で伝わってくるんだから、当然そうなる」
「あ、やっぱりシンもお尻痛めてるんだ・・・」
「まあ俺も人間だしな」
「フフフ…」
ユミは少し笑うとそのまま顔を俯かせてしまう。
その様子は”ケツが痛くて耐えられません”といった風にも見える。
とりあえずそのままにしておくのは可哀想なので、エリンに
ケツの下に敷く布のようなものが何かないかと聞くと、
「あ、すみません。私も痛くて仕方がないんですけど、そういったものは
今回持ってきていなくて…」
という事だったので、耐久レースを続行することに。
補足しておくと、俺たちの服装はビルの屋上で心中した時となんら変わってない。
さらに補足すると、俺はワインレッドのYシャツの上から濃紺のベストを重ね、
黒のネクタイを喉元でキュッと結んで、黒のスラックスに黒の革靴、
そして黒のロングコート (膝から足首を三等分したときに上から3分の2位ある)
を羽織っているわけだが、この世界においては完全な不審者である。
ユミも俺と似たような服装をしている。
同じ色合いのYシャツに同じ色のベスト、ネクタイを結び、下は赤と黒の2色だけの
チェックのスカート (膝を隠すくらいの長さがある)に黒のタイツ、膝から足首
までのちょうど真ん中あたりまで高さのある黒のロングブーツ(ヒールではない)を
履き、俺と同じような長さ・色合いのロングコートをこちらも羽織っているのだが、
こちらもこの世界では見慣れない服装である。
ちなみに2人そろってこうしてロングコートを着ているわけだが、今移動している
この街道の気候がコートが必要なくらいのモノなのかと言えば、それ程でもない。
夏が終わり冬へ向かうまでの、暑すぎず寒すぎずのような丁度いい気候である。
だから服装に関しては、流れでとりあえず身に着けてるものはそのままという状態だ。
ぶっちゃけ着ても着なくても、過ごしやすい気候であるのには変わりない。
そこでふと気づく。
ケツの下に敷ける布、今羽織っているじゃないか、と。
「ユミ、寒くないのならコートをケツの下に敷いたらどうだ?」
「あ、そだね」
今まで気が付かなかったという風な顔をして、早速コートを脱いではケツの下に敷く。
「ありがとう、全然気が付かなかったよ」
「俺も今まで気付かなかったよ」
「シンも?」
「俺も、だ」
「フフ、なんにしてもこれで助かったよ。ありがとう、シン」
礼を述べるとともに、とても綺麗な笑顔を見せるユミ。
はっきり言おう、すごくカワイイ。
今までこの目で見てきた女性の中でも、ダントツでカワイイ。
「? なにかな?」
私の顔に何か付いてるかな?とか言って首を傾げる。
そのしぐさもまた、可愛い…。
「い、いや・・・」
まさかその笑顔に見とれてましただなんて言うわけにもいくまい。
とりあえず心を落ち着けようか、俺。
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さらに馬車の荷台の上でガタガタと揺られること数十分ほど経った辺りで、
「お二人とも、そろそろ街に着きますよ!」
という、馬車の御者席で手綱を握っているエリンからの言葉を聞く。
永夜域であるためか、空の色合いには全く変化が無いせいで時間が把握できないが、
街道の周辺の風景を荷台から覗いてみると、遠くにはチラホラと馬車の姿や
街道に沿って剣や斧、杖を持ちながら歩いている冒険者らしき人影が見える。
「本当に異世界に来ちゃったんだね…」
「ああ…」
馬車の荷台から見えた冒険者と思わしき人物たちは、よく観察してみると
かつて自分たちが生きていた世界では、コスプレ以外では決して見られない
ような服装を彼らはしているのだ。
これが俺たちの生きていた世界であれば、コスプレをしている人物として
そのまま素通りしていくところだが、それがこの世界ではコスプレとは
全く思えないのだ。
なにより彼らの纏っている雰囲気が”本物”なのだ。
自分たちのやっていることに、誇りと自信を持っていることが見るだけで分かる。
「エリン。街道沿いを歩いている剣や斧を持っている人は、冒険者か?」
「はい。冒険者って結構みんなから憧れの的になる職業なんですよ~。
ちなみに私も『冒険者ギルド』に登録して、冒険者ランクを持ってるんですよ」
「『冒険者ギルド』とは?」
「『冒険者ギルド』というのは、冒険者の管理やら魔物の討伐やらの、旅に関わる
とにかくいろんなことの管理をしている組織の事です。
ギルドに所属することで、旅をするのにも色々と利点がありますし、なによりも
冒険者として登録すればこの大陸の中では身分の証明が万国共通で出来るので」
「そんなことが可能なのか…」
なんとビックリな話だ。
ギルドに登録すれば大陸内のすべての国で身分証明が出来るらしい。
だがどうやって身分を証明するのであろうか?
何かカードのようなものでもあるのだろうか?
「身分を証明する際はどうするんだ?」
「えっと、ギルドに登録するとギルドから『ギルドカード』というものが
登録した人全員に必ず配布されるんですよ。
このギルドカードというのが、非常に高度な霊魔術を駆使した最新の技術で
作られていて、中に記録されている情報を改ざんする事は相当の霊魔術者で
無い限り決してできないと言われる代物なんです」
「豪い技術をそのカードに利用しているんだな…」
この世界にはとんでもない技術が薄っぺらいカードに用いられているらしい。
相当の実力者でなければカードの中身を改ざんできないなんて、
そりゃ万国共通の身分証明書になってもおかしくないわけである。
「なるほどな。ところで冒険者ギルドは、各国から見ても信頼のある組織なのか?」
「ええ。冒険者たちを一手に束ねる組織ですし。
そういえばお二人は遠くの地からここまで旅をしてきていらっしゃる
のですよね?でしたら冒険者ギルドに登録しておいて損はないと思いますよ。
登録する際に、多少魔力量を調査するくらいですし」
「だが、登録する際に書類とかは書くのではないか?」
「はい、書類は確かに書きますけど…。ああそうか! 文字なら私が代読しますから
もし登録するのであっても全く問題はないですよ!」
「そうか、ありがとう。 だそうだが、ユミ、どうする?」
もしギルドに登録するのであれば、その時に改めて詳しい話をギルドの職員から
聴けばいいだけの話なので、とりあえず登録したいかどうかの意思をユミに
確認してみる。
「私は登録しておきたいって思うな~。冒険者っていう仕事自体も楽しそうだし、
なによりもこの大陸でしばらく生きていくとなると、身分の証明が楽に
できた方が絶対便利だしさ」
「なら、ギルドに登録しよう。エリン、世話になりっぱなしですまないが、
要件が済んだらでいいから冒険者ギルドに案内してくれないか?」
「お任せ下さい! というか今馬車で運んでいる荷物は全てギルドに届けるモノ
なので、納品がてら登録しちゃいましょう」
「重ね重ね、本当に助かるよ。エリン」
「いえいえ、これも命の恩人への恩返しですから!」
胸を張ってそう答えるエリンに、俺たちは苦笑を返す。
ありがたい存在であることに変わりはないんだがな。
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「うわぁぁー、街の周りの壁が大きいねー!」
ユミはそう言いながら、目的地である街を囲む巨大な城壁を見上げる。
今、俺たちはその城壁にある町への通用門の前で検問受ける列に並んでいる。
正確に言うと、並んでいるのは馬車なのだが。
ちなみにこの門の前にたどり着く前、エリンに「お二人は私の用心棒である
という設定で話を門番にするので、話を合わせてください」と
あらかじめ伝えられた。
ギルドカードを持っていないのに大丈夫なのか?と聞くと、
「辺境の地方だけで用心棒をやってたりする人は、持ってないこともあるので
基本的に問題はないと思います」という事だそう。
もし深く追及された際は?と聞けば、「この街は交易の流れの中で重要な拠点で、
私のような荷物を積んだ商人とかって五万といますから、外見上で特に問題が
無ければすぐに通ります」と言われた。
ああ、それなら安心だ。
とは俺は思わなかった。
この世界に生きている人は、どこかのファンタジーなどで見たような服装を
している。
例えば魔術を扱う人間ならローブを纏っていたり、剣士なら比較的軽装だが
膝や肘などの関節にはプロテクターらしき防具をつけていたり。
そんな身なりの人間が一般的であるこの世界において、よく考えてみると
俺たちの服装はかなり怪しいのではないだろうか?
何故って、単純に見慣れないから。
エリンは「外見上で問題が無ければ」と言っていたが、この服装は結構
”外見上に問題がある”のではないかと思う。
「エリン、俺たちの服装は、初めて見たときどう思った?」
とりあえず現地の人の感想を仰いでみることにしよう。
「え、お二人の服装ですか? そうですね~・・・
確かにこの辺りではあまり見ない服装ですけど、でもお二人が着ている分
には全く違和感ないですし、似合ってると思いますよ」
「いや、そうではなくて怪しいと門番に思われないかどうかを聞きたい」
「もしそうなったら全力で弁護します!」
「その際はあの能力の事は口外しないでくれ」
「あ、えーとはい。分かりました」
「じゃあ、もしもの時はよろしく頼むよ」
「はい!」
そんなこんなで事前の打ち合わせを終わらせ、しばらく待っていると
検問の順番が回ってきたようだ。
エリンはともかく、俺たちは検問に引っかかるんじゃないかと思ったが、
検問をやっていた騎士らしき人物の中身はまだ若い成年で、話し方から
一つ一つの動作がさわやかな好青年だった。
そのにこやかな表情は、俺が生前生きてきた”裏”とは程遠いところで
まともな生活を送ってきたのだと思わせる。
で、騎士の特徴が検問のどこに影響するのかというと、
エリンが俺たちの事をどう言ったのかは分からないが、「素敵な服装ですね」
とさわやかな笑みを浮かべながら、あっさりスルーしてくれたのだ。
エリンの方に顔を向けると、「ね、問題なかったでしょう?」と言いたげに
俺たちにパチンとウィンクをする。
あとは流れでそのまま街…「交易城塞都市ルフェルン・ミサ」に突入。
そのまま3人の共通の目的地である冒険者ギルドへと向かう。
街の説明やらは次回の内容にまわします。
冒険者ギルドに彼らは向かい、登録をするのですが、
その後の展開はまだ未定です。
ちなみにただの冒険者風の人物たちが剣や斧や杖を持っている
事からもなんとなく想像できると思いますが、この世界には
魔物は存在しています。
エリンを追っかけてたのがたまたま盗賊だっただけで…
実際には魔物もいます。